医学界新聞

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


高品位で良質の外科治療を提供するために

実践の外科臨床 門田俊夫,他 編集

《書 評》轟 健(筑波大助教授・外科学)

外科治療のためのナビゲーター

 不安に満ちた臨床現場にあって,「メスを握って良質の医療を提供したい」と考える若き外科医にとって,外科治療を正しく実践するための信頼できるナビゲーター,心の拠り所は必須である。本書はそんな希望や不安を自己努力で乗り越えるための心強い1冊である。
 執筆陣は優れた治療成績をあげ,研修医の指導に実績と経験を積んだ5つの一流病院の指導医たちである。
 消化器外科領域の手術を中心に,外来やベッドサイドの小手術や処置の工夫,周術期の管理や合併症対策はもちろん,外科医を取り巻く諸問題として癌患者の緩和ケアやインフォームド・コンセントなど,今日的課題も取り上げている。
 手術や処置の基本手技や注意点を懇切丁寧に科学的に解説し,評価の定まらない重要な事柄は自説にこだわらず,筆者以外の医師や病院での考え方や実施法を具体的に紹介している。また,29章ある各章の終わりには「私はこうしている」と題して,それぞれの病院で培われた経験や実体験に基づいて実行している工夫の数々を,経験科学的に解説し紹介している。外科医あるいは外科医の集団が,従来陥りがちであった保守的で経験主義的な弊害を廃して,互いに意見を交換し,高品位で実践的な外科治療を築き上げ,若い世代に引き継ぎ,発展させたいと願う筆者らの精神が読み取れる。事実,臨床経験はもとより,外科医養成にも長い経験のある異なる病院の指導医が情報を交換し合って編纂された意図と経緯が序文に述べられている。

研修医の信頼できる羅針盤

 医療の最前線で病める人々に良質の外科治療を実践したいと真摯に考える研修医には信頼できる優れた羅針盤であり,科学的精神の拠り所となる1冊である。また,大学病院や認定医修練病院の指導医にとっても指導法の再評価や改善を考えるうえで是非奨めたい1冊である。
 医療環境の目覚ましく変化する現代の要求に見事に応えた企画と執筆陣の努力に心からの敬意を表する。
B5・頁280 定価(本体6,500円+税) 医学書院


画像を正確に診断するために必要な知識

画像診断のための知っておきたいサイン 第2版 甲田英一,他著

《書 評》伊藤勝陽(広島大教授・放射線学)

最近のモダリテイを反映

 「例えば電話で相談を受けた時,フィルムを直接見ることができなくても,何々サインがあると言われたら,誰もが一定のパターンと鑑別診断が思い浮かべられるよう,サインを普及させよう」が,専門医試験に取り組んでいた先輩の言であった。
 Felsonが1950年に命名したシルエットサインはサインの有用性をわれわれに認識させ,また放射線専門医試験もサインを普及させる役を担ったように思える。入局後まもなく放射線専門医制度が設立され,それを受けようとしている先輩たちは,不得意分野やあまり馴染みのない領域のサインを憶えて取りあえず知識を増やそうとしていた。
 私も,本書初版の序に記載されている西岡清春先生著の『Roentgen signs 特定の呼び名のついたレントゲン・サイン』を随分活用させていただいた。この本は本邦で初めてサインをまとめたテキストブックであったが,今では若い人があまり興味を持たない単純写真,消化管造影検査,経静脈的尿路造影,血管造影におけるサインが記載されていた。
 今,手元にある『画像診断のための知っておきたいサイン』は,先ほどのいわゆる古典的なX線診断のサインの他に,最近のモダリティを反映しCTやUS,核医学などの画像診断のサインがわずかではあるが加わっている。しかし画像を正確に診断するにはまず病変を拾い上げ,鑑別診断をリストアップできるようにという基本的な姿勢は西岡先生の著書もそうであったが,この本でも貫かれている。

読影医として最小限必要な知識

 ところでサインは,本来科学的に,例えば病理学所見もしくは生理学的な動態に裏打ちされて命名されるべきものと思うが,残念ながら疾患を特定するものではない。著者らもサインの由来と根拠を詳細に書きたかったことだろうと思うが,その説明と臨床的意義として簡単に記載するにとどまっている。またすべてのサインを網羅しているわけではなく,読影医として最小限知っておいてほしいサインを選び出している。これは読みやすいハンドブックを作ろうとの表れであろうが,それでも索引を見るとかなり多くの疾患が含まれている。これらの疾患とその病態については読者が次のステップとして詳しくテキストを読み,正確な知識を学んでいけばよいと思う。まず本書を読んで病変を拾い上げることができるようになることと,的確な鑑別疾患名をあげることができるようサインを憶えてほしい。
 最後になったが,本書では侵襲を伴う診断目的だけの検査や気脳撮影などのように行なわれなくなった検査法のサインは載っていない。ただリンパ管造影は現在ほとんど行なわれない検査だが,未だこの中に含まれるのは過去への郷愁かもしれない。新たにどんなサインがつけ加わり,どのサインが今後削除されるのか次回の改訂も楽しみである。
 臓器別に編集されているので,自分の担当する領域を読影する前に頁をめくってほしい。
A5・頁262 定価(本体3,800円+税) 医学書院


優れた臨床家の手による不整脈診療の名著

不整脈の診かたと治療 第5版 五十嵐正男,山科章 著

《書 評》井上 博(富山医薬大教授・内科学)

 五十嵐正男先生の『不整脈の診かたと治療』第4版は優れた教科書であった。専門的になりすぎず,日常診療に有用な内容であり,この本で不整脈の勉強をされた方は大勢いるはずである。旧版が名著であった理由は,優れた臨床家である先生が独りで著し,しかも先生の専門家としての豊富な臨床経験に裏づけされた内容であったことである。1984年に第4版が出てから13年,名著ではあったが長らく改訂されていなかったため,不整脈学の進歩に大分遅れた内容となってしまっていた。「(改訂に)いざ手をつけてみたら,以前と違って,まったく作業が進まないのに気づき,愕然とした」(先生の「黄昏のくる前に」朝日新聞社刊,より)ため,放置されたままになっていた由。

検査・治療法の進歩を網羅

 幸い,このたび山科章聖路加病院内科医長との共著で第5版が出版された。旧版とは装いを大きく変え,まったく別の本になった観がある。
 旧版とは異なり2段組みとなり,図もかなり差し替えられている。第5版では,本文(付録も含む)は30頁あまり(468頁から499頁へ)増え,章だても8章(33章から41章へ)増えている。検査法については,電気生理検査の章の分量が増え,食道誘導心電図,心室遅発電位(1992年の日本心電学会用語集ではlate potentialを遅発電位,delayed potentialを遅延電位としている。ただしこれについては用語委員会でも検討が必要とされており,前者を遅延電位と慣習的に呼ぶことが多い)の章が追加されている。
 この10年余りの治療法の進歩についても,第5版ではVaughan Williams分類への批判とSicilian Gambit,心室期外収縮の臨床(CAST,ESVEM報告),突然死,催不整脈作用,カテーテル・アブレーション,植え込み型除細動器,不整脈の外科手術が取り上げられている。用語についても,潜行伝導が不顕伝導,逸脱収縮が補充収縮へと修正されている。旧版の特徴であった「複雑な不整脈へのアプローチ法」,「術前に不整脈が見られた時の対応」,「妊娠と不整脈」など,他書ではあまり記載のない項目は幸い踏襲されている。

豊富な診療経験に基づく内容

 よい臨床の教科書とは,経験が豊富な専門家の手になり,確実な資料・経験に基づいて記載され,診療で疑問が生じた際に繙いて役に立つものである。多数の専門家の分担執筆は,編集者がうまくまとめないと内容に出来・不出来,重複・欠落が生じ,全体のバランスも乱れやすいという欠点を持っている。優れた2人の臨床家が自らの豊富な不整脈診療の実践経験に基づいて,また最新の重要な文献に裏づけされた内容を盛り込んだ本書は,これから不整脈を学ぼうとする若手医師諸君ばかりでなく,およそ不整脈を診療する機会のある内科医,心臓外科医,麻酔科医にとって座右の書とすべきものである。
 よい教科書とは多数の人に読まれなくてはならない。幸い本書は廉価である。名著を復活させた著者に敬意を表するとともに,名著の復活を心から喜びたい。
B5・頁528 定価(本体7,600円+税)医学書院


豊かな経験からもたらされた情報を満載

産科ベッドサイドのノウハウ こんな時どうする100 武田佳彦 監

《書 評》中野仁雄(九大教授・婦人科学産科学)

 医学は自然科学を基盤として,これに膨大なメタ・メディカルな領域が重合した学問体系を成す。そして医療はその実践の場である。したがって,自然科学が検証した知識と技術の集積のみでは今日の,明日の,新たな患者に対応するわけにはいかない部分がある。ここに,演繹的な展開はもちろん,帰納的な論理思考の必要があるが,後者はしかし,これを先取りできるかというとそうではなく,長い時間を要して医師各個にこれが成り立つものである以上,経験の多寡がこれを左右することになる。古来,医療には経験主義が必須であるとされた理由である。
 エンピリカルというととかく軽視され,科学からは蔑視されかねない状況もあるが,これは再現性のある記述か否かによって評価されているだけのことであって,とっさの処置や対応から発して問題解決に結びつけることを要求される医療や,場合によっては保健への奉仕には,必ずしも高い再現性のある記述だけでは事足りない。余りに場面が多すぎるためであり,また付加価値が多様で絶大であることによる補完は経験の伝承により成し遂げられる。

経験主義医学・医療の正当な伝承

 東京女子医科大学の武田佳彦教授は長年にわたって産科学を専門とされ,数多くの業績を積まれた教育者,研究者,臨床医である。ことに日本産科婦人科学会の会長としての激務の最中に,この本を監修された情熱は,ご自身の体験から経験主義医学・医療の正当な伝承をどのように合理化できるかを考え続けてこられた証と無縁ではない。
 本著は,Q&Aの形式に依っており,Qは医療現場から発された現実の問題であり,Aは各々への豊かな経験からもたらされる情報である。とっさに参照する手引きとして貴重である。さらに,各個が形成する保健・医療の自らのバイブルにとっても多いに力添えの役割を果たすものである。多くの分担執筆者にも敬意を表する。
B5・頁332 定価(本体7,300円+税) 医学書院


これから心身医学を学ぶすべての医療従事者に

心身医学を学ぶ人のために 末松弘行,他 編

《書 評》中川哲也(福岡県立大・人間社会学)

 このたび,末松弘行,河野友信,吾郷晋浩の3先生の編集のもとに,第一線で心身医療を実践しておられる先生方の執筆による『心身医学を学ぶ人のために』というテキストが出版された。本書はそのタイトルからもわかるように,これから心身医療を始めようとする人々を対象に,心身医学に関する基本的な知識や,心身医学的な診断や治療を行なううえでの指針,要点を示すことを目的として書かれたものである。

症例を提示して診療の原点を解説

 その内容を簡単に紹介すると,第1章では,最初に胃・十二指腸潰瘍,過敏性腸症候群,気管支喘息,過換気症候群,心臓神経症,糖尿病など内科領域における代表的な心身症,神経症の症例が提示され,心身医学的な診療の要点と,その必要性,有効性が説かれている。さらに末期胃癌で孤独と反抗といった心理反応も加わって痛みが持続している症例,子宮筋腫術後の不定愁訴が実は性障害に基づくものであった症例への心身医学的アプローチの実際が示されている。その後で,心身医学や心身症についての一般的な解説が述べられている。
 第2章では,心身医学に必要な基本的な知識として,脳生理学,精神分析理論,行動医学の立場から,心身相関の現象が論じられ,次いで心理的な構造と働き,ライフサイクルからみた心身の特徴,保健医療行動,医療心理学,さらには神経症,うつ病,人格障害,痴呆の精神医学と続いている。
 第3章では,心身医学的な診断法とその進め方,第4章では,心身医学的な情報の収集と整理の仕方,診療への活用が示されている。
 第5章は,心身医学的な治療に関するものであるが,治療の際に留意すべき事柄,患者教育とチームアプローチ,さらには向精神薬,自律訓練法,カウンセリング,交流分析,行動療法,家族療法,森田療法,一般医家ができる心理療法が取り上げられている。
 第6章は,リエゾン・コンサルテーション,プライマリ・ケア,家庭医療,地域医療,学校保健,産業保健,リハビリテーション,ターミナルケア,医の倫理,性の臨床,ペインコントロールなどのトピックスが取り上げられている。
 第7章は心身医学の研修の仕方,第8章は心身医療と保険,第9章は心身医療機関一覧,第10章は用語解説と認定医試験問題となっている。

わかりやすく,興味深く

 このような構成上の工夫からもうかがえるように,本書は,とかく取りつきにくいといわれる心身医学,心身医療に関して,初心者向けに親切に,わかりやすく,興味深くそのポイントがまとめられている。これは執筆がいずれも臨床経験の豊かなベテランの先生方の手によるためであろう。本の厚さも薄すぎず,分厚くもなく,約200頁と手ごろであり,価格も適当かと思われる。
 近年,心身医学,心身医療ないしは全人的な医療への関心が高まりつつある折から,本書を格好の入門書として,一般医家,研修医,医学生ならびに看護婦,保健婦,臨床心理士,ソーシャルワーカーなどコメディカルの人々に推奨したい。
B5・頁230 定価(本体5,400円+税) 医学書院


簡潔・明解・充実の解剖学教科書

臨床検査技術学 [4] 解剖学 坂井建雄 著

《書 評》後藤昇(昭和大教授・解剖学)

 畏友坂井建雄先生(順天堂大学解剖学教授)が最近著わされた教科書『臨床検査技術学 解剖学』を拝見させていただき,書評までも述べさせていただくのは,まことに光栄であり,まずその労作に対して敬意を表したい。

学ぶ人に主眼を置いた構成

 本書の特徴としては,(1)内容の構成を学ぶ人に主眼を置いている,(2)重要な図を主とした構成であり,文章量を意図的に少なくしてある,(3)内容的に理解しやすく,きわめて優れていることを挙げたい。
 これまでの解剖学書は,局所解剖学的にまとめるか,あるいは系統解剖学的にまとめるかであり,後者は総論と各論に分けるのが通常の手法である。さらに各論は,骨学・関節学・靱帯学・筋学・脈管学・神経学・感覚器学・内臓学などに分けて,その順に解説されているものが大部分である。著者が序文で述べておられるように,解剖学を学ぶ初心者の多くは骨や筋肉の名称の多さと難解さにうんざりするのが,医・歯学生のみでなく,コメディカルの人々にも共通の現象であった。著者はこの点をみごとに解決され,局所解剖学と系統解剖学の長所を生かす形で本書をまとめておられる。学ぶ人に興味を持たせる,学ぶ人中心の配慮がされている。
 本書は重要な図を豊富に取り入れた,図を中心とした構成であるので,現代の若者の要求を十分に満たしている。なぜならば,現代の若者たちは文章を中心にまとめられた本には容易に入っていけない傾向が顕著であり,著者の豊富な教育経験からこの点を十分に考慮して本書をまとめられた苦労が伝わってくる。
 さらに本書には内容的に理解しやすく,使いやすさの工夫と配慮が随所に盛り込まれている。まず,文章の記述が簡潔,明解であり,内容的にもきわめて充実している。本書は肉眼解剖学の教科書ではあるが,組織学・生理学・生化学の味付けがしてあり,各項に「キーワード」,「学習の要点」がまとめられ,各章ごとに末尾に「理解の点検と問題」を加えてあるなどの,心憎いばかりの工夫がされている。

コメディカルの初心者から教育者まで

 つまり,本書は解剖学教科書として臨床検査技術学校生,看護学生,その他の多くのコメディカルの初心者が使うのに優れているばかりでなく,医・歯学生がまとめに使う本として役立つであろうし,教える立場の人たちにも教育方法を考える書としての役割があると信じる。あらゆる立場の,できるだけ多くの人々に一読をお薦めしたい書であることは間違いない。また,書名からたとえ「臨床検査技術学」の名称を削除して,「解剖学」という単行本としても十二分に通用する教科書である。
 ただ,1つだけ気がかりなのは,本書の書評は文章のみで表現しなくてはならないので,筆者の意見を十分に汲み取っていただけるかどうかである。むしろ本書を持たせた若い女性の漫画を描き,「この本さえあればバッチリよ!」とでも言わせたほうが若い人たちには訴える力は強いかも知れない。
B5・頁136 定価(本体3,800円+税) 医学書院