医学界新聞

第100回日本小児科学会開かれる

創立100周年記念式典もあわせて開催


 第100回を迎えた日本小児科学会が,前川喜平会頭(慈恵医大)のもと,さる4月18-20日に東京・千代田区の東京国際フォーラムで開催され,19日には創立100周年記念式典および祝賀会も挙行された。100回目となった今学会のキャッチフレーズは「未来を担う子どもたち」。この他にメインテーマ「(1)先進医療への挑戦,(2)国際医療協力,(3)健康小児科学への志向」が掲げられ,これに沿った多彩なプログラムが展開された。



 会頭講演「発達神経学の基礎と臨床」では,前川氏が現在まで携わってきた発達神経学の研究成果を報告。(1)脳の形態学的発達,(2)神経発達のメカニズム,(3)行動発達の他覚的評価,(4)極低出生体重児の発達と早期支援に分け,これまでの知見を解説した。
 このうち(4)では,発達障害やリスク児の割合が増加する極低出生体重児の発達について考察。2~4歳までの早期介入・支援が児の発達に与える効果の分析から,早期介入・支援による親の養育態度や理解度の変化が児に対してよい影響を及ぼすと指摘し,「児に対する親の期待度と子の発達レベルが一致することで,子どもの社会適応が十分可能になる」と述べた。

ADA欠損症治療例の現況も紹介

 先進的医療に関するプログラムのうち,シンポジウム(1)(司会=慈恵医大 衞藤義勝氏,Mount Sinai医大 R.J.Desnick氏)では「遺伝子治療」が取り上げられた。ここでは衞藤氏が日本の現状と展望を,また遠藤文夫氏(熊本大)が基礎的課題を解説。さらにD.B.Kohn氏(ロサンゼルス小児病院)が造血幹細胞を用いた治療について,ADA(アデノシンアミナーゼ)欠損症とHIV感染症への応用を含めて報告した。
 ADA欠損症の遺伝子治療については,シンポジウム(6)「免疫系の基礎と臨床」(司会=東医歯大 矢田純一氏,阪大 岸本忠三氏)でも,北大で行なわれた日本初の実施例に関する演題が予定されていたが,都合で欠演となったため,討論の終わりに松本脩三氏(北大名誉教授)がこの症例の現況を紹介した。対象の男児は今年3月まで11回にわたって治療を受け,すでに治療は中断されている。松本氏は「男児は小学校に入った現在まったく無症状で,リンパ球数は1500~2000/μl以上に維持され,ADA活性なども改善された」と報告。最後に「この症例の遺伝子治療は成功したが,本当の成功は造血幹細胞への遺伝子導入が可能になること」と今後の研究に期待した。

これからの小児科学を見据えて

 学会ではまた,シンポジウム(2)「育児支援と小児科医」(司会=天野小児科 天野氏,天使病院 南部春生氏)や,(7)「思春期小児科学」(司会=東女医大 村田光範氏)など,健康小児科学の視点を含め,将来の小児科学を見据える演題も多く企画された。さらに国際医療協力に関しても,シンポジウム(5)「アジアの小児科と日本の小児科」(司会=東大 中村安秀氏,慈恵医大 岡部信彦氏)が行なわれ,インドネシアやネパールなどから招かれた演者が自国の小児医療の状況を語った。なおこのシンポジウム終了後には演者をまじえたインフォーマルミーティング「子どもの健康と国際協力」が設定され,学会員以外の参加者も加わって熱心に意見を交換した。
 一方,創立100周年記念式典では,松尾宣武会長(慶大)が式辞の中で,100周年記念事業の「小児医学研究振興財団」(仮称)設立に向けた意欲を述べた。また国内外の来賓からは,日本の小児医療に果たした学会の役割があらためて高く評価された。