医学界新聞

NURSING LIBRARY 看護関連 書籍・雑誌紹介


生きた知識として臨床で活用できる

人体の構造と機能 エレイン N.マリーブ 著/林正健二,他 訳

《書 評》深井喜代子(川崎医療福祉大・看護学)

 看護者養成のための人体関連の教育は,看護学に理解と関心を示す医学・生物学系の専門家にもっぱら委ねられているのが現状だろう。ただ筆者は,そうした看護学の基礎教育は理想的には看護学者自身が担うべきであるとつねづね考えている。看護学者は看護者としてのアイデンティティを持ち,看護活動に必要な知識が何であるかを熟知しているからである。教科科目の最適な担い手は,療法に精通しているという理由から,その科目領域の研究者かつ看護者である。しかし,医学・生物学領域では,研究者と看護者のどちらも現役というのは不可能に近い。かといって,看護の臨床経験をもつ医学・生物学系科目の講義担当者が自然に育つような土壌はわが国にはまだない。ただ,筆者もそのはしくれなのだが,自然科学を専門にしていた学者が看護学を学び,今では看護学者となって基礎系教育にたずさわっている者もいくらかはいるようである。あるいはその逆の道を辿り,再び看護学に「帰ってきた」者もいる。

限られた時間で効率的に学べる

 本書の著者,マリーブの経歴を知って筆者はいささか嬉しくなった。彼女はもともと動物学者であった。看護学生に解剖生理学を教えるうちに看護に関心を持つようになった彼女は,なんと自らが看護学生となり,ついには看護学修士号まで取ったという。このような背景からだけでも,彼女の看護学教育に対する熱意と献身が十分伺える。看護学生に限られた時間で効率的な教育をするためには,医学・生物学の膨大な学問大系から効率的にどこを切り取り,生きた知識として臨床で活用できるよう教授するかが鍵となる。本書はまさにそのことに心血を注いで書かれた。
 本書は米国の教科書に一般的な章構成,すなわち章頭に学習目標を挙げ,章末に要約と復習問題を載せ,自己学習を助けている。また,硬い専門用語は著者独特のセンスでイメージ化して紹介されている。例えば,ミエリンを「ロウのように光沢のある」,ペースメーカーによる心筋の収縮を「バスに乗り遅れないように走る」などと初学者になじみやすい,しかも的を得た表現で説明する。翻訳にも原書の意図がよく反映され,実に読みやすい。さらに,重要用語の原語併記の配慮には看護生理学担当者として感謝申しあげたい。準備教育としての細胞生物学,化学の章もあり,高校までの理系科目の学習が不十分で大学での講義が難しいと感じている学生には,今すぐにでも参考書として薦めたいと思う。

最も望ましい解剖生理学の教科書

 本書の欠点を敢えて挙げるとすれば,心電図,脳波等の生体の電気現象に関する記述と,生命現象の実験的証拠を示す図表の引用が見あたらないことであろう。米国では心電図等の項目は臨床系の科目で詳しく教授されるようである。本書を講義で使用するとすれば,講義担当者の個性で補足したい部分「だけ」を資料等で補うことになるだろう。担当者の労はむしろ少なくなるかもしれない。
 いずれにしても本書は,わが国でマリーブのような看護学教育の担い手によるテキストが生まれるまでの当分の間,最も望ましい解剖生理学の教科書として重宝されるであろう。学生だけでなく多くの看護関係者の方にも活用していただきたい。
A5変・頁312 定価(本体4,800円+税) 医学書院


臨床現場における最適のマニュアル

がん診療レジデントマニュアル
国立がんセンター中央病院内科レジデント 編集

《書 評》山西文子(厚生省保健医療局国立病院部)

 今日の,臨床におけるがんの診療の場ほど変化の激しい領域はないのではないか。それは取りも直さず,近年のわが国における日々の診断,治療の技術が日進月歩しているということである。また,このような治療を受ける国民自身の治療に関する認識も変化し,つまり,がんは不治の病から慢性病へと認識,イメージが変化しつつある時期にきている。

時代の流れを踏まえた内容

 実際には,診断法や治療法の開発が進み,例えば,できるだけ悪い臓器を周辺の正常な臓器も含めてすべてを摘出していた手術の方法から,機能を温存して術後の生活のQOL(Quality of Life)を尊重した手術の方法や治療法が選択できるように変化してきていたり,患者に説明と同意(Informed Consent)を得ながら,臨床試験も本人が希望し,納得した場合に治療として選択され,実施されるようになっているということである。
 このような時代背景の中で,内科腫瘍学の専門家になるための臨床研修医を対象に作成された本書は,基本的な知識から最先端の治療方法に至る,臨床上重要なポイントを欠かさず述べている。

白衣のポケットに忍ばせたい

 特に,治療上の判断基準となる視点,各種分類,データに基づいた薬剤の適応量等が具体的に書かれ,毎日の臨床の現場で,すぐ手にとって確認しながら実践できるように非常に役立つ知識が網羅してある。白衣のポケットにこっそり忍ばせておきたくなりそうな重要なマニュアルである。
 また,色分けしてあるブルーの枠内は,最も基本となる分類や適応等がまとめられてあり,重要なポイントがすぐにわかるように編集されており,とても便利である。これは,がん診療の場でともに働く看護婦にとっても,同時に基礎知識として,最低限知っていなければいけないポイントとして活用でき,有り難い書物である。実際にがんセンターで働いた経験がない看護婦にとっても,内容を見ればそのことが理解できる書物である。
 さらに,私の中にすぅーと入り共感できる部分がある。それは編集の仕方である。臨床の実践の中で必要とされ,執筆,出版されたためであろう。
 具体的には,初めに,がん告知の問題,化学療法の基本から入り,次に臓器別がんの分類がなされており,その分類にそって治療法が述べられ,それらの中で臨床でよく出会い,かつ重要な症状が選択されて述べられていることによる。

実践に必要な知識を網羅

 がん診療の現場に限らず,そこで行なわれる診療によって,病棟の機能面の特徴や看護における特徴がでるが,実践を主として学ぶ者にとっては,学問的に優れた学術書がすぐ現場での実践に役に立つとは言えず,より現場に即した基本的内容やデータ等,実践活動に必要な知識が網羅されている書物のほうが,学術書にも勝る手引書となることの見本である。 
 これこそが実践にたずさわる者にとっての優れたマニュアルでもある。また,どこから開いて見ていっても活用できるように工夫されている。付録や最後のメモ一覧も活用しやすいまとめ方になっていて嬉しい。ぜひ,看護婦も活用してみていただきたい。
 しかし,これからがん診療の場に入ろうとする者や看護婦にとってはやや専門的すぎる感がある。つまり,この本は臨床家の入門書というより,最先端の現場で働くがんの専門家が活用するのに最適の本である。
 看護婦の立場から欲を言えば,この本の内容の前提となる基本的な知識の紹介が網羅されている入門書が,他に1冊まとめられればなおありがたい。
B6・頁296 定価(本体3,800円+税) 医学書院


高齢者精神看護に必要な知識と技術

高齢者精神看護の実際 ミルドレット・O・ホグステル 編著/川野雅資 監訳

《書 評》山幡信子(藤田保衛大教授・看護学)

 高齢者の精神看護は,従来,医療施設における精神疾患に看護の重点をおく傾向にあった。しかし,本書は,高齢者のメンタルヘルスについて,医療施設のみならず,ナ-シングホ-ム,在宅および地域等における高齢者の問題を促え対応している。ナ-スは,高齢者に可能なかぎり満足した人生を送る機会を提供するため,状況に対応した,他専門職との連携による活動の有効性と必要性について解説されている。

地域も視野に入れ綜合的に促える

 本書は,13章に分類構成され,それに付録がある。第1章は,高齢者精神看護の概念が述べられている。第2章は,高齢者のメンタルヘルスの向上について,人生を満足に,悪影響を最小限にする管理活動について解説されている。第3章は,社会資源について,人的・物的資源および老人看護実践基準と精神保健実践基準が述べられている。第4章は,アセスメントについて,客観的,主観的情報と論理的分析。看護診断の重要性とアセスメント用具例が示されている。第5章は,向精神薬について,薬の用法と副作用,薬物の高齢者への影響と,看護のかかわり方が解説されている。第6章は,抑うつ,自殺,死別について,問題の重要性,原因,症状および看護介入方法などの解説がされている。第7章は,せん妄,痴呆,その他の認知障害,総合悪化尺度による認知機能の評価の解説,アルツハイマ-病の看護ケア計画例が示されている。第8章は,精神分裂病,妄想,不安,身体的表現障害について,疾患の特徴,症状,原因,看護ケア方法が述べられている。第9章は,物質関連障害について,薬物乱用,嗜癖,アルコ-ル症に関しては,看護介入の例が示されている。第10章は,総合病院における入院高齢者精神看護について記述されている。高齢者は精神的問題に加え,慢性疾患や種々の問題を抱えていることに触れ,ナ-スは多職種専門家と連携する治療チ-ムの中で機能する必要性が述べられている。第11章は,ナ-シングホ-ム入所者は新しい環境に対する不適応による精神行動上の問題をもつが,それら入所者のケアとスタッフの教育管理について述べられている。第12章は,在宅での高齢者精神障害者のケアと家族の問題について解説されている。第13章は,地域における高齢者の精神的問題と様々な地域資源の活用について解説されている。
 付録には,簡易式精神状態質問票,北米看護診断協会の看護診断などが提供されている。

高齢者看護に取り組む者すべてに

 本書は高齢者精神看護,とりわけ精神症状を示す高齢者の看護にかかわる看護専門家や介護者,地域保健看護,内科-外科の高齢者看護,老人ホ-ム,訪問看護ステ-ション,その他ソ-シャルワ-カ-など,保健・医療・福祉従事者,これらに関係する学生,教育者に,是非,一読をお薦めしたい有用な書である。
B5・頁404 定価(本体4,400円+税) 医学書院MYW