医学界新聞

“Sharing the Health Challenge”を大会テーマに

第21回ICN(国際看護婦協会)大会開催


医療費削減の流れの中で,看護は何をすべきか

 さる6月15日より20日までの5日間,カナダ・バンクーバーのトレーディング&コンベンションセンターにおいて,第21回ICN(International Council of Nurses:国際看護婦協会)大会が開催された。今回の大会テーマは「Sharing the Health Challenge(健康へのチャレンジを分かち合おう)」。世界120か国から5000人を超える参加者が集い,日本からは42名の学生も含め220名以上が参加し,分科会・ポスターセッションでもそれぞれ10題以上の発表が見られた。また,大会に先立って行なわれた学生大会には24か国から約355名の看護学生が参加した。
 今回の大会を通じてきわ立ったことは,世界的に医療費削減が進められている今日,その影響を大きく受けている看護が,変革の時を迎える医療制度全体の枠組みの中でいかにあるべきか,看護の専門性をいかに確立し,またそれを社会全体の利益へとどうつなげていくかについての議論だった。

クリスチャン・レイマン賞に,ペプロウ氏とキム氏

 15日夕刻の開会式では,「看護のノーベル賞」とも称され,これまでもヴァージニア・ヘンダーソンなども受賞している「クリスチャン・レイマン賞」の発表があり,今回は患者-看護婦関係に関して革命的な業績を残したヒルデガード・ペプロウ氏(アメリカ)と,健康増進と看護の専門性の向上に関して多方面にわたり国際的にも活躍した前ICN会長のモーイム・キム氏(韓国)に贈られた。受賞に際して,ペプロウ氏は「世界中の看護婦を代表してこの賞を受けたい。仲間と共有したい」と述べ,またキム氏は「ペプロウ氏と一緒に受賞できることを光栄に思う。後に続く人の励みになれば望外である」と喜びを語った。
 授賞式に続き,マルグレッタ・マッデン・スタイルズICN会長(アメリカ)が,「チャレンジを分かち合う世界の看護婦の家族として,われわれはここに集まった」と宣言。さらに,「21世紀とともに,100周年を迎えようとしているICNとしてチャレンジすべきことは何か,ゴールはどこにあるのか,またそれらのゴールにむけて,われわれはどのように歩むべきか」と,大会テーマに沿って問題提起した。
 翌16日からは分科会,ポスターセッション,比較的フランクな議論の場となったグループ会議,カナダ看護協会企画の施設見学など,多彩なプログラムが数多く用意されていた。ターミナルケアなどホットな10テーマについて世界中の看護婦が議論し,メインセッションでは,世界的なAIDSの拡大に看護職としてどう対応したらよいのかが特に大きな話題となっていた。
 18日には「Shaping the Future Health System through Community-Based Approaches(コミュニティを基盤とした将来のヘルスシステムの形成)」をテーマにグローリア・スミス氏(WKケロッグ財団)が基調講演を行なった。
 スミス氏は,「これからの看護婦は,限られた医療資源の中で人々の健康にとってよりよいことをしていかなければならない」と指摘し,看護婦がまだ手をふれていない資源,すなわち地域社会の資源を有効に活用することを強調。そのためには,専門職間だけでなく,地域の人々も含めて権限を分かち合うことが必要として,19日の「Empowering through Sharing(共有を通してのエンパワーメント)」,20日の「Sharing in Practice(実践における共有)」という全体会のテーマへとつなげた。そして,両日の全体会では,フロアも含めた各国の実践をまさに「Sharing(分かち合い)」しながらそれぞれの課題を確認し,互いに深め合った。
 また19日には,昨年3月に98歳で亡くなったヘンダーソンの追悼記念講演が,氏が長く在籍したエール大学の後援で開催され,全体会を行なった広い会場を埋めつくす聴衆が集まり,「世界で一番愛されている看護婦」(スタイルズ会長の紹介)ぶりがうかがえた。

新会長にスタルクネクト氏が,第2副会長に片田範子氏が選任

 

 20日の閉会式では,'93年からこの大会まで会長を務めたスタイルズ氏から,新会長に選ばれたキーステン・スタルクネクト氏(デンマーク)へと「会長の鎖」が渡された。スタルクネクト新会長は,「国によって違うようにみえても似通った問題があり,これまで同様,一緒にMARCH(今大会の合言葉)しよう,苦悩する人のいるこの社会の中で私たちは人間性を守るということを団結の言葉としましょう」と新たな連帯を訴えて,就任のスピーチとともに第21回大会をしめくくった。
 なお,今大会ではICN第2副会長に日本の片田範子氏(兵庫県立看護大学)が選ばれた。また,ICNにアンゴラ,オーストラリア,ブラジル(加盟国内組織が変更),ナミビア,ルーマニア,スロバキア,ユーゴスラビア,そしてアパルトヘイトのため1973年に脱退していた南アフリカの8か国が加わり,加盟国は118か国となった。
 次回の大会は2001年に,デンマーク,ノルウェー,スウェーデンの北欧3国の共同で,コペンハーゲンで開かれる。さらに,1999年6月27日-7月1日には,ICN設立100周年の記念大会が「Celebrating Nursing's Past:Claiming the Future(これまでの看護をたたえ,未来を主張しよう)」をテーマにロンドンで開催される。