医学界新聞

●第2回慢性疲労症候群(CFS)公開シンポジウム開かれる


 原因不明の倦怠感を主徴とする「慢性疲労症候群」(CFS:Chronic Fatigue Syndrome)については,厚生省研究班が発足して6年が経過し,その病因・病態に関してもボルナ病ウイルス(BDV)をはじめとした種々のウイルス感染症や,神経・免疫・内分泌代謝異常との関連などが次第に明らかになってきた。しかし,確実な病因が解明されていないことや,診断の決めてとなる検査法がないことなどから,CFSに関する知識の普及はいまだ十分とは言いがたいのが現状である。そのような折り,海外をも含めた研究成果を集約し,知識の普及を目的とした「第2回慢性疲労症候群(CFS)公開シンポジウム」が,木谷照夫会長(厚生省CFS研究班班長・市立堺病院長)のもとで,さる6月27-28日の両日,東京の文京女子短期大学において開催された。
 公開シンポでは,Michele Reyes氏(アメリカ,CDC)による「CFS Research at the Centers for Disease Control and Prevention(CDC)」と,Peter O.Behan氏(イギリス,グラスゴー大学)による「Review of CFS in Scotland」という2題の特別講演の他,4題のシンポジウムと9題の一般演題が企画され,フロアを交えて活発な討論が展開された。


 木谷照夫会長の開会の辞に引き続いて企画された一般演題は,(1)「DHEA-S(Dehydroepiandrosterone sulfate)の投与が有効であったCFSの2例」,(2)「メラトニンの経口投与が有効と考えられたCFSの1例」,(3)「CFS患者の治療と予後について-心身医学的立場からの検討」,(4)「CFSの臨床病型とその経過に関する検討」,(5)「笑い体験によるNK細胞活性の変化-健常者とCFS症例の比較」,(6)「抗リン脂質抗体陽性のCFSの1例」,(7)「小児のCFSと抗核抗体」,(8)「CFS患者の耳管機能」,(9)「CFS家族内発生例におけるBDV検索」の9題。
 またシンポジウムは,I「ウイルスは病因にどのようにかかわっているのか」(座長=阪大 山西弘一氏),II「病態異常はどこまでわかったか-免疫・代謝・内分泌学的検討」(座長=阪大 倉恒弘彦氏),III「精神神経症状をどう考えるか」(座長=慈恵医大 橋本信也氏),IV「治療はどこまで進んだか」(座長=木谷照夫氏)の4題が企画された。


シンポジウム「ウイルスは病因にどのようにかかわっているのか」

EBV感染とCFS

 シンポジウムI「ウイルスは病因にどのようにかかわっているのか」では,最初に西連寺剛氏(鳥取大)がEBV(エプスタイン-バーウイルス)感染とCFSとの関連を発表。
 EBV感染がCFSの病因として疑われる理由として,慢性疾患に関連するEBVの性状があげられる。EBVはBリンパ球向性ウイルスでほとんどの成人に潜伏感染し,再活性化され,成人における初感染では伝染性単核球症を発症する。症状は発熱,咽頭痛,頭痛,リンパ節腫脹,疲労などで,数か月間で回復するが,慢性への移行もあり,この症例の中にはCFSの症状と同様のものもある。
 西連寺氏は,EBVの関与の有無について,アメリカの典型的患者の血清とわが国の患者の血清を対象にして,CFS患者のEBV抗体価を調査。その結果,CFSの患者にはEBV抗体価の上昇があるが,慢性EBV疾患に見られるような高い抗体価は表われず,少数の患者にEBV感染を示唆する高い抗体価が見られた。また,「EBVが再活性化する時に出現するEBV前初期遺伝子タンパクに対する抗体価の上昇でもわが国のCFSの5%に確かめられた」と報告した。

HHV-6,HHV-7,HHV-8とCFS

 現在,8種類のHHV(ヒトヘルペスウイルス)が知られているが,山西弘一氏(阪大)は,HHV-6,HHV-7,HHV-8とCFSとの関連について言及した。
 HHV-6は1986年に主として白血病,リンパ腫,エイズ患者の末梢血から分離されたが,その後山西氏らによってES(突発性発疹)の原因ウイルスであることが判明。このウイルスがCFS患者の末梢血から分離されること,および患者は高力価の抗体を保有していることからCFSとの関連が注目された。その後,ウイルス学的解明が進み,HHV-6は主としてCD4+リンパ球でも増殖し,マクロファージ系細胞で潜伏することが判明し,NK細胞にも感染することが報告された。また,患者の末梢血には健常者に比して,有意に高濃度のDNAがPCR法で検出されることも報告されているが,いまだCFSとの確定的な因果関係は明らかでない。
 一方,1990年にヒト末梢血から分離された新しいウイルスであるHHV-7がCFS患者の末梢血からも分離され,病態との関連が注目された。そして,ウイルス学的に両者の遺伝子配列が明らかになり,ともにサイトメガロウイルスの仲間のβヘルペスウイルス亜科に属している。
 またさらに1994年には,エイズ患者のカポジ肉腫からHHV-8の遺伝子配列が見出され,その後カポジ肉腫のみならず他の腫瘍や,最近は性感染としての役割も注目されているが,このウイルスはEBウイルスの仲間のγヘルペスウイルス亜科に属している。
 山西氏は,以上のHHV-6,HHV-7,HHV-8とCFSとの歴史を概説し,「これらのヒトヘルペスウイルスは主として血液系の細胞に感染するために,免疫低下などの異常を宿主に与えることが想像され,今後CFSをはじめ種々の病態との因果関係が明らかになることが期待される」と結んだ。

BDVとCFS

 最後に生田和良氏(北大)がBDVとCFSとの関連を発表した。
 BDVはボルナ病(ウマやヒツジに持続感染し,時に致死的な脳脊髄炎を引き起こす)の原因ウイルスとして分離された。また,ウシやネコ,ダチョウなどへも自然感染し,稀には後駆麻痺など症状を示す例もあるが,健常動物でもBDV抗体陽性例があることも報告されている。さらに,1985年に精神分裂病患者の脳脊髄中に抗BDV抗体が存在することが報告され,BDVがヒトに対して病原性を示す可能性が初めて指摘され,精神分裂病やうつ病患者において,高率に抗BDV血清抗体が認められる報告が相次ぎ,内因性精神疾患との関連性が注目されるようになった。
 生田氏らの研究によれば,現在までわが国ではウマやヒツジのボルナ病の発生例の報告はない。しかし,外見上神経症状が認められない健常なウマ,ネコ,ヒツジ,ウシ,さらには精神疾患患者および献血者を調査対象として疫学調査を行なった結果,BDV陽性率はウマ,ヒツジ,および精神疾患患者において高く,ウシ,ネコでは低く,健常者ではさらに低いという結果が出た。
 次いで,生田氏はCFS患者についても疫学調査を行なったところ,献血者に比べてCFS患者においてもBDV陽性率が有意に高いことが判明。さらに,CFSの家族内発生について検索を行なったところ,家族5名中4名のCFS患者にBDV-RNAが同定され,また抗BDV抗体においても陽性反応(症状の軽い患者はp24,p40,gp18のすべてに対して,症状の軽い患者はp24またはp40に対してのみの上昇)が認められた。
 これらのことを踏まえて生田氏は,「一部のCFS患者とBDVが何らかの関連性を持つと思われる結果が得られたが,その病態進行への関与については不明である。今までの疫学調査は血液サンプルにおける解析結果であり,脳内BDVの存在は不明である。したがって,BDVの病態関与の可能性を明らかにするために,動物実験を中心とした脳内BDV検索を進め,遺伝的もしくは環境的要因などの総合的な解析が必要である」と指摘した。