医学界新聞

21世紀の癌治療をメインテーマに

第35回日本癌治療学会開催


 さる10月7-9日の3日間,「21世紀の癌治療;Science,Art, Humanity;進歩と調和」をメインテーマとして,第35回日本癌治療学会が,吉田修会長(京大教授)のもと,京都市の国立京都国際会館で開催された(2265号に医学関連記事既報)。
 本学会では,21世紀が展望でき,日本の癌治療に深く洞察力を持つ演者に講演を依頼。日野原重明氏(聖路加国際病院理事長)の「Humanityから見た癌患者への癒し」など3題の招請講演,柏木哲夫氏(阪大教授)の「癌緩和医療とケアの心」など3題の特別講演などすべてが国内の識者によって演じられた。また初めての試みとして,一般演題はすべてポスターと口演の併用発表とした。午前中からポスターを掲示,午後に要旨口演と討論の時間を設定する方法で,有意義な発表と意見交換が行なわれ,好評を得た。
 その他には,「後期高齢者の癌治療」などシンポジウム3題,「癌患者に対するinformed consentとQOLの正しい評価」など16題ワークショップも企画された。

癒しのこころ

 招請講演を行なった日野原重明氏は,「医師や看護婦になるためには,死なない程度の病体験をすることも必要」,「死は祝福されなければならない」など,医療者として知っておくべき“癒しのこころ”について語った。
 また1984年に開かれた同学会のシンポジウムで,初めて「癌患者のケア」をテーマに取り上げた際に司会を務め,「ケアとキュアの違い」を論じ合ったことを披露。以降,1988年の学会では医療者外から中島みち氏(作家)を招聘,1990年には「ターミナルケア」をテーマとしたシンポジウムに看護婦が初参加,昨(1996)年には日本がん看護学会との共催で「在宅がん治療」を開催したことなどは,日本癌治療学会がメディカルな面だけでなく,ケア,QOLを重視していることの表れと述べた。
 さらに,「これからのホスピスには,emotinality(情動的),spirituality(精神,霊的)が求められる」と述べたほか,聖路加国際病院に入院していた作家の故吉行淳之介氏は,生前病院内で「生きている間のお別れ会」を開いていたことを公表。「そこには涙ではなく感謝があった」と死に向かっての1つのあり方として提示した。 癌治療における緩和ケア  柏木哲夫氏は特別講演で「全国では,癌死の場合には95%の人が病院で死を迎えている現状だが,近代病院の4つの働きには検査,診断,治療,延命がある」として,日本はどれもが世界的に見ても高い水準にあると解説。しかしながら,「治療不可能な病気や状態に対しての患者ケア,症状コントロール,その人らしい死に対する考え方などに不備があり,延命の手段に走る傾向にある」と指摘した。また,その反省から緩和医療の重要性が叫ばれているとして,「癌医療のあらゆる過程で行なわれる緩和ケアは,アクティブでトータルなケアを施し,患者・家族のQOLを高めることを目標としている」とWHOの定義を紹介。さらに,「インフォームドコンセントは今後,informed consentからinformed communication consent(ICC)へ,そしてinformed communication sharing consent(ICSC)となるべき」と提案し,「癌治療では,緩和医療がますます重要となるであろう」と結んだ。

インフォームドコンセントとQOL

 ワークショップ「癌患者に対するinformed consentとQOLの正しい評価」(司会=千葉大 磯野可一氏,東女医大 大川智彦氏,国立がんセンター中央病院 江口研二氏)では,医師,看護職など10名が登壇し,それぞれの立場からインフォームドコンセントの現状と問題点,さらにQOLに関しての意見が述べられた。
 その中で渡辺孝子氏(前埼玉県立がんセンター)は「インフォームドコンセントにおける地域差と患者サポートとの関連」を発表。4地域群に分類した1000名の看護婦を対象にインフォームドコンセントに関する調査を実施し,インフォームドコンセントへの取り組みを比較検討した結果を報告した。渡辺氏は,地域により告知率に92%から12%までと大きな差があること,告知率の高い群では告知後の看護婦のケアが充実していたことなどを指摘。一方で,インフォームドコンセントを妨げている因子として,共通して第1位にパターナリズムの医療形態をあげていたと報告した。
 また大石剛子氏(東大)は,臨床試験の前提である「患者が理解できる言葉で説明をし,患者の自由意思による同意を得る」に関する実態調査を行なった結果を報告。「患者の理解度や意思決定は,医師の説明に左右される。十分な理解と自由な意思決定に必要な説明を保証するには,今後臨床試験について医師の説明方法,説明内容の例示等の改善が必要」と指摘した。
 法的視点からとらえた桜井雅紀氏(癌研病院)は,インフォームドコンセントに関して「倫理面=人間の尊厳,実際面=患者の協力を得るため,法律面=患者の権利は司法により保護され,欧米化してきている」と解説。さまざまな判例を紹介しつつ,「不十分な説明に基づく同意は,インフォームドコンセントの成立とは言えず,法律上のトラブルの原因となる」と指摘した。
 司会の磯野氏は,本シンポジウムを閉じるにあたり,「専門的な内容をいかにわかりやすく解説するのは難しい。患者側の立場になり医学を見る目が医師には必要。患者のための医療と実践の方向性が示唆されたシンポジウムとなった」とまとめた。