医学界新聞

NURSING LIBRARY 看護関連 書籍・雑誌紹介


具体的な思考の進め方が理解できる

クリティカル・シンキングを基本にした看護診断プロセス
イドリア・C・コーリア,他 著/藤村龍子 監訳

《書 評》森田夏実(国際医療福祉大助教授・看護学)

看護診断を書いてみよう

 本書の原題は,『Writing Nursing Diagnoses A Critical Thinking Approach』である。その名が示すとおり,とにかく「看護診断を書いてみよう」というのがこの本の主旨であり,約4分の3がケーススタディとその考察に割かれている。特に重視されているのが考察部分であろう。クリティカル・シンキング・アプローチと題するだけあって,その解答にthinking processがきちんと示され,具体的に記述したところがこの本の強みである。
 看護診断という言葉は,アメリカでは1950年代から使用され始め,本格的に開発されたのは1970-1980年代である。アメリカではその背景に,ナースの大学教育の開始,病院の情報化,社会における女性運動があるという。わが国では1980年代半ばにゴードンの初期の看護診断マニュアルが訳出された。看護問題の表現に悩んでいたナースたちが活用を始め,10余年が経過した。「問題表現を診断名に置き換えて当てはめようとする」「診断名が現実的表現でない」などの批判が一方にある。しかし診断に至るまでのプロセスにおいて,系統的な看護の視点での情報収集とクリティカル・シンキングが看護の内容の充実やナースの知識の向上に役立っているという報告も増え,着実な取り組みを行なっているところでは,看護診断は有用になっているという印象を筆者は持っている。

系統的に情報をとらえる

 また,教育における活用も増えている。以前は患者の情報を収集する際に見落としがあったが,看護診断を学習してからは系統的に情報をとらえられるようになったという声が学生から聞かれる。しかし情報収集の視点のみでなく,それらの情報をどのように組み合わせ,発展させ,修正するか,そのthinking processが重要なのである。
 看護診断の導入に積極的な人も,そのいく末を見守っている立場の人も,看護における思考過程に関しては,本書から学ぶところが大きいと思われる。
 第1部は,看護過程とクリティカル・シンキングについて,看護診断の正確な記述と理論的基盤が簡潔に書かれ,正確な看護診断を導くプロセスと診断の正確さを評価する基準が丁寧に記述されている。看護診断の書き方が理論的・実践的に説明されているため,理解のレベルにとどまらず実務的な書としても活用できる。
 第2部はケーススタディである。初級11ケース,中級13ケース,上級3ケースの全27事例を各レベルごとの演習問題を解き進めることによって,患者の持つ問題領域,診断仮説,追加データなどに関して思考を深めていくことができるように組み立てられている。初歩の事例では事例の概要と機能面から見た健康パターンを用いて情報が整理され,問題領域と診断仮説が示されており,演習では定義や診断指標を確認し,最終的に完全な看護診断を記述できるような問題が出されている。レベルが進むにつれ,提示された情報からさらに追加の情報を根拠とともに検討し,看護診断の記述とその根拠を説明することが課題となっている。上級の事例では,かなり複雑な状況での事例が呈示され,看護診断の力に磨きがかかることが期待されている。そして第3部では,すべての演習問題の解答について考察されている。この考察部分を読み進めることでクリティカル・シンキングの具体的な思考の進め方が理解されよう。

思考を組み立てる訓練

 クリティカル・シンキングは看護診断に不可欠であることはいうまでもない。しかし,看護診断名を導くためにのみあるのではなく,看護を考え,実践する際のすべてに必要な思考である。本書は看護診断についての学習を深めたい人々にとってだけでなく,思考を組み立てる訓練をしたい人にとっても,ケーススタディに取り組む中でそれらの目的を果たすことができる1冊であろう。
 また,本の装丁について,ケーススタディと考察が切り放して参照できるように各ページにミシン目が入れられ取り外せるように工夫されているが,各ケースと考察が事例ごとの頁になっていないため,独立して使用できないのが少々残念である。アメリカのペーパーバックの本は,ファイルしやすいように穴まであいている親切なものを見かけるが,日本でも実用書として装丁の工夫も期待され,本書はそれを意図している姿勢がうれしい。
 看護学の確立には,看護の独自の守備領域を明確化するということが重要である。しかし,患者中心のチームアプローチやケースマネジメントが必要になっている現在,「患者の問題」はさまざまな専門職および“患者”が共通に理解できる表現である必要も生じているのではないだろうか。患者が自分の問題を意識し,合意して自分の問題と取り組めるよう援助する看護専門職にとって,これからの社会の中で「看護診断」がどのような意味づけや位置づけをとっていくのだろうか。今後のナースの取り組みにかかっていると思われる。
B5・頁216 定価(本体2,500円+税) 医学書院


看護者のための感染管理ガイドブック

感染管理看護の考え方と実際
スーザン・D・シェイファー,他 編集/藤村龍子 監訳

《書 評》廣瀬千也子(慶大病院・看護部副部長)

臨床現場のニーズに応える

 本書の原著は『Pocket Guide to Infection Prevention and Safe Practice』(Mosby-Year Book, 1996)である。執筆者は米国のジョージタウン大学看護学助教授および他の大学病院で働く専門職ナース(ナースプラクティショナー,手術室コーディネーターなど)等11名である。近年の高度に進歩した医学の結果として増加した易感染患者を病院内感染から守るための看護ケア法や,肝炎ウイルス,HIVなど血中ウイルスによる医療者への職業感染防止などについて,臨床現場のニーズにいつでも,どこでも応えられるガイドブックが求められ,そのような期待で書かれている。
 本書の内容は3部構成となっている。第1部は感染制御の動向と法規であり,感染管理に取り組まざるをえない米国の厳しい医療システムに触れている。疾病ごとに在院日数と経費を決め,医療費を抑制する診断関連グループ別支払い方式(DRG)や第三者機関である病院認定合同委員会(JCAHO)の評価項目に院内感染発生率が含まれ,病院の存続をも左右する不可欠な条件となっている現状について解説している。次にHIV感染/AIDS患者の増加を背景に医療者を血液病原体暴露から防止する,疾病予防センター(CDC)のユニバーサル・プリコーション(1985年,普遍的予防策)について,勧告や米国労働安全衛生局(OSHA)の医療者に対する防護具の着用業務と,事故後の継続管理などの法規化や,公的機関の感染症に関する知見や防止ガイドライン提唱などの役割について記述している。そして感染管理プログラムの実施や感染症サーベイランスを実施し,感染管理チームの核として活動するICP(感染管理専門士)の存在について説明している。
 第2部は病原微生物と宿主双方の相互関係として現れる感染過程や関与する因子などを解説する。感染防止に最も効果的な手洗いや,感染症患者の隔離法などについて具体的に経路別に遮断法を説明している。惜しむらくは,本書は1994年版CDCの“病院内隔離法ガイドラインの草案”を紹介しており,感染管理に関心のある読者にとっては誤解を生じる部分がある。なぜならCDCは1996年2月に従来のガイドラインを修正,統合した「病院における隔離予防策のためのガイドライン」を提唱している。わが国においても新ガイドラインが多くの施設で学習され,適応できる範囲から既に実践がスタートしている。新ガイドラインの内容は(1)患者の病名に関係なく,すべての患者に適応される標準予防策(スタンダードプリコーション),および(2)疾病的に重要な病原体に感染を起こしていることがすでに判明している患者から他の患者に感染が伝播しないよう予防する感染経路別対策(空気感染,飛沫感染,接触感染の3つの感染経路)である。
 この他,第2部では,医療者の職業感染防止では,OSHA勧告による血液病原体暴露からの防止について防護具の着用義務と事故後の継続管理などの法規化についてを説明している。
 第3部は感染予防と看護処置である。免疫機能低下状態の患者,熱湯ケア,侵襲的処置を受けている患者などについて看護手順および理論的根拠を示し解説している。高度医療の進歩は患者の生存を可能にするが,しかし反面で,患者の多くは生体侵襲的処置により感染リスクが以前より増加していることの事実をわれわれ医療者は十分認識しなければならないことを教えている。わが国は消毒剤や抗菌剤に対し依存傾向が強く,その影響もあり,病棟などで施行される侵襲的処置時の無菌操作が不徹底である。看護婦は看護ケアと感染防止を関連づけた易感染患者の適切なケア実践が強く求められていると感じている。
 本書の特徴は多くの章に“STOP AND THINK”と題した図を示し,感染過程を身体の防御機構と感染連鎖(6要素-感染因子,レザバー,排出門戸,伝播経路,侵入門戸,感受性宿主)を具体的な場面で要約している点である。基礎知識や新しい知見を臨床看護実践に関連づけている。人工呼吸管理が必要な患者に影響する要因と感染性合併症の予防と管理では,特に病原微生物が容易に侵入しやすい人工呼吸管理状態患者の説明,そして吸引手技における適切な資材と無菌操作が,肺炎(院内感染の20%)防止にいかに可能であるかを理論的根拠も含め解説している。

正確な知識に基づく適切な対策が不可欠

 現在,わが国においてもHIV感染/AIDS患者の増加,結核の再興,MRSAなど耐性菌の広がり,そしてバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)への懸念など,病院感染は深刻な状況にある。しかし現状は手洗いに無関心な医療者や,リキャップによる針刺し事故者が後を断たない。感染症疾患の隔離手法は情報や知識が増えたにもかかわらず,病原微生物への効果よりも,医療者の心理的な効果によって安心してしまい,隔離が理性よりも一種の儀式のように行なわれるため,不必要な苦しみを味わっている患者・家族は少なくない。病原微生物はわれわれの肉眼では見えない,それゆえに誤解のない正しい知識習得に基づいた適切な対策が不可欠である。看護婦は患者のquality of lifeの観点からも,感染管理看護について科学的思考をもった,臨床実践力が求められる。
 本書は米国の病院感染管理の中心的役割を担うICPが執筆者に加わっていないことや,原書の発行時期の問題,そしてキーワードとなる専門家の訳など少し違和感を覚えた箇所もあるが,行動科学的裏づけを明確にし,幅広い知識と看護実践を求められる看護婦にとって頼りになるガイドブックである。監修者である藤村氏,翻訳者の竹花氏に心より感謝したい。
A5変判・頁348 定価(本体3,300円+税) 医学書院MYW


高齢者ケアに携わる全てのスタッフに

高齢者ケアへの挑戦-アセスメントからチームアプローチまで
マリオン W.ショウ 編集/老人の専門医療を考える会 訳

《書 評》岩崎 榮(日本医大・医療管理学)

高齢者ケアのバイブル

 本書は翻訳本である。しかし通常よく見られる翻訳くささがない。それほどによく日本語になじんでいて,高齢者ケアの現場で通用する言葉となっている。訳者は「老人の専門医療を考える会」のメインメンバーの方々である。さすがは,訳者たちの現場での日常的体験が翻訳に生かされていて,オーストラリアと日本との文化的差や生活習慣の差を感じさせない,違和感のないものとなっていて,思わず“すごい”という言葉を発せざるを得ない衝動にかられる。ともかく,こんなにすばらしい高齢者ケアの本にいまだ接したことがないといっても過言ではない。推薦の序の天本宏氏の言葉通り,まさに“高齢者ケアに携わる方々のためのバイブル”であると言うにふさわしい書である。
 本書は20年も前に企画され,1984年に初版がオーストラリアで上梓されて以来,今回の翻訳になった第2版が1991年に出版されている。本書はオーストラリアにおいて高齢者ケアスタッフのための教科書として使用されている。高齢者ケアの実践者の手で書かれたことによって,実体験が生かされているばかりでなく,高齢者の生活に密着したものとなっていて,生活の様が手に取るように文脈から読みとれる。

チームアプローチによる全人的なアセスメントを提言

 さて,本書は,高齢者のアセスメントから始められる。効果的で最適のケア,患者の真のニーズに応えうるケアを行なうためにアセスメントはあると説く。アセスメントをする上でのチームアプローチが強調され,包括的な幅広い立場からの観察眼が必要であると。
 「全人的(ホリスティック)な志向を持つことで,患者のライフスタイルや理解力,人生観,期待などの背景も評価できるようになる。求めるデータは,当面のニーズ同様,なニーズも考慮に入れなければならない。そのような広範囲にわたる診断のプロセスには多職種によるアプローチが必要なことは明らかである。」(傍点筆者)。このように,本書に網羅的に使用されているアセスメント(評価)の原則は,医療の場面だけでなく,あらゆるところで共通的に普遍的な概念なのである。ことにわが国においてこれから導入されようとする介護でのアセスメントでは極めて重要となるはずである。しばしば医学的診断においては,その関心は疾病にのみ向けられ,病因論的なアプローチのみに偏りがちであることを指摘している。ここでのアセスメントの本質はそんなところにはなく,むしろ器質面から機能面への影響を見極めることが重視される。つまり,「病気をみないで,病人をみよ・」ということなのである。
 本書の構成は19章からなり,高齢者ケをきめ細かに余すことなく解説している。それだけでなく,高齢者の生活にとって,重大な問題について言及しながら,要所要所に一般的な疾病やそれに伴う健康問題に対して具体的な解決策のヒントを与えている。
 あなただったらどうする?
B5・頁246 定価(本体2,800円+税) 医学書院