医学界新聞

第31回日本作業療法学会開催される

学会テーマ「ライフステージと作業療法」


 第31回日本作業療法学会が小野俊子学会長(新潟こばり病院)のもと,さる6月5-7日の3日間,新潟県長岡市の長岡リリックホールを主会場に開催された。開会式で小野会長は「作業療法士は障害をアプローチの窓口としながらも決してそこにとどまらず,対象者の人生・生活のいろいろな局面・段階における総合的な側面的援助の方法を,学問的・実践的に探求することが大切である」との意図から「ライフステージと作業療法」を学会テーマとして掲げたと挨拶。近年急速に拡大している作業療法士の活躍の場の反映とも言えるこのテーマは,逆に「いかなる研究・実践も,“人・家族”への理解と適切な接近のためにある」という視点を再確認したいとの意味を含んでいる。


 学会では多彩なプログラムが企画された。特別講演として小此木啓吾氏(東京国際大教授)による「ライフサイクルと悲哀の仕事」が,またシンポジウムとして(1)よりよく生きる-ターミナルケアの視点からOTが学ぶべきこと,(2)障害児・者とその家族のライフステージ,(3)作業療法教育の課題と展望-輝く未来をつぐ後輩のために,の3題,教育講演として(1)発達障害をもった子どもたちの生涯発達-華麗な加齢は可能か-Brdoの森からの提案(重症心身障害児施設旭川児童院 今川忠男氏),(2)疫学調査の示すもの-新潟県大和町における老人性痴呆疾患の発生頻度・早期発見及び進行予防に関する研究を通して(群馬大 宮永和夫氏),(3)在宅生活を支える福祉機器と技術支援のあり方(東京都補装具研究所 市川洌氏),(4)高齢者にとっての音楽の意味-音楽療法の立場から(音楽療法研究所所長 門間陽子氏)の4題の他,一般演題,ポスターセッションなどの314題の研究発表が行なわれた。
 本号では各回とも多くの参加者を集めたシンポジウムの中から,初日に行なわれたシンポジウム(1)よりよく生きる-ターミナルケアの視点からOTが学ぶべきこと(司会:国療多磨全生園長 村上國男氏,国際医療福祉大教授 矢谷令子氏)を取り上げ,その内容を報告する。
 本シンポジウムでは,シンポジストとして,風間忠道氏(国療東埼玉病院OT),奥川幸子氏(元東京都老人医療センターソーシャルワーカー),沖原由美子氏(聖隷三方原病院管理婦長),目良幸子氏(淀川キリスト教病院OT),田宮仁氏(飯田女子短期大学教授)を迎え,各々異なる立場からの発言を得た。

成長し続けることが ターミナル期を支える

 まず,小児-青年期のターミナルにかかわる風間氏は,原因不明,予後不良で根本的な治療法も確立されていない難病であるDuchenne型進行性筋ジストロフィー患者のケアについて,OTの立場から何ができるのかを考察した。
 平均寿命が20歳前後とされる患者たちは,その短い人生を施設で生きなければならないが,「幼少期からの連続喪失体験による度重なるショックと,重度障害者への接遇にありがちな職員の人権を無視したかかわり方の結果,青年期になっても自らの人生を真剣に問い,考える能力が育っていないことが多い」と指摘し,そのような患者に「それぞれができる範囲でやりたいことを可能にする作業療法」と,それにより,患者が「自信を持つこと」の大切さを強調した。「死は,一方で人生の完成の時期ともとらえることができる。常に成長し続けることが,死へ向かってのターミナル期を支えていると言えるのではないか」と指摘した。

老いへのマイナスイメージ

 次いで,発言に立った奥川氏は「未来のあるべき老人医療が見えないまま,死のありようについてのみに模索への時代が訪れている。寝たきりやぼけに代表される老人,老人後期盲動症は社会的に注目されてはいるものの,はたして受け入れられているのだろうか」と問題提起。
 かつて行なった女性誌上での「老いのイメージ」に関するアンケート調査結果に触れ,「老いのイメージは“ぼけ”“寝たきり”“死”などのネガティブな言葉とセットになっており,調査対象の44.6%が老いに対して“悪いイメージ”を持っていた」と報告。
 奥川氏は「私たちはまず,自らの心と社会の内側に巣くっている“老いへのマイナスイメージ”を点検し,その地平から出発しなくてはいけない」と持論を展開した。

構造の変化が排除する老い

 さらに,老人に関する言葉は“ぼけ”“寝たきり”“死”などの,介護対象たる老人後期の状態を表す言葉ばかりで,「社会的な役割などを表す言葉がほとんどなく,現代社会に生きる老人は確固とした概念の下に存在していない」とし,「新しい老人の座」がないと指摘。「死が医療機関や医療専門職に占有されてしまった現在,多くの死を見送っている存在としての老人の価値は,家族や地域社会の中でそれほどの意味を有さなくなり,むしろ家族や社会や産業などの構造的な変化が老いを排除して,もはや社会経済の扶養対象としてしか老人を見なくなってしまったことが,ますます老いの孤独を増長している」とし,その問題の深刻さを示した。
 奥川氏は最後に「本人や家族の意思を尊重したケアを提供するにしても,私たち対人援助職がどのようにその力を発揮していくのかという課題において,老いというものを規定している社会や医療の根源的な問題に関心をもっていくことは大切なことである」と対人援助職の持つべき姿勢を示し,発言を終えた。
 続いて,沖原氏がホスピス病棟での経験から発言。「死を迎える」こととそれを支えることの困難さと,医療職がそれにかかわっていく際に,「死の準備教育」が必要と指摘し,聖隷三方原病院で作成された看護学生用の教育ビデオを上映した。沖原氏は「ホスピスにおいては,まず肉体的・精神的(孤独であっても)苦痛を取り除くこと,本人の意思を尊重することが大切である」と強調した。

QOLを高めるために 何ができるか

 4番目に発言に立った目良氏は,ホスピスを職場とするOTとしての経験から,淀川キリスト教病院でのOTの取り組みを紹介した。
 淀川キリスト教病院では週1回1時間のグループ作業療法が行なわれており,「楽しさ,喜び,感情表現,自己実現,気分転換,愛情表現」等をさまざまな形で表すことができる場を作り,合わせて身体機能訓練,日常生活動作訓練などの効果が得られるよう工夫している例を紹介。死に向かう人々のQOLを高めるための援助例が報告された。
 最後に登壇した田宮氏は,特に患者と援助者との関係,援助者の援助姿勢について発言。「ケアにかかわる人は 対象者になりきることはできない。患者以上に患者を知っているかのような傲慢な思いこみは避けなければならない。援助することは大事だが,しかし,『しないでおくこと』も大事である」などと語った。
 その後,これらの発言を受けてフロアを交えた討論が行なわれ,その内容をまとめる形で,司会の村上氏が「患者の思いにそって何かできるかもしれないという援助者の姿勢の大切さ」を強調し,このシンポジウムを終えた。