医学界新聞

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


老人検診に携わる医師の必読書

地域放射線検診の基礎知識 新野稔 著

《書 評》野辺地篤郎(聖路加国際病院放射線科名誉医長)

 新野稔先生のこの260頁の本は,普通の本と比べて大変充実した内容のものであることにまず驚かされた。
 読者はまず4頁の詳細に記述された序文に驚かれるはずである。普通はしばしば序文を後回しにして本文から読み始めるものであるが,本書ではぜひともしっかりと序文からお読みいただきたい。なぜならば,そこには著者がなぜタイトルに画像検診と言わずに「放射線検診」という言葉を使ったのかということから始まって,この本を書くにあたっての著者の考え方が書かれており,本書を読み進めていくための道標とも言うべきものがここにあるのである。

地域のがん検診を主体に解説

 本書は,代表的な地域放射線検診であるところの老人保険法の保険事業による地域のがん検診を主体に解説しているので,以下のような項目より成り立っている。
 I.癌集団検診システム,II.画像評価,III.胃癌検診,IV.大腸癌検診,V.肺癌検診,VI.乳癌検診。
 文献が156付けられており,著者が周到な準備のもとに本書を書き上げられた事がわかるとともに,読者への大変な親切と言えよう。

基礎知識に止まらない充実した記述

 とにかくこれだけ広範な領域について,それぞれ十分に詳しい記述がなされていて,大変読み応えがあり,6項目についての解説書および診断学教科書が集められた本といってもよく,単純な「基礎知識」には止まっていないことは驚嘆に値するとしか言いようがない。
 ではなぜ著者が「基礎知識」という題を付けながら,こんなに詳しく書いているのであろうかと疑問を持たれる方がおられるかも知れないが,著者が言いたいのは,これくらいの知識なしに放射線診断をしてはいけないということであるのがよくわかる。老人検診に携わるすべての医師の必読の書としてお薦めする。
B5・頁260 定価(本体11,000円+税)医学書院


ファーマコキネティクスの基本を学ぶのに最適

臨床薬理学 日本臨床薬理学会 編

《書 評》杉山雄一(東大教授・薬学)

 近年,ソリブジンとフルオロウラシル系薬剤との薬物間相互作用による致死的な副作用の発現をはじめとして,いわゆる薬害問題が後を絶たない。そのような中で,安全かつ有効な医薬品の使用方法について,社会的関心も非常に高くなっている。
 臨床薬理学とは,1985年に日本臨床薬理学会体制委員会によって,「薬物の人体における作用と動態を研究し,合理的薬物治療を確立するための科学である」と定義されている(本書3ページより)。

医師が薬物投与計画を設定するのに必須の知識

 本書は,設立後17年目を迎える日本臨床薬理学会が,学会として初めて編集した本であり,医学部や薬学部の研究者をはじめとして,実際に医療に携わっている臨床医や薬剤師など,各方面の専門家が幅広い内容を分担して執筆したものである。大きく分けて,第Ⅰ章「臨床薬理学総論」,第Ⅱ章「薬物治療学総論」,第Ⅲ章「薬物治療学各論」,第Ⅳ章「その他の重要な事項」の4章から成る。
 医師が個々の患者に対して最適な薬物投与計画を設定する上で,ファーマコキネティクスに関する基礎的な知識を持っていることが必須なのは言うまでもない。また,治療的薬物モニタリング(Therapeutic Drug Monitoring TDM)を行なう際にも,適切な採血時刻を設定したり,結果を解釈したりするに当たり,最低限のファーマコキネティクスの知識がなければ,無意味な検査を依頼し,患者の負担を増加させることになりかねない。しかしながら,現在の医学教育において,ファーマコキネティクスに関する基礎的な教育が不十分であるという声が聞かれることも事実である。
 本書では,ファーマコキネティクスにもかなりのページ数が割かれており,吸収,分布,代謝,排泄などの各過程について,具体的な例を交えながら非常に詳細に記述されている。そして,TDMがなぜ重要なのか,また,モーメント解析法などを含め,ファーマコキネティクスの知識を,TDMのデータの解釈などにどのように応用したらよいかについても,わかりやすく説明されている。したがって,本書は医師あるいは医学生にとって,現場に即したファーマコキネティクスの基本を学ぶために最適の本であるといえよう。

臨床薬剤師の教育に絶好の教科書

 一方,薬剤師にとっては,臨床薬剤師として医師と対等に議論し,薬物治療に貢献するために,ファーマコキネティクスや薬理学の知識はもちろんのこと,各病態に対する薬物治療の基本となる知識を身に付けていることが必要になる。本書では,高齢者や肝障害,腎障害時などにおける注意点のほか,降圧薬,抗不整脈薬,糖尿病治療薬,向精神薬などに分けて,それぞれの種類や選択方法,適切な使用方法あるいは薬物治療の考え方などについて,詳細に解説されている。新しくなった薬剤師国家試験に対応するためにも,薬学教育の中でこれらの項目を積極的に取り入れていくことが必要であり,そのためにも本書は絶好の教科書となることは間違いない。
B5・頁524 定価(本体9,200円+税)医学書院


大学で教えたい精神医学医療のあり方を問う

一般外来の精神医学 精神科医と内科医のクロストーク 浜田晋,高木誠 著

《書 評》土居健郎(聖路加国際病院顧問)

 本書は浜田晋・高木誠両氏の共著という形になっているが,内容的には浜田氏の著書と見てよいだろう。というのは高木氏はもっぱら浜田氏の話を引き出す役割に徹しているからである。もっとも話を引き出すということはそれほどやさしくはない。精神科医ならば先刻御承知のはずだ。しかもここでは精神科医である浜田氏のほうが内科医である高木氏に話を聞いてもらっている。けだし本書のサブタイトルが「精神科医と内科医のクロストーク」となっている所以である。

臨床医にとっては智恵の宝庫

 浜田氏は先に『一般外来における精神症状のみかた』(医学書院)と題する良書を発表した。このたびの本は先の本のいわば続きだが,先の本で言いかけて言い足りなかったことを今回は全部吐きだした感がある。浜田氏は精神科を開業して22年を閲したということだが,ここにはその経験のエッセンスがすべて出そろっている。臨床家にとって本書はいわば智恵の宝庫のようなものだ。私自身も非常に多くのことを学んだ。殊に白眉と言うべきは老人の患者についての多岐に亘る発言である。もちろんその他にも浜田氏の片言隻語すべて可ならざるはなしと言いたいが,しかし浜田氏が本書で語ろうとしたのは実は患者のことばかりではなかった。医者の問題こそ目下の重大事として取り上げられているのである。
 すなわち今日の高度に専門化され技術化されシステム化された医療においては生身の患者が疎外されがちなことに浜田氏は警鐘を鳴らす。実際,現代の医療はもはや死に体にあると言って過言ではない。浜田氏はこのことをかつての精医連の運動のようにスローガンとして唱えるのではない。また医事評論家のように御託宣をたれるのでもない。町医者としての長年の経験によって彼はその事実をつぶさに知ったのである。むしろ患者たちによって教えられたと言ったほうがよいかもしれない。であるから彼はその対策として,これまであまり評価されることのなかった,そしてややもすれば消退の道をたどるかに見える町医者の今後の活動に期待する。彼が以上二冊の本を書いたのはもっぱら市井で活躍する医者たちのためであったと言うことができるのである。

病院勤務の専門医にも読んでほしい本

 しかし,私は浜田氏のこの二冊の本が開業医ばかりでなく,病院に勤務する専門医にも読まれることを望みたい。現に彼の話を聞き出した高木誠氏自身,病院勤務の内科医長である。もちろん精神科医も是非読んでほしい。
 近頃,「教科書に書かれていない歴史」という言葉が一部で流行っているが,浜田氏の本はまさに大学では教えていない精神医学だ。前著のほうがやや初歩的で症例がふんだんにあり,実際の臨床に参考になる面が多いかもしれないが,今回の本のほうが断然迫力がある。私は特に医学教育に携わる方々にこれを読んでいただきたい。非常に啓発されるだろう。医学教育の根本についてもう一度反省する機会が与えられるにちがいない。また厚生省のお役人にも読ませたい。そうすれば日本の医療ももう少しましな患者本位のものとなるかもしれない。
 最後に,とかく高価な専門書を出版することで知られている医学書院がこのような良書を比較的廉価で提供したことに対し関係者の労を多として筆を擱く。
A5・頁232 定価(本体3,600円+税)医学書院


眼底所見を理解したい臨床医に有用な書

アトラス視神経乳頭のみかた・考えかた 若倉雅登・他 著

《書 評》宮坂佳男(北里大助教授・脳神経外科)

眼底所見を理論的に捉える

 眼底検査は眼科医のみならず,神経学に関係している脳神経外科医や神経内科医にとっても,日常診療で欠かすことのできない基本的な補助的検査法であります。本書『アトラス視神経乳頭のみかた・考えかた』は診療の現場で数多くの患者さんの眼底を観察している4人の眼科医の力作であり,今までの類書にはない優れた部分が随所に見られます。本書を読ませていただいて,私なりの印象を率直に述べさせていただきます。
 本書は大きく分けて3部より成り立っていると言えます。まず,最初は乳頭の理解に必要な視神経の解剖学からはじまり,続く総論では乳頭および乳頭周辺組織の基本的な検眼鏡所見の解説を行ない,最後の各論で応用力をつけさせるように系統的に話が進められています。具体的な乳頭所見を示す前に,視神経の基礎的な解剖の解説からはじめていることは,筆者らが単に眼底写真を機械的に印象として読者に記憶させようとしているのではなく,より理論的に眼底所見を理解させようと努力していることを示しています。

鮮明な眼底写真とシェーマで解説

 また,総論では乳頭所見を色,形,大きさ,突出,陥凹などの各要素別に,鮮明な眼底写真とシェーマで親切に解説し,大変理解しやすい構成になっています。この総論では,正常な乳頭像で,観察すべき部分を系統的に説明し,さらに異常像を対比して解説しています。したがって,総論を理解すれば実際の診療の場で眼底所見の見落としが少なくなると思われます。この点,これから眼底所見を学習する研修医にとっても大変,実用的な書であります。
 また,著者らは種々の眼底所見の出現する意義についても解説してくれているために,読者は所見を機械的に覚えるのではなくて,理論的に捉えることができる点も,この書の特徴と言えます。
 最後の各論では,盛りだくさんの疾患の乳頭所見が網羅されていますが,検眼鏡の所見の他に,その疾患の概念についても説明が加えられており便利です。各論では,眼科的な疾患のみならず,脳神経外科医になじみの深い脳腫瘍,頸動脈海綿静脈洞瘻,外傷性視神経症,播種性軟膜髄膜癌腫症等に伴う乳頭所見や,神経内科医にポピュラーなぶどう膜炎,白血病,悪性リンパ腫,多発性骨髄腫等の全身病に伴う乳頭所見が数多く掲載されており,脳神経外科や神経内科の卒業直後の研修医や,もう一度基本に立ち返って,眼底所見を理解したいと言う臨床医にとってもきわめて有用な書であると言えます。
B5・頁192 定価(本体20,000円+税)医学書院


手術者になる若い医師のための基本を網羅

産婦人科手術の基本 永田一郎 著

《書 評》坂元正一(東大名誉教授)

自分の経験をそのまま描きだした臨場感あふれる内容

 永田一郎教授の『産婦人科手術の基本』が出版された。奥付をみると1997年1月1日第1版第1刷となっているから,本年最初の産婦人科モノグラフであろう。内容もそれにふさわしく,手術者になろうとする人々のための基本中の基本にしぼられていて,本文約160頁一気に読みきれる。
 永田教授とは長いお付き合いだが,温厚篤実,些事もゆるがせにせず,理論的に納得ゆくまで詰めていかれる研究者である。優れた術者である同氏の著述に興味を持っていた私は,本書を手にとって我意を得たりの感が深く,実感として若い方々にぜひお奨めしたい良書の1つと即座に思った。工夫された写真,図譜をもとに流れるように書かれた本文は,まさに「手術大好き人間が若い頃からの自分の経験をそのまま描きだした」内容で臨場感にあふれている。さらに序文やあとがき,随所にあるCoffee Break欄に書かれた中に一貫している著者の手術に想うフィロソフィーは,初心の人々にとって,かけがえのない指針になるであろう。

アクシデントの処理や助手のつとめ方まで正直に記述

 多くの術者が基本として書かれることは,つい得意な範囲が拡がりすぎて,初心者には「本ではわからない」という印象を与えがちである。本書は図もわかりやすくポイントの絞りこみが上手で,さぞかし削り落しに苦労されたことと思う。書評だから褒めているのではなく,私自身24年前に手術学総論で基本について270頁の発表をし,子宮頸癌手術の連載をした経験から,実感として高い評価を差し上げているのである。著者は手術の入門書のいいものはないかと先輩に聞いて「一番良い手術書は実際に見ることだ」と言われ,上手な手術といわれるものを見学し,かつ,いろいろなアクシデントの処理,助手のつとめ方まで正直に著述しておられる。ベテランになって勉強になるのはやさしい手術の術式の組立と,きわめて難しい処理の仕方の巧みさ,そしてその術者の心組みである。手術書を出せるくらいになっても,常にそれは術者としての修行と思わねばならない。よい基本書を座右に置かれ,ボロボロになるまで見直している大先輩に頭が下がる想いをしたことがある。そういう方は実に謙虚であった。本書の著書が術者としての礼儀にふれておられるのは流石である。
 手術のコツは,各大学などの採用する術式によって微妙に違う。また,得てして,はじめて教わった流儀に固執することが多い。かくれた名手も多い。謙虚にどの点が優れ,何に基づいて工夫されているのかを知ることが見学の基本であり,やがて自分に最も適した術式を創り出す努力が大切であろう。局所解剖の図で立体を表現することは難しいため,おろそかになるが,3次元の解剖図が頭の中に描けるよう,解剖を行なうなり,簡単な手術の時に手で触れて覚えさせてもらうことも必要と思う。
 小さな事であるが,初心者向けなので,製造中止になった薬品名等は削除されたほうがよいように思う。何はともあれ,いい本である。続編の出版を期待したい。
B5・頁172 定価(本体8,000円+税)医学書院