医学界新聞

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


WPW症候群の全貌が理解できる

WPW症候群 細田瑳一 監修/笠貫宏 編集

《書 評》橋場邦武(長崎大名誉教授)

 本書は約200頁の比較的ハンディな書物であるが,その内容は非常に詳細で充実しており,まさにWPW症候群の総集編というべきものである。
 WPW症候群は1930年に最初に報告されたが,それから今日までの70年たらずの間に,その病因から治療までの全容が明確にされてきた。副伝導路の形態学的裏づけ,頻拍発作の機序の推定,薬物による内科的治療の時代の後に,約30年前からは臨床電気生理学的方法の発展によって,個々の症例における頻拍発作機序の精密な解析が可能となり,それを基礎として,各種の抗不整脈薬の作用機序の特徴の解明,外科手術による根治治療の開発とその集積,さらに侵襲の少ない高周波カテーテルアブレーション法の発展による完成度の高い根治的治療法の確立など,まこと華々しい魅力に満ちた歴史であった。

本邦の成績を豊富に提示

 読者は本書によって,このようなWPW症候群の全貌を,その歴史をも含めて理解することができるであろう。本書のような共著による概説的書物では,ともすれば外国文献の紹介が中心の総的特集になってしまうきらいもあるが,本書の優れた特徴は,必要な項目を網羅しながら,一方では,だれもが知りたいと思う本邦の実際の成績が豊富に提示されていることである。そのための多くの図表は本書を読みやすく,迫力あるものとしているばかりではなく,このことが本書を日常診療に有用な教科書としている。
 このことを可能にしたのは,本書の「序」において細田東京女子医大名誉教授が述べておられるように,本書のほとんどの執筆者が,故入沢宏教授によって始められた「心臓電気生理研究プロジェクト」の第5回公開研究会として企画された「WPW症候群のすべて」の発表者であることによると思われる。第1回から第4回までの公開研究会は純粋に基礎的なテーマについて,いずれも本邦第一線の研究者によるきわめてレベルの高い活発な研究会であった。第5回で初めて取り上げられた臨床テーマによるこの公開研究会の演者も本邦第一級の専門家であり,第4回までの流れを受けて,発表者自身の豊富な実績が示された高度な内容の研究会であった。800名もの多数の参加者を得て,昼食をはさんで約12時間に及んだこの研究会の成果を広く伝えるために刊行されたのが本書であり,研究会の熱気までもが読みとれるように思われる。この公開研究会と本書の刊行を企画・推進された細田・笠貫両先生のコンビと執筆の諸先生に,心からの敬意を表したい。

個々の患者への対応も記載

 本書の構成としては,WPW症候群の歴史,病理,疫学,心電図などによる副伝導路の部位診断,臨床電気生理検査,薬物療法,手術療法,カテーテルアブレーション,その合併症,無症候性・軽症候性症例,失神発作例,突然死例,心肺蘇生例など,本症候群のすべての項目が網羅されており,この方面の専門家でも,観念的には理解していたことについても,現在の高い水準においてあらためて興味深く読まされるであろう。甘い話ばかりではなく,個々の患者への対応についてまで教えられるところが多い。
 WPW症候群は日常遭遇することが多い。すぐれて学術的であるとともに,すぐれて臨床的である本書を,不整脈に関心を持つ一般医家,研修医,循環器専門医,カテーテルアブレーションに関与している不整脈専門医を含めて,広く推奨したい。単にWPW症候群だけではなく,不整脈全般についても学ぶところが大きいと思われる。
B5・頁220 定価(本体7,800円+税) 医学書院


飛躍的に増加する専門用語を解説

整形外科用語マニュアル 第2版 滝川一興 訳

《書 評》加倉井周一(東大教授・リハビリテーション学)

 日進月歩の医学の進歩につれて,専門書に使用される新しい用語も飛躍的かつ驚異的に増加している。アメリカの文献を読むとやたらに略語が多すぎて辟易するのは筆者だけではないはずである。一方,国内では日本医学会医学用語管理委員会が文部省医学用語標準化調査研究報告書(森亘代表,1996)を基に,新しい医学用語辞典の編纂を企画中であり,日整会を含めた各医学会分科会が積極的に協力することになっている。筆者も昨年から日整会学術用語委員会委員長をおおせつかり,整形外科学用語集第5版の作成作業の準備にとりかかっているところである。

各領域の進歩を反映

 本書の第1版(原書2版)の翻訳が僚友滝川一興氏により刊行されたのは1986年であり,筆者も義肢装具の用語についてささやかなお手伝いをした記憶がある。このほど11年ぶりに第2版(原書5版)が刊行された。初版に比べ整形外科各領域の進歩に伴い加筆された結果,ページ数も約32と大幅に増加している。特に著明な箇所は(1)骨折の程度・タイプ・機転による分類と,(2)画像診断学の項目に血管と放射線療法を加えたこと,(3)付録に冠名筋骨格系疾病用語のICDコードを新設したこと,その他に本書の売物である(4)筋骨格系疾病術語,(5)整形外科的テスト・徴候・操作,(6)局所解剖と手術の項目が大幅に増えていることである。
 ただしページ数の増加がただちに読者の便につながるとは限らない。例えば整形外科的テストの項目には220~230の徴候が記載されているが,冠名記載徴候で筆者が不明なものがあまりにも多すぎるため,この領域で定評のあるGerald JA & Kleinfeld SL:“Orthopaedic Testing”, (Churchil Livingstone, 1993. ちなみに,この書籍は各テストの具体的なやり方が写真でわかりやすく説明されている名著である)と対照してみた結果,依然としてよくわからないものがかなり多数みられた。このようなことは人名のついた手術法など本書のいたる所に散見される。本当に読者の便につなげるためには,例えば骨折の分類には出典と図を加えるなどの工夫が必要と思われる。切断術の記載では従来のabove(below)-elbow amputationからtranshumeral(transradial)amputationへ,またabove(below)-knee amputationからtransfemoral(transtibial)amputationへ変更しているが(A.A.O.S.:“Atlas of Prosthetics Mosby”,1992ではすでに改定ずみ),本書では以前のままになっている。また先天性四肢欠損症の分類ではいまだにFrantz & O'Rahillyの方法(ちなみに本書では表8-2,8-3の切断高位の改正項目がISOの分類に相当)が踏襲されている。

自然発生的インセンティブに基づくミニ百科

 本書はBlauvelt C.T.とNelson F.R.T.の2名の編者によるものであるが,整形外科医である後者はさておき,前者は整形外科とは直接関係のないmedical secretary出身のscientific writerであることが,このような内容未整理の原因ではないかと推察している。翻訳者が序でいみじくも述べているように,本書の特徴は自然発生的インセンティブに基づくミニ百科辞典であり,それに伴う本書の長短所を十分理解した上で活用すべきであろう。本書を整形外科医だけでなくさまざまな医療関連職種に利用して貰いたいとの訳者の強い希望があることをつけ加えておく。
 結論として,整形外科専門の開業医かつ特別養護老人ホーム施設長として毎日多忙な生活を送りながらアメリカ整形外科学の新しいいぶきを日本の読者に紹介してくれた翻訳者の労を深く感謝して,ささやかな書評としたい。
A5・頁564 定価(本体6,800円+税) 医学書院


システムとしての免疫系をヴィヴィッドに

標準免疫学 谷口 克,宮坂昌之 編集

《書 評》宮坂信之(東医歯大教授・内科学)

 免疫学は近年,日進月歩の勢いで変遷しつつある。なかでも,分子生物学の進歩によって新たな遺伝子が次々とクローニングされ,免疫学は新語で溢れかえっている。そして,従来の既成概念も音をたてて崩壊し,新たな革命的な概念が受け入れられる一種のカオス(混沌)状態であるといっても過言ではない。このような現状において,医学生や臨床第一線の医師がこれをみずから整理して理解するのは容易なことではない。むしろ,皆その努力に疲れ果て,あきらめている人々も決して少なくない。免疫学イコール難解の固定観念ができ上がりつつあるのである。

免疫系の基本的な枠組みを提示

 『標準免疫学』は,読者に免疫系の基本的な枠組みをわかりやすく,それでいて克明に語ってくれる。ただ単に言葉が羅列されているのではなく,システムとしての免疫系がヴィヴィッドに語られている点がこの本の特徴である。
 中身を少々ひもといてみると,第1章はプロローグとして免疫系の生物学的意義が語られる。免疫系は「自己」と「非自己」を識別する機構であり,防御機構は単なる結果に過ぎないことが明確に語られている。「自己」に対して反応する結果,生体は「非自己」を排除することになるのである。一方,免疫系の「内なる反逆」が自己免疫疾患をもたらすこととなる。第2章は免疫系を構成する細胞群,第3-5章は免疫系の多様性と特異性の分子基盤,第6章はリンパ球の分化と成熟,そして第7-8章は細胞内シグナル伝達機構へと続く。そして,第9章では免疫制御と寛容の分子機構,第10-11章で生体内における免疫応答のダイナミズムが,第12章ではエピローグとして免疫系ホメオスタシスの破綻による自己免疫疾患が語られる。この流れをみても,本書がシステムとしての免疫系を浮き彫りにしようとする意図がわかるであろう。

きわめてup-to-dateな記載

 執筆者はいずれもわが国を代表する免疫学者ばかりである。その平均年齢がきわめて若いことがこの本の特徴でもあり,また免疫学の特徴でもあろう。したがって,中身はきわめてup-to-dateであることはいうまでもない。巻末にあるCD分類もCD166(!)まですべて紹介されているのもうれしい。
 本書は最初から通読するのもよい。しかし,忙しい人はまず知りたいところを開いてみるのもよかろう。いずれも十分過ぎるくらいの知識が得られるであろう。
 この手の本はhalf-lifeが短いのが特徴である。本書もできれば3年ごとくらいに改訂されることを期待したい。そして,できればそのときには贅肉を落として少しスリムになればもっとよいであろう。
 免疫学に興味を持つ学徒に是非とも一読をお勧めしたい本である。
B5・頁592 定価(本体8,000円+税) 医学書院


中高年女性のQOL向上に大きく寄与

更年期外来診療プラクティス 青野敏博 編

《書 評》沼口正英(渋川産婦人科医院長)

 急速な高齢化社会を前に,いわゆる更年期といわれる50歳前後の女性人口は,近年急激な増加傾向を示しており,21世紀を迎える2001年には50歳以上の人口は2619万人に達すると予想されている。従来,産婦人科における患者の年齢層はreproductive age,すなわち受胎可能年齢が中心であり,10~20年ほど前までは「更年期」というテーマは,大学での講義や実地臨床でもその比重は一部の専門機関を除いて比較的低いのが実情であった。しかし上記のように,人口構成の変化に伴い,われられのような一般的な地域医療に携わる者でも更年期は等閑視できない現状になっている。

更年期障害者は内科をfirst choise

 更年期には多くの身体的,生理学的あるいは精神的変化が生じ,種々の症状が出現してくる。それゆえ,産婦人科外来に多い性器出血,帯下,下腹痛等といった特有の主訴ではなく,hot flush,発汗,めまい,頻脈,動悸,腰痛,頭重感,不眠,憂鬱,記銘力低下といった,いわゆる不定愁訴を主訴とする場合が多いため,しばしば内科疾患との鑑別に難渋することがある。さらに更年期,老年期には各種の成人病の好発年齢に一致するので,上記のような症状から患者さんも内科をfirst choiceとして受診することが多いと考えられ,この場合,種々の内科疾患が否定され更年期障害と判断されても,内科医はホルモン補充療法(HRT)を行なうことに躊躇することが(その副作用を懸念して?)多いと聞く。したがって更年期の診断治療は一見単純,容易であるようで難しいところも多々あり,薬物服用指導も含めた患者指導は複雑を極め苦慮することも少なくない。
 私見であるが,更年期障害患者の治療には,十分な時間をかけて問診をとることとともに,全身に眼を向けることが大切である(あり来たりであるが)。また,年余にわたる治療を要する場合があるが,当初は更年期障害であったのがその間に器質的疾患に罹患することもあるので,ただ漫然と投薬するのではなく,愁訴や全身の変化を見逃さずに対処することが必要である。さらに薬物治療もhigh responderやnon responderがある一方,服薬の内容によっては副作用の蓋然性も考慮し,1つの治療法に固執しないようにすべきである。

現場手技的な側面に立った内容

 本書ではかなり詳細に更年期の生理,更年期障害の素因が解説してあるとともに,診断,治療,患者指導といった現場主義的な側面に立っての内容で,外来の机上でのマニュアル本的に活用できると思う。更年期障害治療薬の中では最近HRTに対する関心が高まっているが,欧米での実績を基にしてのマスコミ主導型の傾向もなきにしもあらずで,漢方療法を含めた種々の薬物療法を正しく理解し,的確な使用を心がければ,その幅広い効能は中高年女性のQOLの向上に寄与すると思われる。同時に的確な治療法を選別した上できめ細かな患者指導,服薬指導などを通しての対話が何よりも必要だろう。
B5・頁256 定価(本体6,200円+税)医学書院


臨床医の座右の書としても役立つ教科書

標準耳鼻咽喉科・頭頸部外科学 第3版 鈴木淳一,他 著

《書 評》亀井民雄(群馬大教授・耳鼻咽喉科学)

 臨床医学の教科書は,従来,疾患を中心とした縦断的記述によることが多かった。特に耳鼻咽喉科学のように独立した多数の器官,領域からなる場合,この傾向が強かったと言える。例えばメニエール病について,あるいは声帯ポリープについてなどのようにして,各疾患ごとに完結的記述を行なっている。しかし近年の医学知識の膨大化,医療技術の目覚ましい進歩は,教科書においてこのような記載方式をとることを不可能にしてきている。記述に重複が多くなり,書物が膨大となってしまうのである。医学部卒前教育において基本的事項を効率よく学ぼうとする場合,このような言わば全書的教科書は不向きになってきていたのである。

基本的事項を効率よく学ぶ

 本書の一番大きな特徴は,このことへの工夫である。本書は全500頁からなるが,まず,最初の章で耳鼻咽喉科疾患を24の主要疾患にまとめ(I.140頁),ついで主要治療法(II.54頁),臨床解剖と生理(III.126頁).主訴による鑑別診断(IV.26頁),基本的外来診療(V.10頁),主要検査法(VI.94頁)等についてそれぞれ独立した章としてまとめている。これらにさらに,付録としてプライマリ・ケア(3頁)と,TNM悪性腫瘍分類(8頁)が加わる。執筆者らはこれを「知識」の部(I-III)と「技術」の部(IV-VI)に大別しているが,II-VIは一種の横断的分類(多くの疾患に共通する事項の分類)とみてよい。このことによって記述の重複が省かれ,しかも例えば三者併用療法,めまい,アレルギー検査等の具体的な臨床事項が,それぞれ独立に,しかもそれらが属する分類(章)の中での位置づけとともに知ることができる。この意味で本書は単に卒前教育に役立つのみでなく,卒後教育の手引きとして,また耳鼻科以外の臨床医の座右の書としても役立つ内容となっている。

テーマ性のある記述方式

 本書の第2の特徴は,重点的記述である。教科書というと往々にして記述が総体的・網羅的になり,勢い重要な基本的事項が全体の記述の中に埋没しがちであるが,本書は特に疾患において記述が重点的に行なわれている。すなわち,主要疾患の章(I)において耳鼻咽喉科(広義)の主要疾患は急性中耳炎,慢性中耳炎,顔面神経麻痺,メニエール病,内耳性難聴,幼小児難聴,言語障害,構音障害,脳幹・小脳の循環障害,聴神経腫瘍,慢性副鼻腔炎・鼻アレルギー,上顎癌,鼻・顔面・顎外傷,唾液腺腫瘍,慢性扁桃炎・アデノイド,口蓋裂,舌癌,上咽頭癌,喉頭炎,声帯麻痺,喉頭癌,気管・気管支・食道の異物,甲状腺腫瘍の24疾患単位に分けられ,他の疾患はこれら疾患単位に関連する疾患群としてやはり重点的に配列され,記述されている。治療や検査法の疾患以外の項目についても同様である。医学教育においてはこのような,言わばテーマ性のある記述方式がきわめて効果的である。
 本書の第3の特徴は,頻繁な脚注の活用であろう。これにより各種の臨床的注意や指摘,寸評,言及が行なわれ,同時に関連事項への引用も多数加えられている。本書はまた図表も多く,これらが本文の理解を助けると同時に考えるための資料としても役立っている。要するに本書は教科書として画期的であり,しかもどこからでも面白く読み進められる専門の書でもある。
B5・頁500 定価(本体8,000円+税) 医学書院