医学界新聞

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


院内のあらゆる部門の医療事故予防策を網羅

病院における医療事故紛争の予防 第2版 岡田清,他 著

《書 評》坪井栄孝(日本医師会長)

 本書の初版が世に出て既に4年が経ち,本年4月,内容の充実化が図られたうえ,装いも新たに第2版が上梓された。

医療事故防止のための提言

 本書はタイトルにあるとおり,主に病院での医療事故予防を念頭に置いて著されたものであり,本文中にはさまざまな事故防止のための具体的な提言が盛り込まれている。これらの提言は,いずれも「都立病産院医療事故予防対策推進委員会」の委員を務められている3人の共著者(うち木下氏は弁護士)の,永年の経験と優れた実績に裏打ちされたノウハウの結集であることを知れば,その説得力が類書のなかで群を抜いていることも,納得できよう。加えて構成の面でも,1項目を1頁ないし見開き2頁に収め,かつ,読みやすいQ&A方式をとるなど,初版の優れた点はすべて踏襲されている。
 提言の内容は,日常診療において医師が気をつけるべき点から,看護婦,事務職員に至るまで,院内のあらゆる部門における事故予防策を網羅しているといってよい。なかでも個々の職種ごとの対策と連携させる形で,病院内に院長直轄の医療事故予防対策委員会を設置すること,そしてこれを発展させてリスク・マネジメントの考え方を,積極的に採り入れるべきであるとする提言は,きわめて示唆に富む。

「リスク・マネジメント」を採り入れる

 リスク・マネジメントという言葉は,昨今,1つの社会現象であるかのように耳にする機会が多いが,ここでいうのは,まさに組織全体として事故を起こさないためのシステムを構築するということであり,その分野では既に航空業界や原子力プラント等に一日の長があることは周知のとおりである。多くの人命を預かるという意味においては,われわれが担う「医療」こそ,本来,リスク・マネジメントの手法を最も必要とする分野であることは明白である。本書は,全体からみれば,リスク・マネジメントそのものに触れている頁数は極く限られてはいるが,それに続く大部分の紙数を費やして論じられている具体的な事故防止策の数々は,読者がそれぞれの病・医院において,リスク・マネジメントを実践される際に,アイディアの宝庫になるものと確信する。
 本書の全編を通じて痛感したことは,医療というものは結局,医師と患者,医師と医師,医師と他の医療スタッフをはじめとする,きわめて人間的な関係に依拠して成り立っているという,当然の理であった。尊い人命を直接左右する医療において,人間尊重という当然のことを銘記し,スタッフ相互間での意思の疎通や,医師と患者の間の「説明と理解」を徹底するという地道な努力が医療事故防止対策の第一歩である。また,これらの実践は,人間性尊重を柱とした医療を育てるうえでの,欠かすことのできない要素にもなるということがいえる。
 本書の初版の出版(平成5年)に際して,私は本書を単なる医療事故防止のためのマニュアルとしてのみ利用するのではなく,病院の質の向上のためのマニュアルとしても活用することを読者に薦めた。第2版の出版にあたり,4年前の私の評価に誤りがなかったことを改めて確認する次第である。
A5・頁312 定価(本体3,800円+税) 医学書院


机上の医学図書館として,すべての医療機関へ

今日の診断指針 第4版 亀山正邦,亀田治男,高久史麿,阿部令彦 編集

《書 評》多賀須幸男(多賀須消化器科・内科クリニック)

 編集責任者をすべて入れ替え,若い医師を執筆者に選び,項目も再検討して5年ぶりに全面改版された『今日の診断指針』第4版の書評を依頼された。広辞苑にほぼ匹敵するボリュウムを持つこの大著を手にとって,その姉妹編である『今日の治療指針』の編集に関わる1人として,充実した内容を紹介するのは容易ではないが,診療しながらいろいろのページを開いて得た印象を率直に書いてみる。

内科,外科領域のすべてをカバー

 全科の病気を対象とするこの種の書物は内科系疾患に偏りがちであるが,本書は前からその他の領域に多くの紙数を割いてきた。第4版ではそれが一層進んで,整形外科,皮膚科,眼科,耳鼻咽喉科,産婦人科などの疾患について,それぞれの専門学会の診断基準や分類まで踏み込んで記載している。さまざまな病気の相談を受け,あらゆる科から診療情報書をいただく開業医にとって誠にありがたい。総合病院の研修医や医師には学際的知識がさらに必要なはずで,どの診療の場でも一度備えると手放せなくなるに違いない。
 本書にはかねてから巧みな見出しがつけられていて,門外漢にも肝心なところがわかりやすかった。第4版ではそれがますます洗練されている。おそらく編集責任者が最も意をつくした部分であり,診療に実際従事している第一線の若い医師がそれに応えてうまく執筆している。「なかなか診断できないとき試みること」とか,「さらに知っておくと役立つこと」などの記述は出色である。

最新の画像やシェーマも多数掲載

 本書にはシェーマやカラー写真の他,CTやMRIなどの最新画像が非常に多数掲載されている。馴染みがなかった他科の画像と解説に,筆者は特に新鮮な印象を受けた。
 遺伝子診断や分子医学領域の最新情報の収載をこころがけたと序文にあるが,その結果,稀で特殊な病気や病態についての記述がとりわけ充実した。項目数はほとんど変わっていないが,「鑑別診断すべき疾患と鑑別のポイント」などの説明が拡げられて,ここにもその最新情報が詰まっている。研修医や若いドクターには特に歓迎されるに違いない。編集部は苦慮したであろうが,こまめに参照ページを記入するいき届いた配慮が本書の価値を高めている。
 検査の基準値一覧は42ページから130余ページに大幅に増えて,その充実ぶりには目を見張らざるを得ない。これほど多数の項目の基準値を蒐集された担当者の苦労がしのばれる労作である。
 膨大な最新情報を詰め込んだ2000余ページの本書を手にすれば,消費税抜きで23,300円の定価が決して高価ではないとわかろう。
 机上の医学図書館として,すべての診療所,医局,病棟,研究室にぜひ備えるようにお薦めする。
デスク版 B5・頁2028 定価(本体23,000円+税)
ポケット版 B6・頁2028 定価(本体18,000円+税)
医学書院


第一線の内科サブスペシャリストが解説

認定内科医・認定内科専門医受験のための演習問題と解説 第2版
日本内科学会認定内科専門医会 編集

《書 評》吉本正博(吉本医院長)

 内科専門医の資格を持った大学病院の先輩方が,折にふれ,専門領域外について幅広い臨床知識を発揮するのを見て,私も内科専門医の資格を取りたいと思いました。私が受けた頃の内科専門医の試験問題は,紙上で実際の症例を経験しているような内容の試験でした。最初に患者のプロフィールと簡単な病歴の紹介があり,さらに詳細な病歴聴取として何を聴取したいか,最初に行なう検査として何をオーダーするか,を項目の中から選択し,回答欄を特殊なペンでなぞると,その結果と次に移動すべきページが浮き出てくる。指定されたページに移動し,さらに行なうべき検査,選択すべき治療などを次々に選択していく。そして最後に考えられる診断名を記入する。治療が間違うと思わぬ症状が出現したり,患者が死亡したりする。
 生まれてこのかた,たくさんの試験を受けてきましたが,試験中に楽しいと思った経験はこの内科専門医の試験以外にはありません。しかしその後,このような形式の試験問題は作成が難しいこと,採点が難しいことなどが理由で,現在のような試験内容になってしまいました。残念な思いがします。しかし本書を見てもわかるように,今も症例問題が中心となっており,このあたりに内科専門医試験の特徴があるように思われます。今後は単なる医学知識だけでなく,Cost―Effectivenessを考慮した検査,治療を選択する能力を試すような内容の試験も望まれますが,これまた試験問題の作成が難しいので,試験問題作成委員の先生方も苦労されるのではないかと思われます。

演習問題の解説にページを割く

 本書の最大の特徴は演習問題の解説に全体の半分以上のページを割いているところにあります。しかも臨床の現場ですぐに役立つような解説内容となっており,単に試験準備のための学習用としてだけでなく,研修医が臨床の実力を養ううえでも十分に役に立つ内容となっています。もし注文をつけるとすれば,複数の専門領域にまたがった症例問題をもう少し用意してほしかったこと,治療中に出現する合併症,薬剤の副作用などについても,単なる知識としてではなく,実際の臨床で遭遇するような形での問題があったらということでしょう。
 内科専門医の資格を取って,何か利点があったかという話題が専門医の間でもよく出ます。確かに目に見えるような利点はないかもしれません。しかし,自分自身がそれを目標に臨床経験を積み,臨床技術と知識を身につけたという自信は,何ものにもかえがたいものがあります。また,内科学会総会,中国地区内科専門医研修会(年2回開催)には極力参加するようにしていますが,そこでの内科専門医の仲間との語らいは,特に私のように大学や病院を離れた開業医には,とてもよい刺激になり,ありがたい機会だと思っています。皆さんもぜひ私たち内科専門医の仲間に加わってください。
B5・頁300 定価(本体5,900円+税) 医学書院


疾患概念の確立にじかにかかわった学者の証言

DRPLA 臨床神経学から分子医学まで 辻省次,内藤昭彦,小柳新策 編集

《書 評》池田和彦(東京都精神医学総合研究所)

 DRPLAは,「内藤・小柳病」という名称で呼ばれたことがあった。
 Dentetorubro-pallidoluysian atrophy。神経学に疎い読者なら,まずおぼえきれない病名だろう。和名を記せば,歯状核赤核・淡蒼球ルイ体萎縮症。じつは,「遺伝性」という措辞がさらに付けられている。この病気の原因遺伝子がみつかった現在,DRPLAではなく,もう1度「内藤・小柳病」と呼びなおしてみてはいけないのだろうか。
 本書は,辻省次・内藤昭彦・小柳新策氏が編者・執筆をつとめ,新潟大学医学部あるいは同大学脳研にかかわる諸氏が中心となって執筆した「DRPLA(内藤・小柳病)」についての書である。

病気を理解するということ

 この難病の臨床・病理・遺伝子・病態(必ずしもすべてが現在明確であるわけではないが)を知りたければ,本書をひもとくしかない。本書を措いて,DRPLAについて知りうる書物は存在しないのだから。これは,本書の第1の読み方である。
 だが,私はべつの読み方も可能だと思う。それは,神経学には疎遠な研究者にとっても可能な読み方であろう。ここでの読み方は,知識を与えてはくれない。が,かつて慧眼が拾い上げたある病態が,1つの独立した病気へと結晶してゆく,その過程を教えてくれる。知の獲得のようすを示してくれる。そんな難しい言い方をしなくとも,臨床家と研究者が得た知識が,彼らの苦行と明晰を通して,新しい病気に定位されるようすを見てとることができるのである。病気を理解するということはどういうことかを教えてくれる。
 新潟大学精神科につながる内藤昭彦氏と小柳新策氏は,新潟地方でみられた稀な家族性の神経難病が,臨床症状からみても脳病理所見からみても,新しい病気だと認識した。20年ほど昔である。内藤・小柳両氏が執筆された本書の項目を読めば,「遺伝性の歯状核赤核・淡蒼球ルイ体萎縮症」というこの長たらしい名前は,それが1つの新しい病気だと認定されるのに要した苦闘の表象であることがわかる。
 そして2人の編者よりはるかに若い神経遺伝学の泰斗,新潟大学脳研神経内科の辻省次氏(編者)は,この病気の原因遺伝子の探索に関して(東京のグループが同じ原因遺伝子をまったく同時期にみつけていることはここに記しておかなければならないが)その明解な思考と施行を紹介しながらすばらしい健筆をふるっている。
 内藤・小柳氏が臨床と脳病理の特徴から一疾患として提唱した病気について,わが国の分子生物学が病因遺伝子を探しだした。そのような病気を扱うのが本書なのである。

現時点のDRPLAを総見

 現時点の「内藤・小柳病」を総見するのもよいだろう。また,どのような苦闘が「内藤・小柳病」の概念を確立していたったのかを,たどってみるのもよい。本書は,疾患概念の確立にじかにかかわった学者の証言である。
 アメリカの精神疾患遺伝学者ガーションは,小児神経難病であるHallervorden-Spatz病のその病名を糾弾する。Hallervordenがナチス医学に密着していたからだという。師匠のSpatzはそれを承知で,反対しなかった。私も彼の意見に同調する。病名は符丁にしかすぎないが,それが汚点をになうことは許されない。そして,私は病気が符丁だという理由からも,このDRPLAを確立したわが国の2人の学者の名をその病に冠することに賛同したいのである。
B5・頁224 定価(本体11,000円+税) 医学書院


これから胸部CT診断を学ぶ人のために

胸部CTの読み方 第3版 河野通雄 著

《書 評》村田喜代史(滋賀医大教授・放射線部)

 本書は,まだCTが目新らしかった15年前に初版が発行されて以来,多くの放射線科医,内科医に読まれてきた胸部CTの入門書であり,今回の改訂では最近のCT技術の進歩を反映して,新しい項目が加えられ,より充実した内容となっている。

初学者に理解しやすい記載

 最近では胸部CTに関する教科書も数多く出版されているが,その多くが専門家の論文の集合となっている場合が多い。これに対して,本書は著者である河野先生のポリシーとでもいうべき一貫した考え方で編集されている点に大きな特色がある。本書を通読して感じることは,新しい技術や検査法が内容に含まれているにもかかわらず,その記載は複雑難解にならず簡明である点である。本文を絞り込む一方で,読者の理解を助けるために,カラーをふんだんに使った模式図や標本写真が非常に多く使われていて,初学者にとっても理解しやすい記載となっている。また,本書には,神戸大学放射線科,および関連病院で実際に経験された129例の臨床例が掲載されており,肺野縦隔病変だけでなく,胸壁病変,心大血管病変,小児病変までカバーしている。個々の症例では,単にCT画像があるのではなく,多くの症例で単純写真との対比が示されており,その読影方法も詳しく解説されている。これは,CT所見をできるだけ単純写真に還元したいという著者の意図の反映と思われる。すべての症例でCT所見の単純写真への還元が可能であるわけではないが,このような厳しい単純写真の読影が重要であることは現在も変わりなく,その意味で本書は,これから胸部CT診断を学ぼうとする人にぜひ読んでいただきたい書の1つである。
 また,本書ではスパイラルCTや肺癌におけるBAG-CTといった項目が作られ,3次元画像やMPR画像といった新しい画像やBAG-CTといった新しい検査法が紹介されている。しかし,これらの新しい手法は現在進行形であり,その臨床的評価に関してはまだ定まっていない。しかし,読者に将来の胸部CT診断の1つの方向を代表的症例とともに呈示する記載となっており参考になるだろう。
B5・頁302 定価(本体10,000円+税) 医学書院