医学界新聞

今後の医療のあり方を論議・研究する場に

日本医療科学研究会発足,第1回研究会が開かれる


 「激しく変化する社会情勢に対して,医師をはじめとし医療に携わる多面的職種の医療従事者および医療の需要側,行政関係者が,将来の医療のあり方について論議・研究する場」として,さる3月22日,日本医療科学研究会が130名の会員(発起人73名)を集め発足,東京医科大学病院において開かれた発起人総会に引き続き,第1回研究会(会長=順大名誉教授 浪久利彦氏)が開催された。「医療をどう変える」をテーマとした研究会は,渡辺俊介氏(日本経済新聞論説委員)の司会のもと,討論会形式で,医師,行政,患者の責任について4名が登壇し論議された。

医療は変わる?

 最初に福井次矢氏(京大教授)が,医師の立場から発言。医師に求められる要素として,(1)医学知識,(2)技術,(3)態度,(4)判断力,(5)情報収集能力の5つをあげ,「これまでの医学教育は(1)(2)が偏重されてきた。これからは医療の効果判定に関する学問分野の臨床疫学を基本的知識として養うべき」との見解を示し,医学教育の改革の機運が高まっている現状を述べた。
 次に,開業医の立場から志賀捷浩氏(岡崎市医師会長)が,「人間関係を作りたがらない医師が増えている」と指摘。「医療は,医師と患者は1対1が当たり前という基本を忘れている」と警告を発するとともに,困惑する地域医療の現状を報告。「現在の医療システムは大都市を想定し構築されており,大病院指向となっている」と述べた。
 また,人間関係を作るシステム構築が必要であるとし,「現在の医学教育,看護教育は“頭でっかち”の医療者を作り,“患者のため”というものの,実際にはしていない」などと現教育体制を批判。特に准看問題について,昨年末の厚生省「准看護婦問題調査検討会報告書」に触れ,「看護職に2つの資格があるのは確かにおかしいが,准看護婦は戦後の日本の医療を支えてきた。准看制度廃止とはどこにも触れられていないのに,マスコミは“廃止”と伝えた」と述べ,日本医師会の見解を示すとともに「マスコミは,トピックスばかりを追うのではなく,現場を知り,公平な意見を聴取すべきである」とコメントを加えた。

医師のあり方,保険制度のあり方

 また,大野善三氏(NHKエデュケーショナルディレクター)は市民(患者)代表として発言。「主張できる患者が増え,医療が変わってきた。患者とのコミュニケーションをおざなりとする医師のために,医療への不信感が生まれている。人と話をすることを苦手とする人は教育の段階で医師への選択を変えさせるべきであろう」と述べる一方で,医師はマスコミなどにも理路整然と訴える力を持つこと,地方からの意見に注目する必要性を指摘した。
 さらに大野氏は,「国民皆保険がなくなったらどうなるのか,自分自身にあてはめて考えてほしい」と述べ,自分の健康は自分で守る必要性や,医療費,社会的資源は有限であることから,保険制度の抜本的改正を考える時期であることを強調した。
 最後に幸田正孝氏(年金福祉事業団理事長,元厚生省事務次官)は,行政の立場から国民皆保険政策の功罪と改革,および医療体質の問題について意見を述べた。
 幸田氏は,「国民皆保険制度は,それなりの成果をあげてきたが,貧しい時代に制度化したもので,今なら皆保険とはならなかった。現状のままでは制度を支えきれなくなり,国民の知恵を結集し対処する時代となった。検討の必要がある」と語り,医療水準や情報公開が問われる時代だとして,規制緩和の必要性を訴えた。また,「2000年頃には医療制度の抜本的大改革が,2010年には診療報酬制度が大きく変わるだろう」と予測する発言を行なった。
 総合討論の場では,司会の渡辺氏が「取材に行きたがらない人が新聞社に入社してくる」と話題提供。これに関連して,医師に求められる資質について志賀氏は「人と人とのつきあいが医師には必要」と強調,医師自身が体験入院することを提案した。また福井氏は,「入学時の面接だけでは人格評価はできない。文化系学部出身者のほうがコミュニケーションがよいとの外国のデータもある」と述べ,学部出身者による医学教育の方向性を提示した。大野氏は「人と会うのが医療。適正選抜が必要」と述べる一方で,医学・看護学教育以前の家庭教育に問題があるとし,「教育の問題は家庭から」を指摘した。
 討議はフロアを交え,医師,行政,患者の責任についてのみでなく,自立していない患者,かかりつけ医制度,老人医療ガイドライン,規制緩和,チーム医療などの問題についても論議された。