医学界新聞

患者の悩みをともに考えるシンポを企画

第2回日本糖尿病教育・看護学会開催


 さる9月27-28日の両日,第2回日本糖尿病教育・看護学会が,佐藤昭枝会長(平塚共済病院)のもと,横浜市のパシフィコ横浜で開催された。同学会(理事長=千葉大 野口美和子氏)は,昨年10月に165名の会員で発足。本年9月27日現在の正会員数は471名,会員申請は514名に上っている。
 なお本学会では,「患者の体験に近づくケアをめざして」をメインテーマに,会長講演,特別講演,基調講演,シンポジウムの他,一般演題63題(示説含む)の発表が行なわれた。

心を打った患者からのメッセージ

 佐藤会長は,「糖尿病患者教育をめざして20年-教育担当者育成と看護外来開設までの管理的支援」を講演。「かつて勤務していた病院では,糖尿病患者の教育指導不足のため,患者は間食をし,血糖コントロールができずに入院が長くなっていた。また技術指導もまちまちでトラブルが多かった」と,おろそかにされていた糖尿病患者指導の必要性を感じ,糖尿病患者教育専任看護婦を設けた経緯を紹介した。また,現病院では,糖尿病患者の自己管理の拠り所となる「糖尿病看護外来」を本年2月に開設,患者指導をしていることを報告した。
 特別講演「看護における患者教育の意義と専門性-専門看護師・認定看護師」を行なった岡谷恵子氏(日本看護協会看護教育・研究センター)は,「医療費抑制策の一方でケアの質は上げなければならず,より専門性の高い人材の育成がこれからの課題」と指摘。日本看護協会が行なっている専門看護師と認定看護師の目的,役割などを解説するとともに,糖尿病領域の認定看護師養成の可能性についても触れた。なおこれを受けた形で,学会内に認定看護師の検討を図るワーキンググループを設けたことが総会時に報告された。
 さらに,「患者から医療者へのメッセージ」と題し,籔下彰治朗氏(ジャーナリスト)が特別講演。籔下氏は,食料難の時代を生き抜き,仕事に熱中し,両足を切断するまでに悪化した糖尿病歴をたんたんと,参加者の心を打つように語った。また,「糖尿病患者は学歴も低く,糖尿病をまったく知らない高齢者が多い。糖尿病は新たな社会病であり,国民病であり,貧困病でもある」と指摘。さらに,「障害者,老齢者など相対的な弱者もともに暮らせる世の中でなければならず,障害者,老齢者はこの世の指標だと思ってほしい」と訴えた。

患者教育における看護の重要性を論議

 シンポジウム「教育困難例へのアプローチ-インスリン導入患者への看護のかかわり」(座長=阪大 河口てる子氏,東京都済生会向島病院 嶋森好子氏)では,「患者の悩みを皆で考えるシンポジウムにしたい」(河口氏)と,インスリン導入時の教育方法や動機づけを検討すべく,4名が登壇。糖尿病患者の主体的な行動を促す患者教育に関する発表を行なった。
 まず石塚シカ氏(聖マリア病院)は,成人領域の患者指導について報告。外来でのインスリン導入の成功例や,自殺企図患者のコントロールを可能にした例,61歳の失明患者,69歳の低血糖恐怖症の患者への援助などの実際例をあげ,学際的なチームアプローチにより,自然な動機づけでインスリンが導入されたことを強調した。
 土方ふじこ氏(済生会中央病院)は,増加する一方の65歳以上の高齢患者のインスリン導入の現状と問題点を,患者,家族,看護婦の3つの視点からとりあげ,患者家族への意識調査の結果を踏まえ報告。また高齢者の特徴に,記憶力低下,頑固さをあげ,患者の個性を考慮に入れたサポート体制や指導の必要性を強調した。
 小児糖尿病に関しては長尾和子氏(大阪市立総合医療センター)が,ICUに入院した1歳児の例をあげ解説。自己管理できないこと,低血糖の自覚がないことなどが小児の問題とし,さらにインスリン療法を一生続けなければならず,児・家族に対する看護のかかわりの重要性を論じた。
 最後に糖尿病妊婦のインスリン療法については三好栄子氏(加冶屋クリニック)が発表。「くせになる」というインスリン注射への誤解や,嫁ぎ先への負い目などを問題点としながらも,「糖尿病であっても健常児の出産は可能なことを知ってほしい」と訴え,本人・家族はもとより各科の理解と協力が必要と述べた。
 総合討論の場で河口氏は,「患者をよく知っているのは看護婦,という立場を自覚すること,スペシャリティを高めることで,看護中心の患者教育ができる。トレーニングを重ねることで専門医がいない場合の対処も可能になるだろう」と発言した。