医学界新聞

准看護婦養成機関から看護婦養成機関への転換

文部省「高校における看護教育に関する調査研究会議」が報告書をまとめる


 高等学校における看護教育の意義や今後のあり方,および卒業後の継続教育のあり方等について調査研究をするために1995年5月に設置された「高校における看護教育の充実・振興に関する調査研究会議」(座長=つくば国際大学長 望月哲太郎氏)は,11回にわたる検討の結果をまとめ3月31日にその報告を行なった。
 報告書では,QOLやケアを重視した医療とともに,医療提供の場が「施設から在宅」へ,また健康増進,疾病予防へと拡大しつつあることを指摘。さらに,先端医療の進展に伴う患者の人間性を重視した医療のあり方が課題としている。
 社会的要請を背景に,1964年から開始された高校衛生看護科(以下,衛生看護科)での准看護婦養成教育だが,1968年には看護婦資格取得を目的に専攻科を設置。現在では衛生看護科の卒業生の約83%が看護婦資格取得のために専攻科や短大へ進学をしている。
 また衛生看護科の今後のあり方についての報告書では,1994年の厚生省「少子・高齢社会看護問題検討会報告」や1996年12月の「准看護婦問題調査検討会報告」での提言を踏まえ,「衛生看護科は准看護婦養成機関から看護婦養成機関へ移行することが望ましい」として,「高校における職業教育の意義から,衛生看護科に2年間の専攻科を加えた5年間の一貫した教育を行なう看護婦養成機関として位置づける」ことを提言している。
 なおこの提言に対しては,看護系大学などに推薦入学枠の拡大などを積極的に促すことなどが盛り込まれているものの,最短期間で看護婦資格が取得できること,高校教育が十分にされないことの弊害を危惧する声もある。以下に報告書の概要を掲載する。


高等学校における看護教育の充実・振興に関する調査研究会議報告(概要) 1997年3月31日

●検討の経緯
 高等学校における看護教育の充実・振興に関する調査研究会議は,1995(平成7)年5月以来,高等学校における看護教育の意義や今後のあり方および卒業後の継続教育のあり方等について検討を行ない,1997(平成9)年3月31日に報告を行なった。

●看護をめぐる状況の変化
(1)医療の高度化・専門化に伴い,看護には従来にもまして緻密な観察に基づく的確な判断と技術が求められている一方,在宅医療および介護のニーズに対応した訪問看護サービス等の拡充が求められている。
(2)准看護婦養成については「改善継続」または「廃止」との議論がなされてきたが,1995年10月より厚生省「准看護婦問題調査検討会」において准看護婦養成のあり方について検討が行なわれ,1996年12月に看護婦養成制度の統合に努めるとの報告が出された。

●高等学校衛生看護科の現状
(1)学校数・生徒数
 平成8年度現在で,文部大臣指定の衛生看護科を設置している学校は130校,そのうち全日制127校(公立62校,私立65校)。
 看護に関する専攻科を設置している学校は52校(公立19校,私立33校)。
 生徒数は衛生看護科が1学年約7500人,専攻科は1学年約2400人。
(2)生徒の学習状況
 生徒は看護職者への明確な目的意識を持ち,中途退学(衛生看護科:1.4%,高校全体:2.0%)や生活指導上の問題を起こす者は少ない。
 なお衛生看護科には,最近一部で問題になっている就労を伴う就学や卒業後の奨学金の返還に関わるトラブルの実態はない。

●高等学校衛生看護科の生徒の進路の実態
 衛生看護科の生徒のほとんど(96.7%)が,「将来,看護婦資格を取得すること」を希望しており,卒業時にほぼ全員(99.5%)が准看護婦資格を取得し(全国看護高等学校長協会調査),さらに看護婦の資格取得をめざして,約8%の生徒が大学・短大,約27%の生徒が専攻科,約48%の生徒が専門学校等へ,合計約83%の生徒が進学している(平成8年度学校基本調査)。

●高等学校衛生看護科における看護教育の意義
●衛生看護科に学ぶ生徒は,中学までの生活体験の中から看護への強い志望動機を持ち,自ら希望して入学
●衛生看護科においては,高校生という人格形成の上で大切な時期の看護教育を通して,看護職者として求められる基礎的・基本的な知識・技術とともに,人間尊重や生命に対する畏敬の念,奉仕の精神など豊かな感性や人間性を育んでおり,教育的意義を有するとともに望ましい勤労観・職業観が育成

●高等学校衛生看護科の具体的な方策
(1)高校衛生看護科をめぐる状況の変化
 ●将来看護婦になるために必要な看護に関する基礎・基本に重点を置いた教育を行なうことが必要
 ●医療の高度化・専門化や高齢社会の進展による在宅医療および介護の拡大などの看護をめぐる新しい要請に対応
 ●衛生看護科の約83%の生徒が卒業後直ちに看護婦資格の取得のために進学
 ●1994年12月,厚生省「少子・高齢社会看護問題検討会報告」で「衛生看護科は看護婦・士の養成に寄与しており,今後とも専攻科の充実や大学,短期大学への進学機会の拡大を図る必要がある」と提言
 ●1996年12月,厚生省「准看護婦問題調査検討会報告」で「現行の准看護婦養成課程の内容を看護婦養成課程の内容に達するまで改善し,21世紀初頭の早い段階をめどに,看護婦養成制度の統合に努める」,「高等学校衛生看護科については,この報告に沿って,詳細について別途検討がなされるべきである」と提言
(2)高等学校衛生看護科の今後のあり方
 ●衛生看護科は准看護婦養成機関から看護婦養成機関へ移行することをめざすのが今後の望ましいあり方
 ●今後は,高等学校における職業教育の意義にかんがみ,衛生看護科に2年間の専攻科を加えた5年間の一貫した教育を行なう看護婦養成機関として位置づけるとともに,衛生看護科に学ぶ生徒のうち看護系大学等への進学を希望する者のため,衛生看護科においても,その看護教育を積極的に大学等に周知し理解を得るように努め,衛生看護科卒業生に対する推薦入学枠の拡大や専門高校卒業生選抜等を通じて大学等への進学を進めるなど,看護教育の改善を図る
 ●看護婦養成への移行にあたっては,学校教育に支障が生じないよう,関係機関の理解を得て,円滑に移行できるよう配慮することが必要
(3)条件整備
 ●教員の養成確保および資質向上,施設・設備の整備,実習施設の確保