医学界新聞

第1回NDC公開セミナーが開催される

臨床の視点での「現場で生きる看護診断」をテーマに

奥原秀盛(日本赤十字看護大学)


 さる2月8日,東京の日本赤十字看護大学において,第1回NDC公開セミナー「現場で生きる看護診断」が開催され,全国から臨床看護婦(士)をはじめ看護教員等約90名の参加があり,活発な意見交換が行なわれた。

臨床の視点を重視し

 NDC(Nursing Diagnosis Conference)は,日本赤十字看護大学の黒田裕子教授を中心に,主として関東地区の臨床看護婦(士)が集まり,月1回の定期的な看護診断に関する研究を行なっているグループである。活発な議論を行なうという主旨から,会員は30名に限定している。
 研究会では,“臨床の視点”を重要視し,臨床において使用されている看護診断の妥当性とそれに関連する問題点について,継続的に研究を実行している。今回のセミナーは,これらの研究を通して得られたNDC独自の見解を,多くの臨床の看護職とともに検討し共有したいと考え開催したものである。
 午前中に行なわれたパネルディスカッションでは,川島みどり氏(健和会臨床看護学研究所長),松浦真理子氏(東京厚生年金病院内科病棟婦長),黒田裕子氏の3人がパネリストとして登壇。各人約15分の発表と,それを踏まえてのバネリスト相互およびフロアとの間で活発な討議が行なわれた。
 松浦氏は,看護診断を導入して6年の実践経験から,その効果について,1看護婦のアセスメントの重要性に対する認識が深まり,理論についても学習したいという意欲が高まったこと,2看護婦間で共通の用語ができ,それが看護実践を展開する上で役立っていること,3患者に適した看護が実践できるように,常に実践者がフィードバックを繰り返しており,その結果,以前よりも質の高いケアが実践できるようになったことなどをあげた。また現場で抱える悩みとしては,1看護診断を用いていく上で,能力を備えた実践者の育成と教育指導する協力者の確保という人的資源の問題,2日本の文化や状況に即した看護診断がまだまだ不足していることなどを指摘した。

患者の全体像描写を中心に

 川島氏と黒田氏は,“患者の全体像描写”に関して,それぞれの立場から意見交換。この“患者の全体像描写”は,妥当な看護診断を導き出す上で不可欠なものであり,それによってこそ,その患者に合った個別的ケアが展開でき,ケアの評価も可能になるという点で,NDCグループが最も重要視しているものである。
 川島氏の考える“全体像描写”は,「多くの情報をそのまま羅列しただけではわかりにくいために,看護者の解釈・判断は交えずに,情報をトータルし,“こんな患者さん”と描写することである。その際重要なことは,人間らしい感覚を基盤に相手を理解することであり,ありのままを素直な目で捉えること」である。
 一方,黒田氏は「生のデータのままでは意味を持たず,そのデータを解釈し,推論を深く練って記述することであり,そのためには直感的能力と分析的能力が必要」と言及した。
 このように,“全体像描写”をする上で,看護者の推理・推論,解釈・判断等をどの程度記述するかについては,両者間で若干の見解の差があり,フロアも交えての討議も活発に行なわれた。
 午後には,パネルディスカッションを踏まえてグループワークが行なわれ,共通の1事例をもとに,参加者全員が実際に全体像の描写を体験した。

参加者からの声

 セミナー後に回収した参加者のアンケートには,「活発なディスカッション,グループワークができたが,もっと時間が欲しかった」「臨床で活用しての効果が聞けて大変参考になった」「これまで当然と思っていた全体像描写について,いろいろな考え方があることを知り,自分を振り返るよい機会となった」「グループワークは,様々な意見を聞くことができ,また情報交換の場にもなってよかった」等が記載されていた。
 対して改善すべき点としては,「時間が短く,妥当な診断名を導くまでには至らず不消化で終わってしまった」「参加者の看護診断に関する知識,経験が様々で,グループワークが困難であった」「初心者には内容が高度でわかりづらかった」等の意見があった。
 これらの貴重な意見を参考に,今年の8月には第2回NDC公開セミナーの開催を予定している。