医学界新聞

NURSING LIBRARY 看護関連 書籍・雑誌紹介


臨床看護の問題意識に密着した研究年刊誌

臨床看護研究の進歩Vol.8 「臨床看護研究の進歩」 編集室編集

《書 評》小山敦代(福井県立大看護短期大学部助教授)

 『臨床看護研究の進歩』は,1989年に発刊された臨床看護の問題意識に密着した研究年刊誌である。8年前,臨床看護実践と看護研究への熱き想いが伝わる本誌を手にしたときの感動を忘れることができない。
 本誌の内容構成は,主として(1)Review・総説(1)原著論文,(3)臨床看護研究の進歩に対する座談会や特別論文等,(4)indexから成っている。近年における臨床看護研究の量・質ともにめざましい進歩・発展には,本誌の果たしている役割も大きいに違いない。私は看護基礎教育に携わる者として,看護研究の授業や臨床ナースの看護研究相談に乗るとき,いつも力不足を感じ,試行錯誤を繰り返しているが,本誌にはどれだけ教えれら助けられているかしれない。

研究と実践を結びつける姿勢培う

 第1点目は,本誌の原著論文の活用である。D.ディアーは看護研究の目的を(1)臨床看護判断の質を高めること,(2)患者のケアを進歩させること,としているが,まさに臨床看護研究こそこの目的に直結している。学生時代から身近なテーマで,わかりやすく良質な臨床看護研究の実例にできるだけ多くふれることが研究と実践を結びつけていく姿勢を培うことにつながると考えている。
 「既存の看護研究論文の抄読と批評」の演習や事例研究,調査研究,実験研究などの具体例は本誌の原著論文から選択して大いに活用している。その選択基準や批評のポイントで何より助けられるのが,川島みどり氏をはじめ看護研究では第一人者による各論文の“短評”である。研究方法の妥当性,足りない部分や疑問点の指摘に加え,建設的で具体的なアドバイスはたいへん参考になり,多くの示唆やヒントが得られる。

看護実践研究のポイントを記述

 第2点目は,臨床看護研究の進歩に対するその年の焦点とも言える特別論文や座談会である。研究に必要な解説のみならず臨床看護研究における課題等が提言されており,毎号大きな刺激と学びを受けるところである。
 最新刊のVol.8では,臨床看護研究の方法として,杉山喜代子氏の「看護実践の振り返りを基に研究テーマに迫る方法」が掲載されている。日頃の看護実践そのものを対象にした研究をしたいと思っても,研究方法がわからなかったり,指導者に恵まれなかったりして悩む臨床ナースにとって,目の前が明るくなるような論文である。「脳血管障害患者の排尿自立を促した看護援助」と題した「実践の振り返り」の研究実例を通して資料収集方法,分析方法に焦点を当てて看護実践研究のプロセスとポイントがわかりやすく述べられている。また,意図的な実践の研究に取り組むためには何が大切かも教えられる。
 3点目はreviewと総説の活用である。領域別やテーマ別にどこまでどのような研究がなされているかがわかり,関心の幅が広がるとともに研究発想の手がかりやヒントが得られるとても有り難いページである。第4点目は,前号までのindexの活用である。Vol.8では本誌の1989年から8年間分の文献タイトルを見ることができる。一覧すると臨床看護研究の動向が伝わってくる。
 本誌は年1回の発行ということで目立たないためか,知らない人もいるようである。しかし,知る人ぞ知るの存在であり,また,臨床看護婦から大学等に属する教員や研究者まで,読者層が幅広いことが特長である。はじめての読者は,ぜひ1冊手にとって臨床での看護と研究の進歩を共有してほしい。看護研究を指導する立場にある臨床ナースや教員はもちろんのこと,看護研究に関心をもつ臨床ナースに広く推奨したい。値段が3,600円(本体価格)と一見高いように思えるが,研究年刊誌としての内容から見ると,またその活用によっては十分すぎるほどの価格があるように思える。
B5・頁192 定価(本体3,600円+税) 医学書院


医師との関係を解析し解決法探る

看護ジレンマ対応マニュアル
患者中心の看護のための医師とのコミュニケーション
 小島通代 著

《書 評》坂上正道(北里大名誉教授)

 比較的小さい書物でありながら,多くの問題と解決方法を教えられる。最近の学問の1つの流れとしてコミュニケーション論がある。ハーバマスを引用するまでもなく,立場の異なる二者の対話は止揚された新しい考え方を創り出す。
 技術社会の発達にともなって,専門職の横の交流が少なくなっていることは,逆に学際的総合的などという言葉が多く使われるようになっていることからも明らかなことといえよう。
 本著は主として医療の中の看護と診療,殊に看護婦と医師との円滑な交流のあり方を理論的に展開し,かつ事例を広くとらえてその応用に資している,時宜にかなった好著といえよう。

患者中心の医療と看護の役割

 日本の医学概論の先達であられる澤潟久敬先生は医療を三つ葉のクローバーにたとえられる。いうまでもなく患者,医師,看護婦の三つ葉である。患者中心の医療とは患者の言葉や状況におもねる出来事ではない。すぐれた専門職がその専門の知識と技術を患者を中心として展開していくことである。理念が一致し,各専門職の好意がそこから創り出されていれば,職種間の摩擦はないはずである。しかし医療の現場はその理論どおりには展開しない。
 本著は看護婦と医師との間のコミュニケーション・チャネル(伝達経路)を,看護内部,および外部への指示,報告,質問,連絡,依頼,許可,相談,提案,協議に分け,看護をする過程である「CND(Collaboration between Nurses and Doctors)看護過程」の中へ当てはめて,きわめて具体的に,しかし行動科学的な正確さでとらえている。
 一例としては指示をめぐる具体例を引用してみよう。「患者の病状が『入浴について医師の指示を得る必要がある状態』であるか,『医師の意見も参考にして看護婦が決めてよい状態』であるか,あるいは『看護婦が独自に決定してよい状態』であるかの判断を,看護婦が行なう。この判断こそが看護婦の専門性である」という立場を著者は強調している。

具体的事例を豊富に示す

 看護婦は現場に密着した仕事に従事する。ここには患者との関係,医師をふくめた他の医療職との連携が集中する。この問題処理の方法と心遣いは大変なものとだけ言ってはいられない。早急な対応法が求められる日常の仕事といえよう。
 発生してくる問題の具体的な解析とともに事例を多く示して解決方法を探る本著を推賞する。ぜひ看護婦のみならず,医師などにも読んでいただきたいと思う。
 ジレンマはオックスフォード辞典によれば,どちらを選んでもunfavorite(好ましからざる)結論に至るものと述べられている。現在の医療をめぐる決断には特にこの語源の響きを強く感ずる。本著に最終的な解決を求め得ないのは,最近の生命倫理の問題に特にそのような問題が多く含まれるからであろう。著者が述べる如く,本著では“倫理学的な検討を扱っていない”からであり,もし次の著作を要望として述べるならば,その点であろうことも期待をこめて付け加えさせていただく。同時に他の医療専門職との間にも本著の主題は拡大していくので,さらに協調の輪を拡げて,この書の趣旨が生かされることも要望しておきたい。
A5・頁194 定価(本体1,800円+税) 医学書院


現代における新しい疫学を定義

今日の疫学 青山英康 著

《書 評》金川克子(東大教授・地域看護学)

 疫学は病気の原因をAgent, Host, Environmentの側面を明らかにするものであり,例えとして,「ここほれわんわん」とその方向を示唆してくれるものであること,そして公衆衛生学の方法論の1つである,とかって教えられたような気がする。

臨床医学分野への応用を意図

 近年,疫学の定義や技法,応用範囲もめざましく発展してきている。
 本書では,現代における新しい疫学の定義を,人間集団の健康と疾病とにかかわる諸々の要因,諸々の条件の相互関係を頻度と分布によって明らかにする医学の一方法論であると定義しながら,公衆衛生学の分野のみならず,幅広く臨床医学の分野への応用も意図している。
 本書の構成は総論と各論に大きく分けられている。総論の部分は疫学に関する基本的な考え方と技法であり,「疫学とは」の解説にはじまり,「疫学における因果論」,「研究のデザイン」,「標本の抽出」,「バイアス」,「方法の選定」,「調査結果の考察」の7章からなりたっている。各論は応用編であり,公衆衛生学分野と臨床医学分野への応用の2章からなっている。執筆者は,長年公衆衛生学の領域や衛生学・公衆衛生学教育で指導的な立場に立たされている青山英康教授の編集のもと,19名の疫学の第一人者と若手研究者の共同執筆による力作である。

基本的な知識と技法をコンパクトに

 私自身,本書を手にしたとき,疫学の基本的な知識と技法が無駄なくコンパクトに記述されており,データの統計的解析の部分はやや難解であったが,疫学的な研究をする際に,改めて出発点に立たされたような気がした。読ませていただいて,いくつか感想を述べたいと思う。
 疾病の原因は複雑であり,それを解明するプロセスは,例えが悪いが,犯罪者を追跡するようなものであり,疫学的な手順をきちんと踏んですすめることの重要性が伝わってきた。また,同一集団を長期間観察や調査をするためには研究者の忍耐や努力,連携も大切となってくる。
 感染症やがん,循環器,公害,さらに健康を対象にした疫学の研究は,その要因やリスク・ファクターの解明,予防活動への推進を通して,人々の健康に寄与するものであることが十分理解できた。臨床の場で,診断や治療方針を決めるような臨床判断を迫られるような時に,疫学の技法がどのように応用されるのか興味があり,さらに臨床側からの感想や反応を知りたい。
 私の関連する地域看護学では,地域で生活している人々の健康やQOLの向上に向けての地域や家族の介入研究が重要である。本書は疫学に関する基本的な考え方や技法を理解したり,これから健康や疾病に関する現象の因果関係や保健・医療・看護活動の評価等の調査・研究を志向する者にとって役に立つ書である。また,保健所や市町村(保健センター)の看護職(特に保健婦〔士〕)は地域住民の健康のために熱心に活動しているが,それらの活動をより効果的,科学的にするためにも本書をお薦めしたい。
A5・頁280 定価(本体3,500円+税) 医学書院