医学界新聞

〔座談会〕

脳卒中の患者・家族への支援を
日本脳卒中協会に期待するもの


山口武典氏
国立循環器病センター病院長

中山博文氏
国立大阪病院

中村春基氏
兵庫県総合リハビリテーションセンター

柏木知臣氏
全国脳卒中友の会連合会長


日本脳卒中協会設立の趣旨

脳卒中の予防と社会的支援を考えて

山口 本年3月末に「日本脳卒中協会」が設立され,5月末には国際シンポジウムが開催されました。そこで本日は,この協会が設立された趣旨や外国の状況,さらに患者さんの立場や作業療法士(OT)の立場から,この協会に何を期待するのか,そして今後いかに活動を進めていけばよいのかについてお話を伺いたいと思います。
 最初に「日本脳卒中協会」がどのような目的で設立されたのかを,事務局長の中山先生からお話いただけますか。
中山 脳卒中がポピュラーな病気になり,平成7年度から死亡原因の第2位に,また,長期入院患者の中でも大きな割合を占めています。退院後に在宅看護を必要とする方の4割が脳卒中が原因です。そういうことから,多くの社会的資源を投入していると言えます。一方,脳卒中の死亡率は非常に高く,また幸いに延命しても障害が残ることが多く,患者さん個人の立場からも深刻かつ重要な病気であると言えます。
 残念なことに現在の医学では完全治癒は困難で,考えられるのは予防と,発病後の社会的な支援になると思います。しかし,日本ではその両者が長らく行なわれてきませんでした。一方先進国では脳卒中協会や財団があり,予防活動や患者さんへの支援活動を活発に行なっています。そういうことも背景にあり,日本でもできないかと考えて,脳卒中に関与する医師,患者さん,リハビリテーションを担う言語療法士(ST)や理学療法士(PT),OTの方に呼びかけてこの協会を作ったわけです。
山口 いま脳卒中には治療方法が少ないから,その予防と社会的な支援が重要だとおっしゃいましたが,最近,血栓溶解療法が3時間以内に行なわれれば効果があるのではないかと言われております。まだ100%の安全性はないのですが,アメリカではFDA(Food and Drug Administration;食品医薬品局)で認可されました。そういうことからも,なるべく早く医師のところに行くというキャンペーン活動も必要で,これを患者さんと一緒に進められればと思います。

患者さんからの予防のすすめ

山口 この協会の設立に関して,患者さんの立場からいかがでしょうか。
柏木 私の場合は発病から十数年経っていて特にそうなのですが,発病から5年以内と5年以降とでは患者の考え方も変わってくると思います。発病後1-2年は本当に必死ですが,3年,5年になりますと患者本人は一生懸命であっても,家族がギブアップしてくるのですね。
 そういうこともあり,患者の立場から予防と言うのは少しおかしいのですが,体験した側から予防を考えてみようと,「予防週間」というものを作りました。
 当初はこの提案に多数の会員の反発がありました。しかし,自分の子どもや孫に,そして友人や知人に同じ経験はさせたくない。やはり,体験した者から言わないと駄目ではないかと思い始めました。そこで,性格や環境などについて細かいデータを集めていこうと思いました。ただこの病気の場合,収集した資料から見ますと,以前は人一倍元気だったという人が罹りやすいので,予防についてもわれわれ患者の側からも発言しないといけないと思っています。
山口 そういう意味からも,患者さんと医師が一緒になった呼びかけが必要になってくるわけですね。

切れ目のないサービス

山口 しかしその一方では,現代の脳卒中医療に関して矛盾があるのではないかとの声がありますが,OTの立場からはどのようにお考えですか?
中村 イギリスでは「切れ目のないサービス」,いわゆるシームレス・ケアと言われていますが,日本ではその点に問題があります。急性期から回復期,維持期でぶつ切りになっている,あるいはどの施設でも同じような治療を行なっている現状があるわけです。それぞれの時期で違った役割があり,当然サービスの内容に違いがあってしかるべきなのですが,そういう意味で,カルテがその人に渡されて一貫したサービスを受けられるようなシステム作りが必要だと思います。それから予防の面では,生活の中でどのように2次的な障害を予防していくかも大きな問題だと思います。
山口 2次的な障害の予防と,治療そのものがぶつ切りになっているとのご指摘ですが,そのあたりも医師とPT,OT,STが一緒に話し合うことによって改善は可能でしょうね。
中村 可能だと思います。現実に患者さんが他の病院から来る場合,紹介状を持っていらっしゃるという習慣がドクターの間だけでなく,セラピストの間でもできてきました。詳しい検査データをお願いしても,一部のコミュニケーションが取れている病院ではそれが可能になってきています。
 やはり地域差がありますね。そういうことを積極的に行なう病院と行なわない病院の差はかなりあります。
山口 協会設立によって,さまざまな職種の方と患者さんとのコミュニケ―ションが潤滑になれば,改善の方向に向かうと思います。

治療環境と整備と啓蒙活動

山口 先ほど欧米諸国ではさまざまな試みがなされているというお話がありましたが,ご紹介いただけますか。
中山 現在,世界で活発に動いている米国ではアメリカ心臓協会とアメリカ脳卒中協会。それからドイツ脳卒中財団,英国脳卒中協会,デンマーク脳卒中協会。最近できたのが,オーストラリアの脳卒中財団です。その他,スウェーデンとカナダにあると聞いています。各国とも予防と支援という点で目的は共通しています。
 先進国において特徴的なことは,研究助成の充実です。脳卒中の治療法を開発するための研究助成と,さらに治療環境の整備への働きかけを行なっています。治療環境の整備とは,1つは脳卒中はいままで治らない病気というイメージが広く社会に行きわたっているので,これを変えることです。早期治療がよりよい結果をもたらすというキャンペーンが行なわれています。
 また最近では,有効性が確立されている脳卒中病棟(ストロークユニット)を作ることがあげられます。例えばドイツでは脳卒中財団が,病院に寄付して脳卒中病棟を開設しました。イギリスやデンマークでも政府に働きかけて作ろうとしています。そういう観点からも,治療環境の整備を大きな柱にしています。
 予防の点では,一般の方向けにいろいろなセミナーが開かれています。そこでは脳卒中の体験者の話も交えて,予防のための危険因子,例えば高血圧,糖尿病,また最近言われている高脂血症や肥満,あるいは喫煙などの問題が話されています。日本では確立されていない部分もありますが,このような生活習慣を改めることが予防につながりますので,マスコミを通して積極的に啓蒙しています。

患者・家族へのサポート

中山 支援活動として,特にイギリスでは退院前に脳卒中協会のスタッフが患者さんに情報提供を行なって心理的な不安を取り除いたり,退院後の在宅でのサービスについて説明しています。
 また失語症の方のサポートとして,退院後自宅にボランティアが訪問して一緒に訓練したり,2週間に1回失語症の方の集いを持って患者さんの社会化の促進や,家族が互いに介護の悩みを打ち明ける機会を作ることによって,介護者の心理的な負担を軽減する活動がなされています。
柏木 患者や家族へのサポートは一番われわれが気になるところで,機能回復訓練と同時に,精神的な訓練が重要だと思います。
 例えば,これは一部の方かもしれませんが,患者に対して幼児語で話すと患者は自然と幼児語に慣れてしまうのですね。これが退院してもずっと続くと,甘えにつながってきます。悪い方向へ悪い方向へと向かいますので,失語症の患者に対しての幼児語は,できるだけ避けてほしいですね。失語症の大半の人は相手の言葉は理解できても,それが言葉にならず表現できないのです。倒れるまで社会の第一線で活躍してきた人たちです。幼児語で話されますと残念な思いがします。ナースには幼児用語はできるだけやめてほしいと思います。
 それから精神的なサポートという点では,「あなたはもう駄目だ」という言葉を聞くことがありますが,これは絶対禁句にしてほしいと思います。本人は治したいという願望を持っているはずですので,「必ず治るよ」という方向で接したほしい。そういうことで,少しでも回復に向かっていくのではないかと思います。
山口 われわれ医師は脳卒中の患者さんをみる場合,ある程度の時間が経過した時点で,いわゆる「障害の受容」をしていただかなければいけないと教えられています。患者さんにいつまでも可能性のない望みを持ってもらうと,逆に言うとリハビリテーションの阻害にもなると教えられていますが,ご自身で体験されて,その点をどのように思われますか。
柏木 車椅子の状態から,杖を持って歩く訓練をする時のことでしたが,当時,私よりさらに若い理学療法士の方に,「退院したらまっすぐ背伸びして歩きたいでしょう。いま柏木さんは下を見て,横に歩いています。今日からテープで線を引きますから,それに沿ってまっすぐ歩いてください。退院したら必ずいつも背中を伸ばして,前を向いて歩きなさい」と言われました。この言葉が非常に印象に残っています。「自分は治るんだ。そして背中をまっすぐ伸ばして歩くんだ」と思いました。その言葉に励まされ一生懸命リハビリに励みました。そういう時,「あなたは駄目よ」と言われるのと「あなたはもうすぐ回復する」とでは天と地ほどの違いがあると思います。
中村 いまお話しされた幼児語という点では,多くのセラピストや医療関係者が使いがちではないかと反省しています。大体3か月ぐらい接しますから,フランクになってついそういう言葉を使ってしまうことがありますね。やはり,少し注意しなければいけないと思いました。

地域における予防と支援を

中村 それから予防や支援という点が,日本では十分に行なわれていないと思います。理学療法士協会や作業療法士協会などで年に1度程度開催地で市民講座などを開き,障害のための予防などをテーマに取り上げていますが,まだ全国的な動きではないですね。
山口 そういう点からも,この協会にさまざまな職種の人が入って連絡が取りあえば,ある地域で何かやろうという時に,多くのエキスパートが集まるかもしれませんね。
中村 はい。それから,私は神戸に住んでいますが,地域によって抱える問題点が全然違います。ですから,地域で育つためには細かいネットワークを作って,その地域に合った内容のものを組んでいかないと根づかないと思います。
山口 なるほど。全国一律では駄目なわけですね。

日本脳卒中協会に望むこと

患者さんとして望むこと

山口 日本脳卒中協会が設立され,皆さんは一体何を期待しているのかという話題に移りたいと思います。まず患者さんの立場として,この協会がどういうことに取り組んでいけばよいと思われますか。
柏木 私は反対に,入会しない方の考えを要約しますと,「一体何をやってくれるのか」ということに尽きると思います。
 例えば講演会を開いても,大体話す内容は出血から次は血管が詰まってしまってと,皆さんほとんど頭に入っているわけです。ですから,雑談したり,居眠りをしたりで,先生に対して実に失礼が多いのです。
 そこでなんとかしなければいけないと,音楽療法を思い出して講演会の前に音楽会をとり入れたら最後まで話を聞くようになりました。できるだけ皆さんが若い時に聞いた曲を選んでいるのですが,音楽は特に脳卒中の患者さんには有効だと感じます。
山口 少し話がずれますが,リハビリテーションをする場所にも音楽を流しておくと,リラックスできると思いますけれども,特に必要性を感じられますか?
柏木 私自身の経験では,ジャズを聞きながらリハビリをしていると,自然と耳に入ってくるんですね。なんだか体がちょっと動くような感じがしました。先生に聞くと,「わかってくれたの。私はずっと前からこれをやりたくてしかたがなかったのですが,こういう場面ではジャズは非常にいいですね」と言われました。

機関紙の発行とその内容

柏木 われわれが協会に望むこととしては,患者と家族の支援ということになりますが,例えば,機関紙の発行ということがあるかもしれません。
山口 機関紙の内容に関して患者さん方が一番希望しておられるのは,例えば,どこに行けばどういうサポートが受けられるかという情報です。医学的な情報よりも福祉的な情報のほうが好まれるでしょうね。
柏木 そうですね。しかし,患者さんによってそれぞれ要望が異なることもあると思います。
 例えば,発病後1-2年の方は何でもいいから情報がほしいでしょうね。特に,若い年齢層の方は社会復帰した場合のことなどを思いめぐらすことが多いですから,よけいにあらゆる情報がほしいと思います。それから3年から5年になると励ましの言葉です。5年すぎると,年齢のこともありますが,例えば旅行の情報などですね。年代ごとに3段階ぐらい変わってくるのではないだろうかと思います。
山口 なるほど。時間の経過とともに要望も変わってくるわけですね。
柏木 はい。特に家族の場合,3年から5年たちますと,まずあきらめているということがありますね。やはり,家族の楽しみ方も考えてあげないといけないので,旅行はそういう意味でいいと思います。
中村 患者さんの会が持っているノウハウの情報交換は大変意味があるかもしれませんね。

事務局方の対応

山口 そうですね。中山先生,事務局長として何かご意見ありますか?
中山 事務局といたしましては,まず会報を発行して,会員の皆さん方にお届けし,横のつながりを拡げることによって,この協会の存在意義を感じていただきたいと思っています(今年10月に創刊号が発行)。
 それから,協会でも医療機関を中心に患者会の情報を集めて,どこに聞けば患者会に入れるのかをお知らせして,患者さんを支援したいと思っています。
 もう1つはやはり,いろいろな相談ですね。柏木さんから患者会に電話がかかってくるとお聞きしましたが,協会にも患者さんからかかってきます。ある程度,私も第三者としての意見を言うと,「今日は話できて非常によかった」とおっしゃるのですね。皆さん,自分の話を聞いてほしいというお気持ちをたくさんお持ちだと思います。協会はその受け皿になって,定期的に相談の日などを設ける。あるいは文書でご相談を送っていただいて,それに対して各専門家がお答えするという形で,情報を中心としたサポートができればと考えております(10月から第4土曜日の10-16時に会員を対象とした電話相談を開始)。
山口 その点は,私どもも反省しなければいけない点が多々ありますね。病院にいる時は時間に追われて,患者さんが話したくても十分に聞く時間がないのが現状です。やはり話を聞き,適切なアドバイスをすることが大事だと思います。

主治医に話せない相談もOT,PT,STにはできる

山口 中村先生,OTの立場から今のお話についてご意見がありますか。
中村 そうですね。外来に継続的に来られる患者さんはまさに相談にいらっしゃるという感じがします。機能回復の訓練をしながら,家族のことをずっと話されます。20分から,多い時は40分ぐらい接しますから,そういう相談をする場は必要だなと思いますね。
柏木 例えば失語症の方に,一方通行でもいいですから,話しかけるのが一番いいと思います。自分も失語症に苦しんだ人間ですから切実に感じます。話したい言葉が出ないほど苦しいことはないと思います。
山口 そういう意味からも,STがきちんと患者さんの心の状態はこうですよと家族の方に教えてあげなければいけないですね。
 STから時々聞くのですが,急性期を過ぎて1-2か月たった時期に言語訓練や運動訓練に来る人たちは,主治医に言えなかった自分の悩みを話されるそうです。本来は主治医がもう少し親身にすべきことを,現在はST,PT,OTの方がしている。本来の仕事ではないでしょうが,そうすることでコミュニケーションが取れ,治療効果も上がってくるようです。

客観的データと専門家の良心に基づいて

山口 日本脳卒中協会は今後,どのように活動していけばよいのかを考えてみたいと思います。。中山先生,他に実現可能なことはありますか?
中山 先ほど,諸外国の状況を簡単にお話ししましたが,わが国では医師がある治療効果について研究されて論文を書かれることはあると思うのですが,国全体としてどのような治療環境をめざすべきなのかといった視点からの検討があまりなされませんでした。
 それから,われわれ当事者としては無力感にうちひしがれているのですが,例えば,脳卒中専門病棟を作りたいと思っても,予算的な措置,人的な措置が必要なわけです。具体的に言いますと,国立大阪病院には,リハビリテーションと言ってもPTしかおらず,OTもSTも,ソーシャル・ワーカーもいません。この状況で,どのようにして学際的なチームを作ってやっていくのか。そもそもそういう考えが持てないのが現状です。
 この状況の中では,やはり脳卒中協会がその重要性を訴えていくことが先決です。脳卒中専門病棟を作ることや早期治療の重要性,そういったことを一般の方々にわかる言葉で社会に発信することによって,国全体で治療環境を整備できるのではないかと期待しています。
 これは圧力団体として大きい声を出せば何か実現するということではなく,われわれは専門家として,客観的なデータとその良心に基づいて,こういうことが必要ですと社会に対して呼びかけていかなければならないのではないでしょうか。また,患者さんの声も一般の方にはなかなか届きませんので,われわれのチャンネルを通じて,誰でも抱える大きな問題として,生の声で聞いていただくことも重要ではないかと思っています。

「生活をみる」という視点への変換

中村 先ほど患者さんはそれぞれニーズが異なるというお話がありましたが,私たちが接している患者さんの中で,外来に何年も通っている人は一部です。病院を離れると関係がとぎれてしまって,どこにニーズがあり,どこが問題なのかをほとんど把握していないのが現状だと思います。
 私たち障害をケアする立場として,日々の生活のさまざまなことを会報などを通じて教えていただければ,STやPT,OTは障害に対してアプライする技術をいろいろ持っていますから,専門的な意見を提供できると思います。
 またこれは反省点ですが,いままではどうしても生物学的な治療に観点があったのですが,これからは生活を見るというところに視点が変わってきました。しかし,その内容がまだ不足していますね。そういう意味で,人間として生きるために,何に困っているのかという情報を与えていただいたら,私たちのこれまでの治療の枠も一歩拡げることができる。そういうインパクトを与えられる。これは協会の存在を抜きには語れないと思います。
山口 逆にわれわれがニーズを教えてもらうわけですね。
中村 PTもOTもSTもそうだと思いますが,この協会が貴重な情報交換の場になるのではないかなと思って期待すると同時に,活用していただきたいと思います。
山口 それは医師も同様で,例えば急性期の患者さんの本当の気持ちや,その時の要望をわかっていない人が多いのではないでしょうか。結局,最初は命を助けること。少しでも障害が残らないような初期治療を行なうこと。その後は,リハビリテーションを少しでも早く始めて,社会復帰,家庭復帰ができるようにする。この3つの考え方しかないと思います。あとはすべて,比較的オートマティックな対応で,心が通わないうちに次の段階に入っているのではないかと反省しているのですが。
中村 地域リハがそこを埋めると思うのですが,日本の現状はまだマンパワーが不足しています。ですから,こういう協会が教育についても提言すれば,よい地域リハを促進できるのではないかなと思います。

全医療従事者の協力のもとに

山口 この協会がコンスタントに活動を続けていくには,どうしても財源が必要になってきます。その件に関して,今後どのような活動すればよいのか,事務局長の抱負をお聞かせいただければと思います。
中山 イギリスの場合は,政府が医療保険の中からお金を支払っています。脳卒中協会が病院に行き,患者に対して在宅での福祉の説明をすることに保険点数がつきます。医療保険から脳卒中協会にお金が支払われるわけです。それが協会の収入の約3分の1ぐらいを占めています。そういう財政的な基盤があり,行政の中に組み入れられているのが現状です。これは信頼関係と伝統があって初めて成立したのであり,日本でそこまでは期待できないと思います。
 広報活動や出版活動を持続していくためには,たしかに財源が必要です。そのためには,企業や個人レベルでもっと呼びかけていくという地道な努力を続けるしかないと思います。もう1つは,医療関係者のより一層の協力を得ないといけないと思います。各地域で脳卒中に関わっておられる医師,OT,PT,ST,あるいは福祉関係の方々がこの協会にもっとコミットし,例えばその地域で相談日を作ったり講演会をすることにより,日本全体における脳卒中協会の活動に対する認知度を上げていけば,副次的に寄付も増えてくるだろうと思います。これは実績を積まなければいけないでしょう。医療従事者はそれぞれの地域で積極的に参加してほしい,というのが事務局としての気持ちです。
山口 英国には「脳卒中は病気のシンデレラである」という表現があるそうです。脳卒中は社会的に無視されてきた病気であり,どのようなタイミングで発症し,どのような医師に会い,どのような治療受けたか,どのような人からリハビリを受けたか,そういうことですべての進路が決まってしまう,という意味だそうです。
 そういう病気である脳卒中に対する日本の医療レベルを少しでも上げるという意味で,この協会が情報を患者さんにも,医療従事者にも与えながら発展していかなければならないのではないでしょうか。
 それに関連して,先ほど話題になりましたシームレスケア,各分野の人たちが一緒に考えながら,切れ目のない患者サービスにつながっていくようにしたいと思います。この協会の発足を機会に日本の脳卒中医療が発展することを念じて,本日の座談会を終わりたいと思います。
 どうもありがとうございました。