医学界新聞

 シドニー発 最新看護便
 オーストラリアでの高齢者対策[第3回]

 痴呆症ケア(3) 「ザ・メドウ」

 瀬間あずさ(Nichigo Health Resources)


 前回,オーストラリアの痴呆症患者ケアは,精神病院から家庭的な雰囲気を持つ小規模ユニットでのケアへと移行してきていると述べたが,それは日本でも最近話題に上がる「グループホーム」の精神に基づくものである。

グループホームとグループケア

 痴呆性老人に対するサービスとして,「痴呆性老人向けグループホーム」という新しい介護形態が公的介護保険下で制度化されると言われている。痴呆性老人向けグループホームはまだ明確には定義されていないと思うが,簡略して言えば「少人数の痴呆性老人が,専門スタッフによるケアを受けながら家庭に近い環境で生活を送る共同住宅」となろう。ただ,グループホームという箱を作ればできるというものではなく,岡本が述べているように「グループホームとは“家”という入れ物のことを示すのではなく……痴呆のレベルがほぼ同じようなお年寄りをグループ化して,“プロ家族”の職員が徹底してお年寄りのペースに合わせる,という介護の“方法”である」1)とあるように,グループケアと呼んだほうが適切なのかもしれない。
 オーストラリアのグループホームの大部分は,独立型のものは少なく,リタイヤメントビレッジなどに他のナーシングホームと併設されているものが多い。日本人が一般に思い浮かべるような「一軒家」ではなく,大半のものは外見上は「施設」だが,その中でグループケア方式を用いて成果をあげている。

ザ・メドウからの提言

 その具体例をあげることにしよう。
 ハモンドビレッジという,高齢者のためのリタイヤメントビレッジに建てられた「ザ・メドウ」は痴呆性老人の専門施設であり,日本で言うグループホームが1施設内に3つ作られている。この3つのグループホームは,それぞれ管理棟に回廊で接続されている。各ホームは,12-14人程度と少人数の単位で,対象者は多少の介助や見守りがあれば日常生活を営める中期ぐらいまでの痴呆性老人である。連邦政府に属する高齢者ケア評価チームが入所判定を行ない,その必要性を認められたお年寄りのみ入所となるわけだ。
 「ザ・メドウ」の施設管理側は,どのような環境が痴呆性老人にとってよいのか,痴呆性老人の環境作りについて10年以上研究を続けてきた。その結果,環境を整えることにより不穏などの障害を軽減することができるとし,痴呆性老人ケアの「役立つ環境」について見解を示すまでにいたっている。それによれば,ほとんどの環境は7つのポイントに気をつければ向上できるとしている。
 その内容は,(1)規模が小さいこと(痴呆症のある入所者が少ないほど不穏傾向は減少するという裏づけからで,オーストラリアでは8人が最良で,14人では良好かつ財政的にまかなえる人数となっている),(2)地域に近いこと(お年寄りが入所後も家族との交流を維持できる),(3)家庭的(古く慣れ親しんだ家具類が持ち込まれるというだけではなく,お年寄りが毎日の生活にかかわれるように,台所,洗濯場,物干しなどの場所を提供し,病院などの治療を施す環境ではなく,自宅という生活をしていく環境を整える),(4)刺激を減少させる(不必要な音を減少させるだけではなく,工事人など外部者の出入を避けたり,外への出口のドアは目立たせないよう壁と同じ色にし,背部と融合させ外へ出てみたいという刺激を抑える),(5)見てほしいものの視界を増大させる(お年寄りに,見てほしいものをハイライトさせる。例えばトイレのドアは,壁や他のドアと違う色に塗るとか,ベッドから起きた時に見える位置にトイレを作るなど),(6)トータル・ビジュアル・アクセス(これはリビングルームなどの共有する場所から,食堂,台所,自分の居室,庭への出口など,キーとなる場所が見えるようにする。これにより見るべきものが見える環境を提供すると混乱の度合いが減少し,特に攻撃的な徘徊が減っていく),(7)見慣れた内装(痴呆症がある人々は過去に生きており,彼らの心理的現実に合わせた環境を作るため,特にお年寄りが成人の初期に親しんだ色や家具を使うようにする。またドアのハンドルや蛇口,スイッチなど気を配る)。
 以上,とても簡単なポイントではあるが,この7ポイントを実践すれば痴呆性老人はたえず居心地よく感じ,快適で不安感を減少させることができると提言している。

(この項づづく)

〔参考文献〕
1)岡本祐三:高齢者医療と福祉,岩波新書,p.135, 1996年