医学界新聞

看護治療学への新潮流:ケアとキュアの統合化

「看護診断に基づく看護治療の進展 理論と実践」講演会開催にあたって

早川和生(大阪大学医学部保健学科)


 日本でもアメリカにならって,CNS(専門看護師)の制度が看護協会の主導により始まりました。一般にアメリカのCNSは,独立してケアも治療(療法)も展開できる人材といえます。ただ,日本の看護界ではCNSの教育を受けた人が非常に少ないため,従来この療法的な部分がまったく導入されてきませんでした。しかし,最近の日本の看護界の著しい進展ぶりをみると,日本でもそろそろ看護ケアの療法的側面に目を向けるべき時期にきたと考えられます。
 臨床実践の自然の流れとして,看護動向の中心は看護診断から看護治療(介入)の手法の確立へと移ってきています。看護診断は患者論(対象論)が中心課題であるのに対し,看護治療(介入)はナースの行動(実践論)が中心課題です。これは長年の看護学における最大テーマである,「ナースが独自に判断して行動する臨床行為をどう確立するか」という課題に直結するものです。
 数年前,NHKテレビで放映された札幌脳神経外科病院看護部長の紙屋克子氏(現:筑波大教授)らによる意識障害患者に対する看護ケアの劇的な機能回復効果が大反響を呼びました。看護ケアが,医学治療をはるかに越えて治療的効果を発揮したことに国民の多くが感銘を受けました。これは看護治療の原点といえます。多くの患者さんにとって日常生活そのものがセラピーになること,24時間患者さんに接している看護職にしかできないセラピーがあることの証明です。
 日本の看護界でしばしばみられる,「治療は看護者のやることではない」という古い大前提は今後消えていくでしょう。アメリカ看護協会の看護の定義は明白です。
 「Nursing is the diagnosis and treatment of human responses to actual or potential health problems」
 まさにケアの治療的側面と予防的側面をズバリ言い当てています。
 今年7月に,看護治療の理論と実践において国際的なトップリーダーである,アメリカのアイオワ大学看護学部のマクロスキー博士とブレチェク博士が来日されます。2人による講演会「看護診断に基づく看護治療の進展-理論と実践」が開催されることは,新しい看護動向の的を得た企画と思われます。21世紀に向けた看護実践の基盤を示唆する内容が期待されます。