医学界新聞

第45回日本心臓病学会が開催される


 さる9月25-27日,札幌市のホテルロイトン札幌において,北畠顕会長(北大教授)のもと,第45日回日本心臓病学会が開催された。招請講演,特別セミナーやシンポジウム,一般演題等に加え,「心臓性突然死の予知・予防-日本の実態を知る」(司会=東女医大 笠貫宏氏)をはじめとするサテライトシンポジウムでも多数の参加者を集めた。
 今学会では,「治療学」を重視した企画がなされ,同時にチーム医療の必要性からコメディカルの参加を呼びかけた。循環器専門看護婦の必要性を議論するシンポジウムなどの看護セッションを設け,新しい展開を予感させるものであった。
 本号では,日本の臨床試験の問題点に焦点をあてたシンポジウム1を報告する。


抗心不全薬臨床試験の問題点

 シンポジウム1「我が国における抗心不全薬臨床試験の問題点:日米の比較から」が,北畠会長と吉川純一氏(阪市大教授)の司会で行なわれた。
 冒頭,北畠会長により「心不全の病態,治療の変遷ーおよび臨床試験からの教訓」をテーマに基調講演が行なわれた。心不全の病態の考え方の変遷に伴う薬物療法の変化を概説。VHeFT-IIやPROMISEなど海外での抗心不全薬の大規模臨床試験を紹介するとともに,日本での臨床試験の状況を鑑み,「日本は世界の医療に貢献していない」と苦言を呈した。
 続いて,「日本の治験責任医師の立場から」と題し堀正次氏(阪大)が登壇。日本の治験の問題点として,参加施設数が多い割に1施設の患者登録数が少ないこと,1つの施設が多数の臨床試験に参加していること,プロトコル違反やデータ不備が多い点などを指摘した。この解決にはリサーチナースやコーディネーター導入が必要と強調し,阪大で導入の準備を進めていることを明らかにした。
 続いて,CRO(医薬開発受託機関:contract research organaization)の立場から中村和男氏〔(株)シミック〕が,CROが行なう業務について,「薬事問題のコンサルトや臨床試験のマネージメント,国外の医薬品臨床試験の国内管理人的役割等に加えて,リサーチナース,クリニカルリサーチコーディネーター養成などがある」とし,さらに医師側,患者側からみた臨床試験の問題を提起,「新GCPに対応するシステム作りが必要」と提言した。
 その後,日本薬事行政の立場から富永俊義氏(厚生省医薬安全局審査管理課)が,本年4月に施行された新GCPの法的根拠や改定の背景を解説。その特徴には(1)役割分担,責任の所在が明確,(2)品質管理(保証)の徹底,(3)IRBの施設外の委員参加,(4)インフォームドコンセント強化などをあげた。また心不全薬の臨床試験についてはエンドポイントの設定,市販後の追試など検討すべき事項を示した。

アメリカの臨床試験の現状

 アメリカの治験医師の立場からR.E.Hershiberger氏(Oregon Health Science大)が,アメリカの臨床試験のあり方を概説。自らが参加したプログラムの経験から,「臨床試験を成功させるためには(1)十分な患者数の確保,(2)試験のデザインが実行可能,(3)患者へのインフォームドコンセントにより試験の安全性,プラセボ使用の必要性を納得してもらうこと」などをあげ,そのためには「治験責任医師やコーディネーターらチーム間のコミュニケーションをスムーズにし,患者が医療者側とコンタクトしやすい環境を作ることが鍵」と述べた。
 続いて,D.Nauman氏(Oregon Health Science大)がリサーチナースの立場から,その役割を紹介。実務面ではデータ収集や施設・人材の評価,薬剤の保管に加え,患者へのインフォームドコンセントや,スポンサーに対する進行状況,モニタリング報告もナースの業務と述べた。また「治療のサポートや患者のコンプライアンス評価を,臨床面では患者のケアと安全性の確保,副作用や危機を発見し投薬を中止させたり,さらに患者教育や心理的,社会的サポートまで求められる」とした。最後にFDA(米食品医薬品局)のR.R.Fenichel氏がアメリカの薬事行政を解説した。
 演題終了後のフロアを交えた質疑応答で堀氏は,コーディネーターの養成に関し,都立駒込病院で行なわれているリサーチナースのモデル事業や,大分医大臨床薬理学教室(中野重行教授)で研修が行なわれることを明らかにした。同時に,「臨床試験の成功には,この新しい職種を受け入れる病院自体の改善が重要」と語った。