医学界新聞

 Nurse's Essay

 大自然の中で

 八谷量子


 友人に勧められ,久々に温泉に行ってきた。札幌から車で約2時間,羊蹄山の麓に真狩(マッカリ)という小さな農業の村がある。全国的に有名なリゾート地,ニセコ町がすぐ隣にある。市街地を抜け,ジャガイモ畑をしばらく走っていると,ログハウス風の建物が忽然と現れる。真狩温泉である。特別大きな施設ではない。中規模の浴槽にサウナ,露天風呂がついている。利用客のほとんどは地元の人たちで,銭湯代わりに入りに来る。公営なので料金も安い。
 露天風呂に浸ってみて,友人が強く勧めたわけがわかった。眺望が素晴らしいのだ。正面に羊蹄山が聳えている。真っ青な空を背景に,残雪の残る頂が陽光に輝いている。なだらかな稜線の下に,どこまでも続く広い大地。自分が大自然の中に溶け込んでしまったような,強い解放感と安らぎを感じた。地元の人たちにとっては,別段珍しい風景ではないのだろう。淡々と湯につかり,上がって行く。
 大自然は見慣れた風景として日常化し,生活に定着している。
 休日になると,多くの人々が都会を離れ,山や海,湖へと出かけて行く。それは単に,自然を楽しみたいという欲求からだけではないだろう。もっと本質的なもの,例えば,人間は自然界に住む生き物であり,自然の恵みを受けて暮らしているのだということを思い出すために,旅に出かけて行くのではないだろうか。生き物としての五感を意識して研ぎ澄ませていないと,都会生活の中で,人間は人工的な物や音にしか反応しなくなってしまう危険性がある。
 でも,よく捜せば,大都会の中にも自然は息づいている。小さな公園や庭先にも四季折々の花が咲き,小鳥がさえずり,雑草の中で虫がうごめいていたりする。それにしても,都会に住む人間たちにとって,大自然への旅は心の癒しの旅でもある。そう実感できた旅であった。