医学界新聞

 Nurse's Essay

 カンファレンス

 八谷量子


 職歴25年,ベテラン看護婦のAは最近憂うつである。原因は,毎日行なわれる病棟カンファレンス。これがどうもしっくりこない。今日のテーマは看護診断によるケア計画の作成だが,実はこれが一番の苦手である。しかし,Aの思惑と関係なくカンファレンスは進められていく。  「患者さんが治療薬を服用しないのは,病識の不足に関連した,ノンコンプライアンスですね」
 若手のBが自信あり気に言う。
 「でも,それは強度の不安に関連したコーピングの変調とも考えられませんか」
 新卒のCが少し遠慮がちに反論する。
 「結局は,役割喪失とサポートシステムの欠如による社会的孤立が背景にあると思うの」
 臨床指導者のDが意見をはさむ。
 Aは,同僚たちの活発な意見交換を聞きながら困惑気味だった。自分も意見を出したいと思うのだが,言葉が浮んでこない。最近はいつもこんな調子だ。
 「ねぇ,コーピングの変調って何だったかしら」
 Aの横に座っていた定年間近いEがこっそり耳元でささやいた。
 「ストレスに対してうまく適応できないとか,対処できないということよ。今の私たちみたいに」とA。
 「ほんとにそうね。これからは看護診断の時代といわれても,あの独特の専門用語に慣れるのは至難の技だわ。でもまあ,みんなが共通の概念で看護を語り合うためには必要なことなのよね」とEがなげく。
 「Aさん意見をお願いします」
 突然司会に指名され,Aは慌てた。
 「えーと,現在知識不足に関連した思考過程の変調を生じておりまして,専門職としてのアイデンティティがハイリスク状態にあります。したがって,解答不能です。あしからず」
 あきれ顔のスタッフが非難のまなざしで見つめる中,冷や汗を拭いているところで夢から覚めた。どうやらカンファレンスの最中に眠り込んでしまったらしい。