医学界新聞

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


臨床の視点から冠動脈病理を解説

目でみる急性冠動脈症候群 インターベンション前後の冠動脈病変 堀江俊伸著

《書 評》延吉正清(小倉記念病院副院長)

 堀江俊伸先生がこのたび『目でみる急性冠動脈症候群-インターベンション前後の冠動脈病変』という本を出版された。以前にも『心筋梗塞-臨床所見と病理所見の対比』(医学書院刊)という大著を出され,この本も臨床から見た冠動脈病理所見ということで,われわれ臨床医には大変有意義な本であった。今回の内容は,インターベンションを行なっている人にとって,その前後で冠動脈が病理学的にどのようになっているか,大変興味のある内容となっている。

臨床と病理学所見を対比して説明

 本書は,前半の部分は狭心症や心筋梗塞の冠動脈病変をわかりやすく臨床と病理学所見を対比して説明し,血栓の関与の重要性,内膜の破綻による血栓形成,また心筋梗塞発症例には,冠動脈造影上冠狭窄が軽度でも,組織学的には内膜肥厚があり,その内膜部の破綻により血栓が形成されて心筋梗塞を発症する例を呈示し,あまり有意の冠狭窄がなくても梗塞発症が起こる可能性があることなどを病理学的に示しておられ,貴重な所見が述べられている。
 冠動脈インターベンションでは,PTCAによる拡大が血管の解離などによって起こっていること,その後の治療過程には新生内膜がその部分を覆って治癒していくことを示し,これが高度になると再狭窄が発生し,ある年月が経過すると新生内膜が少なくなって内膜が安定することが示されている。

PTCA後の病理学的変化を詳細に

 PTCA直後に内膜の破綻が起こり,血栓が形成され,冠動脈が閉塞する例や,通常,われわれが遭遇するPTCA後の合併症やflap, dissectionなど病理学的によく説明しておられ,PTCA直後にはこのような病理学的な変化が起こっていることをインターベンションを行なう医師は念頭に入れておくことが重要であることを呈示している。
 また,PTCAをした後は,その部位のアテロームが固定化され,線維化し,内膜の破綻を起こす危険性が少ないのではないかとの所見が示されており,われわれがPTCAの長期予後を見ていく上で注目すべき記載である。さらにバイパス血管の病理,特にグラフトの内膜の維持性,肥厚がどのように起こっているかも多くの例で示されている。
 このように本書は,臨床家であり病理学者である堀江先生が,臨床家として冠動脈病理を研究され,われわれの疑問点に的確に答えてくださっている。インターベンションを志す者はもちろんのこと,冠動脈全般の治療にあたっている一般臨床家にも必読の書であると思う。
B5・頁384 定価(本体23,000円+税) 医学書院


精神科薬物療法の重要なデータを網羅した良書

精神科薬物ハンドブック 向精神薬療法の基礎と実際 第2版
H. I. カプラン,B. J. サドック 原著/神庭重信,八木剛平 監訳

《書 評》風祭 元(東京都立松沢病院長)

精神科薬物療法の進歩の早さを 反映

 本書は,現在のアメリカでの標準的教科書である『Comprehensive Textbook of Psychiatry』の編者であるカプラン,サドック両氏が,その薬物療法の項を独立させて新知見などを追補した『Pocket Handbook of Psychiatric Drug Treatment』第2版(1996年刊)の翻訳版である。第1版同様,神庭・八木両氏の監訳の下に慶應義塾大学医学部精神神経科の若手医師たちが翻訳し,わが国の実地医家に役立つ部分を注として加えて発刊されたものである。監訳者も序文で述べているように,原書の第1版は1993年に発行され,その改訂版が1996年にはすでに発行されていることは,米国における精神科薬物療法の進歩の早さと,本書の需要の大きさを示しているのであろう。その1年後に日本語で本書が読めることは,われわれにとって嬉しいことである。
 本書は,総論的な「1.精神薬理学原理」に続いて,アルファベット順に,β―アドレナリン受容体拮抗薬からゾルピデムまで35種の薬物(群)の薬理学,適応,使用法などが詳しく述べられている。最後の5章には第1版にあった「精神療法と薬物療法の併用」,「臨床検査と薬物療法」,「開発中の薬物」,「中毒と大量服薬」の項の他に,新しく「薬物起因性運動障害」が追加されている。
 第1版と変わった点は,新しくナルトレキソン(オピオイド依存治療薬),タクリン(アルツハイマー病治療薬),ベンラファキシン(新抗うつ薬),ゾルピデム(睡眠薬)が独立した1章として追加されている点である。

本邦で使用される薬物の情報を 詳細な訳注で解説 

 日本語訳には,第1版の訳書と同じく,原書にはなくてわが国で用いられている薬物の情報が詳細な訳注で補われている。
 評者は,かねてからわが国の精神科薬物療法は,他の先進諸国に比べて自己流で科学性に欠ける点が多いことを指摘してきた。特に同一種の薬物の同時多剤併用や無期限に続けられる抗精神病薬,抗パーキンソン薬の大量長期使用などは,他国に例を見ないものであり,その結果として長期入院患者に高率にみられる慢性の非可逆的副作用は,大きな精神医療上の問題となっている。
 現時点でのできるかぎりの合理性と科学性を追求した本書が,精神科医の生涯教育のためにも,これから精神科薬物療法の経験を身につけようとする研修医のためにも邦訳で読まれ,利用されることが望ましい。訳文はよくこなれており,このような本にありがちな翻訳臭を感じさせない。A5判294ページの中にきわめて大量の重要なデータの含まれている良書である。
A5・頁328 定価(本体5,200円+税) 医学書院MYW


臨床に必要な項目を順序立ててコンパクトに

臨床検査データブック1997-1998 高久史麿監修

《書 評》岩田 進(日大板橋病院・臨床検査部)

 近年,医学の進歩に伴って医療現場では知っていなければならないことや,覚えていなければならない事柄が飛躍的に増えている。臨床検査領域についても例外ではない。検査を利用する臨床家も,測定に当たる検査技師も自分の専門分野はともかくとして,日常診療に利用されている検査項目すべてについて基準値や臨床的意義,検体の保存法,薬剤が検査結果に及ぼす影響などを覚えているのは無理である。

臨床で異常値を手にした時

 臨床で異常値を手にした時,その意味や出現のメカニズムを知り,他のデータとの関連を考えることは,病態を把握する上できわめて重要である。また検査技師が各診療側からの問い合わせに的確に対応するために基準値をはじめ,薬剤の影響,他の関連検査を知る手段を講じておくことは必須である。
 本書は,そうした場面で利用するに大変便利な構成と内容になっている。まず,「臨床検査の考え方と注意事項」,「検査各論」,「疾患と検査」の3部からなっており,「検査の考え方」の項では検査データ判読の基礎,基準値・基準範囲の概念と正しい利用法,保険請求上の注意点などが解説されている。
 「検査各論」では600を超える検査項目すべてに,基準値,測定法,必要検体量,おおよその検査日数の記載があり,Decision Levelでは異常高値,異常低値の見方と対策,つづいて異常値の出るメカニズム,臨床的意義,判読の仕方,さらに検体採取後の保存法,治療薬剤の影響など知りたい内容が,同じ順序でコンパクトに記載されている。
 記載範囲も生化学的な検査から血液,免疫血清,遺伝子検査,薬物・毒物検査まで収載し,血液以外の材料では尿,糞便,その他の体液検査,細菌検査までカバーし,その数600項目を超えている。
 さらに本書を便利なものにしているもう1つの項に「疾患と検査」がある。呼吸器疾患,循環器疾患というように13分野別に日常診療上頻度の高い約270以上の疾患について病態,異常値,経過観察のための検査項目と測定頻度,さらには診断と経過観察上のポイントが整理し記載されている。

診断や病態把握,治療計画に利用できる

 これまでにもこの種の本がなかったわけではないが,これほどの内容であると大体が2~3冊くらいになり,とても机の上において必要な時に気軽に開くというわけにはいかなかった。また1冊になっているものでは簡単すぎたり項目数が少なかったり,内容が乏しかったりで不満も残ったが,その点本書は,B6判で手軽でありながら,必要な事柄が要領よく最小限にまとめられている。特に検査の結果やその異常値から診断や病態把握の参考に利用できる面と,診断後の病態や経過観察のポイントなどを参考にしながら治療計画を立てる面の両面から利用ができる利点を備えている。また検査技師はもちろん,看護婦をはじめ他の医療従事者が検査項目について調べたい時や,疾患と検査の関連について知りたい時に便利と思われる。
 ともかく必要な項目が要領よく順序立ててコンパクトにまとめられているので,手元において気軽に辞書の要領で利用できるのでぜひお薦めしたい1冊である。今後,臨床検査の進歩と検査項目の開発に合わせて改訂していくことを願っている。
B6・頁528 定価(本体4,500円+税) 医学書院


免疫学の息吹きを体感できる1冊

標準免疫学 谷口克,宮坂昌之編

《書 評》矢田純一(東医歯大教授・小児科学)

 本書を料理にたとえるならば,それぞれのメニューついてそれを得意とする当代一流のシェフが腕をふるったごちそうが並んでいて,読者はそれに大いに舌鼓を打つことができる。内容はかなり高度であり,詳しく最新情報までが記載されてある。それゆえに逆に,まったくの初学者が読み進むには相当きびしいものがあるという気がする。免疫学ではきわめて普遍的であるけれども,初めて学ぶ人には初体験というような用語がいきなり出てくるという部分もある。したがって,大学の理科系学部の一般の学生がマスターしておくべき内容としてはレベルが高い。

現代免疫学の通覧に最適

 評者の印象では,学部学生でも特に免疫学を深く学びたいと思っている者や,卒後に免疫学に関連した勉強をしようとしている者が現代の免疫学を通覧したいといった目的に最適の教科書ではないかという気がする。
 本書の特色のひとつは編者の意図によるものであろうけれども,単に免疫学の知識を紹介するということにとどまらず,現代的な視点での免疫現象に関する概念を伝えようとしていること,免疫系の基本を体系化して示そうとしていること,ひいては免疫現象の中に生命現象の基本原理を見出させるように説いていることであろう。免疫系の最大の特徴ともいうべき,無数に近い多様性がいかに生み出され,厳密な1対1の対応性を持つという特異性が用意されるのか,自己と非自己とに対する選択性がどのような機構によっているのかといった問題を軸として編集されている。読者はその中に免疫とは何かを感じとることができると思う。

本邦の代表的な学者による記述

 もうひとつ本書を特徴づけているのは,実際に自から試験管を持ち研究を続けている本邦の代表的な学者が分担して筆をとっている点である。そのことによってこそ生きた学問が伝えられる。体験から得られたそれぞれの方の免疫に対する考え方,科学感といったものがにじみ出てくる。それは読者により強く問いかけるものがあり,読者はインパクトを受ける。免疫学の中にはいくつかの重要なコンセプトがあるけれども,その基本になった実験が具体的に随所に示されている。自分が研究者であるからこそ,そうした解説の仕方・態度が生まれてくるのであろう。読者はそうしたところからも自然科学の思考の流れを学ぶことができる。
 評者は本書を通読してみて,言い知れぬ満足感を味わった。単に自分の知らなかった知識が新たに得られたということだけではない。執筆者の方々の免疫学の息吹きとでもいうべきもの体感できたからである。
B5・頁592 定価(本体8,000円+税) 医学書院


最新の内容を盛り込んだ良質の教科書

標準耳鼻咽喉科・頭頸部外科学 第3版 鈴木淳一・他著

《書 評》星野知之(浜松医大・耳鼻咽喉科)

 学生が実習でまわってくる時,いくつかの耳鼻咽喉科領域のトピックスについて話しをしているが,人工内耳については活発に質問が返ってきて,強い関心を持ったことがうかがえる。人工内耳はこの10年間に起こった進歩で,わが国で実施された例はまだ800数十例と少ないが,手術後に稀ならず患者の示す驚異的とも言える音の受容は,脳の可塑性をまざまざと実感させ,われわれの知識が一段広がったという充実感を与えてくれる。学生もそれを感ずるのだろう。
 鈴木,中井,平野教授著の『標準耳鼻咽喉科・頭頸部外科』(第3版)は,この人工内耳についても新たに取り上げ,数か所で記述されており,かなりの概念がつかめるようになっている。その他にも,ごく最近の話題である外リンパ瘻,味覚障害,睡眠時無呼吸症候群,耳音響放射,ポジトロンCT(PET)など10数項目が追加され,最新の内容を盛り込んだ教科書して,初版から14年経った平成9年4月に出版された。

問題提起→分析→解決の思考過程

 解剖に次いで,生理,疾患と記述される普通の教科書の体裁をとらず,まず主要な24項目の疾患と障害(稀な疾患はその関連疾患として述べられている)の記載から始まり,治療法,臨床解剖・臨床生理,主訴による鑑別診断,基本的外来診療,主要検査法と続いている。初版の序文に書かれている「問題提起→分析→解決という思考過程」を重視してそうした配列が取られたというが,本書のユニークな点で,真似でなく新しい物を作りだそうとした著者らの意気込みがうかがえる。巻頭に目次代わりにのせられているマトリックスの表で,内容の全貌が一目でわかるようになっている。難聴児の訓練,補聴器,言語障害,言語治療,喉頭全摘出後のリハビリテーションなど,今後ますます関心の高まるであろう患者の生活の質に関するケアについても要領よく述べられている。1か所にまとめられた臨床解剖の挿図や巻末におかれた頭頸部悪性腫瘍のTNM分類も繰り返し見るのに便利である。適当な厚さ,ソフトカバーの装丁,どの1枚をとってみても巧みに要点をつかんだ挿図(2色刷が有効に利用されている)など,入念に練られて,ていねいに作られた良質の教科書である。

「標準」の名にふさわしいでき栄え

 基本的な知識に絞って学生の要求を満たし,しかも10年,20年後に臨床医にも役立つ,学生志向と将来志向がその目的として掲げられているが,どの項目をどの程度まで記載するかは,難しいことだったであろう。記載された項目の選択に苦心がうかがえ,軽重の重みをつけて炎症から腫瘍まで満遍なく述べられていて「標準」の名にふさわしいでき栄えとなっている。3教授が得意の内耳,平衡機能,音声の領域の記述にきわめて詳しい部分があり,それがまた本書の1つの特徴となっているが,いくつかの項目で(例えば唾液腺疾患など)もうすこし書かれていればより便利なのではないかと思われた。近年になり詳細な点まで解明されてきたコルチ器外有毛細胞の働きについて触れたり,前述の人工内耳のさらに詳しい解説で,学問の進歩の実感をさらに印象づけられないかとも思ったが,教科書という性質を考えるとこれでよいとも考えられる。いずれにせよ本書のすばらしいでき栄えを傷つけるものではない。
B5・頁500 定価(本体8,000円+税) 医学書院


最先端の内科腫瘍学をコンパクトに

がん診療レジデントマニュアル 国立がんセンター中央病院内科レジデント編

《書 評》高嶋成光(国立病院四国がんセンター外科)

 20年前,乳がん外科を専攻することを命じられて,国立がんセンターで2か月の研修を受けた。その当時から国立がんセンターのレジデント制度は充実しており,若いレジデントのはつらつとした活躍に圧倒されたことを鮮明に記憶している。
 この研修で,臨床腫瘍学の重要性を教えられ,参考書の1つとして紹介されたUICC『Manual of Clinical Oncology』がそれ以来私の座右の書となり,改訂ごとに購入してきた。しかし,内容は充実しているものの,常に携帯してベッドサイドで活用するには少々不便を感じていた。

がんの標準的治療を具体的に記載

 今回,国立がんセンター中央病院内科レジデントの先生方が渡辺享医長の指導のもとに『がん診療レジデントマニュアル』を出版された。ポケット版,291頁の本書は白衣のポケットに納まる取り扱いの便利さとともに,最先端の内科腫瘍学全般がコンパクトにまとめられており,まさに私が待ち望んだ書といえる。
 その内容は,インフォームド・コンセントとがん告知にはじまり,がん化学療法の基本概念,がん化学療法時の支持療法,緩和医療,臨床試験などの総論と,各論として,肺がん,乳がん,胃がん,食道がん,大腸がん,肝臓がん,胆道がん,膵がん,卵巣がん,小児がん,悪性リンパ腫,白血病が取り上げられている。それぞれのがん腫について,疫学,診断,組織分類,Staging,予後因子,治療,予後に分けて簡潔に記載されている。
 とりわけ治療に関しては,手術療法,化学療法,放射線療法の適応決定のための指針が明確に示されており,初回治療から再発後の対応までそれぞれの時期に応じた国立がんセンターの標準的治療が具体的に記載されている。特に化学療法は国内外の臨床試験によって科学的に妥当と認められたものが取り上げられており,抗がん剤の選択,投与方法,有害事象への対処まで詳細に記述されている。これらは本邦における標準治療として一般臨床で患者さんに勧めてよいものである。
 付録の抗がん剤とその略号,体表面積算定表や19項目のMemo,裏表紙に掲げられたJCOG(Japan Clinical Oncology Group)副作用判定基準など日常臨床で使用頻度が高いものが即座に確認できるなど,随所に細やかな配慮が見られる。

外科,内科とも日々のがん診療に活用できる

 本書には本邦では少ない腫瘍内科医(medical oncologist)のがん医療にかける誇りと使命感が脈打っている。いまだ多くのがん腫が手術から補助療法,再発治療まで外科医によって手がけられている現状では,直ちに受け入れられない点もあろう。しかし,がんに悩む患者さんにとって外科流,内科流治療はあってはならないことであり,よりよい標準的治療の確立のためにがん医療体制を変革しなければならない時期にきている。この意味でも本書は,内科研修医のみならず外科研修医にとっても,日々のがん診療の場で活用できる書であり,また,がん外科医やこれからがん医療をめざす医学生,医療従事者にもぜひ勧めたい1冊である。
B6・頁296 定価(本体3,800円+税) 医学書院