医学界新聞

「21世紀に向けた大学病院のあり方」について

「21世紀医学・医療懇談会第3次報告」より


 次世紀に向けた医療関係者養成のあり方を検討している文部省の「21世紀医学・医療懇談会」(会長=私立学校教職員組合理事長 浅田敏雄氏)は,昨年10月に「教育病院部会」(部会長=自治医科大学長 高久史麿氏)を設けて議論を進めてきたが,さる7月に「21世紀に向けた大学病院のあり方」と題する第3次報告をまとめた。
 同報告は冒頭に,「大学病院は教育機関,研究機関,地域の中核的機関として重要な役割を果たしてきた」としつつも,「近年,高齢化の進展や疾病構造の変化,質の高い医療を求める国民の意識の変化などに伴い,大学病院における医療提供のあり方,わが国の医療を先導する臨床医学研究のあり方,医療現場で活躍する医師やコ・メディカル・スタッフに対する教育・研修のあり方について,国民の期待に応える充実や見直しが求められている」と指摘。また,「検討の内容は今日の大学病院への要請に応えるため,大学病院の機能全般を対象としているが,きわめて広範な検討課題に及ぶため,当面現時点までの議論の結果をここにとりまとめて公表」し,「引き続き議論を深めていくこととしたものである」と述べている。報告の概要は以下の通り。


I:はじめに
II:大学病院を取り巻く状況
(略)

III:大学病院に期待されるもの

1.教育・研修について
 大学病院の設置目的である医師・歯科医師の実習の内容的な充実を図るとともに,コ・メディカル・スタッフの実習についても,地域の医療機関とも連携を図りつつ受入れの要請に応える必要がある。卒後の研修については,特に医師・歯科医師についてその充実が進められているが,病院全体としての実施体制作り,関係施設との連携を含めたプログラムの整備を一層進める必要があり,さらに医療人の生涯学習についてもその機会と内容を充実すべきである。

2.研究について
 高度医療の推進に対する国民的期待に応え,難治性疾患の原因解明や新しい診断・治療方法の開発などを一層進めるべきである。また,既存の診断・治療方法の科学性,有効性について検証する研究も行なうべきである。

3.医療について
 地域医療の中核的機関として高度医療の提供に引き続き努めるとともに,研究成果を還元して先端的医療を導入していく必要がある。医療の提供に当たっては,患者本位の立場を再確認するとともに,患者のQOLを重視し,そのための体制を整備すべき。

IV:21世紀に向けた大学病院の基本的な考え方

1.「教育病院」としての大学病院
 医師・歯科医師の卒後臨床研修について中心的な役割を果たすとともに,コ・メディカル・スタッフの実習にも積極的に対応すべきであり,広く医療人育成を行なう「教育病院」として,従来の教育・研究・医療の機能に加えて,医療人に対する研修・実習機能を新たな柱として充実を図ることが必要。またそのために必要な経費などの措置について検討すべきである。さらに,関係各方面の理解を求めつつ,大学病院を医療制度上「教育病院」と位置づけるとともに,研修・実習経費について保険制度上配慮することも検討する。

2.高度医療の研究・提供に当たる病院としての大学病院
 高度医療の開発・提供の機能を充実するため,研究費の充実や医療保険上の「特定機能病院」制度における一層の配慮が望まれる。

V:大学病院への期待に応えて―現状と当面の課題

1.教育・研修について
(1)医師・歯科医師の卒前実習については,クリニカル・クラークシップの導入などの改革を行なうとともに,卒後臨床研修について,ローテイト方式の導入などのプログラム改善と公表,各種施設との連携,病院内の実施・評価体制の整備などを行なう。
(2)コ・メディカル・スタッフについては,実習についてすでに相当の受入れが行なわれているが,養成数増や期間延長などに対応した受入れに努めるとともに,卒後研修についても要請に応えていく。(3)これらの対応に当たっては,指導体制,施設,指導に要する経費,医師・歯科医師における研修医の処遇などの条件整備や大学病院とコ・メディカル・スタッフ養成学部の連絡・協力体制の整備を図ることが必要。

2.研究について
(1)大学病院では,疾患の原因解明,新しい診断・治療方法の開発などが活発に行なわれているが,引き続き推進することが必要。特に先端医療研究の推進のため,国立大学における高度先進医療開発経費の充実や科学研究費補助金における配慮が望まれる。
(2)医薬品などの臨床研究(治験)は,大学病院の社会的使命として実施する必要があり,近時整備された基準に従って必要な体制も整え,適正に実施する。

3.医療について
(1)患者本位の医療の推進
 患者本位の医療の実現のために,以下の点ついて引続き推進すべきである。
(1)診療科の体制を見直し,従来のナンバーを付して細分化された診療科から,系統別または臓器・疾患別の再編成や総合的診療部門の設置。(2)インフォームド・コンセントや服薬指導での情報提供。(3)医療情報システムの充実による病院業務の合理化,効率化,正確化,患者の待ち時間の短縮。(4)他の医療機関との間の患者紹介の連携。(5)施設面における患者アメニティーの改善に配慮した整備。(6)その他,ボランティアの参加も得た相談・案内体制,院内学級開設,入院患者への図書サービスなど。
(2)高度医療の提供と先端医療の導入
(1)引き続き地域医療の中核として高度医療・先端医療の開発・提供に努める。(2)難病対策の拠点としての役割も重要である。
(3)地域医療への対応
(1)地域医療機関と情報ネットワーク化などによる協力が望まれる。(2)老人保健施設などの設置による長期療養者のケアや終末期患者の緩和ケアなど新しい分野を開拓する多様なあり方も検討されてよい。

4.大学病院の運営について
 病院長の任期の長期化・専任化の検討や多様な人材の登用による補佐体制の整備,医療技術職員の業務の検討,経営専門職員の養成,マルチメディアを活用した管理システム構築などが課題である。

5.条件の整備
 以上のような大学病院に対する期待,特に医療人育成に関する実習・研修機能については,大学病院の機能の1つの柱として,今後充実を図っていく必要があり,所要の指導者,施設・設備,経費について格段の配慮が求められる。

VI:おわりに

 学生,研修医などが診療に参加したり,新たな医療技術を臨床に適用する場合でも,患者の人権や安全に十分配慮して行なっていることついて,個々の患者にも十分説明するとともに,広く国民に対しても理解が得られるようマルチメディアの活用を含めたさまざまな広報活動に努める必要がある。また,本報告で提言した事項を含め,大学病院としての自己点検・評価など,適切な評価を行ない,運営の改善に活用していくことが望まれる。