医学界新聞

日本看護協会の「一般病床の長期入院」実態調査まとまる


 病院での「社会的入院」が多いと問題視され,日本の平均入院日数は国際的にみても長すぎるとの指摘があるものの,その実態が解明されていないと,日本看護協会では,本年7月に3か月以上入院している患者を対象に,「一般病床の長期入院」の実態調査を行なった。
 同協会ではさる9月18日に,(1)6517人の3か月以上の長期入院患者の患者数を分析,(2)担当看護婦は,患者の半数は「訪問看護があれば退院可能」と判断,(3)一般病床入院患者の約1/4は「入院が1か月以上に及び医療依存度が高く,退院不可」と判断,などを旨とする報告書をまとめ公表した。本号では,その概要を掲載する。なお,この記事に対する問合せは下記へ。
日本看護協会調査研究課 TEL(03)3400-8382

「一般病床の長期入院」実態調査

●調査報告概要
 病院経営上「平均在院日数短縮」の重みが日に日に大きくなっている。
 現在新看護2.5対1以上および基準看護特3類の看護料は,「平均在院日数30日以内」が算定要件であり,また平成9年診療報酬改定では,入院時医学管理料の在院日数による逓減が一層強化された。加えて中央社会保険医療協議会は,平均在院日数のさらなる短縮を厚生省に求めており,今後一般病床に対しては,急性期病床として一層の平均在院日数短縮と2.5対1以上の看護職員配置を行なうか,慢性期病床として包括・定額制の入院料を算定するか,いずれかの選択を促す施策がより強化されよう。看護料算定要件「30日」の短縮や,現在平均在院日数要件のない看護料への要件導入などが現実味を帯びてきている。看護部門では,「看護の拡充で,もっと平均在院日数短縮が可能」という声がある一方で,「無理な退院をさせてはいないか」との危惧もあるなど,関心が高まっている。受け皿としての訪問看護の拡充も求められる。

●調査概要

◎調査時期は本年7月,調査対象は96年11月に実施した『変革期における看護管理の課題に関する調査』の回答病院より,下記のように選んだ。
長期入院患者調査
 3か月以上入院している患者数が一般病床の10%を超え,かつその患者数が50人以下であった505病院を対象として実施。295病院から,3か月以上にわたり入院中の患者6565人について回答があった。
看護料の在院日数要件に関する調査
 平均在院日数が30日を超えても算定できる「新看護3対1」「基準看護特3類と特2類の併存」「同特2類」を96年11月時点で算定しており,かつ実際の看護職員配置が患者2.5対1以上ある病院を対象とし,210病院から回答を得た。

●調査結果のポイント

A:長期入院患者調査
1.長期入院患者の主な診断名
○入院患者の属性は,男性44.1%,女性55.4%と女性がやや多く,平均年齢は68.9歳(男性65.4歳,女性71.6歳)。
○主な診断名(上位3つまで選択)は,「脳血管疾患」39.1%,「がん」17.1%,「心疾患」17.2%,以下,「呼吸器疾患」17.0%,「骨折・人工関節など」12.3%,「糖尿病」10.5%,「腎疾患」9.7%など。
2.何らかの介助を要する患者は7割
○現在の患者の状態は,「要介助」37.8%,「要半介助」30.3%,「自立」21.0%,「遅延性意識障害(植物状態)」7.8%,「ターミナル」7.7%(複数回答)。
3.入院が継続する理由
○入院が継続する理由は,「医学的管理が必要」が41.6%,「身体的リハビリテーションの必要」12.4%,「在宅療養への移行を調整中」11.2%,「転院・施設入所待ち」9.3%,「患者本人が入院の継続を希望」8.5%,「他に受け入れる病院や施設がない」7.5%,「家族の受け入れが困難・介護不可能」4.2%,「通院困難」3.6%など。
○いわゆる「社会的入院」にあたる理由(「患者の希望」「家族の受け入れ困難・介護不可能」「通院困難」)は計16.3%。
4.現在病棟で行なわれている処置は患者1人当り平均1.41件のみ。「点滴・注射」「膀胱カテーテル装着・導尿」「経管経腸栄養」が多い
5.訪問看護があれば在宅療養が可能。訪問看護で在宅療養の可能性が広がる

○担当看護婦が,「現在病棟で行なっている処置が訪問看護で対応できれば在宅療養が可能と思われる」と判断した患者は全体の49.9%,「不可能」は45.2%。
○入院継続の理由が「医学的管理が必要」である患者のうち,28.1%は「現在病棟で行なっている処置が訪問看護で対応できれば在宅療養が可能」とされた。
○これらの医療的処置に対応できる訪問看護を拡充することが,長期入院患者の在宅療養への移行を進めるカギとなる。

B:看護料の在院日数要件に関する調査
6.平均在院日数と入院期間
○一般病床の平均在院日数は,「30.1~35.0日」26.0%,「35.1~40.0日」16.5%,「40.1日~60.0日」27.6%,「60.1日以上」29.9%。
○85.0%が「新看護3対1」を算定。
○これらの病院における一般病床入院患者のうち,入院期間が1か月以上に及ぶ患者は56.7%。
7.リハビリ実施中の患者
○1病院平均の「術後または発症後3か月以内でリハビリ実施中の患者」は約29人。
8.機能回復を集中的に行なう病棟
○術後または発症後3か月以内でリハビリ実施中の患者がいる86病院に対し,病床単位でこれらの患者を対象に機能回復を集中的に行なう病棟に転換する可能性があるかを尋ねた。その結果,「すでに設けている」14.0%,「可能性はある」20.9%だが,「該当患者が小数」40.7%,「診療科別に病棟が編成されているので該当患者を集めた病棟を作るのは困難」15.1%。
9.機能回復を集中的に行なう病棟向きの特定入院料
○上記の86病院に対し,術後・発症後3か月以内の患者を対象に機能回復を集中的に行なう病棟向きの特定入院料が新設されたとしたら,活用を考えるかを尋ねた。その結果,「検討したい」44.2%,「検討の余地なし」4.7%,「わからない」40.7%,「その他」4.7%,「無回答」5.8%。
10.在院日数要件が設定された場合の対応
(略)

●日本看護協会からの提言

今回の調査結果から,今後本会は診療報酬改定に向け以下のことを提言していく予定
○急性期の手厚いケアで障害を最小限にとどめ,早期回復をめざし,入院の長期化防止を。
○急性期病棟での治療終了ののちも看護必要度の高い重症患者への対応が可能な病棟が必要。
○退院計画作成,ケアマネージメントにより継続的なケアを確保する。
○訪問看護の拡充が在宅療養への移行の可能性を広げる。
次回診療報酬改定に向けた提言
(1)急性期病棟で入院初期に手厚い看護と看護婦による早期リハビリが行なえるようにすること。
(2)急性期病棟での治療が終了しても看護必要度の高い重症患者を受け入れられる療養型病床の設置を促進すること。
(3)医療処置を必要とする患者への,訪問看護ステーションによる訪問看護を促進すること。