医学界新聞

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


在宅酸素療法の百科事典

在宅酸素療法マニュアル 新しいチーム医療をめざして 木田厚瑞 著

《書 評》川上義和(北大教授・内科学)

 在宅酸素療法を受けている患者が約5万人に達しているといわれる。1994年春から,実施施設の認可が不要になったこともあり,今後ますます患者数は増えていくと思われる。増えるのは大変結構なことであるが,適応基準の遵守,病態の理解,急性増悪への的確な対応など診療内容が必ずしも向上していないことが危惧されている。
 厚生省「呼吸不全」班では,このような情勢にてらして,昨年8月『呼吸不全-診断と治療のためのガイドライン』を出版した。このねらいは,呼吸不全の診療に携わっている一般医師(呼吸器専門医とは限らない)に向けた最新の診断法と管理法の考え方と具体的方法を示したものである。ガイドラインであるから,実地診療のプリンシプルに重点が置かれ,当然のことではあるが手技や装置など細部には触れていない。
 このたび,東京都老人医療センター呼吸器科部長木田厚瑞先生によって,在宅酸素療法の完璧とも言えるマニュアルが出版された。一口に言って,このような出版は日本では(多分外国でも)前例がないと思う。いわば在宅酸素療法の百科事典と言ってもよい見事な出来栄えである。

在宅酸素療法を総合的呼吸リハの1つとしてとらえる

 冒頭,木田先生が特に強調しているのは,在宅酸素療法は数ある呼吸不全管理法の1つであってすべてではないということである。このことはややもすれば忘れがちであるが,実は非常に大事なことである。木田先生は“包括的呼吸リハビリテーション”という言葉をよく使われるが,つまり総合的な呼吸リハビリテーションの1つが在宅酸素療法であるという考え方で,私も日頃このことを力説しているだけに,わが意を得たというところであろうか。
 このようなスタンスに基づいて,在宅酸素療法の倫理問題から始まりチーム医療の具体的な組織法,導入基準,実施手順,機器取扱上の注意と進み,付随する事項としてパルスオキシメータ,日常生活指導,肺理学療法,吸入療法,急性増悪への対応,事故・副作用を詳しく説明している。はたまた,診療報酬の仕組みや酸素業者の紹介,社会福祉制度の利用法など実地臨床医ならではの説明が加えられている。巻末には「参考資料」として実地臨床で手元に置くとすぐに役立つ資料がこまごまと紹介されている。例えば,国際線航空機利用に際しての各航空会社の規則を一覧表にして,患者が航空会社を選択できるよう配慮している。参考文献は実地的な観点から整理され,またよく網羅されていて,木田先生の日頃の勉強ぶりが伺える。

「呼吸困難のみを基準に行なってはならない」

 いまひとつわが意を得た点は,「呼吸困難のみを基準に在宅酸素療法を行なってはならない」という考え方である。あくまで現行の適応基準をまず守って他の治療法や管理法も加えていくという考え方は,一部にみられる「適応基準の誤った拡大解釈」を戒めるものではなかろうか。諸外国の適応基準や実態が「参考資料」に紹介されているが,このような広い見地からみた妥当な結論ではなかろうか。
 文章のスタイルは箇条書きが基本で,マニュアルとして読みやすい。強調すべき箇所や記憶すべき事項は網掛け,イラスト,NOTE,囲みなどいろいろ工夫されている。
 待望の書物が出たという実感である。
A5・頁328 定価(本体4,300円+税) 医学書院


心筋レベルの生体侵襲・防御反応研究の最前線

心筋障害と心筋保護 堀正二 編集

《書 評》杉本恒明(関東中央病院院長)

 心筋保護とは心筋に対する各種の侵襲からの心筋細胞機能の保護をいう。早くから心臓外科の領域では心停止期間を極力長くするため,あるいは心臓移植におけるドナー心保存のための心臓灌流液を心筋保護液といった。内科領域でいう心筋保護は虚血,炎症,力学的・機械的負荷あるいは液性因子による傷害からの心筋庇護の方法をいう。
 本書は3部構成となっている。その1は心臓攻撃因子として,心筋への直接的あるいは冠血管を介する間接的傷害因子のそれぞれと障害機転を取り上げ,その2には心臓防御因子として,傷害に対する生体反応とそれを修飾する要因を述べ,その3として,両者を冠不全,心不全,高血圧,動脈硬化の4つの病態について整理している。

臨床への展望と問題点をまとめる

 特徴的なのは,各章の冒頭に要約があり,終わりが臨床への展望と問題点,関連キーワードで締めくくられていることである。まずは問題点の箇所を通読してみて大変面白かった。執筆には苦労したであろうが,編集者の並々ならない意欲と熱意は十分に報われているように思った。
 通常,侵襲に対する生体反応は代償性反応,つまり保護的反応としてみられるのであるが,しかし,ときにこれが逆に障害を進行させる結果となる。生理的液性因子は保護因子である一方,障害因子としての役割も持つがゆえに,心筋保護のためにはときにはこれを助長し,ときにはこれを抑制する必要がある。病態の的確な認識が対応の違いを理解させ,適切な薬のさじ加減を可能とさせる。生体に仕組まれている反応系は本来,生理的な範囲の侵襲に対応するためのものであり,病的な強度の侵襲をも克服するためのものではない。むしろ,このようなときには,生命を終わらせるべくプログラムされているはずであることを弁えるべきなのであろうと改めて思ったことであった。

日常行なっている診療の背景

 1つの種類の侵襲は複雑な攻撃因子を誘起させ,防御反応にも多様な機転が加わってくる。そうしたものの1つとしての虚血に対して,アデノシンの多彩な修飾機序に期待があることを興味深く思った。機械的刺激とタンパク合成亢進,細胞肥大に至るまでの細胞内シグナルの動員,ここでの液性因子の役割とこれを踏まえての薬物治療に至るまでが関連する各章においてよく整理されていた。心不全のメカニズムへのサイトカインの関与は生体防御反応の中にある炎症性機転を考えさせた。冠血管防御因子としての一酸化窒素放出やカリウムチャネル開放機構は細動脈性狭心症の病態や狭心症治療薬の将来性を示唆していた。コレステロールや白血球も,いずれも接着因子や増殖因子を介在させながら,これ自体が心筋攻撃因子となるものであるという。
 現在行なわれている各種の治験成績の紹介とこれに対する批判もあった。治験とは病因をしっかり踏まえての治療研究でなければならないという指摘はもっとものことと思った。
 心筋レベルでみる生体侵襲・防御反応をこの領域の最前線の研究者が紹介したのが本書である。内容は豊かであり,最新のものが盛り込まれており,しかも表現は簡潔かつ明快である。一見,基礎研究者向きの表題の本書であるが,きわめて読みやすい。自らが日常行なっている診療の背景を知り,反省を重ねながら,診療の水準を高めていこうと努める医家には手頃な解説書である。循環器疾患の診療に携わる方々に広くお薦めしたいと考える。
B5・頁232 定価(本体7,500円+税) 医学書院


幅広い視野を持つ臨床医になるために

認定内科医・認定内科専門医受験のための演習問題と解説 第2版  日本内科学会認定内科専門医会 編集

《書 評》今井裕一(秋田大・内科学)

臨床医としての心構え

 私の卒後研修はT病院から始まった。医師国家試験の終了した翌日にはオリエンテーションが開始され,10日目には見習い当直についていた。最初に配属された内分泌代謝科のK先生から臨床医としての「3つの心構え」を教えていただいた。
 まず,手帳を常にポケットに入れておくこと。これには救急当直,基本的処方マニュアルを自分で書いておくこと。受け持ち患者に対する自己評価(典型的な症例,問題の残る症例,誤診例),問題点や疑問点を簡単にメモしておくこと。
 次に,文献検索の方法をマスターすることと,New England Journal of MedicineかAm. J. MedicineかAnn. of Internal Medicineに常時目を通すこと。
 そして最後に,5年ごとに自分の医療技術を確認すること。特に後期研修が終了したら内科専門医を受験するように指導された。
 その言葉を忠実に守ってきた。最近W. Oslerの『平静の心』(医学書院)を紐といてみると,まったく同じことが記載されていた。そしてあれから20年たった現在,新人医局員に対して同じことを教えている。

自分の経験した症例を思い出し卒後研修を総括

 私が,内科専門医を受験した頃には,どの程度のレベルかもわからず,また日本語の問題集もなかったことから,アメリカ内科専門医の試験問題集で勉強せざるを得なかった。現在では内科専門医になった人たちが問題を作成し十分検討された良問と解説が,3年前に本として出版され好評を博している。今回第2版が出版され,さらに内容が充実している。この問題集『認定内科医・認定内科専門医受験のための演習問題と解説』に沿って自分が経験した症例を思い出しながら卒後研修を総括し,次の新たなる5年を計画していただきたい。
B5・頁300 定価(本体5,900円+税) 医学書院


癌臨床の現場に役立つ有用なマニュアル

がん診療レジデントマニュアル 国立がんセンター中央病院内科レジデント

《書 評》高久史麿(自治医科大学学長)

 今回,国立がんセンター中央病院内科医長ならびに同内科チーフレジデントの方々の編集による『がん診療レジデントマニュアル』が医学書院から出版された。このマニュアルは医学書院の発行しているレジデントマニュアル・シリーズの癌診療版とのことであるが,レジデントらによって企画された診療上有用なシリーズの作成はおそらく「Washington Manual」として世界によく知られ,日本語にも訳されている「Manual of Medical Therapeutics」の日本版をめざしたものであろう。いずれにせよ,臨床の現場で直接患者さんを診察し,その上レジデントの人たちを指導する立場にあるチーフレジデントがこのようなマニュアルを編集されることは,日本の出版界では画期的な企画であると思う。この『がん診療レジデントマニュアル』も私の予想通り,臨床の現場で直接役に立つきわめて有用なマニュアルになっており,白衣のポケットの中に十分入る大きさ,厚さから考えて今後癌治療の第一線で広く若い医師たちに愛用されるであろう。

インフォームドコンセントと癌告知の問題を冒頭に

 このマニュアルの特徴の1つは,まずインフォームドコンセントと癌告知の問題を最初に取り上げていることである。癌の告知の問題は日本で長い間議論されてきた問題であるが,このマニュアルでは癌告知のための一定の条件をあげ,その条件を満たす患者に対して積極的に癌を告知したほうが医師・患者間に強い信頼感が生まれ,結果的に質の高い癌の医療が達成されると述べている。最近ではインフォームドコンセントを得ることが医療行為を行なう際の必須の条件になっていることを考えると,癌の場合でも告知をすることが診療の基本であると考えられる。しかし,癌の告知の場合には,医療側ならびに患者側の双方が一定の条件を満たしていることが前提となることは,日本の現状ではやむを得ないであろう。
 このマニュアルでは,引き続いて癌化学療法の基本理念が述べられており,上述の2章に続いて肺癌,乳癌,胃癌など各々の癌に関して疫学,症状,診断,予後因子,staging,組織分類,治療,予後が各項目ごとに記載されており,また必要に応じて今後の展望についても述べられている。治療については編集の方々が内科医であることもあり,当然化学療法のほうに重点が置かれているが,外科療法,放射線療法に関しても適宜記載されており,その点も本書の臨床の現場に向ける利用価値を高めていると言ってよいであろう。

癌診療に必要なすべてを網羅

 その他,造血幹細胞移植,感染症対策,癌疼痛の治療,骨髄抑制・消化器症状・皮膚障害などに対するアプローチ,緊急処置,緩和医療,臨床試験などについても各々章を設けて述べられている。最近特に癌患者に対する疼痛の処置,緩和医療,臨床試験のあり方などが問題になっていることは周知の通りである。したがってこれらの点について独自の章を設けたことは誠に時宜を得た企画と言えよう。
 このマニュアルには癌の診療に必要なことがすべて述べられている。わずかな頁数の中にこのような豊富な内容のものが網羅されていることに対していたく感心し,編集にあたられた方々のご尽力に深甚の敬意を表したい。
B6変・頁296 定価(本体3,800円+税) 医学書院


小児科学の真髄を伝える教科書

標準小児科学 第3版 前川喜平,他 編集

《書 評》泉 達郎(大分医大教授・小児科学)

 本書は1991年に前川喜平,辻芳郎,倉繁隆信各教授の編集で初版が出て以来,3年ごとに改訂され,up to dateで標準的な小児科学の教科書として絶大な信頼を得てきた。3年を経て,今回も執筆者に多数の新進気鋭の教授陣を加えて,全面的に書きかえられ第3版として刊行された。

必要な内容をすべて含む

 必要最低限の要点やkey wordsの記載のみの国試対策マニュアル本とは異なり,本書は講義とともに通読されることを念頭に置いて編集されている。まず,学生が通読可能な頁数で編集されており,通読することにより,講義の補完となるだけではなく“general"な全体としての小児科学の魅力を知り得る。将来,小児科学を専攻する予定の学生には各人の小児科学・小児医療の基礎となり,また他科を専攻する予定の学生にとっても,小児科学の知識が蘇り,役に立つように執筆されている。国試対策を重視するがために,学生がそのマニュアル本で断片的知識を詰め込むのみでは,小児科学の本当の理解にはならないであろう。
 医学の進歩は目ざましく,医学・医療情報は小児科学においても日に日に増える一方である。このような時代の小児科学の教科書のあるべき姿は,膨大な知識の中から学生が知っておかなければならない本質的な知識を選択し,小児科学の真髄を伝え,さらにup to dateな内容で,卒業試験や医師国家試験のガイドラインに準拠しているものが理想である。本書はその名前の通り,医学生が通読可能な頁数を保ちつつ,必要な内容をすべて含む小児科学の標準的教科書である。

新しい専門的な内容も記載

 初版より編集に携わってこられた編集陣が,企画の際に望んだ通りの教科書になっていると思われる。単なる知識の切り売りをする教科書ではなく,限りない可能性を持つ小児についての考え方や魅力が,各執筆者の文章より垣間見られる。基本的な内容を損なうことなく,代謝,免疫,血液,神経筋疾患などの章では,それぞれの疾患の成因や機序,遺伝において遺伝子の記載が多く加えられ,かなり新しい専門的な内容も入っている。これは,近年の小児科学の発達を考えると適切な措置であろう。
 また,すべての頁が2色刷となっており読みやすく,付録(主要疾患カラーグラフ,主要症候,遺伝疾患の分類,略語,正常値,心臓病・腎臓病管理指導表,Denver発達スクリーニング)もよく考えて作られており,索引も便利で充実している。
 学生諸君が将来どこの科を専攻するにしろ,講義とともに通読するなら,本書は医師になってからも十分その医学・医療の現場で役立つ教科書といえ,推奨しうるものと思われる。
B5・頁676 定価(本体8,800円+税) 医学書院