医学界新聞

USMLEを受験して 実践的対策

大杉 満 横須賀在日米海軍病院インターン


 アメリカにレジデントとして臨床留学するには研修許可書(ECFMG Certificate)が必要で,これは日本の医師国家試験に加えてUSMLE STEP 1(基礎医学),STEP 2(臨床医学),ECFMG English Testに合格してはじめて手に入る。本紙を読まれている方の中にも,USMLE受験を考えている方もいらっしゃるだろう。しかし受験準備を始めようにも何から手をつけてよいのか戸惑うケースが多いようである。一般に日本人を含めたInternational Medical Graduates(IMGs,アメリカ外の医学校卒業生)のUSMLE合格率は低く,臨床留学の1つの壁となっている(アメリカの医学生の合格率は90%台。それに対しIMGsの合格率は50%程度)。
 そこで本稿では筆者自身や周囲の受験者の経験を元に,情報をどのように手に入れ,受験時期をいつに設定すべきか紹介したい。

情報を集めよう

 USMLEは過去問が手に入らず(実際の試験問題はすべて回収される),どの分野が重視されるのか情報が不足しがちで,勉強のポイントが絞りこみにくい。そしてどれくらい勉強すれば合格するのか,その目安となる情報もない。こういったことが勉強を進める大きな障害になる。そのような場合でも,以下にあげるようなポイントを参考に,勉強を始める前にまずは情報を集めることから始めてはいかがだろうか。
 情報源として,(1)受験経験者に聞く,(2)本・雑誌を探す,(3)インターネットの利用(様々な団体・個人がホームページを持っている)などが考えられる。なるべく多くの情報源を持つことがまずは大切だが,様々な立場から情報が寄せられているので,情報発信者のバックグラウンドを確認し,情報の新鮮さを確かめ,自分に適用できる物を選別する必要がある。
 ガイドブックとして手に入れるべきはAppleton & Lange社の「First Aid Series」である。アメリカの医学生が編集しており,USMLEの紹介,参考書・問題集の推薦,頻出出題項目のまとめなど役立つ情報が満載されている。
・『1997 FIRST AID for the USMLE STEP 1-A Student-to-Student Guide』, Appleton&Lange
・『FIRST AID for the USMLE STEP 2-A Student-to-Student Guide』, Appleton & Lange

受験時期の設定

 「いつ受験するか」は重要視されていないようだが,得点に大きく関わる。レジデント応募までの長期計画をたて,各試験の受験時期を設定していくとよい。その時に考慮すべきポイントを以下に列挙し,最後に筆者自身の例を紹介する。

1.受け直しができない
 USMLEは一度合格してしまうと再度の受験はできない(年月が経過して失格になった場合を除く)。よいレジデント・プログラムに募集するためには,できるだけ高得点をあげることが大切とされているが,望みの点が出るまで何度も受験する,ということはできないのである。また州によってはUSMLEの受験回数に制限があって,オーバーするとその州では研修ができないところがある。このことから,できる限り少ない回数,できれば1回で高得点をあげることが目標になる。

2. STEP 1:基礎と臨床の知識が必要
 多くの大学では4年時までに基礎医学の授業が行なわれるため,5年生時にSTEP 1を受験するのが一見魅力的である。しかし基礎医学の試験とされているSTEP 1であっても臨床の知識が必要で,臨床経験は合格率・得点にプラスに作用する。大学によって臨床実習の期間が異なるが,ある程度臨床実習を受けてから,あるいは日本の国試の勉強がある程度進んだ時期に受けるのがよいと考えられる。

3. STEP 2:実践的な臨床の知識が必要
 STEP 2は臨床の試験であり,日本の国家試験と同時期あるいはそれ以降の受験がよいと考えられる。大部分が特定科のローテート・ストレート研修を行なう現状では,卒業試験・国家試験などで蓄えた全科の知識の減衰と,研修・業務の間にとれる勉強時間を考慮に入れて受験時期の設定を行なう必要がある。
 医学部の後半2年間で相当の臨床実習を行なうアメリカの実情を反映してか,STEP 2では日常よく目にする疾患について,診断・治療・予後について熟知しておく必要がある。高得点をめざす場合には勉強時期の設定と合わせて,臨床実習を十分活用すること,できるならばスーパーローテート方式の病院で卒後研修して,各科の臨床経験を積むことが有利になると考えられる。
 また,以前はSTEP 1と比較してSTEP 2は合格するのが簡単とされてきた。しかし最低合格点の引き上げと合わせ,試験自体が難易度をあげてきているため,今後は注意が必要である。

4.目標点数をどう設定するか
 アメリカの臨床研修では,日本人を含めたIMGsを受け入れる状況は年々厳しくなってきている。その中でよい研修先を見つけるためには,単にECFMG Certificateを得るだけでなく,STEP 1,STEP 2で高得点をあげることが有利に働く。USMLEでは3桁と2桁の得点が表示されるが,アメリカの医学生の平均点がSTEP 1,STEP 2ともに3桁の点数で毎回200~205点と伝えられている。最低ラインとしてこの平均点をクリアすることが1つの目標になる。
 志望する科によっても目標点数が異なる。アメリカで人気が高く,レジデント枠の競争が激しい科,例えば眼科,耳鼻科などでは高得点が必要とされているが(しかしもともとIMGsが入り込むのも難しい),そうではない内科,小児科などは比較的低い点数でもよいとされてきた。しかし最近アメリカでも保険制度の変更などにより状況が激変し,数年前の常識が通用しなくなってきている。この面でも情報を十分集め,目標点数を設定する必要がある。

5.いつレジデントを始めるか
 レジデント募集要項に明示してなくとも,IMGsの場合,募集時にECFMG Certificateがないと門前払いされるケースがあると聞く。レジデントに応募する時期,つまり,レジデントとして働き始める前年の10月頃までにECFMG Certificateを取得するのが一番確実。そこから逆算して各試験の受験時期を設定するとよい。

6.CSAという一大転機
 本紙でレポートされたが(第2232号,医学生・研修医版),日本人を含めたIMGsにとって転機が迫ってきている。それは「Clinical Skills Assesment(CSA)」と呼ばれる臨床実技試験である。これが導入されるのは1998年7月からであり,それ以降はECFMG Certificateを手に入れるにはCSA合格も要求される。逆に言えば,1998年6月までにCertificate取得をすれば,とりあえずはCSAは受験しなくてもすむ。これは1つ大きな転換点になると考えられる。
 以上をまとめると,現時点では(1)各自の勉強の進行具合,勉強の時間の捻出しやすさ,(2)いつからレジデントを始めるか,(3)CSAの実施時期,を考慮して受験時期を設定するとよいと思われる。
 筆者自身の例では,(1)医学部では5年生の春より臨床実習が行なわれるので,6年生でSTEP 1を受験すれば,1年以上の実習経験が得られる。また,学生の間は勉強時間を作りやすい。国家試験の勉強と並行させればなんとかSTEP 2の勉強も進められる。(2)1998年からレジデント研修を始めたい。そのため1997年10月までにはCertificateを取得しておきたい。(3)CSAはまだ実施されておらず,確実な情報が得られないためこれは回避したい,と考えた。
 特に(2)の要素が大きく,STEP 1を医学部6年生の1996年10月,STEP 2は1997年3月に受験した。スーパーローテート方式の横須賀米海軍病院で研修するため,受験を先に延ばせばスコアは伸びるとも考えられたが,1998年からのレジデント研修を狙ってこのスケジュールに決定している。さらに筆者の場合はSTEP 2の10日後に国家試験が行なわれたので両方の受験が可能だったが,今後の日程によっては難しくなる場合もあるかもしれない。

Random Tips

■各科目のバランスを考えて勉強を進めたい。一例を上げれば,STEP 1で肉眼解剖(Gross Anatomy)を1から勉強するのはまったく無駄である。肉眼解剖の細い事柄はほとんど出題されないからである。
■STEP 1では生化学,薬理学,微生物・免疫学,行動科学が日本人にとって苦手分野とされる。
■STEP 2では日常よく見る疾患について,Primary Care Physicianとしてどう診断・治療を進めるかに集中するとよい。病歴・症状・身体所見が重視される。公衆衛生,精神科は手薄になりがちで,産婦人科も低得点の傾向にある。日本の国試の勉強と並行させる場合,アメリカと日本で診断基準,標準治療が異なる場合があるので注意。
■USMLEの出題傾向・問題形式も次第に変化してきており,ぴったり対応した問題集はほとんどない。先に紹介した「First Aid Series」で推薦されている本はよいものが多い。これを参考にし,自分の勉強法・ニーズにあった参考書・問題集を探すとよい。アメリカに行く機会があれば,書店を覗くとよい。日本では見かけない試験対策本がたくさんある。 
■周囲の受験者の意見として,テキストを漫然と読むよりは,問題を多く解き,その題材に関連する箇所をテキストを使って理解を深めるのがよいようである。また,問題集のみで勉強すると,系統立って勉強することができず,時間の割に理解が深まらないことがあるので注意したい。
■直前の1か月間は貴重で,詰め込みもずいぶん役に立つという意見が多い。
■本番のレベルを知るには,受験申請すると送ってくる冊子「General Instructions」の中のサンプル問題がよい。関連するトピック,まったく同じ写真などが本番で出題されることがあり,必ず目を通したい。市販の問題集ではWilliams & Wilkins社のNMSシリーズの1つ,「Review for USMLE STEP 1」(赤色),「STEP 2」(青色)が本番の難易度と合致しているようだ(ただし出題形式は合っていない)。目安として,この問題集で6,7割正解できれば,本番でも比較的よい点で合格しているようである。
■本番では時間との戦いになる。1題1分で解く必要があり,英語の速読力が必要である。さらに2日間で180分×4回の試験を乗り切るには体力・精神力も必要である。特にSTEP 2はほとんどが症例に基づいた問題であり,素早くポイントをつかむ必要がある。

終わりに

 USMLE受験の準備をしている間,日本人向けの情報がもっとあれば楽に勉強が進む,と思ったことがこの原稿を書く最初の動機になっています。ここでは受験計画をたてるための考え方を主に述べましたので,細かい事柄はあまり述べておりません。それに加え,学生としての体験・考えからに述べたため,例えば勤務しながら受験するにはどうするのか,という問には答えられていません。経験のある方からの寄稿を期待したいと思います。
 ご質問・ご意見などがありましたら,E-mailをVZZ06043@niftyserve.or.jpにいただければ幸いです。この稿が皆様の勉強のお役に立つことを祈ります。最後に情報を提供してくれた医学部の同級生や友人たちにこの場を借りて感謝いたします。