医学界新聞

〔新春インタビュー〕
日本看護科学学会
第3回国際看護学術集会の開催にあたって

小島操子氏(聖路加看護大教授,第3回国際看護学術集会長)


 日本看護科学学会第3回国際看護学術集会が,本年9月16-18日の3日間,東京国際フォーラムで開催される。同学術集会は,学術団体が開催する日本で唯一の国際看護学会であり,これまでに1992年,1995年と3年に1度開催されている。
 本紙では,3回目を迎える今学術集会の小島操子会長(聖路加看護大教授)に,開催にあたっての経緯や意義についてうかがった。


国際的な視野に立った学術交流のために

日本がリーダーシップをとる意義

──日本看護科学学会(理事長=日赤看護大学長 樋口康子氏)が主催しています国際看護学術集会開催につきまして,これまでの経緯などをお話しいただけますか。
小島 日本看護科学学会は1981年に発足し,1987年には看護学の学会では初めて日本学術会議に登録されました。現在は5つの看護学会(日本看護科学学会,日本看護研究学会,日本看護学教育学会,日本がん看護学会,日本助産学会)が学術会議に登録されていますが,看護科学学会だけは今期で3期登録団体として認められてきました。
 日本看護科学学会の目的として,「国民の健康と福祉の向上に貢献するために看護学の発展を図り,広く知識の交流を深めること」をあげていますが,その活動の中に,「国際的な視野に立った学術交流」が含まれています。この趣旨に基づき,1992年10月に第1回学術集会を東京の笹川記念会館で開催しました。テーマは「ヒューマンケアリング:その政治・倫理・哲学」で,世界18か国から600名以上の参加がありました。そして第2回は,1995年1月に大震災に見舞われた神戸市で,その年の9月に開催され,「Nursing : Beyond Art and Science-Message from Kobe」をテーマに20か国から1000人を超える看護職が集まりました。
 開催の準備にあたりまして,「国際学術集会を,なぜ日本で主催するのか」と,その意義についてあちこちで尋ねられました。
 世界中から,先進諸国はもとより発展途上国,近隣諸国からも多くの参加者を得て,国際的な視野に立って看護や看護学について討議すること,また交流を深めることは,21世紀に予測される社会や医療の変化の中で,看護がどのような責務を担い,発展できるかを追究する上で,非常に意義深いと考えます。
 加えて,日本で開催される意義として,特に発展途上国からの参加者には学会として援助を行なう予定です。日本の近隣諸国でこのような国際看護学会は開かれていませんので,日本がある意味でのリーダーシップをとり学会を開催することは,近隣諸国から多くの参加者を得やすく,お互いに学術交流のみならず,理解を深めるのに非常に役立つと思います。
 また,日本の看護職者にとっては,海外での国際学会となると,これほど大勢の出席はできません。そういう意味でも日本での開催は,国際学会に気軽に大勢が出席でき,その中で国際学会の雰囲気や感覚を身に付けたり,国際的な視野に立って看護を考えるよい機会になると考えます。

21世紀へのキーワード

──今回は,9月に東京の東京国際フォーラムで開催されますが,テーマの由来やプログラム内容をお知らせいただけますか。
小島 テーマは英語で「Innovation and Creativity:Nursing into the 21st Century」ですが,日本語の直訳では何か堅苦しい気がしますし,「変革と創造」とは何かというと,まさに21世紀へ大きくばたくことだということから,「変革と創造:21世紀への飛翔」としました。
 少子・高齢化が進み,科学が随分と進歩し,そして女性が変わってきた中で迎える21世紀が,どのような世紀になるのかを考えるキーワードを探しますと,「患者の権利擁護(patient advocacy)」と「情報化社会の中のネットワーキング」が浮かんできました。いろいろと検討する中で,「そういうものはすごく大事だけど,その根底にあるものによって,とらえ方や考え方が違ってくるのではないか」という意見もスタッフの中にはありました。つまり,その根底となるものは,もちろん科学もあるでしょうが,その国の文化やシステムの違いから,とらえられ方も違ってくるということです。その国の持つ科学,文化,システムの違いから,患者の権利とかネットワーキングを見て,看護や看護教育が21世紀にはどうあらねばならないかを考えましょうと,文化の違いを踏まえ論議する中から,改めて共通性や違いが見えてくるでしょうし,看護学とその国の文化との整合性が,世界共通のものとして発展に向かう部分も出てくるだろうと思います。

看護の変革と創造

最終日の総合討論をめざして

小島 具体的なプログラムとしては,今学会のテーマに沿った基調講演をアメリカとヨーロッパ(フィンランド)の先生方にお願いしました。会長講演としましては「看護と看護教育における変革と創造」と題して,21世紀に向けて科学,文化,システムを土台に,日本における看護と看護教育の改革と創造について話す予定です。
 基調講演の演者は,アメリカからは聖路加看護大学も病院も含めて長いつき合いのあるオルソン先生(戦後GHQのオルト大佐の下で日本の看護界の向上に貢献した保健婦のバージニア・オルソン氏)と関係のから,イリノイ大学の看護学部長で,とてもエネルギッシュで頼もしい方だと評判のジョアン・L・Fシェーバー氏にお願いしました。また,フィンランドのヘレナ・レイノ・キルピー氏(ツルク大看護学部教授)は,日本にとても関心が高く,過去のこの学術集会にも出席してくださっています。彼女には北欧社会の保健医療システム,ホームケアシステムについて造詣が深いとのことで,基調講演をお願いしました。
 その他に,駅伝シンポジウム,パネルディスカッション,インフォメーションエクスチェンジ,ワークショップなどを行ないます。
 駅伝シンポジウムは,テーマを2つ設定しまして,1つがナーシング・ケアシステムとカルチャー,そしてナーシング・インターベンションとサイエンスです。前者では在宅看護とそれぞれの国の文化背景とをテーマに看護のあり方を討議します。後者では前者を受け,文化を超えた看護の普遍性と看護科学について語り合います。
 そして基調講演,会長講演やこのシンポでの成果をもとに,最終日のパネルディスカッションへ結びつけ,メインテーマについて論じ合いたいと思っています。
 インフォメーションエクスチェンジは,前回は時間外の学術交流セッションでしたが,とてもよかったとの印象が強く,今回はプログラムの中に入れ,できるだけたくさんの方たちに,本当に関心の高いところで学術交流を深めてもらおうと考えました。
 また,今回初めて学会最終日に市民公開講座を開催します。市民に開かれた看護学との意味合いから,講師には日野原重明先生(聖路加看護大学長)とは季羽倭文子さん(ホスピスケア研究会代表)のお2人にお願いしています。21世紀に向けたすばらしいお話をしていただけるものと期待をしております。
──一般演題の申し込み状況などはいかがでしょうか。
小島 世界各国から280題ぐらい届きました。日本から200数題,国外から80題くらいですが,やはり近隣諸国からの応募が多いですね。ブラジル,台湾が多く,ついでアメリカでしたが,さまざまな国からの応募があり,プログラム委員一同大変喜んでおります。

日本にいながら国際学会の経験を

小島 21世紀のことを自分なりに考えてみますと,きっとこれからは少人数でさまざまな職種で医療にかかわっていくようになるのではないかと思います。そのような状況の中で,看護婦は看護職としてのアイデンティティをしっかり持ち,そして看護婦がしなければならない役割をきちんと主張しつつ,他職種と協調することが必要だと思います。
 今,福祉や介護が語られる中で,看護って何?看護婦さんにしかできない仕事って何?と問われています。その中にあって,看護のアイデンティティをきちん示していかなければいけないと,強く感じさせられます。これからの変動する社会の中で,文化的背景を考えながら,変革しなければならないことや,創造していかなければならないものを,この学術集会の中から見つけ出していただければ幸いです。
 母体である日本看護科学学会も,会員が2000人を超えました。それだけ,この学会も真価が問われているのだと思いますし,期待も大きいのだと思います。開催にあたっては,多くの会員が参加することを願っていますが,参加資格は会員,会員外を問いませんので,1人でも多くの参加を望んでいます。外国からは300人程度の参加を見込んでいます。せっかく日本で行なわれる国際学術集会ですので,多くの方に参加していただき,国際看護学会がどういうものかを味わっていただければ幸いです。そして今度は海外の国際学会に参加しようとか,また自分も発表しようと思っていただければ大変嬉しいことです。
──どうもありがとうございました。