医学界新聞

よりよき透析看護の実践のために

第42回日本透析医学会が開催される


 第42回日本透析医学会が,さる7月18-20日の3日間,阿岸鉄三会長(北大教授)のもと,「パラダイムの拡大から潜在発想力の開発へ」をメインテーマに,札幌市の北海道厚生年金会館,ホテルロイトン札幌などで開催された。

16万人透析患者のQOLを考える演題発表

 阿岸会長はこのメインテーマの主旨を,会長講演「透析医療におけるパラダイムの拡大を考える」の中で解説。「パラダイムとは,方向性を決める考え方の基本枠組みととらえてほしい。透析療法は人工腎臓として始まり,生体の器官・臓器の一部品という理念に基づいている。透析患者のQOLの向上のためには,近代西洋医学のパラダイムにとどまらず,広いパラダイムで対処する時期に来ている」との考えを示した。また,20世紀の医療は技術重視であったが,21世紀の医療には技術だけではない“病める人への全人的医療”が求められる」と指摘し,「透析医療におけるパラダイムの拡大として,近代西洋医学に,心身医学,全体医学,全人的医療などを取り入れた『統合医療(仮)』の確立」を提案した。
 一方看護部門では,教育講演「看護における発想の転換―よく診て,よく護る心の技術」(前田記念腎研究所 前田貞亮氏),ワークショップ「良質で効率のよい透析看護とは」(司会=腎不全看護研究会長 宇田有希氏,日本腎移植ネットワーク 小中節子氏),同「患者教育・指導のknow how―説明上手になるために」(司会=済生会八幡総合病院 波多野照子氏,国立公衆衛生院 岩崎和代氏)などが行なわれた。また,「維持透析患者のquality of lifeとその評価法」など7題のシンポジウムや,14題のワークショップ,16万2192名(1996年末現在)の透析患者のQOLを検討すべく,看護・コメディカル部門を含めた226セッション1157題の一般演題口演,ポスターセッション554題など全体で371セッション2042題にもおよぶ発表が,1万人を超える参加者のもと行なわれた。

透析看護の量と質を論議

 ワークショップ「良質で効率のよい透析看護とは」では6名が登壇。  最初に小間沢政子氏(丸子中央総合病院)は,「腎センターにおける看護業務の効率化への一工夫」を発表。効率化のために透析室で実践しているPCT方式(P=縮小POSカード,C=チェックカード,T=タイマー)を紹介。導入の結果,「他職種のスタッフも含め受持ち以外の患者の把握も可能になり,配慮の行き届いた患者管理ができ,全患者・家族やスタッフからよい評価が得られた」などのメリットをあげた。
 次いで藤崎百合子氏(名古屋第二日赤病院)は,「良質で効率的な透析導入期の指導を考える」を口演した。藤崎氏は,患者37名,看護婦50名を対象としたアンケート結果から,「教育入院で,透析への心構えができた(48%),悲観的になった(11%),日常生活の注意が理解できた(41%)」などをあげ,「患者は指導内容に十分に満足していない」と指摘。指導体制のシステム化など今後の課題を残しながらも,「指導方法や進行状況を明確にし,互いに共有することで良質で効率的な指導ができる」との考えを示した。
 また長谷川芳美氏(井上病院)は,「よりよい患者看護をめざして―看護の量と質の改善のために」と題し,同病院で実施しているヒヤリ・ハットシステムやQCサークル活動などの改革制度を紹介。さらに看護婦の志気を高めるために,提案制度や職能資格制度を導入した結果,「安全な透析,看護サービスの提供,看護婦の定着率向上につながった」と報告した。
 新治純子氏(甲南病院)は「透析室における看護業務の見直し―医療福祉制度の変革に伴って」を発表。同病院では,看護業務のスリム化および在宅医療へ向けた看護婦の教育体制の見直しなどを検討,その一貫として「透析業務の一端を臨床工学技士に委譲した」結果,看護職が患者に接する時間が増えたと報告した。一方,「長期入院患者に対する退院援助ができないなどの看護職間の問題もある。これからは,在宅看護,福祉制度の知識の習得など,小集団単位での情報収集や検討会活動が,患者のQOLを考える上でも看護職に求められる」と今後の課題を呈示した。
 老久保和雄氏(岩見沢クリニック)は,「患者の不適応行動への働きかけ」で,22年におよぶ長期透析患者の暴言,暴力行為に対処した実例を報告。「患者の立場への共感的態度の表出で適応行動への変革が期待できる」と関わりの重要性を述べた。
 最後に「看護の質的評価―事例より看護婦の態度に注目して」を発表した徳永千鶴子氏(重井医学研究所病院)は,長期患者の事例を紹介するとともに,看護婦が果たす役割を過去の事例から学び,変化することの大切さを訴えた。
 フロアを交えた総合討論の場で司会の小中氏は,1980―95年の透析患者数と医療費の動向を提示,「患者数は5倍近く増加したが,スタッフの比率とともに診療報酬費は逆に25%程度低下した」と報告した。
 また,「経験年数3年目の看護職は一人前といえるか」,「不良な患者には他領域の人がかかわることも必要なのではないか」などに加え,「PCT方式」「ヒヤリ・ハットシステム」「職能資格制度」「臨床工学技士への業務委譲」などをめぐり,その内容や是非について熱心な議論が交わされた。