医学界新聞

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


心不全の発生と予防に関するすべてを網羅

心筋障害と心筋保護 堀正二 編集

《書 評》丸山幸夫(福島医大教授・内科学)

心臓への攻撃因子を解説

 本書は心障害をきたす要因を心筋攻撃因子と冠血管攻撃因子(エンドセリン,内皮障害,stunning,平滑筋増殖とリモデリング,血栓,コレステロール,白血球)とに分け,さらに前者は(1)虚血・再灌流による心筋障害(心筋収縮調節とその破綻,病理像,カルシウム過負荷,フリーラジカル,カルパイン),(2)負荷による心筋障害(力学的負荷と心肥大,カテコラミン障害,アンジオテンシンとリモデリング,遺伝子異常と心肥大)および,(3)炎症による心筋障害(サイトカイン,自己免疫,アポトーシス)の立場からそれぞれの病態での各因子の役割,障害の発生機序について解説を加えている。
 心臓への攻撃因子に次いで,心防御因子を心筋(アデノシン,preconditioning,ACE阻害薬,β遮断薬)および冠血管(NOおよびその合成酵素,ナトリウム利尿ペプチド,EDHF,Kチャンネル,側副血行,血栓溶解薬)の両面から提示し,最後に,臨床的に心障害をきたす最も重要な疾患あるいは病態として,急性冠症候群,心不全,高血圧,動脈硬化を取り上げ,病因論,対応策が包括的に述べられている。

心不全発症に結びつく因子を理解

 本書の意図は取り上げられた項目からも明らかなように,心不全の発症に結びつくさまざまな因子の中で,何が問題で,重要なのか,その管理はいかにあるべきかについて現時点での到達点を示すことにあると思われるが,各章ごとに要約がつけられ,キーワードの解説,今後の問題点が示されている。各章は独立しているが通読してみれば,心筋障害時の代償作用とその破綻の背景,原因を問わず心不全で動員される共通の対応機構などについても自ずと理解されよう。
 循環器の中で,心不全の発生と予防への関心はとりわけ高く,膨大な情報が近年出されている。本書には必要不可欠の情報と問題点が過不足なく盛り込まれており,循環器専門医はもちろん,一般内科医,研修医,医学生など,この領域に興味を持つ方々に広く読まれることを希望したい。
B5・頁232 定価(本体7,500円+税) 医学書院


今後の病理学のあり方を踏まえた教科書

標準病理学 町並陸生,秦順一 編集

《書 評》日合 弘京大教授・病理系)

 このたび,町並陸生東大教授,秦順一慶大教授の編集による教科書『標準病理学』が医学書院から出版された。両編集者をはじめとする斯界の専門家を分担執筆者として,今後の病理学のありかたを踏まえて書かれた教科書である。

バランスのとれた「標準」を越える好著

 教科書を書く人にとっては,急速に拡大する医学情報の中から,何を選んでどのように学生に伝えるかはまことに頭の痛い問題である。詳細に過ぎれば学生の学習能力を越え,簡潔に過ぎれば術語や概念の羅列にすぎなくなる。本書は読み物としての性格を十分に持ちながら総論,各論をあわせて1冊のハンディなサイズにまとめられている。編集者は病理学の1つの定義として「医師として病理医が日常勉強する医学の領域」と序論で述べているが,本書はこの定義を反映して,的確でプラクティカルな知識を伝えるところにきっちり重点が置かれている。形態の記載のみに終始することなく,最近の関連分野の知見をも十分に取り込んだ内容となっている。質・記述の密度ともに,よくバランスのとれた「標準」を越える好著である。
 評子の責としていくつか気がついた点をあげる。総論は序論に続き細胞障害機序,炎症,代謝障害,遺伝子・発生異常,循環障害,免疫異常,腫瘍という配列になっているが,炎症は循環障害や免疫異常と関連づけられているほうが理解しやすいように思う。また,加齢変化ないし老化の記載がない。高齢化社会を迎え教科書によっては1つの章を与えているほどの事項でもあり,次版での補筆を望むところである。

病理学を学ぶ学生のよき伴侶

 各論の多くの項目では概念・定義,成因,病理形態像,臨床との関連などの小見出しに分けて記載されておりわかりやすいが,分担執筆者によって,あるいは項目によっては必ずしもスタイルは統一されていない。さらに情報を求める読者に便宜を図るため,単行本を中心に文献があげられているが,出版後10年以上を経たものも散見される。こういう本は学生レベルでは入手も容易でないので,むしろ権威のある国際誌に掲載された最近の優れた総説を精選して掲載していただくのがよい。写真はすべてモノクロでサイズがやや小さいという難はあるが,よく選択された達意のものが多く理解しやすい。また二色刷りのシェーマについてもよく工夫されている。これから病理学を学ぶ医学生のよき伴侶として本書は推薦に値するものである。
B5・頁828 定価(本体9,800円+税) 医学書院


幅広い層に利用価値の高いCTの参考書

胸部CTの読み方 第3版 河野通雄 著

《書 評》中田 肇(産業医大教授・放射線科学)

 著者の河野通雄氏は胸部放射線診断学においてわが国を代表する権威であるが,この領域の悪性腫瘍の治療などにも熱心に取り組んでこられた方である。本書の第1版は1982年に出されているが,当時は胸部疾患の診断におけるCTの価値も広くは認識されておらず,その着眼の早さは敬服するところである。すでに1989年に第2版が出されているが,今回の第3版はこの15年間の進歩と成果を取り入れて,神戸大学放射線科および関連病院の16名の執筆協力を得て完成されている。

悪性腫瘍の診断と治療におけるCTの使い方

 検査法,正常CT解剖,疾患別のCT所見,スパイラルCT,小児のCT,悪性腫瘍の治療経過観察,肺癌のBAG‐CTの全部で7章よりなり,とくに最近の進歩の著しいスパイラルCTについては十分な解説が加えられている。全頁数も300頁程度で内容の割には厚くなく,写真も鮮明で読みやすい。含まれている症例も肺野から縦隔,心大血管の病変まで多岐にわたり,典型的な症例だけでなくめずらしい症例もある。全体を通じてほとんどの症例で胸部単純X線写真とCTが並べられてあるのは親切であり,単純X線読影の向上にもなり教育的でもある。
 中でも本書の最大の特色は,著者が最も得意としている肺癌を主体とする悪性腫瘍における診断と治療効果判定に対するCTの利用に関する記述であり,これには多くの貴重な内容が含まれている。文献は最後に項目別にまとめられており,参照するのに便利である。
 本書はこれから胸部CTを学ぼうとする者だけでなく,すでに経験を積んだと思っている者にとっても利用価値が高い著書であり一読を薦めたい。
B5・頁302 定価(本体10,000円+税) 医学書院


更年期女性の愁訴にどう対処するか

更年期外来診療プラクティス 青野敏博 編

《書 評》越智晶俊(越智医院)

 高齢化社会,QOLという言葉を耳にしない日はない。日夜診療に明け暮れる最前線の臨床医自身のQOLについて疑問を持ちながらも,考える時間すらない毎日であるが,医学書院から本書を紹介していただいた。

婦人科の立場からだけでなく心療内科的立場から

 読みやすい本である。短時間で効率よく理解でき,日常診療に活用できる診断と治療を簡潔にまとめ,その背景となる知見が詳述されている。特に実際の薬品名や使用量まで具体的に示された点は,そのまま翌日の診療に活かすことのできる配慮である。また婦人科以外の医師が,更年期の女性の愁訴をいかにとらえ,対処していけばよいか,婦人科医の立場からだけでなく心療内科的立場からのアプローチについても詳細に述べられている。よくある症候別にまずポイントを示し,最後に症例が提示された構成は,短時間の拾い読みでも理解しやすく便利である。
 当然ながら更年期を避けて通ることはできず,その時期に心身に異常をきたせば更年期障害として片づけられてしまいがちである。一方,現代の様々な意味からのストレス社会において,心因性の疾患は日常診療では多々見られる。この鑑別診断という面に常に配慮された内容であり,著者が婦人科専門医としてだけではなく,幅広い視野にたって診療をしておられることに感銘を受けた。
 更年期に生じる健康問題は,骨粗鬆症や高脂血症,心身症状など他科と関連した問題が多い。その中で婦人科の立場からのHRT(ホルモン補充療法)は,その根本的治療であり,他科の対症的療法とは異なるといっても過言ではないだろう。またHRTは経済的にも有利な治療法であり,現在の医療経済からみて,今後大いに広がりをみせるものと思われる。子宮癌検診には婦人科医,乳癌検診には外科医と各科医師と連携をとりながら,いわゆる近所のかかりつけ医(現状では一般的に内科医が多いか?)が実践できる治療法であろう。

婦人科以外の医師のためのHRT療法の手ほどき

 「HRTを始めようとする内科医へのメッセージ」という項を設けられたことは,更年期婦人を診る,多くの医師を読者対象とした著者の意図が明らかにされている。他科の医師が抱くHRTの疑問や不安について,Q&A方式で述べられているのも,われわれの弱点を理解していただいてのことである。特に出血や癌との関連についての記述は,HRTを躊躇しているわれわれに,多くの示唆を与えていただける。
 巻末には付録として「HRT選択のためのチェックリスト」「HRT中の定期検診」というリストが示されているので,そのままカルテにはさんで日常診療に活用させていただいている。
 婦人科の専門医が,婦人科以外の医師のために簡潔明瞭にHRT療法を手ほどきしてくださった1冊であり,これだけで自信をもって更年期女性にHRT療法を実践できるものと思われる。
B5・頁256 定価(本体6,200円+税) 医学書院


一人前の外科医になるための近道

実践の外科臨床 門田俊夫,他 編集

《書 評》加藤恭郎(天理よろづ相談所病院腹部一般外科)

教科書には書かれていないこと

 「外科はしきたりを重んじるやくざな世界である」。これは私が外科の研修を始めて間もない頃に指導医からいわれ,特に印象に残っている言葉である。執刀医として手術を始めた頃,覚えなくてはならない「しきたり」の多さに戸惑った覚えがある。この「しきたり」は,外科では手術をはじめとしてあらゆる場面に登場するにもかかわらず,教科書にはほとんど書かれていないのである。
 例えば,ドレーンを例にとっても,どの術式ではドレーンを入れ,どの術式では入れないのか。どんな材質のドレーンをどこに入れるのか。いつどうなれば抜去するのか。こういった,手術そのものからみれば枝葉末節だが,それを知らなくては術中・術後管理に支障を来すような事柄が外科にはたくさん存在する。そして,それらの多くがその病院の外科での暗黙の了解,つまり「しきたり」になっているのである。
 これらのことが教科書にあまり書かれていない理由として,それが各病院での経験と工夫が反映された結果であり,その病院のレベルによって変わる点があげられる。つまり,その病院の「しきたり」を述べることはその病院のレベルを知らしめる結果にもなり,よほど臨床に自信のある施設でないと公言することが憚られてきたきらいがある。
 ところが,この本の中では各施設の独自の方法が堂々と述べられている。それは,ここで登場する各施設が首都圏の第一線の施設であり,こと臨床に関しては自他ともに認める存在であるからこそできたといえる。市中病院で日々行なわれている実践的な内容が,多岐にわたって紹介されているのである。

貴重な経験の宝庫

 具体的には,基本的疾患の診断と治療に始まって,剃毛の仕方,腹壁縫合の方法,縫合糸の種類,器械吻合の適応,ドレーンの選択などが事細かに記載されている。さらには,創傷管理や褥瘡治療,終末期医療についてまで網羅されている。そして,執筆者の独断のように思える方法が,実は第一線の病院では当然のように行なわれている方法であることが表形式で明らかにされる。また,他の施設での思いもかけぬ工夫が紹介され感心させられたりする。さらに,各施設の医師がその「しきたり」についてのそれぞれの見解を述べ,解説しているのだが,これがまた貴重な経験の宝庫ともいえる内容になっており,実に多くのことが学べるのである。
 気になった点としては,IVHの適応が甘い施設が多かったこと,また手術手技の工夫点などを十分に説明するイラストが不足気味である点などがあげられよう。
 しかし,全編を通じて本書は上に述べたような今までにないスタイルを貫いている。研修医にとって「しきたり」を覚えることはやっかいなことではあるが,それを覚え,それについてうんちくを述べられるようになれば一人前の外科医なのである。この本はそうなるための近道として実に有用である。
B5・頁280 定価(本体6,500円+税) 医学書院