医学界新聞

臨床疫学・医学統計学通信教育プログラム体験記


 臨床研修中より私はSackettやFletcherの教科書などを通じ,臨床疫学に興味を持っていましたが,やはり留学しないと本格的には学ぶことができないのか,とも思っていました。そんなところ,このプログラムにモルモットとして参加してみないかとの話があり,渡りに船とばかりに乗ったのでした。私は大学院でのコースワークのつもりで,臨床疫学コースに参加しました。
 A4判20頁程度の薄い教科書と指定参考書を読み,練習問題を解き,宿題をファックスで提出するというのが当時のノルマでした。教材ならびに宿題提出は英語で行なうため,相応の英語力は必要ですが,文字でのコミュニケーションが中心なので,会話が苦手でも大丈夫です。その他に年に2回,直接教授を受けることと,期末試験を受けるのが基本コースとなっています。私はセブ島で行なわれたINCLEN(International clinical epidemiology network)会議の際に同時に行なわれた直接教授に参加しました。ニューキャッスル大の先生たちは非常に熱心で,大変わかりやすく教えてもらえると同時に,普段文通している人たちに会うという一種独特の(?)感慨がありました。衛生や公衆衛生といえば国試の思い出しかなく,学生時代不真面目だった私はまったく系統だった勉強をしていなかったのですが,このプログラムの内容は臨床に関連づけられたアプローチで進められるので,臨床医には取っ付きやすいものでした。私が参加したころよりインターネットが急速に普及しはじめ,メーリンググループでのディスカッション,さらに電子メールで直接に質問などもできるようになり,わからないところなどはそれらを利用すればだいたい解決できるようになりました。その他,電話で直接指導も受けられるようですが,私はもっぱら文字に頼っていました。
 結局私はUCLAに留学することにななり,プログラムを中断せざるをえませんでしたが,今思ってみてもこのプログラムの内容は非常によかったと思います。例えば私は「health soicial science」という科目をを途中までとったのですが,このコースは半年かけて,自分の興味ある分野の質問紙を完成させるという実践的なもので,質的研究から始まり,質問アイテムの選択・評価など,臨床研究をするうえで非常に有意義であると思います。現在私はUCLAで同様に疫学,統計学,社会学などを勉強しているのですが,正直にいって通信教育プログラムの内容はUCLAの授業と同等,もしくはそれ以上であると思っています。今でも,こちらの授業でわからないことがあると,このプログラムの教材を開いて確認することがあります。
 実際には,週に2日は勉強に費やさなければならないことや,通信教育には向かない性格があり,ため込んでしまう人や忙しい人には困難かもしれません。しかし,私のように大学院生として研究をしながらコースワークとして系統的に臨床疫学を学んでいきたい人には,とてもよいプログラムであったと思います。

松村真司(東京大学大学院医学系研究科内科学専攻・UCLA医学部総合内科)