医学界新聞

第4回日本家族看護学会に参加して

市江和子(日本赤十字愛知短期大学)


 本年9月13-14日の両日,第4回日本家族看護学会(会長=愛知県立看護大学長波多野梗子氏)が,同大学において開催された。メインテーマ「家族観の多様化と看護職の役割」のをテーマに,予定をはるかに越える約700名の参加は前回の約3倍。老人,在宅,小児,母性ケアや看護職と家族などの分野に分かれ活発な論議が交わされ,現在,家族に関する問題は多数の人々にとって関心のある課題になっていることがうかがえた。

家族とは何か

 家族は,社会秩序を維持するうえで最も重要な基礎的集団である。家族社会学においては,「日本における近代家族とは何か」に始まり,家族の持つ意味づけや内容,そして今後の研究方向など広く論議されてきた。家族についての普遍的,あるいは伝統的認識は,家族の歴史的変遷過程における1つの断面にしかすぎないとも言われる。また,家族を対象とする学問領域は,新たなコンセンサスを得るために,絶えずさらなる発展をしつづけなければならないともいえる。 
 これまで,家族は問題ごとに分類されてきたために,集団としての家族のあり方を総合的にとらえる視点に欠けていたのではないだろうか。一般社会では,家族内の問題を,ややもすれば各家族固有の条件によって偶然に生じた問題ととらえるのではなく,その原因を社会に求める姿勢が強いのではないだろうか。看護学においては,家族を全体としてではなく,それぞれを対象とする援助に着目する傾向がみられていたように思う。

家族観の多様化と看護職の役割

 本学会では,看護の各領域から58題の演題が発表された。全体的な印象としては,家族を対象にしてはいるものの,集団として家族看護をとらえるのではなく,個としての,例えば母親とか妻という立場に焦点が当てられる傾向が見受けられた。しかしそれらの発表内容には,家族をめぐる諸問題を解明しようとする姿勢を感じることができた。家族の持つ力を,家族のあり方から検討し育むことができるように,看護者はいかにかかわるかの視点を持つことが今後の課題ではないかと考える。
 一方,シンポジウム「家族観の多様化と看護職の役割」(座長=東海大 鈴木和子氏,北里大 森秀子氏)では,メインテーマを受けて,さまざまな職種からの報告がなされた。すなわち,(1)告知・家族の看取りと家族の感情体験(筑波大 樽川典子氏),(2)家族観の多様化と看護職の役割(愛知県立城山病院 長水美野子氏),(3)難病にかかわる家族観の問題と看護職の役割(大和市立病院 頭山悦子氏),(4)在宅ケアは家族がするのが当たり前?(海南訪問看護ステーション 無笹宏子氏),(5)育児期に見る家族観の多様化と看護職の役割(神戸大 村田恵子氏)の5題の発表が行なわれた。
 現在,家族のとらえ方や現実の機能は大きく変化し,家族観も多様化しているために,これらの発表内容は,まさに看護職の多様な家族観が反映された結果であると思えた。また,社会的にも,看護職にとっても,家族のとらえ方は一様でないことが示唆される内容であった。さらに,社会の変化にともなう家族観の多様化に対し,看護者は適切な対応ができているのかという問題が提起されたのではと考える。
 家族観の多様化は,生命や生活の質にも大きな影響を与えている。家族に対する認識の変化を踏まえて,看護者には対象となる個人・家族に援助することが求められているのではないだろうか。本学会の参加は,看護者にとって家族の意味を問うことの重要性を認識し,家族を含めたケアとは何かを考える有意義な機会であった。