医学界新聞

第71回日本感染症学会開催される

21世紀に向けて感染症の見直しを


 第71回日本感染症学会が,千葉俊三会長(札幌医大教授)のもと,さる4月3-4日に札幌市のロイトン札幌で開催された。
 会長講演では千葉氏が,1972年のKapikianらのノーウォークウイルス発見に始まるウイルス性胃腸炎研究の歴史を語った。また,「AIDS時代における性感染症流行の問題点」と題して熊本悦明氏(札幌医大名誉教授)が特別講演。
 招請講演では,F.A.Murphy氏(カリフォルニア大)が「emerging viral diseases」を,D.L.Stevens氏(ワシントン大)が劇症溶連菌感染症をテーマに新知見を発表した。
 また総会では,学会賞である日本感染症学会北里柴三郎記念学術奨励賞と二木賞の表彰式があり,北里賞には岩澤昌彦氏(札幌医大泌尿器科)が,二木賞は岸本敏夫氏(川崎医大呼吸器内科)がそれぞれ受賞した。

HIV感染症治療の新しい展開

 ランチョンセミナーでは,「HIV感染症の課題と治療戦略」(座長=東大教授 木村哲氏)をテーマに,岡慎一氏(国立国際医療センターエイズ治療・研究開発センター)が「AIDSに伴う日和見感染症の対策」を,満屋裕明氏(米国立癌研究所)が「エイズの化学療法-最近の進歩」をそれぞれ概説。
 岡氏は,AIDSと定義される症候のうち,治療可能である日和見感染症として,カリニ肺炎,サイトメガロウイルス網膜炎,トキソプラズマ脳症,クリプトコッカス髄膜炎,非定型好酸球(MAC)敗血症の5つをあげ,それぞれの疾患について臨床上注意すべき点をあげた。
 一方満屋氏は,アメリカの現状を(1)最近の疫学,(2)治療の現状,(3)新たな問題点(薬剤耐性など)に焦点をあてて解説。エイズ発症の病態が次々に解明されるなか,米国AIDS臨床治験グループ(ACTG)が報告したプロテアーゼ阻害剤と逆転写酵素阻害薬との併用で,極めて強い抗ウイルス活性が見られ,治療に画期的な効果をもたらしたことを述べた。しかし一方で,併用療法の弊害として多剤耐性が出現し問題化していることから,AIDSの化学療法が直面する課題として,(1)長期投与による慢性毒性,(2)薬剤耐性HIV-1変異株の出現,(3)免疫応答性が十分に回復しない,(4)悪性腺癌の好発,(5)臨床効果の確かなモニター法がないこと,(6)高騰する治療費の6点をあげ,今後の展望として,新たな抗ウイルス薬の開発の可能性を述べた。

新しい世紀に向けた感染症対策を

 シンポジウムは,今学会のテーマでもある「感染症を見直す:古くて新しい感染症」(司会=岩手医大名誉教授 川名林治氏,長崎大名誉教授 松本慶蔵氏)と題して行なわれた。今年の4月1日から,国立予防衛生研究所が「国立感染症研究所」(所長=山崎修道氏)と名称を変えた直後であり,また伝染病予防法の改正が進行していることから,感染症に対する再考が急務との視点から論議がなされた。
 まず最初に,岩本總一郎氏(厚生省保健医療局エイズ結核感染症課)が,「明治30年施行以来100年が経過した伝染病予防法の改正作業が現在進行しており,今年6月中に報告書を提出し,平成10年には国会提出が予定されている」と公表。また本法改正について武田美文氏(国立国際医療センター)が追加発言を行なった。
 昨冬,全国で高齢者を中心に大きな被害を出したインフルエンザについては,武内可尚氏(市立川崎病院小児科)が概説。
 高齢者の肺炎併発だけでなく,重症度の高い合併症である小児脳症は年間200人を越えると報告。また,世界的なワクチン接種状況から「先進18か国では政府が接種勧告を出すなど予防に重点が置かれているが,日本はそれと逆行している」と述べた。さらに富樫武弘氏(市立札幌病院)が,ワクチン接種者が自然麻疹患者と接触して発症する修飾麻疹が存在するとし,「麻疹ワクチンの複数接種を考慮する時期にきている」と指摘した。
 一方,中田光氏(東大医科研)は,アメリカの疫学を引用し,結核自体がHIV感染症にどのような影響を与えるかについて検討。エイズと合併する結核の特徴として,CD4陽性300/mm3以下では肺外結核を発症しやすいこと,また,結核を合併した場合HIV産生が促進されていることが証明されたと報告。結核とHIV感染症の合併は予後が互いに進行を促進するものと述べた。
 シンポジウムの最後に,国立感染症研究所に新設された国立感染症情報センター(Infectious diseases survaillance center)のセンター長である井上栄氏が,フロアからセンターの概要や果たすべき役割について特別発言を行なった。井上氏「センターの役割として,(1)国内のサーベイランス強化,(2)疫学者(この場合,field epidemiologist)養成,(3)諸外国との情報交換,(4)行政への提言,(5)国民への感染情報提供の5つがある」と述べた。