医学界新聞

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内

日本の心臓性突然死の実態を1冊に

心臓性突然死 村山正博,笠貫宏 編集

《書 評》井上 博(富山医薬大教授・内科学)

 現在,循環器の臨床では心臓性突然死が重要課題の1つである。この領域の研究会もあり毎年活発な討論が交わされ,わが国の研究者の深い関心がうかがわれる。心臓性突然死に関するいくつかの単行本がすでに刊行されている。英文では,Akhtar M,他編集(William & Wilkins, 1994年),De Luna B,他編集(Kulwer Academic Publishers, 1991年)などがあり,邦文では村山正博編集『運動と突然死-その予防と対策』(文光堂,1990年),野原隆司著『心臓性突然死-虚血性心疾患を中心に』改訂版(医薬ジャーナル社,1994年)がある。その他定期刊行物でもしばしば突然死に関する特集が組まれている。
 このほど医学書院から村山正博,笠貫宏両教授の編集になる『心臓性突然死』が刊行された。執筆は両教授の関係施設の研究者を中心に,東京都監察医務院やその他の施設の専門家あわせて47名による。それぞれの領域の第一線の専門家が参加した本邦最初のまとまった専門書といえる。項立ては,総論が6章(定義,疫学,病理,機序と関連要因,診断と予知,予防),各論が8章(冠動脈疾患,心筋疾患,不整脈,心不全,弁膜症,肺性心,先天性心疾患,健常人)からなる。

第一級の専門書の完成

 標準的な教科書はそれぞれの国の実態を反映することが不可欠である。BraunwaldやHurstの心臓病の教科書は優れた教科書ではあっても,その実態は米国の医学である。確かに,欧米では各種のデータベースが揃っていて,例えば心筋梗塞後の症例の生存率が心室性不整脈や心機能の程度によってどの程度低くなるかといった成績が数々報告されていて,調べものをする際に簡単に検索できる便利さがある。わが国のこの種の資料を集めるには時間と労力が必要とされる。新たに刊行された本書では,わが国における突然死の実態が,小児,成人(久山町の実態調査),老年者などについて詳細に記述されており,心臓性突然死に興味のある読者には大いに参考になる。
 心臓性突然死に関する本邦の成績をもとに執筆された本書は,その内容,量ともこの領域の第一級の専門書である。循環器の専門家ばかりでなく突然死に興味のある方はぜひ座右において,参考にされることをお奨めする。編者の序文にあるように,今後の研究課題を見つける上でも大いに参考になると期待される。
B5・頁360 定価(本体15,000円+税) 医学書院


これから電気診断学を学ぶ人のために

臨床筋電図・電気診断学入門 第3版 千野直一 編著

《書 評》梶 龍兒(京大・神経内科学)

 本書はさきに同じ著者によって1981年に刊行された第2版の改訂版である。第2版は当時,本邦において臨床応用が始まったばかりの筋電図,電気診断学の入門書として好評を得ていただけに,その後の筋電図を取り巻く環境のめざましい進歩に対応した改訂版の登場が長年にわたって待たれていた。この本はその期待に見事に応えている。

電気診断学に必要な知識を網羅

 本書は大きく基礎編と症例編に分かれるが,主な神経筋疾患における電気診断上の特徴についても簡潔に触れられている。基礎編では,もはや筋電図という範疇でとらえることが難しいくらいに発展した電気診断学を学ぶうえで必要な知識が網羅されており,F波,H波,体性感覚誘発電位などのその後の新しい知見についても補完されている。電気生理学的診断の方法についても写真や図を多用してわかりやすく記載されていて,初心者が効率よく電気診断学を学ぶのに適した内容となっている。一方,症例編では,実際に臨床の場で電気生理学的検査を行ない診断をつける過程を学べるようになっている。
 ここで著者らが強調している点は,針筋電図はいうまでもなく,誘発筋電図においても,患者にとっては多少なりとも不快な操作や刺激が伴うことを忘れてはいけないということである。実際,そのために患者に対して十分な検査ができないことはわれわれもよく経験している。それだけに,筋電図検査,神経伝導検査は,必要かつ十分な最少の筋群,神経群に対して行ない,患者によけいな苦痛を与えないとする著者らの姿勢は評価することができる。これは,ともすれば繁忙な日常診療において,ルーチンで筋電図や神経伝導検査をオーダーしてしまいがちなわれわれに対する警句でもある。

著者らの貴重な症例を提示

 電気生理学的検査は,あくまでも日常の神経学的診察の延長であることを忘れてはならない。まず,第1に患者の病歴や背景を十分に踏まえたうえで,神経学的所見を取り,鑑別診断を考えたうえで必要な検査項目を決定しなくてはいけない。そこで初めて電気生理学的検査を行ない,その検査結果を分析して,最終的な診断に至るのである。症例編では,著者らの貴重な症例が提示され,それぞれ診断上のポイントが付記されているので,電気生理学的診断を行なう過程を自習するのに最適である。
 この本は著者が序文で書いているように,これまで筋電図をはじめとする電気診断学になじみの薄かった臨床医や,これから電気診断学を学ぼうとする医学生や研修医が短い期間で要領よく知識を吸収することのできる内容にまとめられているので,ぜひ通読されることをお勧めしたい。
B5・頁208 定価(本体5,600円+税) 医学書院


必要な情報に自由に到達して診療の質を高める

今日の診療CD-ROM Vol.7

《書 評》中村定敏(小倉第一病院長)

 書評というには少々拘りを感じる。なぜなら,もっぱら気になるのは使い勝手なのである。書評というより,ソフト評に偏ることをまずもってお断りしておきたい。

8書籍を収載

 このCD-ROM版には,(1)『今日の治療指針1997年版』(付録の一部を除く全頁を収録),(2)『今日の治療指針1996年版』(付録を除く全頁を収録),(3)『今日の診断指針(第4版)』(付録を除く全頁を収録),(4)『今日の小児治療指針(第11版)』(付録を含む全頁を収録),(5)『今日の整形外科治療指針(第3版)』(付録を含む全頁を収録),(6)『臨床検査データブック1997-1998』(全頁を収録),(7)『治療薬マニュアル1997年版』(付録を除く全頁を収録),(8)『今日の救急治療指針』(中毒の項を収録)……の8書籍が収載されている。しかも,新価格は49,800円であり,旧価格65,000円から大幅な値下げである。初版からのユーザーとしては,値下げでさらにユーザーが増えることは大変嬉しいことである。
 そこで新規購入予定者を多分に意識したソフト評としたい。
 CD-ROM版の最大の利点は,検索の迅速化である。診療の質を高めるためには,診断→検査→診断→治療→薬剤の効能効果……などでの評価や計画が欠かせないところであるが,瞬時にしかも自由自在に必要な情報に到達できるので,省力・省時間の効果は著しいものがある。
 その情報も文字,写真,動画,サウンドと多様である。特に動画,サウンドは書籍では求められないものである。
 省スペース効果も大きく,ブック型パソコンであれば,外来の診察机や,ナースステーションにも持ち運びができるので,いつでも手軽に使用でき,特に内容の加工ができるので,カンファレンスの資料などに利用しやすい。必要な部分のみ印刷し,列車やバスでの通勤時間を利用して情報整理をするという方法も実際的である。

かかりつけ医をめざす実地医家にお勧め

 特に,かかりつけ医をめざしている実地医家にはお勧めしたい。患者負担が増えれば増えるほど,医療機関を選択しようという意識が高まるし,選択基準の上位には「医療機関がいかに適時的確な医療情報を提供するか」がある。かかりつけ医であれば,自分の専門分野以外の相談を受けることにもなる。時間に余裕があれば,それに応えるべきである。CD-ROMから情報を取り出し,患者とともにそれを読み,あるいは解説を加えることで患者の安心と満足が得られると思う。
 CD-ROMの操作はきわめて簡単である。パソコンの価格も下がって,購入しやすくなっており,負担感もさほどでない。診療の合間に世界紀行や美術のCD-ROMも楽しむことができる。
 大方のユーザーは改版のたびに購入されていると思うので,必ず,どこかに改良が加えられていることはご承知のことであろう。改めてつけ加える必要はないと思うが,Vol.7ではディスプレイ上で大きな画面が見られ,色も鮮やかである。
 CD-ROMの類いは,今後記録容量の高い製品が次々に開発されてくると思われる。写真,動画,サウンドの部分を大いに増やせる余地が生じる。患者に説明するための音声つきのわかりやすく,楽しいイラストもあればいいなと思う。出版社には今後とも,使いやすさと,可能性の追求をお願いしたい。 Mac版・Windows版
定価(本体49,800円+税) 医学書院


画像診断の知識と判断力を養うために

フィルムリーディング 腎・副腎・後腹膜・骨盤腔

河野敦 編集

《書 評》作山攜子(聖マリアンナ医大横浜市西部病院教授・放射線科学)

 10月の初め頃,1冊の本が送られてきました。それは『フィルムリーディング腎・副腎・後腹膜・骨盤腔』というタイトルのもので河野敦先生の編集になるものです。まず本を手に取ってみてカバーがなくて軽く,裏表紙はグレイで落ち着いた色合いです。今時コンピュータ画像のカラフルな装丁の本が多い中でこの色は心の落ちつきを感じ,次のページを開きたくなりました。

研修医,放射線科医から他科の医師まで

 はじめに序文を読み編集者の気概を感じるのが好きですが,河野先生は序文においてこの本の主旨をよくまとめられており,放射線診断医が各臨床科医に信頼される画像診断を行なうための知識と判断力を養うことを目的として編集したことが明記されています。先生の深い臨床経験よりの言葉だと思います。
 本文の内容はまず画像と臨床情報が提示されており,読者は自分で読影をし,さらに示されている画像の「所見」を読み,「鑑別診断」へと進みます。さらに「鑑別診断の進め方」,「診断」,「診断のポイント」と続き,自分1人で症例について学ぶとともに,関連する疾患も把握することができるようになっています。解説は平易な言葉と表現でなされており,研修医から放射線科医はもちろんのこと,他科の先生まで幅広い層の先生方が読まれるのに適した内容と思われます。
 特にこの本の特徴は各症例ごとに「豆知識」のコーナーがあり,これがよくまとまっており,名の示すごとく形は小さいが内容は密でよくまとまっています。例えばこのコーナーのみを読んでも病気のこと,また画像診断に有用な知識を得ることができると思います。

難易度マークで自己評価を

 最初には難易度マークが星1つから3つまでの3段階に分けて各症例ごとについています。星1つ,2つが大半を占めていますが,難易度3は2症例あります。自分の専門分野にも関係するでしょうが,自分の評価はどうなのか,読影力を試してみるにはよい機会となるでしょう。
 研修医,大学院生,専門医受験をひかえている先生方に推薦したい本の中の1冊です。
B5・頁136 定価(本体6,500円+税) 医学書院


喘息研究者,喘息医の常備すべき本

Asthma P.J.Barnes,他 編集

《書 評》泉 孝英(京大胸部研教授・環境生態学)

喘息の事典

 『Asthma』と題してLippincott-Raven社から刊行されたA4版の本書は2巻からなり,本文2184頁,図746,表253,2冊で重さ7キロという大冊である。
 拝見して,まず最初に思ったことは,よくぞ喘息だけでこれだけの書物ができたものとの驚きである。しかし,私自身の関心のあるいくつかの項目を読んでみると,喘息に関する研究成果の集積は近年すさまじいものであるだけに,このような大冊の生まれることは不思議ではないとも思えてきた。また,編集者であるBarnes(London),Grunstein(Philadelphia),Leff(Chicago),Woolcock(Camperdown)といった先生方の日常のエネルギーを承知している者にとってみれば,無理な作業でもなかっただろうとも言えることになる。
 本の題名は『Asthma』であるが,実際には「Dictionary of Asthma」事典である。この本の利用方法を考えてみたい。とても通読できる本ではない。

喘息研究の文献検索に

 1.喘息について何でも知ることができる。大きくは12項目に分類されているが,「V. Inflammatory Mediators」は16の細項目から,「XI. Therapy」は19の細項目から成り立っているというように,記載されている全細項目数は148に及んでいる。喘息研究の文献検索にはこの本1冊で十分である。手元の喘息文献ファイル,本は,すべて処分して差し支えないようである。
 2.無駄な研究を避けることができる。最近ではMEDLINE,インターネットなどで得られる情報量は大変なものである。しかし,整理された情報となると簡単に入手できるわけではない。その意味で,徹底した情報整理とまとめの集積である本書はきわめて有益な本である。何が,どこまでわかっているかがわかれば,無駄な研究,仕事はしなくて済むというものである。逆説的な言い方になるが,本書の記載の中から,喘息をめぐる今後に残された課題,研究課題を知ることができるとも言える。
 本書にも問題点はある。これだけの膨大な本を短期間に完成したのである。短期間ということは,1995年までの文献が含まれていることに示されている。それだけに,各章,各項目の記載において統一性を欠く傾向がある。しかし,全部を通読する本ではないし,事典と考えれば,これは支障のないことである。
 もう1つは,本書は研究志向のきわめて強い本であるので,実際の喘息の管理・治療のまとめに関しては詳しいとは言えないところがある。文献ストックは全部処分しても差し支えないとはいうものの,ガイドライン関係の本は書棚に残して置く必要がありそうである。また,愚痴めいたことを書いて申し訳ないが,この喘息の世界的成書にわが国で行なわれた研究の記載にきわめて乏しいことである。
 わが国の喘息研究者の発奮を期待したい。
 ともかく『Asthma』は,喘息研究者,喘息医の常備すべき本である。できれば,邦訳の刊行を期待したいところである。
2184頁 44,800円 Lippincott-Raven社刊
日本総代理店 医学書院洋書部