医学界新聞

NURSING LIBRARY 看護関連 書籍・雑誌紹介


看護職のための看護職による解剖生理学

人体の構造と機能 エレイン N.マリーブ 著/林正健二,他 訳

《書 評》佐伯由香(長野県看護大助教授・看護形態機能学)

 看護を実践するうえで人の身体を理解することは基本であり,そのために看護基礎教育の中で解剖学,生理学,生化学といった科目が必修となっている。医学の分野における解剖生理学は,病気を診断し治療するという観点に基づいているため,かなり専門分化している。それに対し,看護学は疾病の診断・治療を最終的な目標としておらず,疾患のある人の身体そのものはもちろんのこと,さらにはその人の生活行動まで含めた視点で,身体を理解することが重要であり,これがまた身体を見る際の医学の分野との違いでもある。これまでの看護教育における解剖生理学はどちらかと言えば前者に近く,学生にとって理解しにくい科目の1つではなかったろうか?

トータルなものとして身体を理解

 解剖生理学を教える立場,あるいは学ぶ立場としてもっとも悩むことは,膨大な知識を前にして,限られた時間内に何をどこまで理解させれば,あるいはすればよいのか,という点である。ほとんどの教育機関において解剖生理学を学ぶのは1年生である。人体について学ぶことはとても面白いが,解剖学や生理学の膨大な専門用語に突き当たって興味を削がれてしまう学生が少なくない。本書の優れた点の1つは,まず著者が看護出身者であるということである。著者は動物博士号を取得しており,専門的な知識を持ち合わせているだけでなく,さらには看護学を修得している(老人看護学修士号)。したがって,臨床の看護職に必要とされる人体解剖学・生理学的知識を体系的にまとめるのにもっとも適した人物であり,まさに看護職のための看護職による解剖生理学といえる。その著者が書いた本書は,不必要なまでの細部にわたる知識は省いて,看護にとって必要とされる知識が万遍なく浅くもなく深くもなく書かれている。さらに,どんな場合でも簡単な構造から複雑なレベルへと順を追って解説しているため,常にトータルな身体として“身体”を理解することを忘れないよう配慮されている。

解剖生理学が面白くなる

 本書の構成は,従来の解剖生理学の教科書と類似してオーソドックスなものであるが,内容は人体の構造とその働きの要点をわかりやすく把握できるようにさまざまな工夫が凝らしてある。解剖生理学が理解しづらい理由の1つに,実際に直接目で見ることができないことからイメージとして想像しにくいことがあげられる。その点,文章はもとより,読者の興味をかきたてるようなわかりやすいイラストを使用しているだけでなく,さらに正常な構造や機能の理解を深める意味から,臨床上重要な疾病や障害についても触れている。これは書面上で学んだ身体の構造と機能をより具体的なイメージとして抱くのに役立つだけでなく,より興味をそそる結果をもたらしている。各章の最初と最後の部分にはその章で学ぶべき要点・重要な用語,復習問題が記されており,学生が自学自習できるだけでなく,教育する立場としても焦点が絞りやすい内容になっている。復習問題の中には,「臨床の場で」という項目を設け,学んだ知識を臨床に応用する問題をいくつか集めていることもイメージを膨らませ,意欲を駆り立てることに一役買っているようである。複雑でわかりにくいと思っていた解剖生理学を,興味深く面白い学問であると思わせる書である。
A4変・頁488 定価(本体4,800円+税) 医学書院


臨床看護に大いに役立つ

臨床検査データブック 1997-1998
高久史麿 監修 黒川清,他 編集

《書 評》井部俊子(聖路加国際病院副院長)

 このたび出版された『臨床検査データブック1997-1998』は,小型でパワフルで新鮮である。

多くの検査項目と疾患を網羅

 本書は「臨床検査の考え方と注意事項」,「検査各論」,そして「疾患と検査」の三部構成である。
 まず第1部で述べられている「データ判読の基礎」,「基準値・基準範囲の概念とその正しい利用法」さらに「保険請求上の注意事項」は25頁程度にまとまっているので,是非読んでおきたいものである。
 第2部の「検査各論」は本書の主要な部分であり,600を越える検査項目が網羅されている。ここでは各検査項目の基準値,測定法,検体量,検査日数を示すとともに,検査結果の異常値の各レベルごとに考えられる様々な疾患を〔高頻度〕〔可能性〕〔対策〕という見出しの下に簡潔に述べている。さらに引き続いて「異常値がでるメカニズムと臨床的意義」「判読」「採取保存」,検査項目によっては,薬剤服用時の検査値への影響,保険上の注意が解説されていてわかりやすい。
 第3部の「疾患と検査」では270を超える疾患を取り上げている。ここではまず病態を簡単に紹介し,さらに「診断・経過観察上のポイント」を簡潔に述べている。

臨床検査に強くなれる

 本書によって,臨床検査と各疾患の診断における2つのアプローチが可能になるとされている。1つは,患者の訴えや臨床病状から特定の疾患を推定して臨床検査を行ない,診断の確定や重症度の判定に至るアプローチであり,もう1つは,逆に検査値の異常をみつけ,その異常から疾患の診断に至るアプローチである。
 こうしたアプローチは医師だけが行なうべきものであると考える臨床家は少ないだろう。臨床ナースは“何も考えずに”検体採取することはあり得ず,そのデータについて無関心ではいられない。ナースの検体採取技術や保存がデータそのものの精度を決定づける場合も少なくない。稚拙な技術が患者に対して大きな不利益を招く結果となる。
 医療はチームで行なわれてこそ成果を上げると考えるならば,看護職も看護業務の中で大きな比重を占める臨床検査に強くなければならない。そういう意味で本書は臨床ナースにとって,本格的な“すぐれもの”になるであろう。カバーをはずすと黒に金文字の表紙が素敵である。
 山田詠美のエッセイに,暇つぶしに辞書を読むという話があった。「最初はぱらぱらとページをめくっているのだが,やがて,熱中してしまい,気がつくと辞書を読むということ自体が目的になってしまい,そのために時間を費やしている状態になる」という短文を思い起こさせるデータブックである。
B6・頁528 定価(本体4,500円+税) 医学書院


精神科看護の精髄を示す

精神看護学の新しい展開
ゲイル・W・スチュアート,サンドラ・J・サンディーン 編著/神郡博 監訳

《書 評》坂田三允(長野県看護大教授・精神看護学)

 本書は,著者がまえがきで述べているように,多くの精神科看護の教本に比べてかなり小さいが,この中には精神科看護の精髄が強調されており,さしあたって切迫した患者の看護問題を解決したいという看護者の実務上のニーズをただちに満たしてくれる書である。

精神科看護の原理と実践

 本書は大きく2部に分かれて構成されている。第1部は精神科看護の原理と題され,精神科看護者の役割と機能をはじめとして,治療的看護者―患者関係,精神保健看護実務のモデルなど,患者のニーズや看護の実務状況にかかわりなく,精神科看護の基本的な事柄についてまとめられている。
 また,第2部は,第1部で述べられた精神科看護に関する基本的な考え方や方法を,日々の看護実務の中にどう応用していくかということを述べている実践編である。第2部で検討されているのは,不安障 害,睡眠障害,解離性障害,気分の障害,自殺行為,精神分裂病,人格障害,器質性精神障害,物質関連障害,摂食障害など精神科看護に不可欠なもので,これらのすべてが看護過程に添って編集されている。
 アセスメントの項では,それぞれの障害にみられる行動,素因,促進ストレス因子,コーピング資源,コーピング機制に関する説明が述べられており,情報を収集し整理するにあたっての方向性を提示してくれる。続いて看護診断,計画立案,評価へと進むのだが,評価をする基準が質問の形で述べられているのもとてもわかりやすい。また,随所にBOX記事や図表が用いられており,DSM-IVの医学診断,看護診断,看護計画の要約が一目でわかるようになっているのも嬉しい。

看護診断の主題とあり方を示す

 さらに,もっとも基本的なこととして,適応反応から不適応反応にわたる一連の人間の反応(これを著者はコーピング反応の連続体と名づけている)を看護診断の主題とし,「看護と医学の診断は,相互に補完し合うであろうが,しかし一方が他の一方の要素ではない。(中略)患者は確認された医学診断はなくても,ある特定の看護診断をもっているかもしれない」という考え方は,頭の中ではそれがわかっていても,ともすれば医学診断にまどわされがちな私にはとても快い刺激であった。
 あえて難点をあげるとすれば,まとめられすぎていることであろう。全体を把握するには大変便利で役に立つのだが,説明が簡潔すぎることに加えて文化の違いからか,言葉の意味するところを適切にイメージできないところが何か所かあった。この本のもとになっているという同著者の『精神科看護の原理と実際』をぜひ読んでみたいと思った。
 最後に,「われわれは,看護者としての読者がいなければ,精神疾患患者の不安や悩みが軽減されることがないということを知っている。もし,よりよい精神科看護を提供する点で本書の読者を援助できたなら,その時,われわれの仕事は本当に価値があったことになる」という著者の思いをしっかりと受けとめたいと思う。
A5変・頁368 定価(本体3,500円+税) 医学書院MYW