医学界新聞

第2回慶應医学賞が発表される


  

 「第2回慶應医学賞」がロバート・A・ワインバーグ氏(米国マサチューセッツ工科大,ホワイトヘッド生物医学研究所教授)と,谷口維紹氏(東京大学大学院教授)に決定し,その記者発表会がさる9月29日,慶應義塾大学において開かれた。同賞は,医学・生命科学の領域において顕著かつ創造的な業績を挙げ,人類の平和と繁栄に著しく貢献した研究者を顕彰し,広く医学の振興に寄与するために慶應義塾(鳥居泰彦塾長)が昨年創設した賞。ちなみに,「プリオンの発見とプリオン病の解明」に対して第1回同賞を受賞したスタンリー・B・プルジナー氏は,本年度のノーベル医学・生理学賞の受賞者である(詳報は次号に掲載)。
 今回のワインバーグ氏の受賞理由は,「原癌遺伝子,癌抑制遺伝子と癌」。
 同氏は,まず1982年にヒトの膀胱癌細胞で癌遺伝子rasが変異して活性化していることを初めて報告した。続いて1986年に,遺伝性腫瘍RB(Retinoblastoma:網膜芽細胞腫)で欠損の原因となっているRb遺伝子を特定して癌抑制遺伝子の実在を明らかにし,その変異が腫瘍発生にきわめて重要な役割を持つことを発見。癌発生においては癌遺伝子の活性化とともに癌抑制遺伝子の不活性化も鍵を握っていることをヒトで証明した。同氏の研究活動は,癌発生の遺伝子説における中心的遺伝子群である癌遺伝子と癌抑制遺伝子の研究領域において常に先端的であり,細胞癌化のメカニズムを解析する新しい時代を切り拓き,動物についての分子遺伝学の領域に波及効果をもたらした。
 なお,Rb遺伝子発見の経緯については,「2ヒット・セオリー」の提唱者アルフレッド・G・クヌードソン氏と樋野興夫癌研実験病理部長との対談「癌化遺伝子研究の現在:“2ヒット・セオリー”と“Cancer Genetics”をめぐって」(本紙第2257号)に詳述されている。
 またワインバーグ氏は,第56回日本癌学会総会に招聘され,細胞増殖と細胞周期の調節に関する最新の知見を披露する特別講演を行なった(1面参照)。その人となりはNatalie Angier Natural Obsessions‐The Search for the Oncogene(邦訳「がん遺伝子に挑む」東京化学同人刊)に詳しい。
 一方,谷口維紹氏の受賞理由は,「サイトカインの構造と機能に関する分子生物学的研究」。
 同氏は,インターフェロンのcDNAのクローニングに初めて成功するとともに,インターフェロン系の調節因子であるIRFによる生態防御系の制御や細胞の発癌メカニズムの研究で世界をリードしてきた。また,インターロイキン―2(IL-2)の構造解明および量産の基礎を初めて確立し,サイトカインの研究を分子レベルの研究へと発展させることに大きな貢献を果たした。さらにIL―2リセプターのβ鎖のクローニングやシグナル伝達機構の研究などで次々と新しいコンセプトを確立した。
 これらの谷口氏のサイトカインの研究は,免疫学の研究にはかりしれない進展をもたらしたが,その影響は免疫学にとどまらず,癌の生物学などにも及び,またインターフェロンのC型肝炎や慢性骨髄性白血病への有用性からも明らかなように臨床医学への貢献,社会的な評価も高い。