医学界新聞

人間をまるごと見てほしい

浜田 晋 浜田クリニック院長



 高木先生とは大変楽しく話をさせていただきました。私がちょっとしゃべりすぎたかなという反省はありますが,これを機会に,浜田・高木という関係ではなく,精神科医と内科医が徹底的に話をする機会がもっとあってもいいと思います。そうしないと,精神科と内科の間の溝がなかなか埋まらない。
 また,精神科医が内科医の日々の悩みのようなものをもう少し知って,それをとっかかりに精神科医と内科医とのつき合いができればいいなと思っています。もちろん精神科医自身の問題はまた別にあります。精神科医は精神分裂病やうつ病,神経症ばかりをみていて身体をみないというように。精神科医の役割はもっとたくさんあると思いますが,銘々が自分たちだけの世界に閉じこもっていて,使う言葉も違うし,バラバラになっています。

内科医と本音のところで話し合う

 前著『一般外来における精神症状のみかた』(1991年,医学書院)は,内科医へのラブコールのつもりで書きました。そしてたまたま高木先生が手を挙げてくれたので,今回の対談が実現したんです。内科医と本音のところで話し合いたいという気持ちがこういう形になったんですね。
 正直言って,内科医の方が精神科にこれほど興味を持って下さるとはそんなに思っていませんでした。そういう意味では高木先生との会話の中で,内科医も人間をまるごと見よう,総合医療というものをめざそうとしておられるんだなあと勉強になりました。
 精神医学はあらゆる科を超えるものだと考えていますが,やはりその中でも内科はかなり大きな部分です。特に軽いうつ病の患者さんや神経症の患者さんは,内科患者の1/3くらいといわれるほどの比重を占めていますからね。また特に老人をみる中で精神医療は欠かせません。やはり内科の医師にもっと精神科を知ってほしい。そのためには,精神科の教科書ではなく,具体的にその間を埋めるものが必要です。
 そういう点ではこの本は,内科の医師に精神医療というものをわかりやすく伝える意味を持っています。各科の医師とかかりつけ医のコミュニケートが必要ですし,もう少し人間をまるごと見てほしいという願いが,前著に続く今回の本に流れる主題だと思います。
 特にうつ病に関しては,内科の医師が「もしかしたらうつ病かもしれない」という目で見ればすぐに診断できることかもしれませんが,検査結果からは出てこない。それでうつ病をまったく見逃してしまうのは,明らかに誤診です。

1人の人間として向き合う

 また,精神科的な病気の診断をする方法も必要ですが,患者がいまどういう思いで暮らしているのかという,生活面までの悩みを知る必要があります。これは医師だけでなく,看護婦さんやケースワーカーでもそうなのですが。精神科や内科だけ,病院や診療所だけの問題でもなくて,心のケアというものをもっと広めてほしいということですね。
 私が問診ではなくインタビュー(面接)と言っているのは,もっと本音のところ,本当の訴えを聞きましょうということです。どこが苦しいなどの具体的な症状も聞きますが,その背景に何があるのだろうか,どんな気持ちでいまここに通ってきているのだろうかということも,一緒に考えてみようと。多くはそのあたりの意識変革ができていないようですね。とにかく忙しすぎるのでしょう。
 これからの医師には,きちんと患者さんと向き合って,生身の人間の話をじっくり聞いてほしいと思います。そのあとに,ある程度の精神医学的な知識が必要なのです。そんなに難しいことではありません。検査も大切だけれども,その前に1人の人間として向き合ってほしいということが,今回の本で一番伝えたいことです。

(談)