医学界新聞

研究会から学会設立へ向けて

第43回日本腎不全看護研究会開催


 第43回日本腎不全看護研究会(会長=前善仁会病院看護本部長 宇田有希氏)が,さる11月26-27日の両日,「患者-看護婦関係」をテーマに,横浜市の横浜市健康福祉総合センターで開催された。
 本研究会では,教育講演として「透析患者の家族ケア」(家族看護研究所 渡辺裕子氏),「慢性血液透析患者のセルフケアと援助」(千葉大助教授 正木治恵氏)の2題の他,特別講演,ワークショップおよび「クリニックにおけるスタンダードケアプラン作成の試み」(西部腎クリニック 大坪みはる氏)など一般演題9題の発表が行なわれた。

腎不全看護の統一ガイダンス作成へ

 宇田会長は,研究会の開催に先立ち「研究会としては今回が締めくくりとなる」と宣言。約20年間にわたり活動を続けてきた「腎不全看護研究会」から,腎不全看護に関する研究の質的,量的拡大に向けて「日本腎不全看護学会」を設立することを表明した。
 また学会設立にあたって宇田会長は,透析に携わる看護婦5200名を対象にアンケート調査を行なった結果を報告。4500名からの回答があり,うち7割が「専門看護資格」を望んでいると述べ,学会移行への根拠の1つにあげた。
 さらに,「腎不全看護研究会には,より専門性を追究する学会への移行が望まれている。さまざまな問題を抱える患者は増える一方であり,そのケアの実践には,確立された統一ガイドラインや,家族ケアを含めた教育カリキュラムが必要とされている。今後は学会活動の一環として,学習を重ねる場の保証をしていきたい」と抱負を述べ,腎不全看護の統一ガイダンス,教育カリキュラム作成への意欲を示した。
 今後は,20年間の成果を踏まえた学会としての活動に期待がかけられる。
 なお,正会員の入会基準は,(1)腎不全看護を現在実施している個人,(2)腎不全看護を過去に経験したことがある個人,(3)腎不全看護を教育,研究している個人。年会費は8,000円を予定しているが,学会設立趣旨および問合せ先は後記する。

ノンコンプライアンス患者への援助

 一過性の疾患ではないために,透析を受ける患者は長期にわたる治療が必要であり,食事管理,水分管理,体重管理など,個々人のセルフケアの必要性は一生続くものとされている。そのような中にあり,最近では高齢者が増えている現状とともに,自己管理能力に欠け,指導の効果が現われないノンコンプライアンスな患者がいることが問題視されている。
 このような問題に関連して,田村幸子氏(金沢医大病院)と浜田幸子氏(千葉社会保険病院)が座長を務めた今研究会のワークショップでは,「ノンコンプライアンス患者が突然変わったとき」をテーマに,4名が事例を通して報告。
 谷内裕美子氏(金沢医大病院)は,「ウエイトゲイン減少の試み―上限値設定の指導効果」と題し塩分・水分管理,体重管理に問題のあった患者の改善例を提示した。また,時山裕子氏(済生海八幡総合病院)はペプロウの人間関係論を用いた「水分管理が行なえない患者の看護」を,千葉志津子氏(鳴海クリニック)は「高齢で体重増加率が3分の1に減少できた事例」を,富澤富士子氏(西部腎クリニック)は,自己管理不良が続いた患者の行動変容の影響因子と看護のかかわりに触れた「透析4年目に自己管理良好となった事例-ノンコンプライアンス患者への看護援助を考える」を報告した。

魅力行動学からの提言

 特別講演「看護とホスピタリティ」では,古閑博美氏(嘉悦女子短大)が,今研究会のテーマに沿い,接遇の基本,実践へ向けたホスピタリティマインドについて述べた。
 古閑氏は,人間らしさの表現としてのホスピタリティやその理念を,聖書やキリスト教,仏教思想の実践と倫理感などから解説。ホスピタリティの語源となったホスピスには,旅人(異人)をもてなすとの意味があり,寡婦,故人,貧者,寄留者への憐れみの心,キリスト教の言う隣人愛がホスピタリティにつながる。また,日本におけるホスピタリティについては,茶道の洗練されたもてなしを例に取り,「もてなしの主体は客であり,看護における患者との関係に通じる」と指摘した。
 一方,日常におけるホスピタリティの実行については,笑顔,誠実さ,理知からの豊かさのある立ち居振る舞いや,「相手を思いはかる心がホスピタリティの実行となる」と,もてなしの視点から解説。また,「サービスは思っているだけではだめ,形で表わそう」と,具体的な表現や行動について述べるとともに,「ホスピタリティの実践は相手に近づくこと,背筋を伸ばし,顔を見合わせること」など,古閑氏の提唱する魅力行動学から,(1)行動と感じ方のパターンに磨きをかける,(2)身の回り30センチから始めようとの提言を行ない,看護実践者としての自己の見直しを強調した。

●日本腎不全看護学会設立趣意書
1997年11月26日
発起人代表:宇田有希
 腎不全患者の増加と血液透析にかかわる医療費の削減が続く昨今,腎不全患者のケアに携わる看護職の役割は大きく,看護への期待も高まっている。腎不全看護の目的は,治療中の安全を確保すること,および看護職をとりまくヘルスケアチームとともに,腎不全患者やその家族が腎不全を持ちながらも合併症の併発が最小限で充実した生活を送るための,よりよいセルフケアへの援助をすることであると考える。
 日本腎不全看護研究会は,発足後20年間腎不全看護の専門性の追究と腎不全患者のQOL向上のための活動を続けてきたが,会員1人ひとりの専門性や主体性への意識の向上,腎不全看護の標準化,腎不全看護に関する研究の質的・量的拡大のために,学会へ発展させていくことにした。
 また,WCRC(腎ケア世界会議;理念=腎代償療法を必要とする患者の看護と治療に関する共同の知識や専門技術を,発展途上国の医療従事者に教え分かち合うこと)に日本腎不全看護学会も日本の代表として協力していこうと考えている。
問合せ先:〒231 横浜市中区野毛町3-131-1 コスモ桜木町グランポール104 日本腎不全看護学会設立準備室
 TEL&FAX(045)253-1532