医学界新聞

第1回日本肝臓学会大会開催


 さる10月23-24日の両日,盛岡市の岩手県民会館,盛岡グランドホテルにおいて,佐藤俊一会長(岩手医大教授)のもと,第1回日本肝臓学会大会が開催された。
 今大会は,Nicholas F.LaRusso氏(Mayo Medical School),真弓忠氏(自治医大教授)による2題の特別公演,シンポジウム「肝癌と遺伝子-遺伝子治療を含めて」,パネルディスカッション「肝不全の病態と予後」の他,2題のワークショップ「非B非C型肝炎の実態と予後」「PBCの病態と肝移植」およびポスターワークショップ「慢性肝炎のインターフェロン療法は長期予後を変えたか?」が企画され,多くの参加者を集めた。
 また,多数の一般演題の中からは,東大第2内科のグループが「C型肝炎ウイルス(HCV)NS5A蛋白には強い転写活性化能がある」ことを示し,「癌ウイルスの癌遺伝子の多くが転写活性因子であることからC型肝炎における肝発癌にNS5Aが関与している可能性がある」と発表。東医歯大第2内科,同保健衛生学科のグループも「HCVのNS5A遺伝子内に転写活性化能がある領域を見いだした」と報告し,注目を集めた。
 なお,織田敏次氏(日赤医療センター名誉院長)の業績を讃えて創設された第1回織田賞は岡本宏明氏(自治医大)が受賞した。(関連記事)。


「慢性肝炎のインターフェロン療法は長期予後を変えたか?」

インターフェロンが登場して5年

 C型肝炎の治療薬としてインターフェロンが登場して5年が経過し,薬の長期的な効果が徐々に明らかになりつつある。
 ポスターワークショップ「慢性肝炎のインターフェロン(IFN)療法は長期予後を変えたか?」(司会=信大 清澤研道氏,阪大 林紀夫氏)では,多数の演者がインターフェロン療法を受けたC型肝炎患者の追跡調査研究を発表した。展示発表数は36題にのぼったが,そのうち12題については特にプレナリー発表が行なわれ,各演者は壇上にてスライドを使用した口演の後に,他の演者や,フロアとのディスカッションを行なった。
 笠原彰紀氏(阪大)は,IFN治療後,定期的に肝画像診断が行なわれたC型慢性肝炎における,肝細胞癌(HCC)の発生率とその危険因子を解析した。
 ALT(alanine aminotransferase)の推移により,著効,再燃,無効例の3段階にIFN治療効果を判定した上でのCoxの比較ハザードモデルを用いた解析では,「IFN治療効果,年齢,性別がHCC発生に関与する有意な危険因子で,HCC併発の危険性は著効に比し,再燃群で3.55倍,無効群で12.62倍,60歳以上,50-59歳は,50歳未満のそれぞれ9.85倍,3.14倍,男性は女性の4.39倍の危険率を示した」と述べ,「C型慢性肝炎に対するIFN治療により,HCVの排除またはALTの正常化が認められればHCCの併発は有意に抑制されたが,無効例ではHCCの発生は抑制できない。さらにIFN治療無効例,高齢者,男性ではHCC併発の危険性が相乗的に増加し,IFN治療後に併発するHCCのハイリスク・グループと考えられた」と結論した。

肝細胞癌発生を抑制

 また,飯野四郎氏(聖マリアンナ医大)は厚生省非A非B肝炎研究班班員を対象としたアンケート調査の結果を発表。「C型肝炎に対するIFN療法は,IFNのALTに対する効果別に,HCCの発生を抑制している」と述べた。
 厚生省がん克服戦略事業の肝がん発生抑止に関する研究班からは吉田晴彦氏(東大)が発表。7つの参加施設において肝生検を実施し,その後HCC発生の有無について定期的に観察されているC型慢性肝炎および肝硬変患者全例を対象とした研究の成果を示した。肝生検をエントリーポイントととし,肝生検後1年以内にIFN療法を受けた症例をIFN投与例とし,肝細胞癌が検出された日をエンドポイントとしてHCC発生率を検討。「発生率はエントリー時の肝組織像,特にF因子により大きく異なっていた」「IFN投与例をHCV駆除例と非駆除例に分けた場合,F因子が等しい症例で比較して,駆除例の肝癌発生が少なかった」などと報告した。
 一方,飯島章博氏(信大)はB型およびC型慢性肝炎IFN治療例の長期予後,特にHCC発生を検討し,「B型慢性肝炎,特に前肝硬変へのIFN投与は3―5年のHCC発生を抑制しているが,それ以降はHBV増殖の有無に依存することが示唆された。またC型慢性肝炎についてはHCC発生率はIFN著効例では非著効例に比し低く,非著効例でも無治療例より低い傾向にあった」と報告した。


ワークショップ「PBCの病態と肝移植」

 本年6月17日に「臓器の移植に関する法律」(臓器移植法)が成立し,10月16日から施行されたこともあり,ワークショップ「PBCの病態と肝移植」(司会=京大 山岡義生氏,金沢大 中沼安二氏)は注目を集めて行なわれた。

PBCの根本的治療法

 原発性胆汁性肝硬変(Primary Biliary Cirrhosis,以下,PBC)は中年女性に多く発症が見られ,徐々に進行する,全身倦怠,掻痒,黄疸などを主訴とする,代表的な自己免疫性肝疾患であり,その診断は厚生省「難治性の肝炎」調査研究班診断基準()によってなされる。

原発性胆汁性肝硬変(PBC)診断基準 厚生省「難治性の肝炎」調査研究班(1992年)

【概念】
 中年以後の女性に好発し,皮膚掻痒感で初発することが多い,黄疸は出現後消退することがなく漸増することが多く,門脈亢進症状が高頻度に出現する。なお,皮膚掻痒感,黄疸など肝障害に基づく自覚症状を欠く場合があり,無症候性(asymptomatic)PBCと呼び,無症候性のまま数年以上経過する場合がある。
1.検査所見
 黄疸の有無にかかわらず,赤沈の促進,血清中の胆道系酵素(ALPなど),総コレステロール,IgMの上昇を認める。抗糸粒体抗体(AMA)または抗pyruvate dehydrogenase(PDH)抗体が高頻度に陽性で,高力価を示す。
2.組織学的所見
 肝組織では中等大小葉間胆管ないし隔壁胆管に慢性非化膿性破壊性胆管炎(chronic non-suppurative destructive cholangitis; CNSDC)あるいは胆管消失を認める。連続切片による検索で診断率は向上する。
3.合併症 高脂血症が持続する場合に皮膚黄色腫を伴う。Sjogren症候群,慢性関節リウマチ,慢性甲状腺炎などの自己免疫性疾患を合併することがある。
4.鑑別
 慢性薬剤起因性肝内胆汁うっ滞,肝内型原発性硬化性胆管炎,成人性肝内胆管減少症など。
【診断】
次のいずれか1つに該当するものをPBCと診断する。
1)組織学的にCNSDCを認め,検査所見がPBCとして矛盾しないもの。AMAまたは抗PDH抗体が陰性例もまれに存在する。
2)AMAまたは抗PDH抗体が陽性で,組織学的にはCNSDCの所見を認めないが,PBCに矛盾しない(compatible)組織像を示すもの。
3)組織学的検索の機会はないが,AMAまたは抗PDH抗体が陽性で,しかも臨床像および経過からPBCと考えられるもの。

 経過は比較的緩慢な疾患であるが,最終的には不可逆的な肝硬変に至るとされるPBCに対する根本的治療は肝移植である。が,わが国では一般化するには至っていない。欧米では肝移植がすでに定着し,その良好な成績から,もっともよい適応疾患とされている。
 本ワークショップでは,PBCの病態およびそれに対する肝移植について,第一線の研究者が研究成果を発表したが,その中から肝移植に関していくつかの話題を拾ってみた。
 「PBCの肝移植適応症例に関する検討」を口演した渕崎宇一郎氏(金沢大)はPBCの死亡症例を中心に臨床経過とその予後予測について検討。厚生省「難治性の肝炎」調査研究班診断基準(表)に従い診断された症例を対象とし,死亡症例の臨床経過について,特に予後因子として食道・胃静脈瘤をとらえ,発生頻度,時期,静脈瘤に対する各種治療の意義とその予後について検討した結果,「食道静脈瘤を合併したPBC症例の予後は不良であり,生命予後の改善には,静脈瘤への予防的な各種治療を考慮し,早期からの積極的な対策が必要であり,治療抵抗性の症例では肝移植を考慮すべき」と指摘した。
 また,厚生省「難治性の肝炎」調査研究により,PBCの本邦における実態調査を集計,解析を担当した井上恭一氏(関西医大)は,そのデータに基づき,「時間依存性Coxモデルを作成し,将来本邦でも一般化されると予想される肝移植療法とこの関連性について検討」し,「PBCの肝移植療法の適応を考える上で,時間軸要因を加えた予後予測モデルの作成が重要な意義を有する」と述べた。

肝移植の好適応疾患

 一方,「欧米でのPBCと肝移植」を口演した古川博之氏(北大)は,「欧米のいくつかのセンターで,PBCの予後を予測する基準が報告されているが,もっとも一般的なMayoモデルを用いた場合の自然経過と肝移植後(Kaplan-Meier法)で生存率を比較した場合,low risk, medium risk, high riskのすべての重症度のグループにおいて,肝移植をしたほうが明らかに成績がよい」と指摘。PBCに対する肝移植後の5年生存率が70%を超える米国での成果を示し,PBCが肝移植のもっともよい適応疾患であることを強調した。
 また,移植後のPBCの再発については「再発はあるのだが,臨床に与える影響は少ない」との見解を示した。

ドナー選択が最大の課題

 「PBCに対する生体肝移植」を口演した猪股裕紀洋氏(京大)は,京大移植外科が行なってきたPBCへの生体肝移植6例に,田中紘一氏(京大)が他施設と協力して行なった5例のデータを加え,PBCに関する生体肝移植の現状を報告した。この移植では,「ドナー選択が最大の課題であり,ドナーの安全性のためにも術前評価が重要である」と指摘し,さらに,「移植の時期はレシピエントのQOL,ドナーの精神・身体状況によっても左右される」「ドナーとのサイズミスマッチが大きい場合には,自己肝温存同所性部分移植も解決法であるが,温存された病的肝の今後と適応についてさらに検討する必要がある」などの留意点を示した。