医学界新聞

「胸部疾患」から「呼吸器」学会に

第37回日本胸部疾患学会開催される


 さる4月10-12日の3日間,第37回日本胸部疾患学会が,大久保隆男会長(横市大教授)のもと,パシフィコ横浜において開催された。
 今学会のテーマは「21世紀における呼吸器病学」。会長講演,招待講演,特別講演の他,シンポジウムや教育講演,ポスター,口演など基礎から臨床にわたる幅広いテーマで構成された。また,APSR(Asian Pacific Society of Respirology)ワークショップが昨年に引き続き企画された他,最終日には「Advances in Respirology」と題して,世界の第一級の研究者を集めた国際シンポジウムが行なわれた。基調講演として,米国立心肺血液研究所のS.S.Hurd氏が「21世紀の呼吸器病学」と題して,分子生物学等の最近の進歩と臨床との関連について概説した。また,総会では学会賞授与式が行なわれ,熊谷賞に西村正治氏(北大)と石井芳樹氏(自治医大)が,学会賞には桑野和義氏(九大胸部研)と松瀬健氏(東大)がそれぞれ受賞した。
 なお同学会は,会期中に開かれた総会において,「日本胸部疾患学会」から「日本呼吸器学会」と改称されることが承認され,同日からの名称変更となった。
 最終日には学会主催の市民公開シンポジウム「近未来の難病(肺ガン,喘息,老人肺炎)を克服するために-21世紀の医療の課題」が,横浜市長らを交えて行なわれた。

市中肺炎のガイドライン

 サテライトシンポジウム「市中肺炎診療の新しい考え方」(司会=川崎医大 松島敏春氏,神奈川県循環器呼吸器病センター小田切繁樹氏)では,欧米で相次いで発表された,市中発症型成人肺炎の初期治療に関するガイドラインを念頭に置き,日本における必要性を検討。演者はそれぞれ原因微生物検索法,非定型,細菌性,高齢者,重症肺炎など様々な角度から肺炎の診療における注意点を述べた。その後フロアからも意見が飛び交うなど,必要性については意見が分かれるところであったが,「主要原因菌や医療制度,使用薬剤など,事情の異なる欧米のガイドラインが日本で1人歩きしはじめている」との懸念から,いくつかのガイドライン試案が提示され,呼吸器専門医以外の医師のための日本独自のガイドラインが必要との方向性が示された。

新しい肺癌治療の可能性

 シンポジウム「肺癌に対する生物学的治療法の新しい展開」(司会=徳島大 曽根三郎氏,名市大 上田龍三氏)では,分子生物学等の発展によりもたらされた肺癌の新しい治療法の可能性について,第一線の若手の研究者たちによる論議が行なわれた。
 最初に桑野信彦氏(九大)が,現在国内で開発中のアンギオスタシン血管新生阻害剤OPB-3206と経口マトリックスプロテアーゼ阻害剤について解説。伊東恭悟氏(久留米大)は,HLA-A-2601拘束性癌退縮抗原をコードする遺伝子SART-1が,癌細胞上のペプタイドを認識することを証明し,ワクチン療法の可能性を示唆した。そのほか,化学療法の薬剤耐性に関与する分子機構や,遺伝子治療による転移抑制効果,また腫瘍特異プロモーターによる肺小細胞癌の抗腫瘍効果が報告された。最後に,R.I.Garver,Jr.氏(アラバマ大)が非肺小細胞癌の遺伝子治療を,特にベクター開発を中心に,今後の方向性を提示した。