医学界新聞

●日本脳卒中協会設立記念シンポジウム開催


 さる5月31日,日本脳卒中協会(協会長=住友病院 亀山正邦氏)の主催による設立記念シンポジウム(司会=国立大阪病院 中山博文氏)が,「日本脳卒中協会に求められるもの」をテーマに,大阪国際交流センターで開催された。
 本協会は,医師をはじめとする医療従事者を中心に脳卒中の予防,患者支援をめざして設立された日本では先例のない組織。シンポジウムは,欧米から同様の活動を展開している脳卒中協会・財団や日本の患者会から代表者を招いて,協会の今後の方向性を探ることを目的に企画された。

欧米の脳卒中ケアの現状

 まず最初にS.オルセン氏(デンマーク脳卒中協会会長)は,協会では現在,「すべての脳卒中患者にベストの治療を」を目標にし,各地に脳卒中患者の重点的な治療を行なう「脳卒中病棟(stroke unit)」設立に向けて活動を展開していると述べた。
 次いで,もっとも歴史の古い英国脳卒中協会マネージャーのM.ウィルキンソン氏は,協会の事業として,脳卒中治療研究病棟を設立し研究発展のバックアップや言語障害へのサポート,ハイリスク群のスクリーニング,および地域医療などさまざまなプログラムを紹介。また高齢患者とは違った形での若年患者への生活支援や家族支援を行なうなど,きめの細かいサービスを提供していることを報告した。
 続いて,ドイツ脳卒中財団のH.M.エミンガー氏が財団の主な活動を,(1)医師や患者,一般市民への情報提供,(2)専門家間やボランティア,患者間など各種ネットワークの拡大,(3)特別脳卒中病棟設立などによる研究の発展の3点にまとめた。また,ドイツのメルセデス・ベンツ社が提供している「info-mobile」(一般への脳卒中広報活動に使われる移動車。専門医が搭乗し各地に赴き,車内で相談業務など行なうもの)の存在やキャンペーンなど,企業も巻き込んだ活動を報告した。
 続いて,日本ではじめて患者の自助グループを発足した柏木知臣氏(全国脳卒中友の会連合会会長)が,日本の脳卒中患者の現状を述べた。自身も患者であり,その経験や患者同士の話題から「脳卒中患者や家族は情報に飢えている」とし,「患者は自分に起こった脳卒中について,もっと教えてほしい」と訴えた。

脳卒中診療には何が求められているか

 最後に,シンポジスト全員と協会副会長の山口武典氏(国立循環器病センター)と中山氏を交え,パネルディスカッションが行なわれた。日本脳卒中協会はどのような活動を行なうっていくべきかの問いに,患者ケアにおいては,(1)全国どこでも同じ医療やサービスが受けられること,(2)発症から社会復帰まで「シームレスケア」(継ぎ目のないケア:入院から転院,退院など治療のステージが変わっても,こぼれず医療の目が届くこと)の実践など,協会へのさまざまな提言がなされた。
 山口氏は,「日本の脳卒中診療も新しい展開が求められている」をもって閉会の辞とした。

●「日本脳卒中協会」(JSA)が設立される

日本脳卒中協会設立の趣旨

 「日本脳卒中協会」(JSA : The Japan Stroke Association)が1997年3月1日に設立された。
 同協会はその「設立趣旨」の冒頭で,「わが国において,脳卒中は死亡原因の第2位,死亡総数の2割を占め,また入院受療率も高く,入院原因の第2位を占めるなど,まさしく国民病と言える」と述べ,「脳卒中の急性期を生き延びることができても,患者とその家族は運動麻痺や失語症などの後遺症によって生活の質(Quality of Life)が低下し,社会的ハンディキャップを負うことになる。さらに,寝たきり老人の約4割は脳卒中が原因であり,医療費の1割弱が脳卒中に費やされているという現実,さらには訪問看護利用者の4割が脳卒中患者であるということからも,脳卒中という病気が社会に与える影響が甚大あることが伺える」と指摘している。
 また,予防によって新たな脳卒中発症を減らし,またすでに発症した患者とその家族を支援することが重要であるにもかかわらず,わが国ではその態勢が十分に整っておらず,脳卒中患者は障害が大きすぎるために,自らの組織作りが容易でないために,患者の全国組織すらいまだにできていないのが現実である
 これらの現状を考えて同協会は,欧米には疾患の予防と患者支援を目的とした組織があるが,それらをモデルにして,わが国でも脳卒中患者とその家族,脳卒中に関与する医療,福祉,行政関係者および一般市民に呼びかけて設立した。
 同協会は,その目的を「脳卒中に関する正しい知識の普及および社会啓発,ならびに脳卒中患者の自立と社会参加を促進することにより,新たな脳卒中発症の減少に寄与し,いったん脳卒中を起こした場合には,すみやかな情報提供,不安の軽減,自立のための支援,患者および家族の生活の質の改善,ハンディキャップの軽減などを促進し,その成果を通じて国民の保健,福祉の向上に寄与すること」とし,具体的な事業として,(1)脳卒中の予防ならびに発症時の対応に関する知識の普及と啓発,(2)脳卒中患者の自立を支援する事業,(3)パンフレット・広報誌の発行,(4)脳卒中に関する調査研究,(5)その他,目的を達成するために必要な事業,を挙げている。
 なお,同協会は会員を募集している。詳細は下記まで。
・〒545 大阪市阿倍野区阿倍野筋1-2-6 日本脳卒中協会事務局
TEL&FAX(06)629-7378

●日本脳卒中協会役員
会長:亀山正邦(日本脳卒中学会名誉会員・住友病院院長)
副会長:山口武典(日本脳卒中学会理事・国立循環器病センター病院院長)
理事
明石謙(川崎医科大学教授)
飯高京子(日本聴能言語士協会会長・上智大学教授)
小浜維人(元NHK解説委員長)   
柏木知臣(脳卒中患者友の会代表幹事)
後藤文男(日本脳卒中学会理事長・慶応大学名誉教授)
寺山久美子(日本作業療法士協会会長・都立医療技術短期大学教授)
奈良 勲(日本理学療法士協会会長・広島大学教授)
波多健治郎(明治生命保険相互会社社長)
藤澤友吉郎(日本製薬工業協会会長)
森岡恭彦(日本医師会副会長・日本赤十字医療センター病院長)
事務局長:中山博文(国立大阪病院)
顧問
尾前照雄(日本脳卒中学会理事・国立循環器病センター名誉院長)
菊池晴彦(国立循環器病センター総長)