医学界新聞

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


DRPLAの歴史から最新分子遺伝学情報まで

DRPLA 臨床神経学から分子医学まで 辻省次,内藤明彦,小柳新策 編集

《書 評》中野今治(自治医大教授・神経内科学)

 歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症(DRPLA)は本邦で最初に記載され,本邦で疾患概念が確立され,かつ本邦で遺伝子が発見された遺伝性神経変性疾患である。

DRPLA研究の歴史を築いた3人の研究者

 本書はDRPLA研究の歴史を築いた3人の研究者の編集によるものである。すなわち,1970年代にそれぞれ臨床面と病理面から疾患概念の確立に取り組んだ内藤明彦氏と小柳新策氏,そして20余年後にその遺伝子を発見した辻省次氏である。3氏は過去あるいは現在において新潟大学医学部で診療・研究に従事し,また,それぞれ精神科,神経病理,神経内科を専門としているのは歴史の偶然としても興味深く思われる。
 本書は5つの章から構成されている。すなわち,疾患史の第1章,臨床像の第2章,神経病理の第3章,国外におけるDRPLAを取り上げた第4章,そして,分子病態の第5章である。

疾患の発見から概念確立,原因発見までの過程

 ある疾患の発見から概念の確立あるいは原因発見に至る過程でのさまざまの逸話・挿話は,関係者にとっては常に面白い読み物である。その意味において,DRPLAの歴史における誤解と混乱に言及した内藤氏の序説と小柳氏の総説,遺伝子発見への逸話を盛り込んだ辻氏の総説は最も興味深かった。
 「外国におけるDRPLA」も他書には記載のない異色の章である。DRPLAとHaw River症候群の病理像は基本的には一致するとの立場に立つ鈴木氏や村山氏に対し,前者を報告したBurke氏らは,両疾患の遺伝子が同じであることを知った上で,その臨床像・病理像の違いを強調している。どちらが正しいのであろうか?それぞれの解釈に心理的要因は働いていないであろうか?
 従来,神経変性疾患の診断,分類においては神経病理の果たす役割が大きかった。しかし,遺伝性神経変性疾患では遺伝子診断にその役割を奪われ,神経病理はこの分野におけるraison d'etreを求めあぐねているように見える。その困惑を本書の神経病理の章にも見て取るのは書評子の偏見であろうか。神経病理がこの分野において自信を取り戻すにはもう少し時間がかかりそうである。
 DRPLAの「臨床」と「病理」の章では,項目がいささか多きにすぎるように思われる。もう少し整理したほうがすっきりした形に仕上がったであろう。
 本書はDRPLAの歴史からup-to-dateの分子遺伝学情報までを含み,本症に関心のある神経内科医,精神科医,神経病理医には必読の書と思われる。
B5・頁224 定価(本体11,000円+税) 医学書院


ユニークで実用的な疫学の書

医学的研究のデザイン 研究の質を高める疫学的アプローチ 木原正博 監訳

《書 評》富永祐民(愛知県がんセンター研究所長)

 最近,疫学に関する単行本が何冊か発刊されている。筆者も何編かの疫学関係の単行本の編著者または分担執筆者となって執筆した。日本疫学会でも総力をあげて疫学の単行本を発刊するために関係者が編集,分担執筆している。しかし,正直に言ってこれらの本は編集者が異なっているだけで,構成や内容は大同小異である。その中で,神奈川県立がんセンター臨床研究所の木原正博博士が監訳した『医学的研究のデザイン 研究の質を高める疫学的アプローチ』はきわめてユニークで実用的な疫学に関する単行本である。
 この本の原著者は米国カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)の疫学および内科のStephen B. Hulley,MD,MPHとSteven R. Cummings,MDであり,初版は1988年に発刊されている。
 木原博士は1995年の夏にUCSFを訪問し,大学の書店で疫学の本を探していたときに米国の友人から勧められたのがこの本の原著である。木原博士は帰途の飛行機の中で退屈しのぎにこの本に目を通していたら,疫学の方法や進め方について「目から鱗が落ちるような思いがした」と序文に書いている。帰国後,早速この本を和訳することにし,20余名の現代疫学研究会の会員の協力を得て,1年6か月の歳月をかけて和訳した。

疫学の方法を体系的に示す

 この原本はUCSFの疫学・生物統計部の研究デザインに関する研修コースで10年来テキストとして使われてきた定評のあるもので,疫学の方法を体系的に,しかもきわめて具体的に示している。すなわち,疫学的研究の研究テーマを考えるところから始まり,研究対象者の選定,質問票の作成,研究方法の選定,サンプルサイズの計算方法,倫理問題,データ処理と解析方法などをカバーし,最後に研究申請書の作成と研究助成で締めくくっている。さらに,巻末には質問票の実例,インフォームドコンセントのチェックリストなど,実際に役立つ情報が17項目にわたり付録として網羅されている。データ処理と解析方法に関する第15章では,パソコンを用いたデータ処理・解析方法を具体的に解説した上で,データ処理・解析に役立つパソコンソフトまで表示している。原著は1988年に発刊されているため,ソフトはすでに時代遅れになっており,著者の了承を得て,1997年5月時点で日本でよく使われているソフトに更新されている。

疫学的研究を始める人に

 普通の疫学の単行本では,種々のバイアスについても解説するにとどまっているが,この本ではどのようにすればそれぞれのバイアスを少なくできるかという解決法まで具体的に示している。因果関係の有無を判断する上で重要な交絡因子についてもその対処方法(対象者の限定,マッチング)の利点と欠点を対比して説明している。全編を通じて,地域住民や患者を対象として行なう疫学的研究の方法を手順を追って,実に系統的に具体的に示している。これから疫学的研究を始めようとしている疫学者,臨床家はもちろん,ベテランの疫学者にも本書を勧めたい。
B5・頁288 定価(本体4,900円+税) 医学書院MYW


個別性を重視したケア体制の確立を

始めよう!24時間訪問看護・介護 村嶋幸代 編集/川越博美,他 著

《書 評》山本俊一(東大名誉教授)

「24時間サービス」の必要性

 村嶋幸代編集,川越博美,宮崎和加子,山田雅子,村嶋幸代,萓間真美,田上豊,吉池由美子および佐藤美穂子執筆の「始めよう!24時間訪問看護・介護」を見て,脳梗塞後の在宅リハビリに励む一老人としても,心強く感じた次第である。
 だが,訪問看護・介護には「医療・介護の社会化」が叫ばれる中で,大きな期待がよせられており,それだけに大きな責任をともなった仕事であるといえる。これに従事しようとする人は,十分な覚悟を持って臨んでほしい。仕事の内容もサービスの供給者側からの発想や論理に従ってなされるべきではない。看護・介護を必要とする人はそれぞれ個性的で,対象は千差万別であり,その特殊性に応じた臨機応変の対応をしなければならない。本書の主題でもある「24時間サービス」の必要性が説かれるゆえんである。時間がきたからやめるという官僚主義では,訪問看護・介護はやっていけない。

患者は千差万別

 本書は,(1)現場から-24時間体制を試みて,(2)24時間訪問看護・介護の必要性と効果,(3)始めよう!24時間訪問看護・介護の3部から成っている。
 第1部の「現場から-24時間体制を試みて」は,1章「どうして24時間体制でみていく必要があるのか」,2章「事例紹介」から構成されている。
 これは,一流の専門家が訪問看護・介護の理想を述べることによって,これを絵に画いた餅にするという気持を,まったく持っていないことを,意味してるようである。また,この中で画一的な方法論を示すつもりもないようである。
 本書を読む人は,患者は千差万別であるということを忘れないようにして,本書に示してある現場の体験と事例をよく分析し,慎重に考えて,敏捷に行動してもらいたいものである。
 第2部の「24時間訪問看護・介護の必要性と効果」は,3章「24時間訪問看護・介護の対象者のニーズ」,4章「24時間看護・介護の効果」,5章「セルフケア-そのひとらしさを24時間支えることの意味」から構成されている。
 変化した社会は,今や多くの在宅患者を抱えることになった。この人たちは,大病院中心の高額医療の恩恵に浴することができない。だから,彼らのために新しい医療・福祉職種すなわち訪問看護・介護職を必要とするようになった。この新しい職種が,現代の社会ニードに合わせたものであることは,言うまでもない。いたずらに,これを白眼視するならば,社会の変化から取り残されるであろう。

不可欠な連携

 第3部の「始めよう!24時間訪問看護・介護」は,6章「24時間訪問看護・介護 アセスメントとケアプラン」,7章「訪問看護ステーションにおける24時間訪問看護・介護の実施体制」,8章「看護と介護」,9章「24時間対応の訪問看護ステーションへの期待」から構成されている。
 このように,訪問看護・介護は,特に老人にとって福音であるが,1つ気になることがある。それは本書にも指摘されていることでもあるが,医師・看護職・介護職など関係職種間の連携,および,在宅-施設間の連携である。一老人のささやかな願いは,安らかに死ねるようにしてほしいということである。どうか争うことなく,平和裡に,包括的なケアシステムを構築し,私たちが安心できるようにしていただきたいものである。
A5・頁200 定価(本体2,200円+税) 医学書院


CCUにおける救急診療の実際

CCUレジデントマニュアル 高尾信廣 著

《書 評》飯沼宏之(心臓血管研究所)

 高尾信廣先生著『CCUレジデントマニュアル』を読ませていただいた。先生はかつて聖路加国際病院内科のレジデント,チーフレジデントとして日野原重明,五十嵐正男両先生の薫陶を受けられ,また林田憲明先生,山科章先生らのもとできびしい修練を重ねられたと聞いている。さらに先生は,その後同病院内科副医長に就任し,多くのレジデントを指導してきた実績をお持ちであり,いわば修練する立場,教育する立場を長く経験されたわけで,日本でCCU関係のマニュアルをまとめるとすると,この人をおいて他にいないのではないかと思うぐらいの,数少ないベテランの1人である。
 本書は,このような高尾先生の永年の経験の積み重ねから生まれたものであるが,同先生お1人の努力もさることながら,これまで永く営まれてきた同病院CCU関係者の,キリスト教精神に裏打ちされた,診療・教育に対する熱い想い,多数の経験,さまざまな実績が,ここに結晶したとみることができ,その意味で貴重な1冊である。

かゆい所に手が届く

 本書は,I 章「心性危機の救急処置」,II 章「慢性心不全と心大血管疾患」,III 章「先天性心疾患」,IV 章「不整脈」,V 章「心疾患患者の管理」,VI 章「手技」,VII 章「薬剤」で構成され,各章がさらにいくつか項目に分けられて成り立っているが,その特徴は,CCUにおける救急診療の実際が微に入り,細に入り,実に懇切にしかも手順を追って手際よく書かれていることである。例えば薬物使用の際でも「何を」「どれだけ」「どのように」与えればよいのか,きわめて具体的に述べられている。しかもこのような「実用書」にはありがちな,基礎的事項の解説が欠除していたり,診療の理論的根拠が明示されていないなどの欠点はまったくみられず,むしろ,その点を配慮して各項目ごとに附された解説記事の「Side Memo」が非常に充実していて,各々のポイントを実によくまとめてあり,初心のレジデントだけでなく,ベテランを自称するわれわれが読んでも知識の整理に非常に役立つものである。高尾先生の日頃の勉強ぶりがここによく表れている。さらに驚いたことには各項目の最後に,各々の分野における主要な文献が附されているので,少し詳しく調べてみたいと思う読者がいても十分満足するであろう。ここまでいろいろな点にわたってかゆい所に手が届くように配慮された本は,他に類をみないのではなかろうか。
 ただし,1-2か所,例えば不整脈のリエントリー成立条件に関する記事や心不全治療における利尿ペプチド薬の位置づけなどについては疑問を感じるところもあった。版を重ねる際に検討していただければと思う。
 そうはいうものの,本書は新しくCCU担当となったレジデントにとって必携の書であることは間違いない。そればかりでなく,かなり経験を積んだ医師が手にしてもいろいろと参考になる本であることを強調したい。
B6変・頁504 定価(本体5,500円+税)医学書院


ユニークかつオーソドックスな用語マニュアル

整形外科用語マニュアル 第2版 C.T.Blauvelt,他 著/滝川一興 訳

《書 評》濱 弘道(京大医療技術短大教授)

即座に専門用語を正確に理解

 このようなマニュアルが座右にあれば,論文を書くときや読むときに随分と重宝するであろうと思わせる訳書である。原書は米国で版を重ねること20年,整形外科とその関連領域の,急速かつ広範な学術的進歩を改訂ごとに適宜取り入れてきた最新版が第5版になる。この第5版訳書は領域に特有な用語の簡潔な説明に,明快かつ的確な訳を施しているので,われわれはいながらにして即座に専門用語を正確に理解できるのは何よりもありがたい。ことに冠名用語が数多採録されていることはわが国の類書にはまったくみられない貴重な点である。さらに和文索引,欧文索引にページ数にして本書の16%強も割かれていることからもうかがえるように,キーワードの豊富なこととクロスリファレンスの綿密なことがその利便性を高めている。また訳語が日本整形外科学会編『整形外科学用語集第4版』に準拠し,ルビまでつけてあることなどにも訳書として行き届いた配慮が感じられる。漢語,英・独・仏語のみならず,羅語,西語にも造詣の深い,知る人ぞ知る篤学にして博覧強記の滝川一興博士ならではの労作である。思うに,訳者に人を得たの感がしみじみと深い。

関係職種も最先端の用語を簡単に深第

 第5版は12の章,3つの付録からなり,各章で改訂が行なわれている。その主たるものはおよそ3点である。すなわち「疾患と手術」の章では古典的疾患の見直しと新解釈,新用語の収録,「画像診断」の章ではMRI,DPA,SPECTをはじめとする最新の診断法とこれに関連する用語の採録,「解剖学と整形外科」の章では300以上の新手術法の収載とその使用器材の再構成である。いずれも整形外科学の進歩に的確に対応したものになっている。このような本書の特長は,とくに最後の章,「筋・骨格系のリサーチ」で遺憾なく発揮され,したがって整形外科医はもとより,理学療法士,作業療法士,義肢装具士,リハエンジニアなど関連職種の人たちにとって,臨床と多少ニュアンスの異なる最先端の研究用語も簡単に探索できるのは大きなメリットである。
 今ひとつの特長は,前述のように冠名の筋・骨格系疾患用語を徹底して収録しているばかりでなく,冠名であるため国際疾病分類コード(ICD)へアクセスしにくい点を解決すべく,コード化したものを付録の1つとして照合を容易にしている点であって,これはデータの管理,運用にまことに至便である。これらはGerdy,Segond, O'Donoghueなど,冠名のルビが原音に基づいていない誤り,欠点を補って余りあるといえる。
 以上,本書はわが国の類書にはみられない,ユニークかつオーソドックスな,一見矛盾した特性が見事に調和した訳書であり,整形外科ならびに関連領域の方々に広く重宝されるよう,願わずにはいられない。
A5・頁564 定価(本体6,800円+税) 医学書院


最適な治療法を選択するための指針

胆石の溶解・破砕療法 超音波分類の応用 土屋幸浩 著

《書 評》田中直見(筑波大臨床医学系教授・消化器内科学)

 この度,国保大網病院の土屋幸浩院長による『胆石の溶解・破砕療法 超音波分類の応用』を読む機会を与えられた。土屋幸浩院長は,皆様よくご存じのように,1986年に胆石の超音波分類を提唱された方であり,また体外衝撃波胆石破砕療法(ESWL)をわが国に導入し,ESWLの普及と研究に打ち込んでこられたパイオニアであり,現在,日本胆道学会の理事としてご活躍中である。

胆石の質的診断が求められる時代

 わが国における戦後の胆石症の増加は著しく,成人の胆石保有率は10%に達しようとしている。しかも食事の欧米化と高齢社会を迎え,胆石症は,今後,ますます増加するものと思われる。また一方,腹腔鏡下胆嚢摘出術(ラパ胆)の爆発的な普及で胆石症の治療法も大幅に変わりつつある。このように胆石症は頻度の高い疾患であり,治療法が多岐にわたっているため,われわれ臨床医も患者さんも治療法の選択に大いに悩む時代となった。胆石の存在診断は超音波で容易につくが,その胆石がどのような性質,特徴を持ったものであるかを的確に診断する必要がある。すなわち胆石の質的診断を求められる時代となったわけである。このようなときに,その道のエキスパートによる本書が上梓されたことはまさに時宜を得た企画であり,われわれ専門医ばかりではなく,多くの方々にも読んでいただきたい良書である。

画像診断を組合せ質的診断の向上を図る

 本書は第 I 章「胆石の種類と構造」,第 II 章「胆石の超音波分類」,第 III 章「胆石エコーパターンの成り立ち」,第 IV 章「胆石の質的診断-超音波と他の画像診断の補完性」,第 V 章「経口胆汁酸溶解療法」,第 VI 章「体外衝撃波破砕療法」からなっている。第 I 章から第 IV 章で胆石の超音波分類とその成り立ち,および他の画像診断との組み合わせによる質的診断の精度向上に関して詳しく述べられており,われわれの今後の診療に大変役立つものである。また,第 V 章と第 VI 章は経口胆汁酸溶解療法ならびに体外衝撃波胆石破砕療法に超音波分類を応用した内容となっている。ラパ胆の普及に伴い内科的胆嚢温存療法の立場は大変不利である。しかしながら胆摘術の必要のない症例にまで胆摘術が行なわれている現状は大変危険である。胆嚢摘出術後に右側結腸癌の発生の問題も解決していないし,胆嚢摘出術後に生じる胆汁の十二指腸へのたれ流しによる生理的変化の影響も解決されていない現在,むやみな胆摘術は慎むべきであると私は考えており,同じ内科の筆者による内科的胆嚢温存療法に好感を覚える。
 本書を読み終えた後では腹部超音波検査で胆石をみるとより親しみを覚える。本書により患者さんにとって最適の治療法が選択されることを祈る次第である。
B5・頁136 定価(本体4,700円+税) 医学書院