医学界新聞

実践の中から見出す看護診断名

第3回日本看護診断学会学術大会が開催される

大島弓子(日赤秋田短大教授)


 第3回日本看護診断学会学術大会が,近田敬子大会長(兵庫県立看護大教授)のもと,さる7月18-19日の両日,京都市の国立京都国際会館において,「クリティカルに進めよう看護診断を」をメインテーマに開催された。
 本大会では,会長講演「発動性の理論-全体性を視座において」に引き続き,Donna J. Brauer氏(ミネソタ大)の招聘講演が行なわれた他,教育講演(1)看護におけるクリティカルシンキング(金沢大 牧本清子氏),(2)クリティカルシンキングへのマイルストーン(飯田女子短大 前田三枝子氏)や,菊地登喜子氏(東北公済病院看護部),中西純子氏(愛媛県立医療技術短期大学),藤村龍子氏(東海大学健康科学部)の3者による鼎談「看護診断をどのように発展させ得るか」,および「看護診断『自己尊重の状況的低下』の展開を振り返って」の事例セッション,学会の研究推進委員会による特別報告「看護診断に関する問題意識および活用の会員・非会員別比較」など,多岐にわたるプログラムが企画された。また,一般演題では,看護診断の妥当性の検討やコンピュータを活用したものなど14題が発表された。

クリティカルシンキングと看護過程の関係

 近田氏による会長講演は,看護診断と絡めながら,自らの論である発動性の理論構築を深める内容のものであり,発動性とアセスメント,人間の全体性に着目した看護診断などについて論じられた。
 Brauer氏の講演は,午前に「クリティカルシンキング:看護診断のための決定的なプロセス」,午後に「看護過程におけるクリティカルシンキングの活用」と2部構成で行なわれた。氏は,1980年頃から,看護のアイデンティティの確立や効果的なケアプランの立案,患者にとって好ましい意思決定ができることなどにより,アメリカでもクリティカルシンキングの重要性が認識されはじめ,1989年にNLN(全米看護連盟)で学士課程のカリキュラムに必要なものとして取り上げられるようになったことなど,アメリカにおける状況を解説した。しかしながら,クリティカルシンキングの概念は多様であり,NLNでも定義づけは行なわれてはおらず,各教育機関独自に定義,位置づけ,方略を検討しなくてはならないことも合わせて述べた。
 また,多様な概念の中で“論理的プロセスとしてのクリティカルシンキング”,“論理的な分析をさらに広げた包括的な概念としてのクリティカルシンキング”の2者の概念について触れ,前者は合理的,入念な分析,疑いを持ちながら評価的に思考していく論理的な認識過程であること,後者は,真理に向かって,現在持っている見方にさらに挑戦していく知的な興味関心と開かれた心を持つ,いわば情意的な方向づけの認識過程であると述べた。
 さらに,Brauer氏は看護過程とクリティカルシンキングの関係について,「クリティカルシンキングはイコール看護過程ではなく,看護過程を強化する関係であり,さまざまな強化する関連性から看護過程の判断過程,ケア計画立案がより有効なものにつながる」と指摘した。なお大会では,招聘講演や教育講演の後に質問コーナーが設けられ,改めて講演者と参加者との身近なディスカッションがなされていた。

看護診断に必要な教育と臨床の連携

 一般演題は,2日間で4つのセッションに分かれ行なわれたが,看護診断に対する妥当性の研究発表として,佐藤重美氏(長野県看護大)の「よく使われる診断の診断指標」,山本裕子氏(阪大)らの「活動不耐」,小笠原知枝氏(阪大)らの「ボディイメージの障害」,武澤真氏(東医歯大病院)らの「不安の診断」の4題が取り上げられた。さまざまな看護診断の妥当性の検証が研究され始めてきており,これらの研究から妥当性の検証に対する関心が高まってきていることをうかがい知ることができた。
 一方,2日目に行なわれた同学会の研究推進委員会による特別報告として筆者が発表したが,本学会の会員と非会員とでは,“状況がイメージでき,使用頻度の高い診断用語”,“イメージのつかない診断用語”の選択に相違があり,非会員に比べて会員はイメージできるものとできないものとの区別が明確であることなどを報告した。
 また,本学会の理事長である松木光子氏(福井医大)の司会のもと,最後のセッションとして行なわれた菊地氏,中西氏,藤村氏の3者による鼎談「看護診断をどのように発展させ得るか」では,看護診断を今後どのように発展させ得るかについて論じられた。教育と臨床との連携の必要性や国際的な関連性を深めること,さらに実践の中から看護診断名を提案していくこと,看護診断に対する身近な課題を設定してクリアしていくことが示唆されるとともに,看護診断に関する研鑽に対する支援を学会として積極的に行なうことの必要性などが提案された。