医学界新聞

医療有資格者を移植コーディネーターに

「日本臓器移植ネットワーク準備委員会報告書」(概要)


 臓器移植をわが国に定着させるために,また公平公正な臓器斡旋体制を整備することを目的として,1992年12月に設置された日本臓器移植ネットワーク準備委員会は,さる8月18日にその検討報告書をまとめ厚生省へ提出した。
 本号では「臓器移植ネットワークの整備について」と題する報告書の概要および提出に際しての意見書を掲載する。


●臓器移植ネットワークの整備について

検討の経緯

 「臨時脳死および臓器移植調査会」(脳死臨調)は,1992年1月に「臓器移植を進めるにあたっての基本的原則として,確実な脳死判定とならび,移植機会の公平性の確保等,移植を適応とする患者の居住地や治療を受けている医療機関が異なっていたとしても,公平にその機会が与えられることがきわめて重要である。その上で,臓器移植のための全国で一元的に“臓器を斡旋する体制(以下ネットワーク)”の整備が不可欠」と指摘する答申をまとめた。
 この答申を受け,厚生省ではこれらの課題を解決するために「臓器移植ネットワークのあり方等に関する検討会」を同年10月に設置し,専門家による検討を行ない,翌年5月には中間報告をまとめた。この報告では,「全国で唯一のネットワークの下に地域における拠点(ブロックセンター)を整備し,かつ臓器提供者(ドナー)に関する情報の経路の一本化や“臓器移植を希望する患者の中から医学的に最も適切な患者を選択する基準(レシピエント選択基準)”等の全国統一化を図ることが必要」との基本的考え方に立ち,将来のめざす方向として,移植実施施設とは独立した組織として,臓器移植のためのネットワーク本部および数か所のブロックセンターをそれぞれ整備すること等が提言された。

日本臓器移植ネットワーク準備委員会
 この中間報告を受け,厚生省は1993年12年に日本臓器移植ネットワーク準備委員会を設置,(1)レシピエント選択基準およびドナー適応基準,(2)臓器移植のためのネットワーク本部,(3)ブロックセンター,(4)意思表示カード,(5)腎バンク等の取扱い,(6)臓器の斡旋にかかわる連絡調整を行なう者(コーディネーター)の養成と研修等について討議を進め,翌年3月の「レシピエント選択基準」に続き1995年4月に「腎臓移植ネットワークの整備について」の報告書をまとめた。
 また,本年6月17日には「臓器の移植に関する法律」(臓器移植法)が成立,委員会としては同月26日に,心臓および肝臓の「レシピエント選択基準(細則)」を公表,さらに10月16日に施行される同法の適正な運用を図るため,臓器移植のためのネットワークの設立をめざした最終的な検討を行ない,今回の報告書「臓器移植ネットワークの整備について」を取りまとめた。

基本的な考え方

 心臓停止後に提供された腎臓による腎臓移植については,すでに(社)日本腎臓移植ネットワークがその役割を担っており,一連の連絡調整を行なう体制が確立されている。移植医療を推進するための組織づくりのためには,既存のこの日本腎臓移植ネットワークを母体として,全国を通じて唯一の統一的な臓器移植ネットワークを整備していくことが適切。また,多臓器を対象とする事業の展開に際しても,高い公益性が求められることから,行政と密接な連携を図りつつ運営がなされることが重要である。したがって,下記の考え方を基本原則とする(社)日本臓器移植ネットワーク(仮称)の設立が求められる。
1)臓器移植ネットワークは臓器移植法に規定する臓器の斡旋業務を行なう
2)公平かつ適正なシステムを構築する
3)レシピエント登録およびドナー情報を一元化する
4)レシピエントを公平かつ適正に選択する
5)臓器移植に関係する事項についての評価および個人情報の保護に配慮しつつ必要な情報公開を行なう
6)関係者の協力体制を整備する
7)臓器移植ネットワークを通さない臓器移植は認めない(生体移植を除く)
8)国際間の臓器(すでにアイバンクを通して斡旋が行なわれている角膜を除く)の斡旋に関しては,臓器移植ネットワークを一元的窓口とする
9)意思表示カードが多くの国民に所持されるよう普及啓発に努める

臓器移植ネットワークの運営等

 ネットワークの運営に関しては,基本的には北海道,東北,関東甲信越,東海北陸,近畿,中四国,九州沖縄の腎臓移植ネットワークの7つのブロックセンターを単位として活動を行なうが,心臓および肝臓移植については移植施設が東西2チーム(心臓=東女医大,阪大,国立循環器病センター,肝臓=信州大,京大)に限定されていることから,移植病院との連絡調整,臓器の斡旋に直接かかわる業務については当面,本部および基幹となるブロックセンター(東地区=関東甲信越,西地区=近畿)に集約して行なうことが適切と考えられる。
 将来的には移植実績を踏まえ,患者の選択の公平性の確保のため7つのブロックを基本単位とする体制をめざすべきである。

レシピエントの登録
 臓器移植を希望する患者が待機者名簿に登録されるまでの手順は,(1)各医療機関の施設内検討会で臓器移植の適応について評価がなされ,適応があると判断された場合,医療機関は関係学会の適応検討会にその患者の適応について審査を依頼し,(2)依頼を受けた適応検討会においてはその審査を行ない,その結果について各医療機関に伝えるとともに,適応があると判断された患者に関して臓器移植ネットワークに登録する意思があることを確認した上で,(3)適応検討会から臓器移植ネットワークに連絡を行ないレシピエント名簿に登録する。 情報管理体制
 腎臓移植においては,全国7つのブロックセンターを基本に名簿の更新やレシピエントの選択作業が行なわれているが,心臓および肝臓については,当面全国の情報を1か所に集約し,名簿を作成管理することが求められる。また,患者の状態に合わせ登録している情報を随時更新していくことが必要。なお,情報の更新を行なう場合には,各医療機関においてレシピエントの理解を得るように努めることが必要である。さらに,臓器移植ネットワークの関係学会の適応委員会や移植施設と定期的に情報交換を行なうことが適切と考える。レシピエントの病状については,各医療機関から報告を受けるだけでなく,日本循環器学会や日本肝臓学会等の関係学会で構成される適応委員会においても,定期的に運営されることが望ましい。

移植施設
 心臓および肝臓等の移植施設についても,腎臓の移植施設と同様に臓器移植ネットワークに登録するものとし,登録された施設だけに臓器を配分することとすべきである。万が一にでも,臓器移植ネットワークを介さない臓器移植が行なわれた場合は,移植を行なった施設に対して登録を抹消すること等の処置を含めた厳正な処置がとられるべきである。

普及啓発

 臓器移植法では,脳死後での心臓や肝臓などの臓器の提供に関して,あらかじめ書面により脳死の判定に従うことおよび臓器を提供することについての本人の意思表示が必要となることから,心臓や肝臓等の移植においては意思表示カードの普及が極めて重要な課題となっている。
 国および地方公共団体における取組みはもとより,臓器移植ネットワークにおいても意思表示カードの普及に最大限の努力を払うことが求められる。また,ドナーとなり得る国民すべてにカードが浸透することをめざして計画的に配付するよう努めることが必要。国民の理解と協力を得るためにも,国および地方公共団体は意思表示カードとともに普及啓発用パンフレットを併せて配付するなどの精力的な取組みが切に望まれる。

地方公共団体との関係
 特に,臓器移植が適応となる難病の患者への対策は,今後地域保健対策全般の中で取組むべきであり,保健所においても意思表示カードの普及やコーディネーターとの連絡調整等の業務について臓器移植ネットワークと連携を図りつつ,各地域で展開していくことが適当と考えられる。

コーディネーター

 臓器移植を適正に実施していくためには,移植施設や臓器提供側の医療機関とも独立した立場で,臓器移植にかかわる情報の収集,ドナーの家族に対する臓器移植についての説明等の実施とともに,適正なレシピエントの選択,臓器の運搬等の一連の臓器移植にかかわる業務を行なうコーディネーターの役割は極めて重要である。
 特に脳死後の臓器移植に際しては,これまでの心臓死以後の移植と異なり,例えば臓器提供者の家族に対して脳死について深い理解が得られるように説明することが求められる。また心臓や肝臓の移植は,臓器の摘出から血流の再開までの時間的制約が大きいため,搬送手段の選択等に細心の注意が必要となることなどから,高い専門性を持つコーディネーターの確保が強く要請される。
 コーディネーターの確保に向けては,養成の段階からの取組みの強化が重要と考えられるが,当面の措置として,すでに腎臓移植についての経験等を有する腎臓移植ネットワークのコーディネーターおよび都道府県コーディネーターを再教育しつつ,拡充を図っていくことが適当と考える。
 コーディネーターについては,基本的には医療有資格者等を対象として,一定以上の経験,研修を経た上で,臓器移植ネットワークが実施する試験に合格した者とし,質の高いコーディネーターの養成確保に努めることが必要である。

 今後の臓器移植ネットワークの運営の基本的事項について検討が必要となる場合には,公衆衛生審議会成人病難病対策部会の中にすでに設けられている臓器移植専門委員会において検討を行なっていくことが望ましいと考えられる。

●意見書

 同委員会は同日付けにて「本委員会の検討すべき事項ではないが,脳死した者の身体からの臓器移植の推進のため,委員会として意見を申し述べることとするので,その点について配慮いただくようお願いする」とした下記の意見書を,厚生省保健医療局(小林秀資局長)宛に提出した。


1.予算の手当て
 臓器移植ネットワークの行なう業務が,臓器移植の適正な実施のために不可欠であり,かつきわめて公共性の高いことに鑑み,その運営に対して政府として必要な予算の確保に努められたい。
2.小児の臓器移植
 「臓器の移植に関する法律」においては,臓器の提供に際して,本人の書面による意思表示が必要であり,事実上移植が必要な小児の心臓病患者に対する臓器移植の途が閉ざされている。したがって,小児であっても心臓移植が受けられるように,政府として早急に対策を検討されたい。