医学界新聞

NURSING LIBRARY 看護関連 書籍・雑誌紹介


アートとして看護技術を高めていく道

国分アイのナーシングアート 阿保順子,他 著

《書 評》古賀八重子(浜松市立看護専門学校教務主任)

 「看護の力で患者さんはこんなに楽になる。看護技術ってすごい!」そんな声が伝わってくる本である。
 どんなに知識があり,優しい気持ちがあっても,苦しんでいる人の生命と苦痛を救う技術がなければ,看護婦ではない。こうした看護における技術を身につけることの大切さを声高に言う人がもっといてもよいのではないか。そんな思いを強めているこのごろであったが,本書に出会えたことをよろこんでいる。

看護技術とは何かを捉え直す

 国分アイ氏は戦後日赤の臨床指導教師として多くの人材を育て,熱布清拭をはじめとする看護技術を拡げた方である。「痛みや苦痛からの解放なくして安楽な日常はない。治療や検査に伴う苦痛をとることこそ最も基本的な看護の関心でなくてはならない」と身をもって示されてきた。
 本書は氏の教え子たちが,師が体現されたナーシングアートの神髄を今日に伝えようと,まとめたものである。看護婦を看護婦たらしめている看護技術とは何か。その答えを,師の実践と,自分たちの実践の経験をみつめてとらえ直す中で確認している。それは,思考過程重視の潮流に対する1つの警告となっていると同時に,地味な実践を続けている多くの看護婦に「いま行なっているそのことこそが大切なのですよ」との励ましを伝えるものである。
 第1章で国分氏の看護技術の実際を具体的に述べ,「工夫」から手順化できる「技術」,個々の患者とその状況で展開される「ベッドサイド技術」へと,看護技術が「ナーシングアート」へと昇華していく順序を示している。第2章では,ナーシングアートを関係性と身体との対話として解読している。

1回性の個を見据えた技術

 そして第3章では,看護を伝えるには「経験そのもの」を語るしかないとの考えに基づいて著者の1人ひとりが,自分の目に映じた教師として人間としての国分氏の姿を語っている。看護を伝えるには,言葉と行動で伝えること,体験として伝えること,文脈(雰囲気)を感じとらせることだと著者らは言うが,アートという技術を伝えることの困難さもここにある。
 看護婦は「患者の表情,息づかい,手先に伝わる患者さんの身体を感じることで自分の技術の適否を判断する」。患者さんの側にいる看護婦には,この息づかいが聞こえる。病む人の苦痛を少しでも楽にしたいと思ったら,自分の技術を病む人の息づかい(反応)をみながら高めていくしかない。それがアートとしての看護技術を高めていく道なのだと改めて思う。「看護は患者との相互作用において成立する1回性の個を見据えた技術である」。だから,臨床の場でこそ教えることができる。
 看護技術をアートとして高め「やってみせる看護婦」が増えてほしい。看護診断で頭を疲れさせてばかりいないで手を動かしてください。本書にはそんなメッセージが込められているように感じた。一読,「看護がしたい!」とうずうずしてくる本である。
A5・頁144 定価(本体1,900円+税) 医学書院


学生の実習に最適なポケットガイド

ベッドサイドに役立つ基本看護ポケットガイド 大石実 監訳

《書 評》安酸史子(岡山県立大助教授・看護学)

 『ベッドサイドに役立つ基本看護ポケットガイド』を読ませていただいた。学生時代に実習に持っていっていたら,ずいぶんと助かっただろうと感じる本である。序文によると,原著は執筆者の学生時代のノートが元になったらしい。臨床の場では患者の病態や治療,検査などを理解するために複雑で細かいさまざまな知識が必要である。洋の東西を問わず,手帳やノートに略語や数字などを細かく記載している学生はいるものである。

最新の情報をコンパクトに

 この本はポケットサイズにして,実に多くの最新の情報がコンパクトに盛り込まれていることに驚く。臨床では必要だが,詳しく書いてある本が意外と少ない。本書はそういう知識が簡潔にまとめてあるのである。
 全体は18章に分かれていて,1-5章は「ヘルスケア用語」「薬物治療-計算と投与」「感染管理」「基本的な看護アセスメント」「記録」といった看護をする上で基本的に必要となる内容である。ヘルスケア用語は略語,接頭語,接尾語,記号,専門医や専門看護婦の名称,解剖用語などが実に27頁を要して日米両方の表現で記載してある。留学を考えている学生にとっては絶好のガイドブックになろう。われわれが英文の文献を読む際にも助かる。専門看護婦のタイトルは略語で記載されていることが多いが,辞書でも調べきれないことがある。例えば,CCRNはcritical care registered nurseの略で救急ケア登録看護婦,OCNはoncology certified nurseの略で腫瘍学認可看護婦といった具合である。
 薬物治療の計算と投与に関しては,換算法や図表がわかりやすく要点が押さえられているので,学生は助かるであろう。基本的な看護のアセスメントでは,ヘルス・アセスメントの要点がこれまたわかりやすく記載してある。身長や体重ではインチとcm,ポンドとkgの換算表が付記され,日本人の年齢別の平均と標準偏差の表が載っている。単なる翻訳ではなく,利用する日本の読者に対する監訳者側の優しさが感じられる。記録の章では,ゴードンとNANDAの看護診断名が掲載されている。

すぐ活用できる知識を厳選して記載

 6-15章は,診療科別に基本的な知識が図表を利用して最低必要な知識が掲載してある。ここでは,例えば呼吸器系では酸素療法をカニューレで行なった場合,1リットル/分だと24%酸素,6リットル/分だと44%酸素となり,それ以上だとマスクが必要になるといった具体的ですぐに活用できる知識が厳選して記載されていて感心した。
 16章は「検査と方法」が,代表的な項目だけ正常値とともに記載してある。
 17章は「外科看護ケア」,18章は「患者の安全」がポイントを絞って掲載されている。最後に索引があるのも嬉しいところだ。
 全体的に,一目で大まかに必要な知識の把握ができるように工夫してあり,しかも最新の知識も盛り込まれているため,学生に推薦できるポケットガイドである。
B6変・頁312 定価(本体1,980円+税) 医学書院MYW


医学モデルから医学・心理・社会モデルへ

保健・医療・福祉をつなぐ 考える技術 渡邊裕子,他 著

《書 評》佐藤久夫(日本社会事業大教授)

ものの見方の枠組みを提供

 「医学モデルから生活モデルへ」,「ADLからQOLへ」,「cureからcareへ」,あるいは「保健・医療・福祉の連携を」などと言われて久しい。これらは「援助の方法」のあり方を示すよびかけである。しかし,「援助の対象」の理解を基礎にして生まれた「援助の方法」のみが有効なものである。正しい理解には先入観を避けねばならないが,基礎的な知識やものの見方は必要不可欠である。同じものを「見て」いても,知識と「見方」の差によっては「理解」が異なり,援助の差となる。本書は保健・医療・福祉の専門職に,この「見方」の枠組みを提供する。
 以前から「病気・症状だけでなく,人間全体を見よ」などという「見方」は強調されてきた。本書は,人間全体をいきなり対象とするのでなく,WHOの国際障害分類が提起する,機能障害,能力障害,社会的不利という3つのレベルに区分して認識する方法をとる。そして「社会的不利」の軽減を働きかけの最終的な目標とし,これら3つのレベルに加えて,障害発生原因,保健・医療・福祉サービス,環境改善などの要素の相互作用関係を,のようにモデル化する。こうして,患者・障害者が抱える各種の社会的不利(生きがいが持てない,仕事が得られない,家族と仲よくできない等)の発生のメカニズム・経路を理解しやすくし,その発生を予防したり解決したりする方策を見いだそうとするのである。本書は,こうした内容の有効性とともに,作成過程もユニークである。つまり社会学,社会福祉,看護,リハなどのチームが長い討議を経て執筆したものであり,かつ豊富な事例説明が示されていて非常に説得力がある。

障害発生原因と社会的不利

 本書でとくに注目される点の1つは,障害発生原因と社会的不利の関係の分析である。従来,たとえば遺伝による先天的な失明も糖尿病による後天的な失明も,機能障害としては同一であり,能力障害や社会的不利への影響も同じである,ということが(国際疾病分類との差を示す意図もあって)強調されてきた。これは一面の真理であるが,本書が示すように,原因が何かということは社会的不利への対応でかなり重要な意味を持つのである。
 ただ,自己への否定的価値評価としての「体験としての障害」の位置づけ(上田敏氏)は多くの実践家に評価されており,それを取り除いている点はどうであろうか。
 本書が示すように,医学的なレベルから心理・社会的なレベルまでの人間の生活(の否定的側面)を1つの概念モデルで描くものとしての障害構造論(あるいは国際障害分類の障害モデル)は,保健・医療・福祉の連携のための共通言語である。さらに教育・労働・都市計画や障害者権利保障運動などでも活用できる統合的なモデルとして発展しつつある。「環境因子」の重視など現在WHOを中心に進められている改正作業が期待される。
 いずれにせよ,障害や慢性疾患にかかわる人々,とくに障害者自身にも読んでもらいたい本である。このような実践的な立場での障害構造論の研究の発展が望まれる。
A5・頁144 定価(本体2,400円+税)医学書院