医学界新聞

看護教育関連学会があいついで開催される

日本看護学教育学会日本看護学会看護教育分科会看護教育学学会


 毎年7月初めから8月下旬にかけては,看護関連の学会や研究会が集中して開催されている。今年も「全国老人ケア研究会」(7月5日,既報)や「日本看護学会看護総合分科会」(7月10-11日)をはじめとして多くの看護関連学会(研究会)が開催された。その中で,看護教育の関連学会は,8月1-2日の第7回日本看護学教育学会を皮切りにあいついで開催され,看護教育技法や評価法をめぐる議論が交わされた。
 本号1面では,同学会をはじめ,日本看護学会看護教育分科会,日本看護教育学学会の模様を,また日本看護診断学会など今夏に開催された他の関連学会,研究会については次面以降で詳報する。


教育方法の新たな試みをめぐって
第7回日本看護学教育学会開催

 第7回日本看護学教育学会(会長=神戸大教授 新道幸恵氏)は,8月1-2日の両日,「看護実践能力を育む教育方法」をテーマに,神戸市国際展示場で開催された。
 本学会では,会長講演をはじめ招聘講演「保健科学における教育方法-模擬患者」(カナダ・マクマスター大 アンドレア・バウマン氏),シンポジウム「教育方法の新たな試み」とこれを受けた課題別研究討論会(5セッション)などが企画,および一般演題117題の発表が行なわれた。

教育方法をめぐる5つのアプローチ

 藤村龍子氏(東海大教授),川口孝泰氏(兵庫県立大助教授)の両氏が司会を務めたシンポジウム「教育方法の新たな試み」では,(1)学生の思考過程を重視したCAT:Computer Assisted Thinking(国際医療福祉大助教授 金井―Pak雅子氏),(2)Problem Based Learning:PBL(聖路加看護大教授 小山眞理子氏),(3)Critical Thinkingの教育方法(金沢大教授 牧本清子氏),(4)モジュール学習(宮崎県立看護大学長 薄井坦子氏),(5)プリセプターシップ(兵庫県立看護大助教授 上泉和子氏)の5つの教育方法が,デモンストレーションを含め実践例とともに紹介された。
 この中で金井氏は,「(1)学生の自由な発想を妨げない,(2)学生の思考過程を重視する,(3)学生の自由な表現力を育む」を基本理念のもとに,国際医療福祉大看護学科と日本IBM社が共同開発しているコンピュータ教材「CAT」を紹介。あるサラリーマンの1日の生活の様子をビデオで紹介した後に,何が問題となるのかを,学生が日本語入力による情報検索ができるシステムであり,壇上でのデモンストレーションは注目を集めた。また小山氏は,小グループ学習によるPBL(本紙6月30日付,2246号に小山氏と新道会長の対談を掲載)について,牧本氏は,「医療界だけでない考え方であり,統一された定義はない」とするクリティカルシンキングを紹介し,今後の教育の1つの方向性を提示。さらに総合討論の場でも,フロアから「クリティカルシンキングの定義は必要ないのか」「PBLの実践はどのように」などの質問や意見があいつぎ,ホットな議論が交わされた。
 この5つのシンポジウムのテーマは,翌日の課題別研究討論会へと引き継がれ,フロアを交えてさらに看護教育法について内容を深める議論が展開された。


「21世紀に向けた看護教育」を企画
第28回日本看護学会看護教育分科会開催

 「看護のスペシャリティ-新しい波とネットワーキング」をメインテーマに開催されている第28回日本看護学会(会長=見藤隆子日本看護協会長)の1つ,看護教育分科会が,さる8月7-8日の両日,三井原弘子会長(大阪府看護協会長)のもと,大阪市の大阪厚生年金会館で開催された。
 本分科会では,基調講演「21世紀に期待される看護教育」(日赤看護大学長 樋口康子氏)やシンポジウム「創造する21世紀の看護教育」(司会=大阪府立看護大教授 土居洋子氏)の他,教授方法,教育評価,臨床実習,卒後教育などに関する一般演題48題の発表が行なわれた。

看護における倫理性,人間性などを論議

 シンポジウムでは,看護界の変革を(1)大学・大学院教育化,(2)国際化と情報化,(3)看護サービスの変化,(4)倫理的問題,(5)人権と生命の尊厳を尊重する人間性の5つの課題としてとらえ,各分野から5名のシンポジストが登壇し,意見を述べた。
 秋山正子氏(白十字訪問看護ステーション)は,「自ら診察する技術を習得する必要がある」など,看護実践の場から見た看護教育への提言を,また青山ヒフミ氏(大阪府立看護大)は,淀川キリスト教病院での倫理委員会の活動を通して,「倫理上の考え方を訓練する,主張できる力を養うなど,複数の視点から思考する看護婦の育成」の必要性を述べた。
 一方,片田範子氏(兵庫県立看護大教授)は,「国際性を育むこと,文化圏の違いも考慮に入れながら,ものおじしないで発言できる人を,意識して教育する」ことの重要性を,川口てる子氏(阪大助教授)は,「なぜという疑問を持つこと,自分なりの意見を持つこと,それを説明できること,会議などの場で意見として提案できることなどの訓練が必要」と,主張のできる人材育成の必要性を強調した。

専門職性と授業展開の模索を論議
第7回日本看護教育学学会開催

 第7回日本看護教育学学会は8月21日に,鈴木純恵会長(千葉大助教授)のもと,「看護の専門職性を反映した看護学教育の展開」をメインテーマに,千葉市の千葉大学けやき会館で開催。定廣和香子氏(順大医療短大)による基調講演「看護婦(士)行動の説明概念からみた看護の専門性」,一般演題4題の発表の他,シンポジウム「看護婦(士)行動の説明概念活用による授業展開の模索」(司会=千葉大教授 杉森みど里氏)が行なわれた。

5つの看護婦(士)行動概念

 基調講演を行なった定廣氏は,「看護場面における看護婦(士)行動に関する研究」の概要を示すとともに,現実の看護実践から見出した看護婦(士)行動の説明概念をもとに,看護職の専門職性および専門職としての要件が満たされる可能性を検討。看護婦(士)行動を説明する5つの概念を発見,博士課程の論文として位置づけたことを明らかにした。この5つの概念とは,(1)問題解決・回避のための患者生活・治療行動代行,症状緩和,生活機能維持・促進とその個別化,(2)情報の組織化と活用による問題の探索と発見,(3)問題解決に向けた相互行為の円滑化,(4)問題克服に向けた患者への心理的支援,(5)問題解決への自己評価による価値意識の変動。
 定廣氏は,看護婦(士)が自己の職業における専門性を確認し,意識的に実践に適用していくためには,看護実践に関する自己評価システムを確立する必要がある。看護教員が実践の専門性に対する価値を再確認し,看護学研究成果に基づく教育実践を実現していくことにより,看護職が専門職化を遂げていくことが可能となる」と述べた。杉森氏は,この定廣論文を「経験的看護実践を言語化した」と高く評価した。