医学界新聞

言語・聴覚障害を訓練する者(いわゆるST)の
国家資格化へ向けた報告書が公表


 さる4月24日,厚生省は「言語および聴覚に障害を持つ者に対して訓練等の業務を行なう者(いわゆるST)の資格化に関する懇談会」報告書を公表した。同懇談会は1996年10月に,「ST(Speech Therapist)の資格法制化については長期にわたり議論が行なわれてきたが,関係者の意見の一致を見ないままに,資格制度の創設には至らなかった」という状況の中,問題点の所在とその対応をすべく設置された。この間に,関係団体からの意見聴取などを含めて検討を重ねてきたが,このたび関係者の大筋の合意が得られたとして報告書をまとめた。
 厚生省はこの報告書を受け,「今後の対応として,STの資格法制化に向けての作業に着手する」としており,国家資格化へ向け一歩前進することとなった。STの業務やその目的などを明確にし,資格化への意義について,またその養成についてまで触れた報告書の要旨を以下に記す。



言語および聴覚に障害を持つ者に対して訓練等の業務を行なう者(いわゆるST)の資格化に関する懇談会報告書(要旨)

はじめに

 口唇・口蓋裂や脳性麻痺,高齢化の進展とともに増大することが予想される脳血管障害に起因する失語症などを伴う言葉の障害に対して,その機能回復を図ることは生活の質の向上,日常生活における自立に欠くことのできないものである。こうした言語,聴覚の障害を持つ者に対する訓練や検査,指導などに携わる者(ST)の資格法制化に向けて,問題点の所在とその対応について検討を行なうため,1996年10月28日に懇談会を設置。その後,日本聴能言語士協会および日本言語療法士協会から意見を聴取,11回にわたり検討を重ねた結果,懇談会としての意見をまとめるに至った。

ST資格化の意義

 ST業務は,脳血管障害患者や言語発達遅滞児に対する言語機能の評価・訓練,聴覚機能に関する人工内耳の発達に伴う患者の状態に応じた調整など,専門的知識および技能を必要とする業務であり,業務分担が専門分野として確立しており,他職種では対応が困難な業務である。特に患者の生命,身体の安全に影響する医療にかかわる業務は有資格者により行なわれることが原則であり,そのためには一定期間の専門的教育が不可欠である。また,資格制度を確立した上で,業務独占されている医師法,保助看法などとの調整も必要である。
 最近では,臨床工学技士,救急救命士等が資格制度化されたが,このように看護婦等の「診療の補助」にかかわる業務独占を部分的に解除する形が模索される。また,推定ながら現時点で考えられるST業務の対象者は105万人おり,STは全国で約9000人が必要,20年後には1万2000人が必要とされる。 STの業務
 ST業務としては,(1)主として,音声,構音,言語のそれぞれの機能,または聴覚機能の向上,維持のために行なわれる訓練,(2)訓練の実施や評価等のために必要な検査,(3)言語機能等に障害を有する者,およびその家族に対して行なう助言,指導その他の援助が考えられる。こうした業務の中には,保健衛生上の危険を生じさせるおそれのある行為が存在するが,現制度下ではそれらの行為は医師・歯科医師,もしくは看護婦等が「診療の補助」として行なうものでなければならないと考える。

資格化への具体的な考え方

 STの業務内容を広く捉える方向で考えると,「診療の補助」に該当しないものが含まれるために,医師・歯科医師の指示をSTの業務全体にかけない形で整理することが適当。
 STの業務には「診療の補助」として行なわれるべき行為が存在することから,看護婦等が独占業務とする「診療の補助」を可能とするためには,資格法制化に伴い保助看法の一部を解除しなければならない。
 STが「診療の補助」に該当する行為を行なう場合は,医師または歯科医師の指示で行なうことが必要。法制化に当たってはその旨を明記する。なお,「診療の補助」に該当する行為の範囲については,専門家の意見を聴いて整理する必要がある。
 ST業務のうち「診療の補助」に該当しないものについては,医師等の指示下ではなくとも医師等の治療方針とまったく無関係に行なわれるのは適当でない。特に,言語機能や聴覚機能の障害に関係する傷病により,現に医師・歯科医師の治療を受けている者に対しては,治療方針との調整等の観点から主治医等に関与する必要があり,その指導を受けることが適当である。
 ST資格は,基本的に名称独占資格として構成することが適当であり,名称としては「言語聴覚療法士」が妥当と思われるが,さらに法制的面からの検討が必要。

STの養成

 STの養成に必要な時間数は臨床実習500時間を含む3000時間程度で,ST試験の受験資格としては,高卒者を対象に3年以上の課程を有する養成施設(4年生大学も含まれる)の卒業者とすることが適当。
 4年生大学でSTを養成する場合には,特に学部を限定せず,指定科目の履修により受験資格を認めることが考えられる。
 養成施設としての指定を受けた4年制大学を卒業した者,または指定科目の履修を完了して4年制大学を卒業した者のいずれにも該当しない4年制大学の卒業者を対象としたSTの養成課程については,2年以上の養成施設卒業をもって受験資格と認定することを検討する必要がある。
 また経過措置として,現にST資格と同様の業務に従事している現任者や養成施設の卒業者および在校者については,一定期間の実務経験や講習会の受講などを条件に受験資格を与えることが望ましい。

おわりに

 ST資格試験の受験資格については,4年制大学とするか,3年以上の養成施設とするかの議論があったが,この議論はSTに限らず多くの医療関係資格が3年以上の養成施設の卒業をもって受験資格としている問題にも関連するため,今後も議論が行なうことが必要である。
 この報告書の提言内容は,大筋において関係者の合意が得られており,今後この方向に沿って資格制度化が1日でも早く実現することを期待する。

●「言語および聴覚に障害を持つ者に対して訓練等の業務を行なう者(いわゆるST)の資格化に関する懇談会」委員
 
井形昭弘
(座長)
 あいち健康の森健康科学総合センター長
岡谷恵子 日本看護協会常任理事
香西義昭 日本医師会常任理事
河合 幹 愛知学院大学歯学部
行天良雄 医事評論家
小林範子 北里大医療衛生学部教授
坂本龍彦 環境衛生金融公庫理事長
津山直一 国立リハビリセンター名誉総長
西村 誠 前日本歯科医師会常務理事
野村恭也 前昭和大医学部教授
橋本一夫 全国失語症友の会連合会理事長
長谷川恒雄 伊豆韮山温泉病院長
森 隆夫 前お茶の水女子大大学院教授