医学界新聞

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内

すべての臨床家に勧めたい1冊

今日の診断指針 第4版 亀山正邦,他 編集

《書 評》宮城征四郎(沖縄県立中部病院院長)

臨床医学における真実

 3年ごとの改訂を目標にしている『今日の診断指針』であるが,第4版を上梓するのにこのたびは5年の歳月を要したという。
 繙いて見て,その重厚な内容に長年月を要したのもむべなるかなの感が深い。大きく「症候編」と「疾患編」とに分かれる本書は,さらに,それぞれに多数の大項目を擁しており,各編集責任者ならびに執筆者を原則として総入れ替えを計ったというのであるから,先ずもって編集者や執筆者の人選だけでも骨の折れる作業であったに違いない。
 症候編184,疾患項目634に1万種類の疾患が網羅されている。その執筆陣に第一線の若手の有能な臨床家を厳選したとあってはなおさらのことである。日進月歩する医学の最先端の技術を網羅するということは並大抵のことではない。臨床医学における今日の真実は明日の虚偽となり,今日の虚偽は明日の真実になりかねない時代である。
 かつては大学図書館に依存していた文献検索も,今ではMedlineやインターネットを通じてきわめて容易となり,世界のあらゆる文献に目を通すことは臨床現場がどこであろうと何の苦労も困難も伴わなくなった。
 しかし逆に,氾濫する情報洪水の中で,記述されている文献上の内容が未来永劫,真実として生き残るのは一体,如何ほどあるであろうか?

第一線の臨床家ならではの記述

 唯一,それを的確に匂いで嗅ぎわけることができるのは,まさに医療現場で呻吟しつつ,ここに執筆陣として厳選された第一線で活躍中の臨床家なのである。
 症候編と疾患編で編集方針に多少の差異が認められるものの,総じて各編,各項目とも緊急時の対応と簡単な解説,診断のチェックポイント,検査の組み立て方と所見の見方,疾患の頻度,鑑別のポイント,確定診断のポイントなどの順で記載されている。外科系疾患や症候については緊急手術の適応,内科系については「どうしても診断がつかないときに試みること」や「さらに知っておくと役立つこと」などが第一線の臨床家ならではのポイント形式で記述され,これらが一般臨床家に取って,特に興味深くかつ有用である。
 また,忙しい臨床家向けに図表や写真,画像などをふんだんに盛り込んであり,いちいち文字を追わなくとも逸早く理解できるように編集されている点も本書の利点であろう。すべての臨床家にぜひ本書を活用されるようおすすめしたい。
デスク判 B5・頁2000 定価(本体23,000円+税)
ポケット判 B6・頁2000 定価(本体18,000円+税) 医学書院


ゲーム感覚で学べる中身の濃い1冊

フィルムリーディング(6) 腎・副腎・後腹膜・骨盤腔
河野 敦 編集

《書 評》鬼塚英雄(飯塚病院副院長)

数多くの疾患をジェネラルに知る

 最近の若い医師たちは,「画像診断」の代表的検査法であるCTやMRIの読影技術や,血管造影,IVRなどの特殊なテクニック修得に熱中するあまり,基本となる一般放射線診断学をおろそかにしている傾向にある。すなわち,放射線科学の中においてもspecializeされた医師が特定の分野にのみ深く関わり,いわゆるgeneral radiologistがいなくなりつつあると危惧するのは私だけであろうか。
 日常臨床においては,「画像診断」と言えども画像所見のみから最終診断に行き着くことはむしろ稀であり,疫学的知識や臨床所見ならびに症状を参考にして,(画像)診断を下す場合がほとんどである。異常を見つけるだけでなく,その画像所見を分析し臨床所見と結びつけ,数多くの鑑別診断の中から正しい診断を導き出すには,一分野にのみ深く精通するのではなく,多くの疾患をgeneralに,すなわちある意味において「広く浅く」(深いに越したことはないが)知っておく必要がある。それには多くの症例を経験し,多くの本を読み,できる限り多くの疾患の放射線学的,疫学的,症候学的特徴の要点を把握しておくことが肝要である。そのための手段として,本書は格好の1冊と言えるのではないだろうか。
 本書は,見開き2頁に左側に画像と簡単な病歴が提示され,右側に所見の解説,鑑別診断をあげ,診断へと結びつける形式が取られている。これは,日常診療における診断の手順と同様であり,また放射線科関係の学会や研究会で好評を博しているフィルムリーディングセッションの形式でもあり,読者の興味を引きつけ考えさせることによって,放射線診断のプロセスを身につけさせ,疾患を印象づける役割も果たしている。
 解説の最後にその疾患に関する要点を簡潔にまとめた「病気の豆知識」が載せられている。これは,著者らが自ら,かなりの力を注いだと述べているように,疾患についての重要なポイントが要領よくまとめられ,ここを拾い読みするだけでも十分の価値がある。
 提示されている症例も,副腎,腎,後腹膜ならびに骨盤の基本的かつ代表的な疾患を網羅しており,解説も最近のトピックスが十分取り入れられており,新鮮なものに仕上っている。写真の質も満足すべきものである。

セルフトレーニングに活用できる

 この分野を学ぶものにとってはセルフトレーニングの書として活用できるであろうし,既に学んだものには,「病気の豆知識」を復習し,自己の知識を維持するために利用するのもよい方法であろう。少し時間が空いた時に数頁ずつ読むのもよいし,枕元に置いてナイトキャップがわりにという手もあるかもしれない。現代的に言えば,数多くの疾患をゲーム感覚で学べ,かつ,中身の濃い1冊である。
B5・頁136 定価(本体6,500円+税) 医学書院


皮膚科研修医の熟読すべき1冊

皮膚科外来診療マニュアル 宮地良樹,竹原和彦 編集

《書 評》飯塚 一(旭川医大教授・皮膚科学)

 皮膚科は科の宿命として膨大な種類の疾患を扱う。したがって皮膚科のトレーニングにおいては通常,診断学が主体を占め,治療については,各施設において先輩や指導者のやっていることを見よう見まねで覚えていくことが多い。治療スタイルは各施設によって相当異なっており,軟膏療法1つをとっても,学派による違いが存在している。

十分に整合性をもったマニュアル本

 宮地,竹原両教授の編集になる本書は,群馬大,金沢大および両教授の前任地である京大,東大の関係者に執筆者を限定し,十分役に立つ整合性をもったマニュアル本を構成している。東大方式,京大方式をどのようにすり合わせたのかは不明だが,記述には一貫性があり,執筆者らは確信をこめ書いている。研修医はこれを読めば1人で十分やっていけそうな気がするだろう。
 評者の要求するマニュアル本の条件は,(1)簡潔に要領よく書いてあること,(2)1度実際に見た経験があれば1人でも診療の現場で対応できること(できれば未経験者でもできるように具体的に書いてあること),(3)頻度の高い疾患についてはもれなく記載がなされていることの3つである。特に(1)は重要で,忙しい外来診療の中で短時間で知識を確認するためには,簡潔な標準化した知識の記載でないと役に立たないことが多い。ほどよいサイズで携帯可能であることも当然,要求される。
 眼を通した限りでは,本書はこれらの条件をよく満たしており,大変要領よくコンパクトにまとめられている。各項目における治療の基本方式の把握はきわめて重要であるし,生活指導は患者さんへの説明の際,役に立つ情報が詰まっている。通常の治療に反応しない難治例への対応,入院の適応など,記載にいきとどいた配慮もなされている。使用する薬剤はかなりしぼりこまれているが,研修医が最初に覚えるべき薬剤としては順当なところと思われる。

他科の実地医家にも役立つ

 結論として,本書はマニュアル本として実によくまとめれられている。皮膚科研修医はまずこれを熟読すべきであろう。値段はちょっと高いかもしれないが,それだけの価値はある。親切なオーベンに聞くのと同じように,もしかしたら早く確実かもしれない。執筆者らは,目の前の研修医に教えこむように懇切丁寧に書いており,その意味では皮膚科診療において他科の実地医家にも十分役にたつ。随分,便利な世の中になったというのが評者の印象である。
B6・頁280 定価(本体4,000円+税) 医学書院


将来の眼科手術医をめざす若き研修医に

眼科手術アシスタントマニュアル 坪田一男,他 著

《書 評》清水公也(武蔵野赤十字病院・眼科部長)

スタッフ教育や知識の再確認にも有用

 眼科手術医を対象として手術のポイントや手技のコツについて述べた書は数多くあるものの,これまでアシスタントマニュアルという書はなかった。本書で述べられているように,手術の成否は術者の技量に大きく関わることはもちろんであるが,アシスタント(助手)の働きも重要であることは言うまでもない。
 治療の最前線である手術室でのアシスタント業務は,絶好の勉強の機会であるほか,単なる手技の習得に止まらず,疾患の理解を深めるうえでも重要である。本書の総論ではアシスタントとして手術に臨む心構えから,器具器械の基本的知識までがていねいに解説され,各論では手術別に各々の留意点が整理されており,系統立てて勉強する実用書として大変有益と思われる。
 インフォームドコンセントについての重要性が叫ばれるようになって久しいが,患者と医師の信頼関係が最も重要であり,1人の医師として自身を常に反芻する精神がますます重要になってくるものと考えられる。本書は将来の手術医をめざす若き研修医を一応の対象として述べられているが,現在,第一線で活躍されている手術医の先生方にとっても,後進の指導・スタッフの教育,ならびに自身の手技および知識の再確認のために有用である。
 なお本書は坪田先生や大橋先生らの独特の軽妙な言い回しによって,この種の実用書にありがちな難解な表現が少ないため,理解しやすくかつ楽しく読み進むことができる。その意味からもぜひ,お勧めしたい1冊である。
B5・頁120 定価(本体5,800円+税) 医学書院


心臓外科医の実際の臨床に役立つ情報を提供

Cardiac Surgery in the Adult L. Henry Edmunds, Jr. 編集

《書 評》鰐渕康彦(三井記念病院循環器センター外科部長)

 私が心臓血管外科の世界に足を踏み入れた頃は先天性心疾患のほうが優勢で,後天性心疾患は手術の種類も多くなく,心臓外科医師は両者をともに手がけてきたし,またそれが可能でもあった。しかし,冠状動脈バイパス手術が始まった頃から,成人の患者が急激に増加し,術式も多種多様になり,年齢も著しく高齢化してきた。一方,先天性心疾患の手術は生後数か月の乳児まで逆に低年齢化していき,かつては不可能と考えられていた複雑な心奇形の修復が積極的に行なわれるようになってきて,手技,麻酔,対外循環,術後管理,看護,さらには病室や病棟の問題にいたるまで,多くの点で両者を同時に取り扱うことが難しくなってきた。そして今では,先天性心疾患の外科と後天性心疾患の外科は,それぞれに独立する傾向にあり,まったく異なるジャンルと言ってもよいほどに分化が進んでしまっている。本書が総頁数1542頁という大部になっていることを見ても,現在われわれが取り扱っている後天性心疾患の外科の中身がいかに多くなってきたかを知ることができる。

著名な心臓外科医88人を動員

 この本は,ペンシルベニア大学の心臓胸部外科教授Dr. L. Henry Edmunds,Jr.が編著者となり,各方面で実際に活躍している著名な心臓外科医88人を動員して,分担執筆させることにより作られている。全体は,総論,虚血性心疾患,不整脈の外科,弁膜疾患,胸部大動脈疾患,およびその他の手術の6つのパートに大きく分けられており,各パートはさらに細かく章に区分され,心臓外科の歴史から心肺移植まで全部で52章からなっている。共著者が多いと,とかく内容が不統一となりがちで,読者が知りたいと思う肝心の情報が抜けてしまったりしやすいものであるが,本書では,各章の初めに,そのテーマでの問題点が一目でわかるような小目次がつけれらていて,この問題だけは忘れずに議論してほしいという編者の願いがよく反映されている。総論には約25%もの頁数が割かれており,日頃何も考えずに使っている心臓外科の基本的な技術の根拠を,この際最新のデータで再学習してみようという欲望にかられる。「なるほど,そうだったのか」と改めて納得させられることが多かった。
 手術手技もわかりやすい線書きの図を使って詳しく解説されているので,手術アトラスとしても使えるだけでなく,それぞれの手術でどんな点を特に考慮して術後管理をしなければならないかというところまで論じられている。

教科書的でない専門的に深く突っ込んだ知識を得る

 内容的にも,脳保護,PTCAの新しい展開,低侵襲手術,再手術の問題,pacemaker-defibrillator surgery,allograftとautograft,外傷,肺梗塞の手術,成人に達した先天性心疾患患者の問題,心および心肺移植,補助心臓と人工心臓,cardiomyoplasty,その他数多くのup-to-dateなテーマが取り上げられており,それぞれに解剖,病態生理,手術適応,手術手技,手術成績や遠隔成績からみた評価までが,最新のデータを基にして論じられている。そして,各章を単独で読むだけでも必要な知識がすべて得られるように配慮されているので,毎日忙しく手術に熱中している現役の心臓外科医にとっても,up-to-dateでcomprehensiveな知識の再学習と再整理におおいに役立つことがあろう。教科書的な知識ではなく,専門的にもっと深く突っ込んだ,実際の臨床に本当に役立つ情報を読者に提供しようという編者の意図と努力は隅々まで行き渡っており,それがまたこの本を一層魅力的なものにしている。
 ともかくこの本は,近来になくよくできた素晴しい“review book”である。
1,542pp. 600figs. 28,000円, 1997 McGraw-Hill 医学書院洋書部


腎不全の最新情報を加えて理解しやすく

慢性腎不全保存期のケア 透析療法を避けるために 第2版 佐中孜 著

《書 評》酒井 紀(慈恵医大名誉教授・東急病院長)

 佐中孜博士の著書『慢性腎不全保存期のケア―透析療法を避けるために』の第2版が出版された。初版から5年が経過したが,この間のわが国の医療環境は高齢化社会の到来などによって大きく変化し,透析患者も老人の透析導入患者の急増によって,維持透析患者は18万人台に近づいている。生活習慣病として増え続ける糖尿病,その結果として増大する糖尿病による腎不全患者は,数年以内にわが国でも米国同様に透析導入患者の第1位となることが確実視されている。このような現状からみても,慢性腎不全保存期のケアの重要性が強く望まれている。佐中博士が今回改訂版を出されたのは,まさに時宜を得た企画であり,初版には見られなかった多くの工夫が目につく良書といえる。

Q&Aを加えてより実際的に

 本書の特徴は,腎不全の最新情報を加えながら,きわめて理解しやすいように工夫され,特に食事療法の項には,Q&Aを加えてより実際的で取り組みやすくなっている。さらに,佐中博士らが主宰している腎不全料理教室(東京ニーレの会)の方々のご協力を得て,より具体的な料理の作り方などが記載されている。
 増え続ける透析患者を少しでも抑制する手段は,慢性腎不全に悩む多くの患者さんによりわかりやすく日常で実行しやすい方法を指導することであり,正しいケアをすることである。この意味からも本書の果たす役割はきわめて大きいと考えられる。
 一般医家をはじめ多くの方々が,真剣に日夜腎不全患者の治療に取り組んでおられる佐中博士の,長い経験を生かしてお書きになった本書を広くご利用なさることを大いにおすすめしたい。
A5・頁298 定価(本体2,700円+税) 医学書院