医学界新聞

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内

現時点の消化器超音波内視鏡のすべてを網羅

消化器超音波内視鏡ハンドブック 中澤三郎 編集

《書 評》神津照雄(千葉大部長・光学医療診療部)

 中澤三郎教授編集の本書を休日を利用して読ませていただいた。本書を開き,初めに感じた印象は実に読みやすいことである。その理由は序でも述べているように各項目が2行から3行の箇条書き式で区切られ,そして連続性のある文章構成となっているからであろう。
 さて内容についてみると,超音波とは何かの基礎知識の解説から始まり,電子機器の取り扱い,超音波内視鏡の検査法まで総論がわかりやすく記述されている。特に初めて超音波内視鏡の機器を手にとり検査を行なおうとする医師,あるいは機器のメンテナンスを行なおうとする者にとっては,直ぐに役立つ内容である。機器の説明も現在市販されているそれぞれのメーカーの機種の特徴が記述されている。

理解しやすいシェーマを中心に記述

 各論では各臓器ごとに通常の超音波内視鏡と細径超音波プローブの操作と読影の仕方が,理解しやすいシェーマを中心に記述されている。その記述内容が心憎いほど親切である。普段なにげなく経験的に行なっている操作の細かい点が言葉として,理論のもとに順序よく記載されているからである。これは超音波内視鏡が本邦で使用されるようになり,それぞれの臓器のspecialistが,試行錯誤の上,日々作りあげてきた経験に裏づけられた手技であるがゆえ,説得力のあるものである。超音波内視鏡の新しい展開としては3次元画像の意義,超音波内視鏡下穿刺が取りあげられており,現時点における消化器超音波内視鏡のすべてが網羅されている。
 本書通読の後の印象として,全体を通じて中澤教授門下の総結集による実践書と理解できる。多くの執筆者が携わったにもかかわらず,全体にバランスのとれた完成された書である。1つの書を世に出す以上,そこには編集者の意気込みが伝わらなければならない。さりげなく21世紀への懸け橋になればと序で述べられているが,長年,超音波内視鏡に情熱を持ち,消化器病学の1つの大きな分野へと発展させた中澤教授の情熱を感じさせる書である。

初心者から専門医まで

 冒頭でも述べたが,本書はまさしく初心者から専門医に通用するハンドブックである。超音波内視鏡の領域もさらに専門分野に細分化してきており,本書の目次を開きながら,それぞれの領域を改めて再読し,歴史や詳細な手技のコツを確認し,整理するには最良の書と言える。
A5・頁240 定価(本体4,700円+税) 医学書院


系統的なシステムとしての解剖学の理解に

脳・脊髄のMRI正常解剖 前原忠行 編者

《書 評》大友 邦(東大附属病院助教授・放射線部)

MRI正常解剖とMRI像とを対比

 画像診断の多くの部分は解剖学とマクロレベルの病理学に立脚しており,画像のコントラスト分解能と空間分解能が向上すればするほど,詳細で正確な解剖学の知識が必要となる。特に,中枢神経系の画像診断に携わる場合には,画像が描出している断面ごとの解剖学的知識の必要性が高い。そのような背景のもとに,CTに代わり,中枢神経系の画像診断の中心的検査法となったMRIの正常解剖を,最新のMR像との対比のもとに網羅する目的で企画出版されたのが本書である。
 内容的には,大脳皮質,白質,基底核・視床,脳室・脳槽,海馬,視床下部・下垂体,脳幹部・脳神経,小脳,小児脳,脊椎・脊髄の10章に分けられ,各章には図をまじえた系統解剖学的概説と正常のMR像が掲載されている。いずれの章でもMR像を解釈するのに必要十分な正常解剖がわかりやすく解説されているが,特に海馬,視床下部・下垂体,脳幹部・脳神経に関する記載は詳細を極め,比較的なじみのうすい小児脳に関しては脳の成熟の課程が明らかにされている。
 また,ページをめくることなく,それぞれのMR像と正常解剖を1対1に対応させられるように,各ページにMR像に書き込まれた略語または番号に対応する解剖用語が記載され,読者の便宜がはかられている。

入門者から専門医まで 読影の際に脇に置いて参照に

 症例ごとの病巣の位置を本書と丁寧に照らし合わせ読影していくことで,神経学に対応した系統的なシステムとしての解剖学に関する理解も深まるはずである。ひろく入門者から専門家までが,読影に際し常に参照する座右の書として,本書を強く推薦する。
B5・頁120 定価(本体2,800円+税) 秀潤社


今までにないでき映えのCABGの手術書

CABGテクニック 南淵明宏 著

《書 評》細田泰之(順大教授・胸部外科学)

 本邦で冠動脈バイパス術が行なわれるようになって四半世紀が経過した。1970年代はリスクの高い手術であったが,次第に手術成績は向上し,現在では安全な手術となっている。この間,大伏在静脈によるバイパス術が長い間標準術式としての地位を占めていたが,1980年代後半に内胸動脈の優れた長期開存性が明らかになり,新たな動脈グラフトとして胃大網動脈,下腹壁動脈が登場した。さらに1990年代前半にはCa拮抗薬の登場によりスパズムの問題が解決されたため,橈骨動脈の使用が再開された。このconduitの問題の一連の流れが冠動脈バイパス術の第1の変革期であったとすると,現在の心拍動下あるいは低侵襲の冠動脈バイパス術の流れは第2の変革期であるような印象を受けている。このような変革の時代に,変革者の1人として活躍している著者が著したのが本書である。
 本書は「1.CABGの準備」,「2.CABGの適応」,「3.CABGの手順」,「4.静脈グラフトを用いたCABG」,「5.動脈グラフトの特徴と欠点」,「6.動脈グラフトを用いたCABG」,「7.動脈グラフトの選択と戦略」,「8.緊急CABG」,「9.再CABG」,「10.心拍動下CABG」,「11.低侵襲CABG」,「12.CABGと脳血管障害」,「13.CABGの術後管理」の13章と,カラーグラフ「CABGの基礎知識」,「静脈グラフト末梢側(冠状動脈側)の吻合」,「静脈グラフト中枢側の上行大動脈への吻合」,「内胸動脈グラフトを用いたCABG」,「胃大網動脈グラフトを用いたCABG」,「下腹壁動脈グラフトを用いたCABG」,「橈骨動脈グラフトを用いたCABG」,「mid CABGの手術手順」より構成されている。

手術手技中心の実践的な内容

 本書は,手術手技を中心に述べられており,内容はきわめて実践的で,これこそが外科の手術書と思わせるでき映えである。本書に従えば,誰しもが(著者はある一定の能力を要求しているが)安全に問題なく手術を行なうことができるであろう。また,心臓外科医としての心構えなども述べられており,若い心臓外科医にはぜひ読んでもらいたい。
 従来のCABGの手術手技に続き,11章では低侵襲CABGについて述べられているが,低侵襲CABGのテクニックについての記載は本書が初めてであろうし,おそらく著者が本邦で最も多くの症例を経験している者の1人であろう。それゆえ,これから低侵襲CABGを始める諸氏や,過去に経験のある心臓外科医にとっても手術手技の向上のためには必読である。

鮮明な写真を多用した構成

 カラーグラフだけでなく本文中にも写真や図を多用しているが,写真は鮮明で,イラストレーションはわかりやすくできている。ことに術中の写真は鮮明で,グラフトの採取,トリミングや視野の展開,冠動脈の切開,吻合の写真は臨場感にあふれ,今までの手術書にはない美しさである。また本文もさることながら,写真や図の解説の内容に注目してもらいたい。著者の経験に基づく示唆に富んだ非常に役立つことばかりで,心臓外科医であれば誰しもが経験したであろうpitfallについて述べてあり,思い当たるふしのあることが必ず出てくるであろう。これを読むだけでも非常に勉強になる。
 本書を読むと,著者自身,幾例かの痛い思いや修羅場を経験しているようであるが,そのような症例についても著者は包み隠さず書いている。これは2度と同じことを繰り返さないという強い決意が読み取れると同時に,自分が経験した辛い思いを他の者には経験してほしくないという著者の切なる希望が感じられる。ところどころ,ややハードルが高いと思われる記載があるが,それを目標にしてもらいたいと思う。
 また,本書は今までにないでき映えの手術書であり,実際の手術を見る機会の少ない循環器内科医にもCABGという手術を理解していただくために一読をお薦めしたい。
B5・頁160 定価(本体9,000円+税) 医学書院


神経・筋疾患に携わるすべての医療従事者に

神経・筋疾患のマネージメント 難病患者のリハビリテーション

加倉井周一,清水夏繪 編集

《書 評》米本恭三(慈恵医大教授・リハビリテーション医学)

リハビリテーションの 各専門職に待望の書

 神経・筋疾患のリハビリテーションに関しては,従来,書籍の一部として取り上げられていた程度で,1冊のまとまった成書となったのは初めてである。この度,豊富な知識と経験をもっておられる加倉井周一,清水夏繪の両氏の編集により『神経・筋疾患のマネージメント』と題する本書が刊行されたことは誠に時宜を得たものと言える。
 長寿社会の到来とともに,疾病構造の変化を来し,それととともに何らかの障害を持ちながら生きる人々のQOLへの考え方や対応も変わってきている。ここで取り上げている神経・筋疾患は,その意味で特に大きく変わってきている分野と言える。生命的予後については経過が早くて短いものから,平均寿命に近いものと疾患によって異なり,従来,その多くが治療薬の未開発という理由でリハビリテーションを含む適切なマネージメントの恩恵に浴していなかったといえる。
 学会認定医制協議会の規約に従って,現在,日本リハビリテーション医学会で施行されている認定臨床医試験ならびに専門医試験の際,知識を要求される重要な1分野である。また,医師国家試験の出題基準(平成9年版)についてもその中項目,各臓器障害のリハビリテーションの中にこの神経・筋疾患が含まれている。そのようなリハビリテーション医学の教育という観点からも大変重要で欠くことができないものである。本書は医師ならびに理学療法士,作業療法士,看護婦など,各専門職にとって正に待望の書と言ってよい。

日本の難病対策の現状と 支援機器を紹介

 本書の特徴をあげると,総論の中にはわが国における難病対策の業績と現状や支援機器が紹介,解説されており,本疾患への対応の要点を知る上でも,日常生活用具の選択や利用のためにも便が図られている。各論では,主要な神経・筋疾患のそれぞれについて,概念,発生頻度,臨床病状,検査,診断,治療,リハビリテーションと要領よくまとめて記述されている。しかし,その中で日常診療では頻度の少ない疾患に,リハビリテーションについての記載が治療の項目の中に入っているものが見られる。
 あえて希望を述べさせてもらえば,副題が難病患者のリハビリテーションとなっているからには,短い要点であってもリハビリテーション施行上の注意点とともに,別に項目を立てられたほうがわかりよいのではなかろうか。また,これらの疾患に共通している実践的なリハビリテーションの手技や看護の方法を総論の中に図とともにまとめておかれると,各論での解説が一層容易になるように思われる。
 全体を通じて,各項目を担当しておられる先生方がいずれもその領域の臨床面や研究面に造詣が深く,優れた業績を持っておられる方ばかりで,重要な内容がわかりやすく,細かな注意を払って書かれていることに感心しながら何回も読み返した。編集を担当された両氏のご尽力に対しても,リハビリテーションに携わる1人として心から御礼申し上げたい。
 以前から,「各疾患の障害を横断的に治療するのがリハビリテーション」という言葉を聞くが,私はリハビリテーション医こそ,障害を引き起こした原因疾患の診断を確定し,その成り立ちや予後を十分知った上でマネージメントを考えるべきであるという立場を強く支持する。その観点からも本書はぜひ多くのリハビリテーション医に読んでいただきたいと考える。付録にある社会資源の手引きも毎日の診療で多く利用される部分である。
 臨床上,大変有用と考えられる本書が,多くの医師,理学療法士,作業療法士,看護婦,ソーシァルワーカー,そして各専門職の養成学校の方々の座右の書として大いに活用されることを期待したい。
B5・頁260 定価(本体7,000円+税) 医学書院