医学界新聞

NURSING LIBRARY 看護関連 書籍・雑誌紹介


看護の歩み・連関する史実を詳述

看護学生のための世界看護史 看護史研究会 編集

《書 評》坪井良子(山梨医大・看護学)

 私たちが現在なにげなく行動し,生活しているなかには過去が流れ込んでいるのであって,未来もまた,現在を規定していることになる。歴史を学ぶということは,過去から現在までの歩みをたどり,そして将来を展望することにある。
 歴史的研究には,第1に史料の所在をたんねんに探索するという難題が含まれている。それらに取り組むには,その時代の文化的背景を理解するとともに,なによりも資料の収集が第1であるといえる。過去の出来事の真実を知るためには,1次資料の収集が必要であり,それらを完成させるには,時として気の遠くなるような根気強さと継続的意欲が要求される。ましてや,世界史の扱う範囲は広く,長い年月を必要とする。看護の対象となる人々の生や老,病,死はともすると日常生活の中に埋没したり,医学の中に吸収されてきたという歴史的事実がみられる。
 世界看護史については,これまで私たちは欧米の著者による邦訳を通して学んできた。残念なことに東洋の視点からみた世界看護史はこれまでには見られなかった。ここに,看護史研究会の方々のご努力によって『看護学生のための世界看護史』の刊行がみられたことは誠にうれしいことであるとともに,その地道な研鑽に対してこころから敬意を表するものである。

時代と文化の中の看護を捉える

 さて,本書の内容は,古代,中世,近世,近代,現代から構成されている。特にこれまでの看護史書には触れられていなかった古代の医療と看護をも取り上げ,それぞれ必要とするところに「ZOOM IN」を入れて,その時代の看護と関係のある項目を詳しく取り上げてわかりやすく解説している。
 例えば,古代のZOOM INでは,現代にも受け継がれているアーユル・ヴェーダを取り上げている。アーユル・ヴェーダは,生命にとって何が健康によく,何がよくないかを立証することを目的としている。そして看護者の資質として,(1)患者に同情心を持っていること,(2)心身ともに清潔であること,(3)看護技術に熟練していること,(4)医師の指示を理解する知力を有していることとしている。アーユル・ヴェーダは,単に病気の治療だけでなく,幸福に長寿をまっとうするための養生法,健康な精神生活についても詳述し,現代的にも意義があることがわかる。
 さらに,中世の医学,キリスト教と看護について記し,近世での産業革命と医療・看護,近代では,近代看護の創始者フロレンス・ナイチンゲールについて詳述し,アメリカ近代看護から職業看護の確立までを捉えている。現代では,アメリカの専門職としての看護学教育と看護実践,イギリスの看護と教育,ロシア,中国・韓国,アジアの医療と看護を取り上げて詳述している。

これからの看護を考えさせられる

 今日,世界の各地ではさまざまな状況のなかで医療・看護が実践されている。看護の発祥から現在までの歩みは,各国での独自の歴史の中で発展してきた。これから歩んでいく未来に向けて,看護学は何をどのように背負い,どのように発展していくべきなのであろうか。わが国でも世界に例をみない高齢社会を迎えている。それらに対応してよりよい看護を提供していくには今後どのようにあったらよいのであろうか。これまでの人類が歩んだ足跡をたどりながら現代の位置をしっかりと受け止め,きたる将来に向けて大きな展望を持って歩んでいかなければならない。21世紀も目前に迫り,若い看護学生によせる期待も大きなものがある。そうした学生の皆さんにぜひ本書を通して国際的視野から学び,大きく羽ばたいてほしいと念じながら本書の出版がなされたに違いない。また,同研究会では『看護学生のための日本史』も1989年に出版されている。併せて,一読をお勧めしたい。
B5・頁152 定価(本体2,500円+税) 医学書院


統計的手法を初歩から学べる

統計学入門 第6版 杉田暉道,栃久保修 著

《書 評》藤城喜美(神奈川県看護協会会長)

 わが国の戦後における保健医療施策はきわめて効率的に進められ,感染性疾患の撲滅,乳児死亡の減少等を他国には例をみない速さで達成し,国際的にも高い評価を得ている。しかし,昨今の出生率の低下もあって,高齢化の進展が予想よりも早まるのではないかと,国はもとより各県そして地域において様々な対応が検討されてきている。
 保健医療領域の今までの成果は評価できるが,これから先は総合性,地域性,そして何よりもきめ細かい対応が要求されるのではないだろうか。すなわち保健医療サービス全体の質の向上である。わけても看護サービスの展開にあたっては,根拠となるいくつかの指標,客観性のある理論が必要となってくる。この部分の再構築に統計的手法の活用が重要となるのは必定で,その意味でこのたび出版された『統計学入門 第6版』は格好の書と言えるであろう。

具体例を用いてわかりやすく解説

 本書は全体を大きく7つの章に分け,段階的に理解できるような構成となっている。健康に関連する具体例を用いて演習等から始まっているので受け入れやすい。各々の章と,そこで解説されている事項については以下の通りである。
1.母集団と標本:平均値と散布度,母集団と標本等の解説
2.平均値:その集団の全測定値の和を全例数で割る一般的な方法と,標本平均からの推定
3.百分率:平素安易に使う頻度が高い母百分率,標本百分率等の意義
4.相関関係
5.多変量による統計分析:収拾された多数のデータをもとに絡みあった要因を解きほぐし,要因相互の関係を明らかにしていく手法(この項は今回の改訂に際して加えられた)
6.標本の選び方
7.公式と記号

初学者のための配慮が随所に

 昭和43年初版以来版を重ね,今回第6版を迎えたということは,それだけ入門書としての細かい心遣いがいき届いているということであろう。第6章の標本の選び方は日頃の調査の基本になることであり,読んでみて改めて認識を新たにした部分が多い。
 本書の序文には「例えば公式や結論の導き方を理屈をぬきにして素直に受け入れてやってほしい」とある。これに従って活用してみることが,本書に親しむコツであろうと考えられる。統計の手法を初歩から学びたい方々には,本書を開いて「とっつきやすさ」を感じとっていただけるのではないか。是非お薦めしたい1冊である。
A5・頁182 定価(本体2,400円+税) 医学書院


ナースステーションに常備すべき書

糖尿病治療事典 繁田幸男,杉山悟,景山茂 編集

《書 評》河口てる子(阪大助教授・成人・老人看護学講座)

 この事典をぱらぱらとめくって,最初の印象は「これは便利」である。この本を使えば,糖尿病治療・教育の現場において,医師との会話での未知の治療用語調べに,また患者への福祉サービスの回答などにすぐさま対応できる。基礎医学から民間療法の種類や対応,視覚障害関連更生施設一覧までを広く網羅したこの本は,医学用語事典の範疇をはるかに越えて,実に実用的である。ぜひ,ナースステーションに1冊置いていただきたい。
 この便利な「糖尿病治療事典」の内容構成は,診断,病型分類の基礎医学から,インスリン療法,経口薬療法等の治療,最近のトピックから患者教育,患者組織や社会資源の福祉サービスに至る22のカテゴリーに分かれた集大成である。カテゴリーを紹介すると,疫学,診断,病型分類,臨床検査,肥満,糖尿病性昏睡,妊娠,食事療法,運動療法,経口薬療法,インスリン療法,コントロールの指標と基準,低血糖,合併症とその治療(眼合併症,糖尿病腎症,糖尿病性神経障害,潰瘍・壊疽,心合併症,脳血管障害,高血圧,高脂血症,感染症,歯),外科手術,輸液,移植治療,患者教育,自己管理,民間療法,社会資源・福祉サービス・施設・患者組織,糖尿病をめぐる最近のトピックである。
 付録として,わが国の糖尿病の実態や食品可食部1単位中のコレステロール指数,各種運動時の消費エネルギーの計算方法など11項目と,糖尿病網膜症に対する光凝固の適応と実施基準(案)などの参考資料も豊富である。合計336項目を153名の専門家により執筆されたこの事典は,1項目を1~2頁にまとめた簡潔で実用的,そしてユニークな内容が目を引く。

業務に役立つヒントが満載

 非常に具体的な内容を盛り込んでおり,食事療法を例にとると,単に食品交換表や基礎食の説明だけでなく,宅配食や冷凍食品・レトルト食品,昼夜交代勤務者の食事指導や独居老人の食事指導といった難しい内容にも役立つヒントが載せられている。また,対応に苦慮するが,医療者に意外と知識のない民間療法や福祉制度,医療費助成,更生施設一覧なども目を引く。
 臨床の看護婦の患者ケアを振り返ってみると,合併症を持つ患者の退院後の生活指導には,福祉関連サービスの情報が不足していることが多い。また看護婦として,日々進歩する糖尿病の医学的基礎知識に不足を感じることも多いと思われる。看護婦にお勧めしたいのは,仕事中に医師から発せられた用語で知らなかったものを,詰め所の書棚からちょっとこの事典を取り出し,調べることである。わからずじまいにせずに調べることは重要であり,このような事典が役に立つ。本格的な医学書をひもとくにはおっくうだとしても,これなら十分可能である。疾患の理解も深まり,医師とも治療面での会話がはずむことになろう。
 また,患者さんから聞かれた退院後の福祉サービスなどは,一般的なことをこの事典で答えておき,地域ごとの状況にはあらためて時間をいただければよいのではないか。本格的に知ろうとすれば,時間も忍耐も必要であるが,まず最初のステップとして,この事典が役立つと思われる。

認定試験対策にも最適

 日本糖尿病学会・日本糖尿病協会合同の委員会で構成される「糖尿病療養指導士」の認定も始まろうとしている現在,認定試験対策としても,日常の仕事であまり接触しない領域の試験内容への疑問を調べるのにも最適であろう。試験勉強には,もちろん本格的な医学書等が必要ではあるが,まず出てきた用語を調べ,本格的な勉強がその領域に必要かどうかを判断する材料として,この事典が利用できる。そういう意味でこの事典がこの時期に刊行されたのは,実に時機を得たものと言えよう。
A5・頁552 定価(本体6,500円+税) 医学書院